更新日:2026.10.27

ー 目次 ー
2026年10月1日から、インボイス経過措置で控除できる割合が80%から70%に下がりました。免税事業者等から仕入れた取引の税区分や帳簿の書き方を、10月分から切り替える必要があります。
経過措置を使うには、請求書を保存するだけでは足りません。帳簿に「経過措置の対象である」とわかる記載も必要です。複数拠点企業では、本社が方針を周知していても、拠点ごとに帳簿の書き方や税区分の選び方がばらつきやすくなります。
あわせて、売り手側の負担を軽くしてきた2割特例も、2026年9月30日を含む課税期間で適用期限を迎えました。2割特例を使えるのはその課税期間の申告が最後で、以降の課税期間には適用できません。一方、買い手側の経過措置は控除割合を下げながら2031年9月まで続くため、帳簿記載の運用はこれからも欠かせません。
本記事では、インボイス経過措置の控除割合と帳簿記載の要件を整理します。そのうえで、80%と70%の判定方法、1億円上限、本社が進める総点検の手順を、仕訳例と確認表を交えて解説します。
こんな方におすすめ
この記事でわかること
インボイス制度では、適格請求書発行事業者ではない取引先(免税事業者、消費者、登録していない課税事業者)からの仕入れは、原則として仕入税額控除ができません。ただし制度開始から一定期間は、仕入税額相当額の一部を控除できる経過措置があります。
令和8年度税制改正により、控除割合は次の4段階になりました。
| 課税仕入れを行った日 | 控除できる割合 | 本社経理が確認したいこと |
|---|---|---|
| 2023年10月1日~2026年9月30日 | 80% | 9月以前の取引に「80%控除対象」の記載があるか |
| 2026年10月1日~2028年9月30日 | 70% | 10月以降の取引で70%の税区分を使えているか |
| 2028年10月1日~2030年9月30日 | 50% | 免税事業者等との取引方針を見直しているか |
| 2030年10月1日~2031年9月30日 | 30% | 経過措置終了後の運用を設計しているか |
2031年10月1日以後は経過措置がなくなり、免税事業者等からの仕入れは控除できなくなります。
参考:国税庁 適格請求書等保存方式に関するQ&A 問113
経過措置には、取引先ごとの上限があります。1つの免税事業者等からの課税仕入れが、1年間(または1事業年度)で一定額を超えると、超えた部分には経過措置を使えません。
| 課税期間の開始時期 | 上限額(税込) |
|---|---|
| 2024年10月1日~2026年9月30日に開始する課税期間 | 10億円 |
| 2026年10月1日以後に開始する課税期間 | 1億円 |
上限は全取引先の合計ではなく、取引先ごとに判定します。
3月決算の法人では、2027年4月1日に始まる事業年度から1億円上限が適用されます。外注先や業務委託先など、特定の免税事業者に取引が集中していないか、本社で取引先別の年間取引額を集計しておきましょう。
「2割特例」と経過措置は混同されがちですが、対象となる立場が異なります。
| 項目 | 2割特例 | 経過措置(70%控除) |
|---|---|---|
| 対象 | 売り手側(免税事業者から登録した事業者) | 買い手側(免税事業者等から仕入れる事業者) |
| 内容 | 売上税額の2割を納付税額にできる | 仕入税額相当額の一定割合を控除できる |
| 期限 | 2026年9月30日の日が属する課税期間まで | 2031年9月30日の課税仕入れまで |
| 本社経理の論点 | 自社が適用対象か | 帳簿記載・税区分・証憑保存 |
2割特例を使える回数は、決算月によって異なります。また個人事業者には、令和8年度税制改正で、令和9年分・令和10年分に限って使える「3割特例」が設けられました。法人は3割特例の対象外です。
参考:国税庁 2割特例特設ページ/インボイス経過措置の見直し等
経過措置を使うには、次の2つを両方保存する必要があります。
請求書があり仕訳も登録してあっても、帳簿上で経過措置の対象と判別できなければ、要件を満たしているとは説明できません。
帳簿には、通常の記載事項に加えて「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を書きます。
| 区分 | 記載項目 | 記載例 | 確認ポイント |
|---|---|---|---|
| 法定事項 | 相手方の氏名・名称 | 〇〇商店 | 取引先マスタと一致しているか |
| 法定事項 | 課税仕入れを行った年月日 | 2026年10月15日 | 控除割合(80%/70%)の判定と一致しているか |
| 法定事項 | 資産・役務の内容と経過措置の旨 | 店舗消耗品 70%控除対象 | 対象取引と判別できるか |
| 法定事項 | 支払対価の額 | 11,000円 | 請求書等と一致しているか |
| 推奨項目 | 証憑の管理番号 | 電子保存システムの文書番号 | 帳簿から請求書等へたどれるか |
経過措置の旨は、取引ごとに「70%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」などと書く方法のほか、「※」「☆」などの記号を付け、記号の意味を別途「※は70%控除対象」と示す方法も認められています。
拠点ごとに表記がばらつかないよう、本社で記載文言か記号を1つに決めて周知しましょう。
免税事業者から税込11,000円の商品を仕入れたケースで比べます。税率は10%で、税抜10,000円・消費税相当額1,000円として計算します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入高 | 10,200円 | 買掛金 | 11,000円 |
| 仮払消費税等 | 800円 |
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入高 | 10,300円 | 買掛金 | 11,000円 |
| 仮払消費税等 | 700円 |
70%控除になると、控除できない額が200円から300円に増えます。上の例では、控除できない部分を仕入高に含めています。
租税公課などで別に計上するかどうかは、会社の会計方針やシステム設定によって異なるため、税理士や会計監査人と確認のうえ運用してください。
80%と70%のどちらを使うかは、請求書の日付、締め日、支払日ではなく、課税仕入れを行った日で判定します。
| 取引の種類 | 課税仕入れを行った日 |
|---|---|
| 商品の仕入れ | 引渡しを受けた日 |
| 役務の提供 | 約束した役務の全部が完了した日 |
国税庁Q&Aでは、2026年9月21日に始まり10月20日に完了した役務提供について、完了日が10月なので70%を使う例が示されています。
参考:国税庁 適格請求書等保存方式に関するQ&A 問113-3
「9月26日~10月25日締め」のように、1枚の請求書に9月と10月の納品分が混ざる場合は、納品日ごとに80%と70%を分けて処理します。
拠点任せにすると、請求書の日付だけを見て一括で70%(または80%)にしてしまう誤りが起きやすくなります。本社で次のルールを決めておきましょう。
複数拠点を展開する企業では、制度そのものを理解していても、各拠点の運用に差が出ることで帳簿記載漏れが発生しやすくなります。
本社経理が確認すべきなのは、単に「ルールを周知したか」ではありません。実際に各拠点で同じルールに沿って処理され、後から確認できる証跡が残っているかどうかです。
| 原因 | 起きやすい状態 | 本社の対策 |
|---|---|---|
| 拠点任せの判断 | 拠点によって「70%控除対象」の記載があったりなかったりする | 記載文言・記号を全社で統一する |
| 会計システムに専用の項目がない | 摘要欄への手入力に頼り、記載漏れや表記ゆれが出る | 税区分・摘要テンプレートで自動的に付与する |
| 取引先マスタが整っていない | 免税事業者等との取引を抽出できない | 登録番号・登録状況をマスタで一元管理する |
| 本社の運用確認が不足 | 制度開始時にマニュアルを配っただけで終わっている | 対象件数・記載漏れ件数を毎月または四半期ごとに確認する |
取引先が登録事業者かどうかは、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確認できます。期中に登録したり、登録を取り消したりする取引先もあるため、マスタは定期的に更新しましょう。
税務調査では、帳簿の記載から請求書等までたどれるか、また集計が申告書と一致しているかが確認されます。帳簿に「70%控除対象」とあっても、該当する請求書がすぐに出てこなければ確認に時間がかかります。
複数拠点企業では、1つの拠点で不備が見つかると、他の拠点も同じではないかと確認範囲が広がりやすくなります。本社が拠点別の点検記録と是正の履歴を持っていれば、全社でどう管理しているかを整理しやすくなります。
| 影響の区分 | 発生しうる負担 |
|---|---|
| 税務 | 控除の否認、修正申告、附帯税 |
| 業務 | 過去取引の再確認、証憑の検索、拠点への照会 |
| 監査 | 監査法人や内部監査部門への説明資料の作成 |
| 組織 | 現場への再教育、マニュアル改定、承認フローの見直し |
上場企業や連結対象の会社では、インボイス対応の不備が内部統制の論点に広がることもあります。
70%への切替直後は、9月以前の取引の振り返りと10月以降の運用の確認を並行して進めるのが効率的です。
点検の出発点は、免税事業者等からの課税仕入れがどの拠点に、どれだけあるかを把握することです。会計データから税区分や仕入先区分で絞り込み、拠点別・取引先別に一覧化します。
この段階で1億円上限に近い取引先も洗い出しておくと、後の集計の手間を減らせます。
| 抽出の軸 | 確認内容 |
|---|---|
| 仕入先区分 | 免税事業者等との取引を識別できるか |
| 税区分 | 80%用と70%用の税区分が正しく使い分けられているか |
| 拠点・部門 | どの拠点に対象取引が多いか |
| 取引先別の年間取引額 | 1億円上限に近い取引先はないか |
| 証憑の保存状況 | 請求書等と帳簿を紐づけられるか |
抽出した取引は、拠点ごとに同じ項目で並べて比較します。1拠点ずつ確認するよりも、記載方法の違いや期をまたぐ請求書の処理の差が見つけやすくなります。
次の確認表を、拠点に配る点検シートのたたき台として使ってください。
| 確認項目 | 確認する内容 | 本社のチェック観点 |
|---|---|---|
| 対象件数 | 免税事業者等からの課税仕入れの件数 | 件数の多い拠点から優先して確認する |
| 記載方法 | 摘要欄・記号・税区分の使い方 | 全社ルールに沿っているか |
| 期またぎの処理 | 9月・10月分を分けて計上しているか | 一括処理になっていないか |
| 証憑の保管 | 紙・PDF・電子取引データ | 帳簿から証憑へたどれるか |
| 確認者 | 拠点長、本社経理、内部監査 | 確認の責任者が明確か |
すべての取引を一度に確認するのが難しい場合は、優先順位をつけて確認します。
優先すべきなのは、対象金額が大きい拠点、対象件数が多い拠点、担当者交代があった拠点、過去に差し戻しが多かった拠点です。サンプル点検を行う場合でも、どの母集団から抽出したのかを記録しておくことが大切です。
記載漏れや証憑との不一致が見つかった場合は、対象取引一覧、修正方法、対応期限、再確認者をセットで管理します。
「修正した」で終わらせず、帳簿、請求書等、仕訳、申告集計への影響まで確認しましょう。是正前後の記録を残しておくことで、内部監査や税務調査時の説明資料としても活用できます。
切替直後は、80%控除の期間に処理した9月以前の取引と、70%控除が始まった10月以降の取引を、目的を分けて点検します。
期限を決めずに進めると、申告や月次決算の直前に作業が集中しがちです。点検の対象ごとに期限と担当を決め、本社で進み具合を管理しましょう。
| 点検の対象 | 実施内容 | 期限の目安 | 担当の例 |
|---|---|---|---|
| 9月以前の取引 | 80%控除の記載漏れ・証憑の不一致を是正する | 次回の消費税申告まで | 拠点経理・本社経理 |
| 10月以降の取引 | 70%の税区分と期またぎの処理を確認する | 10月分の月次決算まで | 本社経理 |
| 1億円上限 | 取引先別の年間取引額を集計する | 1億円上限が適用される課税期間の開始前 | 本社経理 |
| 社内報告 | 点検結果と残った課題を共有する | 四半期ごと | 経理責任者 |
点検で是正しても、マニュアルやシステムの設定が古いままでは、同じ記載漏れがまた起きてしまいます。
特に、税区分や自動仕訳のルールに80%の設定が残っていると、拠点の担当者が気づかないまま誤った処理が続きます。
70%への切替にあわせて、次の項目をまとめて更新しましょう。
入力例、差し戻しの例、確認の頻度、問い合わせ先を明文化しておくと、担当者が交代しても運用が途切れません。
控除割合は今後50%、30%と段階的に下がるため、免税事業者等との取引にかかる実質的なコストは増えていきます。
ただし、取引の停止や一方的な値下げ要請には慎重な検討が必要です。代替調達ができるか、取引を続ける必要性、事務負担などを踏まえつつ、独占禁止法や取適法(旧下請法)に配慮して方針を整理しましょう。
参考:公正取引委員会 免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A
2026年10月1日から2028年9月30日までに行った課税仕入れが対象です。その後は50%、30%と段階的に下がり、2031年10月1日以後は経過措置がなくなります。
通常の記載事項に加えて、「70%控除対象」などの経過措置の旨を書きます。記号を付けて、その意味を別途示す方法も認められています。
納品日(役務の場合は完了日)ごとに分け、9月30日以前の分は80%、10月1日以後の分は70%で処理します。請求書の日付や支払日では判定しません。
2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。3月決算の法人の場合は、2027年4月1日に始まる事業年度からです。上限は取引先ごとに判定します。
まず免税事業者等からの課税仕入れを拠点別に抽出します。そのうえで、税区分の使い分け、期またぎの処理、帳簿記載の有無を、件数や金額の大きい拠点から確認しましょう。
インボイス経過措置は2026年10月から70%控除に変わり、今後は1億円上限も加わります。控除割合を正しく適用するには、課税仕入れを行った日での判定、帳簿への経過措置の旨の記載、請求書等の保存の3つがそろっている必要があります。
本社経理が今取り組むべきことは、次の3つです。
切替直後の今は、各拠点の請求書処理や会計システムの運用ルールを見直す好機です。本社主導で点検を進め、税務調査や内部監査にも説明できる体制を整えましょう。
経過措置の点検にあわせて、登録番号の確認や請求書の保存ルール、年末年始の届出・申告期限も見直しておきましょう。制度全体の確認ポイントは、こちらの記事で整理しています。
【リンク】インボイス制度の総点検 | 70%控除・登録番号・年末年始の期限をチェックリストで確認