更新日:2026.10.08

ー 目次 ー
前受金とは、商品を引き渡したりサービスを提供したりする前に、代金の一部または全部を受け取ったときに使う勘定科目です。入金時点で収益を認識する条件を満たしていない場合は売上に計上せず、原則として負債に計上します。
この記事では、前受金が負債になる理由、前受収益・仮受金との違い、具体的な仕訳、消費税の取り扱い、決算時の管理方法までわかりやすく解説します。
前受金とは、商品やサービスを提供する前に、取引先から受け取った代金を処理するための勘定科目です。一般的には貸借対照表の「流動負債」に計上し、商品・サービスの提供後に売上へ振り替えます。
前受金が発生する主なケースは、次のとおりです。
|
取引例 |
前受金となる支払い |
|
受注生産品の販売 |
納品前に受け取る内金 |
|
システム開発・制作 |
作業開始前に受け取る代金の一部 |
|
イベントの開催 |
開催前に受け取るチケット代 |
|
商品の予約販売 |
引き渡し前に受け取る予約代金 |
|
工事・請負契約 |
完成前に受け取る契約金の一部 |
ただし、着手金や手付金などの名称だけで前受金と判断するわけではありません。返金の条件や代金への充当方法など、契約上の性質を確認して勘定科目を決める必要があります。
また、同じ取引を買い手側から見ると、商品・サービスを受け取る前に支払った代金は「前払金」として資産に計上します。
前受金を負債に計上する理由は、代金を受け取った時点では、会社に次の義務が残っているためです。
たとえば、受注生産品の代金10万円を納品前に受け取った場合、会社の現金は10万円増えます。しかし、まだ商品を引き渡していないため、10万円を稼得したとはいえません。
この段階では、現金の増加と同時に「商品を提供する義務」が発生しています。そのため、前受金として負債に計上します。
|
取引の段階 |
会社の状態 |
会計処理 |
|
代金の受領時 |
提供義務が残っている |
前受金として負債計上 |
|
商品・サービスの提供時 |
提供義務を果たした |
前受金を売上へ振り替え |
|
契約解除・返金時 |
提供義務がなくなり返金する |
前受金を減額 |
負債というと借入金などの返済義務をイメージしやすいですが、会計上の負債には、将来商品やサービスを提供する義務も含まれます。
現金を先に受け取っただけでは収益にならず、商品・サービスの提供などによって履行義務を充足した時点、またはその進捗に応じて収益を認識します。
ただし、契約解除時に必ず返金するとは限りません。返金の可否やキャンセル料の取り扱いは契約によって異なるため、契約書や利用規約を確認する必要があります。
前受金と混同しやすい勘定科目に、前受収益と仮受金があります。それぞれの違いは、次のとおりです。
|
勘定科目 |
入金内容 |
主な使用場面 |
その後の処理 |
|
前受金 |
特定の商品・サービスなどに対して、提供前に受け取った代金 |
商品やサービスの提供前に受け取った代金 |
提供後に売上へ振り替える |
|
前受収益 |
継続的な役務のうち、まだ提供していない期間に対応する対価 |
家賃、保守料、利用料などの前受け |
期間の経過に応じて収益へ振り替える |
|
仮受金 |
入金理由や最終的な勘定科目がまだ判明していない金額 |
振込元不明の入金、内容未確認の入金 |
内容判明後に適切な科目へ振り替える |
前受収益は、継続的に提供するサービスの代金を先に受け取った場合に、まだサービスを提供していない期間に対応する金額を処理する勘定科目です。
たとえば、1年分の保守料や賃貸料を一括で受け取った場合、決算日以降の期間に対応する部分を前受収益として負債に計上します。その後、サービスの提供や期間の経過に応じて収益へ振り替えます。
一方、前受金は、商品の納品代金や個別の制作案件など、特定の取引に対して先に受け取った代金を処理する際に使うのが一般的です。
なお、収益認識基準が適用される顧客との契約では、財・サービスを提供する前に受け取った対価などを「契約負債」として認識します。貸借対照表では、「契約負債」や「前受金」などの科目名で表示できます。
勘定科目の名称だけにこだわらず、未提供分を負債として残し、適切な時期に収益へ振り替えることが重要です。
仮受金は、入金があったものの、その理由や最終的に使用する勘定科目が判明していないときに、一時的に使用する勘定科目です。
たとえば、銀行口座に入金があったものの、振込名義から取引先を特定できない場合は、いったん仮受金として処理します。その後、売掛金の回収であることが判明すれば売掛金へ、商品提供前の代金であることが判明すれば前受金へ振り替えます。
前受金は取引内容と金額が確定しているのに対し、仮受金は入金内容が未確定である点が大きな違いです。仮受金を長期間残すと残高の内訳がわからなくなるため、早めに内容を調査しましょう。
前受金は、代金を受け取ったときと、商品・サービスを提供したときに分けて仕訳します。
ここでは、次の取引を例に確認します。
前受金を受け取ってから残額を回収するまでの仕訳は、次のとおりです。
|
タイミング |
借方 |
貸方 |
||
|
前受金の受領時 |
普通預金 |
110,000円 |
前受金 |
110,000円 |
|
商品の引き渡し時 |
前受金 |
110,000円 |
売上高 |
500,000円 |
|
売掛金 |
440,000円 |
仮受消費税等 |
50,000円 |
|
|
残額の入金時 |
普通預金 |
440,000円 |
売掛金 440,000円 |
440,000円 |
前受金を受け取った時点では、商品を引き渡していないため売上には計上しません。商品を引き渡した時点で、前受金を取り崩すとともに、販売価格の全額を売上として計上します。
前受金だけで代金全額を受け取っている場合は、商品・サービスの提供時に前受金の全額を売上へ振り替えます。
商品を引き渡す前に契約が解除され、受け取った110,000円を返金する場合の仕訳は、次のとおりです。
|
借方 |
貸方 |
||
|
前受金 |
110,000円 |
普通預金 |
110,000円 |
返金によって商品・サービスの提供義務と前受金の残高が解消されるため、原則として売上は計上しません。
ただし、契約に基づいてキャンセル料を受け取る場合は、前受金の一部または全部をキャンセル料収入などへ振り替えることがあります。消費税の取り扱いもキャンセル料の性質によって異なるため、契約内容を確認して判断しましょう。
前受金を受け取っただけでは、原則として消費税の課税時期は到来しません。消費税は、商品を引き渡した日やサービスを提供した日を基準として計上します。
たとえば、3月に前受金を受け取り、4月に商品を引き渡した場合の取り扱いは、次のとおりです。
|
時期 |
取引 |
消費税の処理 |
|
3月 |
前受金を受け取る |
原則として課税売上に計上しない |
|
4月 |
商品を引き渡す |
課税売上と消費税を計上する |
入金日や請求書の発行日だけを基準にすると、売上や消費税の計上時期を誤る可能性があります。納品日、検収日、サービス提供期間など、契約上の取引完了時期を確認することが重要です。
ただし、所得税法上の現金主義の特例を適用している一定の個人事業者や、工事契約などに適用される特別な処理によって、課税時期が異なる場合があります。特殊な契約については、顧問税理士などへ確認しましょう。
前受金を正しく管理するためには、入金額だけでなく、どの契約の代金で、提供義務がいつ完了するのかを把握する必要があります。
以下では、前受金を管理する際に押さえておくべきポイントを紹介します。
前受金は、総勘定元帳の残高だけでなく、取引先や契約ごとの補助簿で管理しましょう。案件名、受領額、提供予定日、売上への振替額を記録すると、どの前受金が残っているのか確認しやすくなります。
複数回に分けて代金を受け取る契約では、契約総額と累計入金額、売上への振替額を対応させることも重要です。
商品の引渡しやサービス提供などによって収益を認識する時期が到来したら、対応する前受金を売上へ振り替えます。一定期間にわたり収益を認識する契約では、その進捗に応じて処理します。
営業・制作部門から経理部門へ、納品日や検収完了日を共有する仕組みを整えましょう。
関連記事:前受金はいつ請求書を出す?正しいタイミングと仕訳のポイントを徹底解説!
決算時には、前受金の残高を取引先・契約別に確認し、次のような金額が残っていないか調査します。
提供済みの金額は売上へ、返金予定額は契約内容に応じた負債へ振り替えるなど、実態に合わせて修正します。
関連記事:決算整理仕訳とは?進め方の手順と仕訳の種類一覧をわかりやすく解説
ここでは、請求書の発行時期や決算をまたぐ場合の処理など、前受金についてよくある疑問に回答します。
前受金の請求書は、契約で定めた支払時期に合わせて発行します。一般的には、契約締結後、前受金の支払期限より前に発行します。
ただし、請求書の発行だけで売上や消費税の計上時期が決まるわけではありません。商品・サービスの提供時期と区別して管理しましょう。
関連記事:前受金はいつ請求書を出す?正しいタイミングと仕訳のポイントを徹底解説!
決算日時点で商品・サービスを提供していなければ、前受金を負債として翌期へ繰り越します。
一方、決算日までに提供が完了している場合は、入金の有無にかかわらず売上へ振り替える必要があります。契約書、納品書、検収書などから提供状況を確認しましょう。
まず、取引先別の補助簿と総勘定元帳を照合し、入金・売上振替・返金の記帳漏れがないか確認します。
提供済みの前受金、振込元が判明していない入金、二重計上などが残高不一致の主な原因です。差額を安易に雑収入や雑損失で処理せず、入金明細や契約書までさかのぼって原因を特定しましょう。
前受金とは、商品・サービスを提供する前に受け取った代金を処理する勘定科目です。受領時点では提供義務が残っているため、原則として負債に計上し、商品・サービスを提供した時点で売上へ振り替えます。
前受収益は継続的なサービスの未提供期間に対応する金額、仮受金は入金理由などが未確定な金額を処理する勘定科目です。名称だけで判断せず、契約内容や取引の進捗に応じて使い分けましょう。
また、前受金の受領時点では、原則として消費税を計上しません。入金日だけでなく、納品日やサービス提供期間を取引先・契約別に管理することが、正確な売上計上と決算処理につながります。
前受金を含む入金管理や請求書業務を効率化したい方は、以下の資料もご確認ください。