更新日:2026.08.28

ー 目次 ー
インボイスに登録していない事業者が請求書を作るとき、最初につまずくのが消費税の扱いです。
結論を先に言えば、インボイス未登録でも消費税相当額を請求して構いません。免税事業者であっても、仕入れの際には消費税を負担しています。それを価格に反映させること自体は、制度上まったく問題のない行為です。
書いてはいけないのは、「適格請求書」という文言と登録番号の2つだけです。それ以外は、これまで使ってきた請求書をそのまま使えます。
この記事では、記載項目と消費税の書き方を記載例つきで整理したうえで、取引先から消費税分の値引きを求められたときにどう対応すべきかまで解説します。
免税事業者は消費税の納税義務が免除されていますが、仕入れや経費の支払いでは消費税を負担しています。材料を買えば消費税を払い、通信費を払えばそこにも消費税が含まれています。
この負担分を価格に反映させられなければ、事業として成り立ちません。免税事業者が消費税相当額を含めた金額を請求することは、正当な行為です。
「免税事業者は消費税を転嫁できない」「消費税額を書いてはいけない」といった説明を目にすることがありますが、これは正確ではありません。免税事業者に対して消費税相当額の請求を禁じる規定はありません。
請求書に消費税額をどう表示するかは、取引先との合意にもとづいて決めれば足ります。
インボイス未登録の場合、請求書の記載項目はこれまでと変わりません。適格請求書のような法定の記載要件はないため、取引内容が正確に伝わることが基準になります。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 請求書発行日 | 請求書を発行した日付 |
| 請求書番号 | 管理用の通し番号(任意だが、問い合わせ時に役立つ) |
| 請求先 | 相手方の会社名または氏名、必要に応じて部署・担当者名 |
| 自社の情報 | 氏名または名称、住所、連絡先 |
| 取引年月日 | 商品の引渡日やサービスの提供日 |
| 取引内容 | 品目・数量・単価。軽減税率対象がある場合はその旨 |
| 請求金額 | 税率ごとに区分した合計額 |
| 支払期限 | 入金の期日 |
| 振込先 | 銀行名・支店名・口座種別・口座番号・口座名義 |
未登録の事業者が書いてはいけないのは、次の2つです。
| 書かないもの | 理由 |
|---|---|
| 「適格請求書」「インボイス」の文言 | 登録を受けた事業者だけが交付できる書類の名称です。未登録で使用すると、登録事業者であると誤認させることになります |
| 登録番号 | 未登録であれば番号自体が発行されていません。他社の番号や架空の番号を記載することは当然できません |
なお、適格請求書発行事業者でない者が適格請求書と誤認されるおそれのある書類を交付することは、消費税法で禁じられています。うっかりテンプレートに「適格請求書」の文字が残っていた、ということがないよう確認してください。
消費税額の表示方法に決まりはありません。実務では次の3パターンが使われています。取引先と認識を合わせたうえで、どれかを選んでください。
| パターン | 記載例 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 税込金額のみを表示 | ご請求金額:110,000円 | 消費税の内訳を示す必要がない取引。最もシンプル |
| 「消費税相当額」として表示 | 小計 100,000円 消費税相当額 10,000円 合計 110,000円 |
免税事業者であることが取引先に伝わっている場合 |
| 従来どおり「消費税」として表示 | 小計 100,000円 消費税 10,000円 合計 110,000円 |
これまでの様式を変えたくない場合 |
どのパターンでも、請求できる金額は変わりません。表示方法の違いにすぎず、税額の有無を意味するものではない点を押さえておいてください。
取引先の経理担当者が処理しやすいのは2番目の「消費税相当額」表記です。適格請求書ではないことが表示から読み取れるため、控除の可否を判断する手間が減ります。
計算方法は登録の有無で変わりません。軽減税率の対象は8%、それ以外は10%を掛けて算出します。
ただし、納税義務の有無は免税事業者か課税事業者かで異なります。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば免税事業者となり、消費税の申告・納税は不要です。請求書に消費税相当額を記載していても、その分を納めるわけではありません。
基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、登録の有無にかかわらず課税事業者です。売上にかかる消費税を計算し、申告・納税する義務があります。
この場合、自社が支払った消費税については、受け取ったインボイスにもとづいて仕入税額控除を適用できます。登録していないことで控除が受けられなくなるわけではありません。
未登録事業者が実際に直面しやすいのが、この場面です。
公正取引委員会は、免税事業者とその取引先の関係について考え方を公表しています。
取引上優越した地位にある事業者が、免税事業者に対して「課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる」「応じなければ取引を打ち切る」などと一方的に通告する行為は、独占禁止法上または取適法上、問題となるおそれがあるとされています。
また、免税事業者からの仕入れについては経過措置により一定割合の控除が認められているにもかかわらず、消費税相当額の全額を引き下げると通告した事例が、実際に注意の対象となっています。
ポイントは「一方的かどうか」です。双方が協議して合意のうえで価格を見直すことまで問題視されているわけではありません。問題になるのは、協議の機会なく通告する進め方です。
免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A(公正取引委員会)
ここは押さえておきたい変化です。従来の下請法は、2026年1月1日から「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されています。名称が変わっただけでなく、内容も大きく見直されました。
| 主な変更点 | 内容 |
|---|---|
| 適用対象の拡大 | 従来の資本金基準に加え、従業員基準(300人・100人)が追加されました。これまで保護の対象外だった取引が対象に入るケースがあります |
| 一方的な価格決定の禁止 | 受注者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じない、必要な説明を行わないなど、一方的に代金を決定することが禁止されました |
| 手形払いの禁止 | 支払手段として手形払い等を用いることが禁止されました |
免税事業者にとって重要なのは2点目です。価格協議の求めに応じないこと自体が違反行為として位置づけられました。消費税相当額の扱いについて話し合いたいと申し出た場合、発注側はそれに応じる必要があります。
感情的な対立にせず、事実にもとづいて協議の場をつくることが目的です。次のような形で伝えると話が進みやすくなります。
| 伝える順序 | 内容の例 |
|---|---|
| 1. 事実の確認 | 「今回のご請求について、消費税相当額を差し引くとのご連絡をいただきました」 |
| 2. 自社の状況 | 「弊社は免税事業者ですが、仕入れの際には消費税を負担しております」 |
| 3. 制度の前提 | 「免税事業者からの仕入れについては、一定割合の仕入税額控除が認められる経過措置がございます」 |
| 4. 協議の申し入れ | 「差し引く金額について、一度ご相談させていただけますでしょうか」 |
合意に至らない場合や、協議に応じてもらえない場合は、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口を利用できます。
未登録の事業者からの仕入れについては、経過措置により一定割合の仕入税額控除が認められています。ただしこの割合は段階的に引き下げられ、最終的には控除できなくなります。
つまり、取引先が負担するコストは年を追うごとに増えていきます。取引条件の見直しを求められる場面も、今後は増える可能性があります。
一方で、すべての事業者が登録すべきというわけではありません。次のようなケースでは、登録しないほうが合理的です。
| ケース | 理由 |
|---|---|
| 取引先が一般消費者中心 | 消費者は仕入税額控除を行わないため、インボイスを求められません |
| 取引先が免税事業者中心 | 相手も控除を行わないため、インボイスの必要性がありません |
| 取引先が簡易課税・2割特例を適用 | これらの計算方法では、仕入側でインボイスの保存を要しません |
登録すれば消費税の納税義務と申告の手間が発生します。取引先の構成を確認したうえで、必要性を判断してください。
登録を決めた場合は、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出します。提出方法は2つあります。
| 方法 | 手順 |
|---|---|
| 書面で提出 | 国税庁のサイトから申請書をダウンロードし、必要事項を記入してインボイス登録センターへ郵送する |
| e-Taxで申請 | 利用者識別番号と電子証明書を用意し、e-Taxソフト(Web版)から申請する。マイナンバーカードがあれば個人事業主でも利用可能 |
登録番号の通知までには一定の期間がかかります。取引開始日から逆算して、余裕をもって申請してください。
なお、免税事業者が登録を受ける場合、経過措置の期間中は「消費税課税事業者選択届出書」を別途提出しなくても、登録申請書の提出だけで課税事業者になれます。
なりません。免税事業者も仕入れで消費税を負担しており、それを価格に反映させることは正当な行為です。禁じられているのは「適格請求書」の文言や登録番号を記載することです。
登録していない旨をそのまま伝えてください。曖昧にすると、相手の経理処理が滞ります。あわせて経過措置の対象になることを伝えると、相手側も処理を進めやすくなります。
義務ではありません。ただし記載しておくと、受け取る側が控除の可否をすぐ判断できます。継続取引がある相手には、備考欄に一文を入れておくと親切です。
登録の効力が生じる日以降の取引から、適格請求書として交付できます。登録日をまたぐ請求については、期間を分けて発行するか、登録日以降の分のみ適格請求書とする対応が必要です。
インボイス未登録でも、消費税相当額を請求することに問題はありません。書いてはいけないのは「適格請求書」の文言と登録番号の2つだけで、それ以外は従来の請求書をそのまま使えます。
注意したいのは、取引先から消費税分の値引きを一方的に通告された場合です。協議の機会なく通告する行為は、独占禁止法上または取適法上の問題となるおそれがあります。2026年1月からは価格協議に応じないこと自体が禁止行為として明記されました。
登録するかどうかは、取引先の構成を確認したうえで判断してください。取引先が消費者中心であれば、登録しない選択も十分に合理的です。