更新日:2026.09.11

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互いに持つ債権・債務を差し引いて決済する方法を「相殺」といいます。相殺を活用すれば、実際にやり取りする金額や振込回数を減らせるため、振込手数料や経理業務の負担軽減につながります。
一方で、相殺には一定の要件があり、請求書や仕訳、インボイス制度への対応にも注意が必要です。
本記事では、相殺の意味やメリット・デメリットから、具体的な仕訳方法、請求書の書き方、相殺処理の流れ、インボイス制度における注意点までわかりやすく解説します。
相殺(そうさい)とは、取引先との間で互いに債権・債務を有している場合に、双方の債権を対当額で差し引き、その範囲で債権・債務を消滅させることです。
たとえば、A社がB社に対して10万円の売掛金を持つ一方で、B社から仕入れた商品の買掛金が6万円あるとします。この場合、売掛金と買掛金のうち6万円分を相殺すれば、A社がB社から受け取る金額は差額の4万円です。
相殺を行うことで、双方がそれぞれ代金を支払う必要がなくなり、実際にやり取りする金額や振込回数を減らせます。
経理実務における相殺処理では、単に2つの金額を差し引くだけではなく、相殺する内容の確認から帳簿への反映まで一連の対応を行います。
たとえば、同じ取引先に対して売掛金と買掛金が発生している場合、どの取引をいくら相殺するのかを確認し、必要に応じて請求書などにその内容を記載します。さらに、相殺によって消滅した売掛金・買掛金を帳簿から減らすための仕訳も必要です。
相殺を行うためには、法律上一定の要件を満たしている必要があります。この要件を満たした状態を「相殺適状」と呼びます。
相殺適状となるための要件は、大きく分けて次の3つです。
それぞれの要件について、以下で詳しく解説します。
相殺するには、双方が互いに債権・債務を持ち、その目的が同じ種類であることが原則です。
たとえば、A社がB社に対して売掛金10万円を持ち、同時にB社に対して買掛金6万円を負っている場合、双方とも金銭の支払いを目的とするため、相殺の対象となり得ます。6万円を相殺すれば、A社の売掛金は4万円残ります。
一方、金銭を支払う債務と商品を引き渡す債務など、目的が異なるものは原則として相殺できません。経理上の相殺を検討するときは、まず双方が互いに債権・債務を持っており、相殺できる同種のものかを確認することが重要です。
相殺を行うには、原則として双方の債務が弁済期にある必要があります。民法505条1項では、互いに同種の目的を有する債務を負担し、双方の債務が弁済期にある場合に相殺できると定めています。
ただし、相殺を申し出る側が負っている受働債権については、期限の利益を放棄して弁済期を到来させられる場合に注意が必要です。そのため、契約内容や債務の性質によっては、当初設定された支払期限が同じでなくても相殺できるケースがあります。
相殺の要件を満たしているように見えても、法律や当事者間の取り決めによって相殺が禁止されている場合は注意が必要です。
法律上、相殺が禁止・制限される代表的なケースは、以下のとおりです。
とくに差押えを受けた債権については、差押えの前後で反対債権を取得した時期などによって相殺できるかどうかが異なります。
相殺処理を行う前に、法律上の制限だけでなく、取引先との契約内容についても確認しておきましょう。
振込手数料や経理業務の負担を減らし、資金繰りの負担を抑えられる場合があるというメリットがあります。
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
相殺を行うと、双方がそれぞれ代金を振り込む必要がなくなり、振込手数料を削減できます。
1回あたりの振込手数料は大きな金額でなくても、取引件数が多ければ負担は積み重なります。継続的に取引する企業同士では、相殺によって決済にかかるコストを抑えられるでしょう。
相殺によって決済回数を減らせば、入出金にともなう事務作業の負担も軽減することが可能です。
通常の取引では、振込手続きだけでなく、入金の確認や売掛金・買掛金との照合などの経理業務が発生します。双方がそれぞれ支払いを行う場合、その分だけ確認・管理する取引も増えます。
相殺して差額のみを決済すれば、実際に発生する入出金を減らせるため、振込や入金確認などにかかる作業を減らすことが可能です。
相殺によって現金の支出額を抑えられるため、状況によっては資金繰りの負担を軽減しやすくなります
たとえば、取引先への買掛金が100万円、同じ取引先から受け取る売掛金が80万円ある場合、80万円を相殺すれば、実際に用意する現金は差額の20万円です。買掛金100万円をいったん全額支払う場合と比べ、一時的に必要となる資金を抑えられます。
ただし、相殺すると売掛金として受け取る予定だった現金も減少します。そのため、相殺によって必ず資金繰りが改善するわけではありません。入金予定と支払予定の双方を確認したうえで、資金繰りへの影響を判断することが大切です。
相殺には、取引先との認識のズレが生じたり、債権・債務の管理が複雑になったりするデメリットがあります。
適切に管理しなければ請求額や残高が合わないなどのトラブルにつながりかねません。メリットだけでなく、以下のデメリットも理解したうえで相殺を行うことが重要です。
相殺する債権・債務や金額について取引先との認識が一致していないと、請求額や支払額をめぐるトラブルにつながる可能性があります。
たとえば、自社では4月分の売掛金と買掛金を相殺したつもりでも、取引先が5月分を対象として処理していれば、双方の管理する残高が一致しません。未入金と判断したり、すでに処理した代金を再び請求したりする原因にもなります。
金額だけでなく、対象となる取引や相殺日まで事前に共有しておくと、こうした行き違いを防ぎやすくなります。
相殺を行うと、通常の入出金だけで処理する場合と比べ、債権・債務の管理が複雑になることがあります。
相殺では実際の入出金をともなわずに売掛金や買掛金の一部または全部が消滅するため、銀行口座の入出金履歴だけでは取引の全体像を確認できません。相殺額を適切に記録していないと、帳簿上の残高と実際の取引内容が合わなくなる可能性があります。
相殺を行った際は、対象となった取引や相殺額、相殺後の残額などを記録し、必要に応じて処理内容を確認できる状態にしておきましょう。
売掛金と買掛金を相殺すると、予定していた売掛金の入金額が減るため、資金繰りに影響する場合があります。
たとえば、売掛金100万円を現金で回収する予定でも、同じ取引先への買掛金80万円と相殺すれば、実際に入金されるのは差額の20万円です。買掛金80万円を別途支払う必要はなくなるものの、当初予定していた100万円が口座へ入金されるわけではありません。
そのため、入金予定額をもとにほかの支払いを計画している場合は注意が必要です。相殺を行う際は、支出が減ることだけでなく、入金額が減ることも含めて資金繰りを確認しましょう。
売掛金と買掛金を相殺する場合は、相殺する金額について買掛金を借方、売掛金を貸方に計上します。
たとえば、取引先に対して売掛金100,000円と買掛金60,000円があり、60,000円を相殺するケースを考えてみましょう。相殺時の仕訳は以下のとおりです。
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借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
|
買掛金 |
60,000円 |
売掛金 |
60,000円 |
この仕訳によって、買掛金60,000円がなくなり、売掛金は40,000円残ります。その後、相殺後の売掛金40,000円が普通預金に振り込まれた場合は、以下のように仕訳します。
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借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
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普通預金 |
40,000円 |
売掛金 |
40,000円 |
相殺では実際の入出金をともなわない金額についても、帳簿上の売掛金・買掛金を減額する処理が必要です。相殺額と差額の入金・支払いを分けて記録し、債権・債務の残高が実際の取引内容と一致するように処理しましょう。
実際に相殺を行うときは、いきなり請求額から相殺分を差し引くのではなく、取引先との確認から帳簿への反映まで順番に進めます。
基本的な流れは次の4ステップです。
まずは、相殺の対象となる債権・債務や金額を取引先と確認します。複数の取引がある場合は、どの売掛金と買掛金を相殺するのかを明確にしておきましょう。
合意した内容は口頭で済ませず、メールや書面など、あとから確認できる形で残しておくことが大切です。相殺する取引や金額、相殺日などを記載し、双方で認識が一致していることを確認します。
相殺内容が明確になっていないと、未払いや入金不足と判断されるなど、トラブルにつながる可能性があります。請求書を作成する前に必要な事項を確認し、合意した内容を記録しておきましょう。
相殺する内容を確認したら、請求額や相殺額、差引金額がわかるように請求書を作成します。
相殺額だけを記載すると、本来の取引金額がわかりにくくなる可能性があります。相殺前の請求額と相殺する金額、実際に支払いを求める差額を区別して記載し、処理内容がわかる請求書を作成しましょう。
相殺処理を行ったら、必要に応じて相殺した金額について「相殺領収書」を発行・交換します。相殺領収書は、現金を受け取ったことを示すものではなく、双方の債権・債務を相殺した事実を記録するための書類です。
相殺領収書には、相殺した金額や日付、対象となる取引などを記載し、通常の現金による受領と区別できるよう「相殺」などと明記します。双方が相殺領収書を発行・交換しておけば、どの取引をいくら相殺したのかを後から確認しやすくなります。
なお、相殺領収書の発行は必ずしも必要ではありません。請求書や合意書などで相殺の事実を確認できる場合もあるため、自社の経理ルールや取引先との取り決めに応じて対応しましょう。
関連記事:領収書とは?発行する目的や記載が必要な項目、発行時の注意点などを徹底解説
相殺が完了したら、その内容を帳簿に反映します。相殺した部分は実際の入出金が発生しませんが、売掛金や買掛金などの残高を減らすための仕訳が必要です。
仕訳を行ったあとは、売掛金元帳や買掛金元帳などの関連する帳簿にも相殺内容を反映し、取引先ごとの残高を更新します。そのうえで、請求書や相殺領収書などの金額と帳簿上の残高が一致しているか確認しましょう。
相殺額の計上や帳簿の更新が漏れると、実際には消滅した債権・債務が帳簿上に残ってしまいます。仕訳だけで完了とせず、関連する帳簿の更新と残高確認まで行うことが大切です。
相殺請求書を作成する際は、通常の請求書に必要な項目に加えて、相殺前の請求額・相殺額・相殺後の請求額がわかるように記載します。相殺によって実際の入金額が請求総額より少なくなるため、金額の内訳を明確にすることが重要です。
たとえば、請求額100,000円のうち60,000円を相殺する場合は、以下のように記載します。
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項目 |
金額 |
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請求額 |
100,000円 |
|
相殺額 |
▲60,000円 |
|
差引請求額 |
40,000円 |
相殺額には「相殺分」「買掛金相殺」などと記載し、通常の値引きなどと区別できるようにしましょう。また、複数の債権・債務を相殺する場合は、対象となる取引や相殺額の内訳も記載しておくと、双方が処理内容を確認しやすくなります。
なお、相殺を行う場合でも、適格請求書として発行する場合は、取引年月日や取引内容、税率ごとに区分した対価の額など、インボイスの記載要件を満たす必要があります。
インボイス制度のもとで相殺処理を行う場合は、相殺後の差額だけで消費税を計算しないことや、適格請求書の記載要件を満たすことに注意が必要です。
ここでは、相殺処理を行う際に押さえておきたいインボイス制度上の注意点を解説します。
売掛金と買掛金を相殺しても、消費税は相殺後の差額ではなく、相殺前の売上と仕入をそれぞれの取引として計算します。相殺は支払い・回収する金額を差し引く処理であり、もともとの取引金額が変わるわけではないためです。
たとえば、税込110,000円の売上と税込55,000円の仕入を相殺し、差額55,000円を受け取るとします。この場合、差額55,000円を売上として処理するのではなく、売上110,000円(うち消費税10,000円)と仕入55,000円(うち消費税5,000円)をそれぞれ計上します。
実際に入出金する金額と、消費税を計算する際の取引金額は分けて考えることが大切です。
関連記事:消費税申告とは?対象者・期限・計算方法・申告の流れをわかりやすく解説
相殺によって決済する場合でも、適格請求書(インボイス)の記載要件がなくなるわけではありません。仕入税額控除を受けるためには、原則として一定の事項が記載された適格請求書等の保存が必要です。
適格請求書には、発行事業者の氏名または名称・登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した対価の額と適用税率、税率ごとの消費税額、交付を受ける事業者の氏名または名称などを記載します。
相殺後の差額だけを記載すると、本来の取引金額や消費税額を正しく確認できない可能性があります。相殺する場合も元の取引内容がわかるようにし、インボイスとして必要な事項を適切に記載・保存しましょう。
関連記事:インボイス要件とは?適格請求書の6つの記載事項と満たさない場合の対処法をわかりやすく解説
相殺に関するよくある質問について回答します。
法律上の要件を満たしていれば、原則として取引先の同意がなくても、一方からの意思表示によって相殺できる場合があります。
ただし、契約によって相殺が禁止・制限されている場合や、法律上相殺できない債権もあるため、すべてのケースで一方的に相殺できるわけではありません。
また、企業間の取引では、認識のズレやトラブルを防ぐためにも、事前に取引先と相殺する債権・債務や金額などを確認し、合意したうえで処理するのが望ましいでしょう。
相殺したからといって、必ずしも請求書を発行しなければならないわけではありません。ただし、取引内容や相殺額を確認できる書類を残しておくことが重要です。
また、インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために原則として適格請求書等の保存が必要です。適格請求書は請求書に限らず、必要な記載事項を満たした納品書などでも認められます。
相殺する場合も、元の取引金額や消費税額などを確認できるよう、必要な書類を適切に発行・保存しましょう。
相殺した場合、相殺した金額に対する領収書の発行は必須ではありません。ただし、相殺した事実や金額を明確にするために、相殺領収書を発行・交換することがあります。
相殺領収書を発行しておけば、どの債権・債務をいくら相殺したのかを双方で確認でき、後から取引内容を確認する際にも役立ちます。発行する場合は、通常の入金による領収書と区別できるよう、「相殺」などと明記しておきましょう。
なお、相殺した事実が文書上明確な相殺領収書は、実際の金銭や有価証券の受領を証明する書類ではないため、相殺額について原則として収入印紙は不要です。ただし、一部を相殺して残額を現金等で受領した場合などは扱いが異なるため注意しましょう。
相殺とは、取引先との債権・債務を差し引いて精算する仕組みです。3つの要件を理解したうえで、メリット・デメリットを踏まえて活用することで、振込手数料や事務コストの削減、資金繰りの改善につながります。
一方で、相殺請求書の作成や仕訳処理、インボイス制度への対応など、実務上気をつけるべきポイントも多くあります。取引先との認識ズレを防ぐためにも、相殺を行う際は事前の合意・通知を徹底し、正確な書類・仕訳で処理を進めましょう。
相殺処理の扱いも含めた経理業務の効率化については、以下の資料もご覧ください。