更新日:2026.06.16

ー 目次 ー
「インボイスの2割特例はいつまで使えるのか」と調べるなかで、あわせて確認しておきたいのが、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置です。
いわゆる2割特例は、主に売り手側の納税額計算に関する特例です。一方で、買い手側の経理実務では、免税事業者等からの課税仕入れについて、一定割合を仕入税額控除できる経過措置、いわゆる8割控除・80%控除への対応が重要になります。
特に多拠点企業では、本社がインボイス制度の対応方針を周知していても、各拠点の帳簿記載や証憑保存の運用まで統一できているとは限りません。請求書を保存していても、帳簿上で経過措置の対象取引と判別できなければ、後から確認や是正に大きな工数がかかる可能性があります。
本記事では、インボイス制度における2割特例と80%控除の違いを整理したうえで、多拠点企業の本社が確認すべき帳簿記載のポイント、総点検の進め方、仕訳例、税務調査で見られやすい観点を解説します。
こんな方におすすめ
この記事でわかること
インボイス制度の実務では、「2割特例」と「80%控除」が同じ話として扱われることがあります。しかし、両者は対象となる立場や確認すべき実務が異なります。
経理部門、とくに本社で複数拠点の請求書処理や消費税申告を管理している場合は、まずこの違いを整理しておくことが重要です。
2割特例は、もともと免税事業者だった方がインボイス発行事業者として登録した場合に、一定期間、売上にかかる消費税の納付額を通常よりも大幅に軽減できる制度です。
一方、80%控除は、買い手側が免税事業者等から商品やサービスを仕入れた際に、仕入税額の全額ではなく一定割合のみを控除できるという、段階的な経過措置となっています。
| 項目 | 2割特例 | 8割控除・80%控除 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 売り手側の事業者 | 買い手側の事業者 |
| 実務上の論点 | 納付税額の計算 | 仕入税額控除の可否・帳簿記載・証憑保存 |
| 経理部門の確認ポイント | 自社が適用対象か | 免税事業者等からの仕入れを正しく抽出・記録できているか |
| 多拠点企業での注意点 | 自社の申告方針との整合 | 拠点ごとの帳簿記載ルールや証憑保存のばらつき |
2割特例の適用期間は、2023年10月1日から2026年9月30日までの間に該当する課税期間です。個人事業主・法人ともに、最大で4回分の確定申告にこの特例を利用できます。
・令和5年分(10月~12月)
・令和6年分
・令和7年分
・令和8年分
・令和6年年3月期(令和5年10月~令和6年3月)
・令和7年年3月期
・令和8年年3月期
・令和9年年3月期
個人事業主については、令和8年の税制改正により、2027年・2028年分の消費税申告に限り、売上にかかる消費税の3割を納付額とする新たな特例(3割特例)が設けられています。
なお、3割特例は個人事業主のみが対象であり、法人はこの特例の適用を受けることができません。
■参考
国税庁 インボイス制度特設サイト
国税庁 2割特例特設ページ
国税庁 インボイス経過措置の見直し等
「インボイス 2割特例」で検索してたどり着いた場合でも、本社経理が本当に対応すべきなのは、買い手側で発生する80%控除の帳簿記載です。特に多拠点企業では、この帳簿記載のばらつきが見落とされやすく、80%控除の適用要件を満たせていない状態が放置されているケースも少なくありません。
次の章では、こうしたリスクを防ぐために、本社が把握すべき80%控除の仕組みと、実務で確認すべきポイントを具体的に解説します。
免税事業者等からの仕入れについては、経過措置として、期間限定で仕入税額の一部のみが控除できる仕組みが設けられています。国税庁のQ&Aでは、この控除率や適用期間が段階的にまとめられています。
| 期間 | 控除できる割合 | 本社経理が確認したいこと |
|---|---|---|
| 2023年10月1日から2026年9月30日まで | 仕入税額相当額の80% | 80%控除対象として帳簿に記載されているか |
| 2026年10月1日から2028年9月30日まで | 仕入税額相当額の70% | 税区分・会計システム設定を変更できてるか |
| 2028年10月1日から2030年9月30日まで | 仕入税額相当額の50% | 免税事業者等との取引方針を見直しているか |
| 2030年10月1日から2031年9月30日まで | 仕入税額相当額の30% | 経過措置終了後の運用を設計しているか |
80%控除の適用期間が終了すると、次の段階では控除率が70%に引き下げられます。そのため、2026年9月までの取引については、帳簿や請求書、仕訳、申告内容が一貫しているかを早めに点検しておくことが重要です。
参考:国税庁 適格請求書等保存方式に関するQ&A 問113
免税事業者等からの仕入れに関する経過措置を利用するには、単に請求書を保管するだけでなく、帳簿にも必要な情報をきちんと記載しておくことが求められます。
つまり、「請求書がある」「仕訳を登録した」という状態だけでは、経過措置の対象取引として後から説明できるとは限りません。税務調査や内部監査で確認されるのは、帳簿・請求書等・仕訳・申告内容が一連の流れとして追えるかどうかです。
多拠点企業では、制度そのものを理解していても、各拠点の運用に差が出ることで帳簿記載漏れが発生しやすくなります。
本社経理が確認すべきなのは、単に「ルールを周知したか」ではありません。実際に各拠点で同じルールに沿って処理され、後から確認できる証跡が残っているかどうかです。
免税事業者等との取引の判定、登録番号の確認、帳簿への記載、証憑の保存場所などを拠点担当者の判断に任せると、同じ会社のなかでも処理に差が生じます。
たとえば、ある拠点では摘要欄に「80%控除対象」と記載している一方、別の拠点では何も記載していないケースが発生することも考えられます。また、担当者の異動や退職により、以前の運用が引き継がれないこともあります。
会計システムに経過措置対象を示す専用項目がない場合、摘要欄への手入力に頼ることになります。この場合、入力ルールが明確でなければ、記載漏れや表記ゆれが発生しやすくなります。
本社としては、税区分、補助科目、摘要テンプレート、取引先マスタなどを活用し、担当者の注意力だけに依存しない仕組みを整えることが大切です。
帳簿記載を点検するには、まず免税事業者等からの課税仕入れを抽出できる状態にしておく必要があります。
ところが、取引先マスタに登録番号、登録状況、免税事業者区分などが管理されていないと、対象取引を正確に洗い出せません。帳簿の記載漏れは、帳簿そのものではなく、前段階のマスタ管理に原因がある場合もあります。
登録番号や登録状況の確認には、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトを利用できます。
参考:国税庁 適格請求書発行事業者公表サイト
インボイス制度開始時にマニュアルを配布しただけで、その後の運用確認が行われていない企業もあります。
多拠点企業では、月次または四半期ごとに、対象件数、免税事業者等との取引金額、差し戻し件数、記載漏れ件数などを確認する仕組みが必要です。周知で終わらせず、運用結果を見える化することが、本社主導の管理では重要になります。
ここからは、実際の経理処理で確認したい帳簿記載、請求書等との突合、仕訳例を整理します。
経過措置の適用を受ける場合、帳簿には通常の記載事項に加え、その課税仕入れが経過措置の対象であることがわかる記載が必要です。
| 帳簿の記載項目 | 記載例 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 取引先名 | 株式会社〇〇商店 | 取引先マスタと一致しているか |
| 取引日 | 2026年9月20日 | 控除割合の判定時期と整合しているか |
| 取引内容 | 店舗消耗品購入 | 課税仕入れの内容がわかるか |
| 支払対価の額 | 11,000円 | 請求書等の金額と一致しているか |
| 経過措置対象の表示 | 80%控除対象、免税事業者仕入など | 後から対象取引と判別できるか |
| 証憑保存先 | 電子帳簿保存システム内の管理番号 | 帳簿から請求書等へたどれるか |
なお、国税庁Q&Aでは、個々の取引ごとに「80%控除対象」などと記載する方法のほか、記号を付して別途その意味を表示する方法も示されています。
参考:国税庁 適格請求書等保存方式に関するQ&A 問113
ここでは、免税事業者から税込11,000円の商品を仕入れ、80%控除の経過措置を適用する場合の一例を紹介します。
消費税率10%の取引で、税抜金額10,000円、消費税相当額1,000円と考えた場合、80%控除により控除できる仮払消費税等は800円です。控除できない200円は、仕入高に含める方法や租税公課などで別建てする方法が考えられます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| 仕入高 | 10,200円 | 買掛金 | 11,000円 | 控除できない200円を仕入高に含める例 |
| 仮払消費税等 | 800円 | 消費税相当額1,000円の80% |
上記は一例です。控除できない部分を仕入高に含めるか、租税公課などで処理するかは、会社の会計方針やシステム設定によって異なります。実務では、自社の会計処理方針に沿って、税理士や会計監査人とも確認しながら運用しましょう。
帳簿記載の点検では、個別の仕訳だけでなく、請求書等や申告集計とのつながりを確認する必要があります。
| 見る資料 | 確認内容 | 不備があった場合のリスク |
|---|---|---|
| 帳簿 | 経過措置対象取引と判別できるか | 80%控除対象であることを説明しにくい |
| 請求書等 | 取引先、日付、金額、取引内容が一致するか | 証憑と帳簿の対応関係が不明確になる |
| 仕訳 | 税区分、勘定科目、金額が正しいか | 消費税申告の集計誤りにつながる |
| 申告集計 | 控除対象の件数・金額が帳簿と整合するか | 修正申告や追加確認が必要になる可能性がある |
本社で請求書を一括受領し、各拠点や部門へ配賦している場合は、原本請求書と拠点別の帳簿記録が分断されやすくなります。
この場合は、配賦前の原本請求書、配賦ルール、拠点別の計上データをセットで確認できる状態にしておくことが重要です。とくに多店舗小売、外食、製造業、物流業などでは、拠点数が多いほど対応関係が複雑になりやすいため注意が必要です。
帳簿記載の総点検は、全拠点に一斉確認を依頼するだけでは効率的に進みません。対象取引を抽出し、リスクの高い拠点から優先順位をつけて確認することが大切です。
最初に行うべきことは、免税事業者等からの課税仕入れを拠点別に抽出することです。
| 抽出軸 | 確認内容 |
|---|---|
| 仕入先区分 | 免税事業者等との取引を識別できるか |
| 税区分 | 経過措置対象の税区分が使われているか |
| 部門・拠点 | どの拠点で対象取引が多いか |
| 金額 | 影響額の大きい取引先や拠点はどこか |
| 証憑保存状況 | 請求書等と帳簿を紐づけられるか |
対象取引を抽出したら、拠点別に確認表を作成します。横並びで比較すると、処理差や不備の傾向が見えやすくなります。
| 確認項目 | 確認する内容 | 本社のチェック観点 |
|---|---|---|
| 対象件数 | 免税事業者等からの課税仕入れ件数 | 件数が多い拠点から優先確認する |
| 記載欄の有無 | 摘要欄・補助項目・税区分の運用 | 入力ルールが統一されているか |
| 証憑保管 | 紙、PDF、電子取引データの保存状況 | 帳簿から証憑へたどれるか |
| 再確認者 | 拠点長、本社経理、内部監査など | 確認責任が明確か |
すべての取引を一度に確認するのが難しい場合は、優先順位をつけて確認します。
優先すべきなのは、対象金額が大きい拠点、対象件数が多い拠点、担当者交代があった拠点、過去に差し戻しが多かった拠点です。サンプル点検を行う場合でも、どの母集団から抽出したのかを記録しておくことが大切です。
記載漏れや証憑との不一致が見つかった場合は、対象取引一覧、修正方法、対応期限、再確認者をセットで管理します。
「修正した」で終わらせず、帳簿、請求書等、仕訳、申告集計への影響まで確認しましょう。是正前後の記録を残しておくことで、内部監査や税務調査時の説明資料としても活用できます。
80%控除から70%控除へ変わるタイミングを見据え、抽出、点検、是正、再確認、社内報告の期限を逆算します。
| 工程 | 実施内容 | 担当例 |
|---|---|---|
| 抽出 | 対象取引を拠点別に一覧化 | 本社経理 |
| 点検 | 帳簿記載と証憑の整合を確認 | 拠点経理・本社経理 |
| 是正 | 記載漏れや処理差を修正 | 拠点経理 |
| 再確認 | 修正後の帳簿・仕訳・申告影響を確認 | 本社経理 |
| 社内報告 | 点検結果と残課題を共有 | 経理課長・経理部長 |
インボイス制度への対応は、税額計算だけの問題ではありません。多拠点企業では、帳簿・証憑・承認履歴・是正記録を含めた説明可能性が重要になります。
税務調査では、帳簿に記載された取引が、どの請求書等に基づくものかを確認される可能性があります。
帳簿に「80%控除対象」と記載されていても、該当する請求書等にすぐたどれない場合、確認に時間がかかります。帳簿の摘要欄や証憑管理番号を活用し、後から追跡できる状態にしておきましょう。
多拠点企業では、1つの拠点で記載漏れが見つかると、他拠点でも同様の不備があるのではないかと確認範囲が広がる可能性があります。
本社が拠点別の確認記録や是正履歴を持っていれば、全社としてどのように管理しているかを説明しやすくなります。
帳簿記載の不備による影響は、税額の修正だけではありません。追加確認、修正申告、監査法人への説明、役員報告、現場への再教育など、さまざまな負担につながります。
| 影響区分 | 発生しうる負担 |
|---|---|
| 税務上の負担 | 否認、修正申告、附帯税など |
| 業務上の負担 | 過年度取引の再確認、証憑検索、拠点への照会 |
| 監査対応の負担 | 監査法人や内部監査部門への説明資料作成 |
| 組織上の負担 | 現場教育、マニュアル改定、承認フロー見直し |
上場企業や連結決算対象企業では、インボイス対応の不備が内部統制や監査対応の論点に広がる可能性もあります。早い段階で点検しておくことが、結果的に経理部門の負担軽減につながります。
帳簿記載の点検は、80%控除の終了前だけの一時対応で終わらせるべきではありません。控除割合の変更や経過措置の終了を見据え、経理ルールやシステム設定を見直す機会にすることが大切です。
2026年10月以降は、免税事業者等からの仕入れに係る控除割合が80%から70%へ変わります。そのため、次のような項目を見直しましょう。
関連記事:【2026年10月から適用】免税事業者仕入の控除率変更
【2026年10月から適用】免税事業者仕入の控除率変更|経理担当者が押さえる仕訳・設定・運用
控除割合が段階的に下がることで、免税事業者等との取引コストや事務負担は変化します。ただし、免税事業者との取引を一律にやめるという判断は適切ではありません。
価格交渉、代替調達の可否、取引継続の必要性、事務負担、独占禁止法や下請法等への配慮を含めて、取引方針を整理することが重要です。
参考:公正取引委員会 免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A
記載漏れを防ぐには、担当者への注意喚起だけでは不十分です。税区分、仕入先区分、摘要テンプレート、承認ワークフローなどを見直し、誰が処理しても同じ品質になる仕組みを整える必要があります。
また、担当者交代があっても運用が途切れないよう、入力例、差し戻し例、確認頻度、問い合わせ先を明文化しておくとよいでしょう。
2割特例は、売り手側の納税額計算に関する特例です。適用期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの属する課税期間において適用できます。
通常の帳簿記載事項に加えて、その課税仕入れが経過措置の適用を受ける取引であることがわかる記載が必要です。たとえば「80%控除対象」「免税事業者仕入」などの記載により、後から対象取引と判別できる状態にします。
仕訳が正しいだけでは十分とはいえません。帳簿、請求書等、仕訳、申告集計がつながっており、後から説明できる状態になっていることが重要です。
一律に取引をやめるのではなく、利益率、代替可能性、取引継続の必要性、事務負担、取引先との関係を踏まえて判断することが大切です。取引条件の見直しでは、公正取引委員会等のQ&Aも確認しましょう。
まず、免税事業者等からの課税仕入れを拠点別に抽出します。そのうえで、対象件数や金額が大きい拠点から帳簿・請求書等・仕訳・申告集計の整合を確認し、不備があれば是正記録を残しましょう。
インボイスの2割特例について調べる際には、同時に買い手側の経理処理に関わる80%控除の経過措置についても把握しておくことが欠かせません。
特に多拠点企業では、各拠点が処理している帳簿記載を本社が把握できていないケースがあります。請求書を保存していても、帳簿上で経過措置対象と判別できず、仕訳や申告集計との対応関係が曖昧であれば、後から大きな確認負担が発生しかねません。
本社経理が今行うべきことは、次の3つです。
80%控除から70%控除へと移行する時期は、単なる法改正対応にとどまらず、各拠点の請求書処理や会計システムの運用ルールを再点検する絶好のタイミングです。制度変更前の今こそ、本社主導で帳簿記載の見直しを進め、税務調査や内部監査にも耐えうる体制を構築しましょう。
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