更新日:2026.09.24

ー 目次 ー
簡易課税制度は、事業区分ごとに定められたみなし仕入率を使って、消費税の仕入控除税額を計算する制度です。経理処理を簡略化できる反面、仕入れや経費の状況によっては、原則課税を選んだ場合よりも税負担が大きくなる可能性があります。
本記事では、簡易課税制度の仕組みや適用要件、事業区分ごとのみなし仕入率、計算方法をわかりやすく解説します。
原則課税との違いやメリット・デメリット、届出方法、インボイス制度・2割特例・3割特例との関係も紹介するので、自社に適した方法を検討する際の参考にしてください。
簡易課税制度とは、実際の仕入れなどにかかった消費税額を集計する代わりに、売上にかかる消費税額と「みなし仕入率」を使って、納付する消費税額を計算する制度です。一定の要件を満たす中小事業者の事務負担を軽減する目的で設けられています。
みなし仕入率は事業内容によって40~90%の範囲で定められています。売上にかかる消費税額にみなし仕入率を掛けて仕入控除税額を算出し、納付する消費税額を求める仕組みです。
関連記事:法人の消費税とは?課税区分・計算方法・インボイス対応まで実務をまとめて解説
簡易課税制度と原則課税の主な違いは、仕入税額控除の計算方法です。簡易課税制度では「みなし仕入率」を使うのに対し、原則課税では実際の課税仕入れなどにかかった消費税額をもとに計算します。
簡易課税制度と原則課税の主な違いは、以下のとおりです。
|
項目 |
簡易課税制度 |
原則課税 |
|
仕入税額控除の計算 |
売上にかかる消費税額とみなし仕入率をもとに計算 |
実際の課税仕入れなどにかかった消費税額をもとに計算 |
|
みなし仕入率 |
事業区分に応じて40~90% |
使用しない |
|
仕入れに関する消費税額の集計 |
原則として仕入税額控除の計算には不要 |
必要 |
|
消費税の還付 |
原則として生じない |
仕入れなどにかかる消費税額が売上にかかる消費税額を上回る場合などに還付を受けられることがある |
簡易課税制度では実際の仕入税額を使わないため、消費税の計算に必要な事務負担を軽減することが可能です。一方、原則課税では実際の課税仕入れなどをもとに計算するため、取引内容を適切に把握する必要があります。
どちらが有利になるかは、実際の仕入率や設備投資の状況などによって異なります。それぞれの特徴を理解したうえで、自社に適した方法を検討しましょう。
簡易課税制度を利用するには、売上高に関する要件を満たしたうえで、原則として事前に届出を行う必要があります。主な要件は以下のとおりです。
それぞれの要件について詳しく解説します。
簡易課税制度を適用するには、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることが必要です。基準期間とは、原則として個人事業者ではその年の前々年、法人ではその事業年度の前々事業年度のことです。
たとえば、個人事業者が2026年分に簡易課税制度を適用する場合、原則として2024年の課税売上高が5,000万円以下かどうかを確認します。
なお、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた課税期間は、簡易課税制度を選択していても適用できず、原則課税によって消費税額を計算します。
簡易課税制度を適用するには、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署長へ提出する必要があります。基準期間の課税売上高が5,000万円以下であっても、自動的に簡易課税制度が適用されるわけではありません。
提出期限は、原則として簡易課税制度を適用したい課税期間が始まる日の前日までです。ただし、新規開業した課税期間や、2割特例・3割特例から簡易課税制度へ移行する場合などには、提出期限の特例があります。
簡易課税制度を利用すると、消費税の計算にかかる事務負担を軽減できるほか、事業者によっては納税額を抑えられる場合があります。
以下の主なメリットについて、それぞれ詳しく解説します。
簡易課税制度のメリットは、仕入税額控除の計算を簡略化できる点です。実際の課税仕入れなどにかかった消費税額を積み上げるのではなく、売上にかかる消費税額と事業区分ごとのみなし仕入率を使って計算します。
そのため、仕入税額控除の計算にあたって、取引ごとに課税仕入れに該当するかを確認したり、適用税率ごとに仕入税額を集計したりする負担を軽減できます。取引件数が多い事業者にとっては、消費税申告に伴う経理業務の効率化につながるでしょう。
簡易課税制度では、みなし仕入率によって算出した仕入控除税額が、原則課税で計算した実際の仕入控除税額より大きい場合、納付税額を抑えられる可能性があります。
たとえば、課税仕入れや経費が比較的少ない事業では、みなし仕入率を使ったほうが仕入控除税額が大きくなる場合があります。
ただし、どちらが有利かは取引内容や適用税率などによって異なるため、実際の納付税額を試算して比較することが大切です。
簡易課税制度は事務負担を軽減できる一方、事業者の状況によっては原則課税より不利になる場合があります。
簡易課税制度を選択する前に、以下のデメリットを確認しておきましょう。
簡易課税制度では、実際の仕入率がみなし仕入率より高い場合、原則課税より納税額が多くなる可能性があります。実際に支払った消費税額ではなく、事業区分ごとのみなし仕入率を使って仕入控除税額を計算するためです。
たとえば、みなし仕入率が50%でも、実際には売上に対して多くの課税仕入れが発生している場合、そのすべてを仕入控除税額に反映できません。
簡易課税制度を選択する際は、実際の仕入状況をもとに原則課税と納税額を比較することが大切です。
簡易課税制度では、設備投資などによって実際に支払った消費税額が多くても、その金額をもとに還付を受けることはできません。仕入控除税額を実際の課税仕入れではなく、みなし仕入率で計算するためです。
原則課税では、多額の設備投資などによって仕入れにかかる消費税額が売上にかかる消費税額を上回ると、還付を受けられる場合があります。
高額な設備や事業用資産の購入を予定している場合は、簡易課税制度を選択する前に税負担への影響を確認しましょう。
簡易課税制度を選択すると、原則として2年間は継続して適用する必要があります。簡易課税制度をやめて原則課税へ戻す場合は、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出が必要です。
そのため、「翌年に大きな設備投資をするので原則課税へ戻したい」と考えても、すぐに変更できない場合があります。
今期の納税額だけで判断するのではなく、今後の売上や仕入れ、設備投資などの計画も踏まえて、簡易課税制度を選択するか検討しましょう。
簡易課税制度では、事業内容を第1種から第6種までの6つに区分し、それぞれに定められたみなし仕入率を使って仕入控除税額を計算します。
事業区分とみなし仕入率は、以下のとおりです。
|
事業区分 |
主な事業 |
みなし仕入率 |
|
第1種事業 |
卸売業 |
90% |
|
第2種事業 |
小売業、農業・林業・漁業のうち飲食料品の譲渡に係る事業 |
80% |
|
第3種事業 |
農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業など |
70% |
|
第4種事業 |
第1種・第2種・第3種・第5種・第6種のいずれにも該当しない事業 |
60% |
|
第5種事業 |
運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) |
50% |
|
第6種事業 |
不動産業 |
40% |
事業区分は会社の業種だけで一律に決まるのではなく、課税売上に対応する取引の内容によって判定します。複数の事業を行っている場合は、課税売上を事業区分ごとに分けて計算するのが基本です。
簡易課税制度では、売上にかかる消費税額と、事業区分ごとに定められたみなし仕入率を使って納付税額を計算します。基本的な計算式は、以下のとおりです。
|
・仕入控除税額=売上にかかる消費税額×みなし仕入率 ・納付税額=売上にかかる消費税額-仕入控除税額 |
たとえば、売上にかかる消費税額が100万円で、第5種事業(みなし仕入率50%)に該当する場合、仕入控除税額は「100万円×50%=50万円」です。したがって、納付税額は「100万円-50万円=50万円」となります。
複数の事業を営んでいる場合は、基本的に課税売上げを事業区分ごとに分け、それぞれのみなし仕入率を用いて計算します。
簡易課税制度と原則課税のどちらが有利かは、実際の仕入控除税額や設備投資の予定によって異なります。選択前に、両方の方法で納付税額を試算することが重要です。
課税仕入れや経費が少ない事業では簡易課税制度が有利になる場合があります。一方、多額の設備投資を予定している場合などは、実際の仕入税額を控除できる原則課税が有利になることがあります。
納税額だけでなく、今後の設備投資や経理負担も含めて比較しましょう。
簡易課税制度を選択する場合は、「消費税簡易課税制度選択届出書」を作成し、期限までに所轄税務署長へ提出します。手続きを進める際は、以下の3点を確認しておきましょう。
それぞれ詳しく解説します。
消費税簡易課税制度選択届出書には、事業者の基本情報や簡易課税制度の適用を開始する課税期間などを記載します。
主な記載項目は、以下のとおりです。
適用開始課税期間や課税売上高を誤ると、簡易課税制度の適用に影響する可能性があります。国税庁の記載要領を確認しながら、該当する項目を正確に記入しましょう。
消費税簡易課税制度選択届出書は、原則として簡易課税制度を適用したい課税期間が始まる日の前日までに提出します。
たとえば、課税期間が1月1日から12月31日までの個人事業者が2027年分から簡易課税制度を適用する場合、2026年12月31日が提出期限です。法人の場合は事業年度によって期限が異なるため、自社の課税期間を確認しましょう。
なお、新規開業した課税期間や、2割特例・3割特例を適用した翌課税期間から簡易課税制度へ移行する場合などには、届出期限の特例があります。通常の提出期限を過ぎていても適用できるケースがあるため、該当する場合は要件を確認しましょう。
消費税簡易課税制度選択届出書は、所轄税務署へ提出するほか、e-Taxを利用してオンラインで提出できます。
書面で手続きする場合は、国税庁のWebサイトから届出書を入手して必要事項を記入し、所轄税務署へ提出します。e-Taxを利用すれば、税務署へ出向かずにオンラインで手続きを進めることが可能です。
提出方法によって必要な準備が異なるため、自社で利用しやすい方法を選びましょう。提出後は、届出内容を確認できるよう控えや送信結果などを保存しておくと安心です。
インボイス制度の開始後も、要件を満たせば簡易課税制度を利用することが可能です。また、インボイス制度を機に課税事業者となった一定の事業者には、納税負担を軽減する2割特例・3割特例が設けられています。
ここでは、以下の2点について解説します。
インボイス制度の開始後も、適用要件を満たす事業者は簡易課税制度を利用できます。
簡易課税制度では、みなし仕入率を使って仕入控除税額を計算するため、納付税額の計算において、仕入先から受け取ったインボイスの保存は仕入税額控除の要件となりません。
ただし、自社がインボイス発行事業者である場合は、買手から求められた際にインボイスを交付するなど、売手としての義務があります。
関連記事:みなし仕入れ率はインボイス制度でどうなる?簡易課税・2割特例との比較ポイント
簡易課税制度と2割特例・3割特例は、対象者や納付税額の計算方法、適用期間が異なります。2割特例は売上にかかる消費税額の2割、3割特例は3割を納付税額とする仕組みです。一方、簡易課税制度では事業区分ごとのみなし仕入率を用いて計算します。
2割特例は、2026年9月30日までの日の属する課税期間が対象です。その後、インボイス発行事業者の登録によって免税事業者から課税事業者となった一定の個人事業者については、2027年・2028年分の消費税申告で3割特例を利用できます。
原則として、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることなどが要件です。法人は3割特例の対象ではありません。
2割特例と簡易課税制度の両方を利用できる場合、どちらが有利かは事業区分などによって異なります。たとえば、みなし仕入率90%の第1種事業では、簡易課税制度のほうが納付税額を抑えられる場合があります。適用できる制度ごとに納付税額を試算して比較しましょう。
出典:国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」
関連記事:インボイス制度の軽減措置まとめ|2割特例・3割特例・少額特例を解説
簡易課税制度に関するよくある質問に回答します。
簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、必要な届出を行った課税事業者が対象です。
基準期間は、個人事業者では原則として前々年、法人では前々事業年度です。適用を希望する場合は、「消費税簡易課税制度選択届出書」を期限までに提出する必要があります。
複数の事業を行っている場合は、原則として課税売上げを事業区分ごとに分け、それぞれのみなし仕入率を適用して仕入控除税額を計算します。
ただし、1つの事業の課税売上高が全体の75%以上を占める場合など、一定の要件を満たすと計算を簡略化できる特例があります。
簡易課税制度を取りやめる場合は、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を所轄税務署長へ提出します。
原則として、簡易課税制度を選択してから2年間は継続して適用する必要があります。取りやめたい課税期間が始まる日の前日までに届出書を提出しましょう。
簡易課税制度では、業種・取引内容に応じたみなし仕入率を売上にかかる消費税額に適用し、仕入控除税額を算出します。適用要件を満たす事業者は、消費税の計算にかかる事務負担を軽減することが可能です。
一方、実際の仕入状況や設備投資の予定によっては、原則課税のほうが納税額を抑えられる場合があります。制度を選択する際は、それぞれの方法で納付税額を試算し、今後の事業計画も踏まえて比較することが大切です。
簡易課税制度の仕組みや適用要件を正しく理解し、自社に適した方法で消費税の申告・納付を行いましょう。
簡易課税制度を利用する場合でも、インボイス発行事業者にはインボイスの交付など、必要な対応があります。
インボイス制度への対応で見落としやすいポイントを確認したい方は、以下の資料もあわせてご覧ください。