更新日:2026.10.19

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事業主貸とは、個人事業主が事業用の現金・預金を生活費などの私的な目的に使った場合に使用する勘定科目です。事業用口座から所得税を支払った場合や、事業と私生活の両方で使う費用の家事分を区分する場合にも使います。
この記事では、事業主貸の意味、事業主借との違い、ケース別の仕訳、元入金との関係、残高が多くなった場合の考え方をわかりやすく解説します。
事業主貸とは、個人事業主が事業用の現金・預金などを、生活費や個人的な買い物に使った場合に使用する勘定科目です。
個人事業主本人と事業は、法人と会社経営者のように法律上別の主体ではありません。しかし、事業所得を正しく計算するには、事業に関係する取引とプライベートな取引を区別して記帳する必要があります。
たとえば、次のような支出を事業用口座から行った場合に事業主貸を使います。
事業主貸は、支出を経費にするための勘定科目ではありません。事業用の資産が個人側へ移動したことを記録するために使用します。
青色申告決算書では、事業主貸は貸借対照表の資産の部に記載されます。ただし、通常の売掛金や貸付金のように、第三者から回収することを前提とした債権ではありません。決算時に事業主借や所得金額とともに元入金へ反映されます。
事業主貸と事業主借は、事業と個人の間で資金がどちらへ動いたかによって使い分けます。
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比較項目 |
事業主貸 |
事業主借 |
|
資金の流れ |
事業から個人へ |
個人から事業へ |
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使用する場面 |
事業のお金を私的に使った |
個人のお金を事業に使った |
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代表例 |
生活費の引き出し |
私費による事業経費の立て替え |
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帳簿上の位置 |
借方に計上 |
貸方に計上 |
たとえば、事業用口座から生活費を引き出した場合は、資金が事業から個人へ動くため事業主貸です。反対に、個人の財布から事業用の文房具を購入した場合は、資金が個人から事業へ動くため事業主借を使います。
実際に金銭消費貸借契約を結ぶわけではありません。「貸」「借」という名称は、資金の移動方向を区別するためのものと捉えましょう。
事業主貸は、主に次の3つのケースで使用します。
それぞれの考え方を確認しましょう。
事業用の現金・預金を、食費や家賃、趣味の支出など、事業と関係のない用途に使った場合は事業主貸で処理します。
たとえば、事業用口座から生活費として10万円を引き出した場合、その10万円は事業経費にはなりません。事業主貸を使い、事業用の普通預金が減少したことを記録します。
事業用クレジットカードで個人的な買い物をした場合も同様です。個人的な支出を消耗品費や雑費などへ計上すると、必要経費が過大になり、事業所得を少なく申告することにつながります。
個人事業主本人にかかる所得税・住民税・国民健康保険料・国民年金保険料などを事業用口座から支払った場合も、基本的に事業主貸で処理します。
所得税と住民税は、事業所得を計算する際の必要経費にはなりません。国民健康保険料や国民年金保険料も事業経費ではなく、確定申告で社会保険料控除の対象として扱います。
ただし、税金であればすべて事業主貸になるわけではありません。主な違いは次のとおりです。
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支払内容 |
主な処理 |
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所得税・住民税 |
事業主貸 |
|
国民健康保険料・国民年金保険料 |
事業主貸 |
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個人事業税 |
租税公課 |
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事業用資産にかかる固定資産税 |
事業分は租税公課 |
|
自宅兼事務所の固定資産税 |
事業分は租税公課、家事分は事業主貸 |
支出の名称だけで判断せず、事業所得の必要経費になるものか、所得控除の対象になるかを確認しましょう。
自宅兼事務所の家賃や電気代、事業と私用で共用する車両・スマートフォンなどは、事業で使用した部分だけを必要経費にできます。
たとえば、事業用口座から電気代20,000円を支払い、事業使用割合が40%の場合は、次のように区分します。
事業分は水道光熱費、家事分は事業主貸として処理します。按分割合は、使用面積・使用時間・走行距離・通話明細など、実態に合った合理的な基準で決めることが重要です。
関連記事:確定申告で領収書は必要?提出・保存期間やない場合の対処法を解説
事業主貸を使う仕訳では、借方に「事業主貸」、貸方に減少した事業用資産を記載するのが基本です。
代表的な仕訳をまとめると、次のようになります。
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取引内容 |
借方 |
貸方 |
||
|
事業用口座から生活費10万円を引き出した |
事業主貸 |
100,000円 |
普通預金 |
100,000円 |
|
事業用現金で私物5,000円を購入した |
事業主貸 |
5,000円 |
現金 |
5,000円 |
|
事業用口座から所得税8万円を納付した |
事業主貸 |
80,000円 |
普通預金 |
80,000円 |
|
事業用カードで私物11,000円を購入した |
事業主貸 |
11,000円 |
未払金 |
11,000円 |
|
電気代2万円のうち家事分が12,000円だった |
水道光熱費 事業主貸 |
8,000円 12,000円 |
普通預金 |
20,000円 |
事業用クレジットカードを利用した場合は、購入時に未払金を計上し、後日、口座から引き落とされたときに未払金を消し込みます。
電気代などを支払時にいったん全額経費へ計上し、年末に家事分をまとめて除外する方法もあります。その場合は、借方を事業主貸、貸方を水道光熱費などとして家事分を振り替えましょう。
関連記事:仕訳帳とは?総勘定元帳との違いと書き方をわかりやすく解説
事業主貸の金額が大きくても、それだけを理由に税金が増えたり、罰則を受けたりするわけではありません。ただし、事業資金や貸借対照表の見え方には影響します。
事業主貸が多い場合の主な影響は、以下の通りです。
事業主貸の残高が大きいことだけを理由に、税務署から必要経費を否認されたり、税金が加算されたりするわけではありません。事業主貸は必要経費ではないため、金額が増えても事業所得や税額は直接変わらないからです。
たとえば、年間の事業所得が500万円あり、そのうち300万円を生活費として引き出しても、事業所得が200万円に減るわけではありません。生活費として引き出した300万円は事業主貸であり、所得の計算には含まれません。
注意が必要なのは、事業主貸の金額ではなく、事業主貸にすべき個人的な支出を消耗品費や雑費などの必要経費へ含めていないかという点です。私的な支出を経費にすると、所得を過少に申告することになるため、事業用と個人用を正しく区分しましょう。
事業主貸の金額が大きい場合は、事業資金の使い道や資金繰りを確認することが重要です。事業主貸には生活費の引き出しだけでなく、所得税の納付や家事按分による調整なども含まれるため、残高が大きいだけで経営状態が悪いとは限りません。
ただし、生活費などへの資金流出が続き、事業用口座の預金残高が不足すると、仕入代金や借入金の返済に支障が生じる可能性があります。
融資を申し込む際には、事業の収益性や借入状況、資金繰りなどを確認されるため、事業主貸の内容についても説明できるようにしておくとよいでしょう。
事業主貸を正しく処理するには、事業用と個人用の支払いを区別し、経費にできる金額を明確にする必要があります。
事業主貸を処理する際の注意点は、以下の通りです。
個人事業主は、事業用の銀行口座やクレジットカードを用意すると、取引を整理しやすくなります。
口座やカードを分けておけば、事業用口座から出た私的な支出だけを事業主貸として確認できます。個人口座の取引をすべて帳簿へ取り込む必要もなくなり、記帳件数や仕訳ミスを減らせます。
完全に分けることが難しい場合は、摘要欄に支払内容や私用分であることを具体的に記録しましょう。
支出の一部が事業に関係している場合、全額を事業主貸にするのではなく、事業分を必要経費、家事分を事業主貸に分けます。
反対に、事業と関係のない支出を形式的に按分し、経費へ含めることはできません。事業に使用した実態があり、割合を合理的に説明できることが前提です。
使用面積や利用時間など、按分割合を算出した資料は、領収書や請求書とあわせて保存しておきましょう。
事業主貸と事業主借は、個人事業主が事業と個人の資金移動を記録するための勘定科目です。法人と経営者個人は別の主体であるため、法人の帳簿では使用しません。
法人の口座から役員の個人的な支出を行った場合は、取引の実態に応じて、役員貸付金・役員報酬・仮払金などで処理します。
個人事業主から法人成りした場合は、従来と同じ感覚で会社の口座から生活費を引き出さないよう注意が必要です。
事業主貸と事業主借の残高は、翌期首の元入金に反映されます。元入金とは、個人事業主が事業に投入した資金などを表す勘定科目で、法人における資本金に相当するものです。
翌期首の元入金は、次の計算式で求めます。
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翌期首の元入金=期末の元入金+青色申告特別控除前の所得金額+事業主借-事業主貸 |
たとえば、期末の元入金が300万円、青色申告特別控除前の所得金額が200万円、事業主貸が100万円、事業主借が20万円の場合、翌期首の元入金は420万円です。
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300万円+200万円+20万円-100万円=420万円 |
このように、事業主貸は元入金を減らす要因となり、事業主借や事業で生じた利益は元入金を増やす要因となります。
会計ソフトによっては、翌年度への繰越処理で自動的に元入金へ反映されます。翌期首には事業主貸・事業主借の残高をゼロにし、正しく繰り越されているか確認しましょう。
関連記事:決算整理仕訳とは?進め方の手順と仕訳の種類一覧をわかりやすく解説
ここでは、事業主貸の上限や経費への影響、法人での取り扱いなど、事業主貸についてよくある疑問に回答します。
事業主貸の金額に、税法上の一律の上限はありません。生活費として必要な金額を、事業用口座から引き出すこと自体は可能です。
ただし、引き出しすぎると事業の運転資金が不足する可能性があります。税務上の上限ではなく、今後の入金・支払い予定を踏まえて判断しましょう。
事業用口座から引き出したお金を個人の資金から戻す場合は、一般的に事業主借を使って仕訳します。
たとえば、個人の口座から事業用口座へ5万円を入金した場合は、次のように記帳します。
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借方 |
貸方 |
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普通預金 |
50,000円 |
事業主借 |
50,000円 |
事業主貸と事業主借は、決算時の精算を通じて翌期首の元入金に反映されるため、通常は個々の出金と入金を直接相殺する必要はありません。
事業主貸とは、個人事業主が事業用の現金・預金を生活費や税金などの私的な目的に使った場合に使用する勘定科目です。反対に、個人のお金を事業へ入れた場合や、個人のお金で事業経費を立て替えた場合は事業主借を使います。
事業主貸・事業主借は、いずれも原則として事業の収益や費用ではありません。「事業から個人へ」なら事業主貸、「個人から事業へ」なら事業主借と、資金の移動方向を基準に判断しましょう。
また、事業と私生活で共用する支出は、合理的な基準で家事按分する必要があります。事業用と個人用の口座・カードを分け、使用目的や按分根拠を記録しておくことが、正確な帳簿と確定申告につながります。
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