更新日:2026.10.02

ー 目次 ー
発生主義とは、現金の入出金時期だけで判断せず、取引や費用が発生した期間に応じて会計処理する考え方です。特に費用は、実際に支払った時点ではなく、その費用が発生した期間に計上します。
一方、収益については、単に取引が発生しただけで計上するのではなく、実現主義や適用される収益認識基準に従って認識します。
この記事では、発生主義の意味や現金主義・実現主義との関係、具体的な仕訳例、メリット・デメリット、個人事業主が利用できる現金主義の特例までわかりやすく解説します。
発生主義とは、現金を受け取った日や支払った日ではなく、収益や費用を生じさせる経済的な事実が発生した期間に計上する考え方です。
たとえば、3月に事務所で電気を使用し、電気料金を4月に支払った場合、原則として電気を使用した3月に費用を計上します。
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時期 |
取引の状況 |
会計処理 |
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3月 |
電気を使用する |
3月分の費用として計上する |
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4月 |
電気料金を支払う |
計上済みの債務を消し込む |
このように、取引と現金の動きを分けて記録することで、その月や事業年度に対応する収益・費用を把握できます。
ただし、発生主義は「取引が発生したら、収益も費用もすべて同じ基準で計上する」という意味ではありません。発生主義会計では、費用は発生した期間に計上し、収益は実現主義や適用される収益認識基準に基づいて計上します。
発生主義を採用する主な目的は、現金の入出金時期に左右されず、一定期間の経営成績を適切に把握することです。発生主義によって、次のような取引を決算書へ反映できます。
現金の増減だけで損益を計算すると、支払いを翌月へ延ばしただけで当月の利益が増えるなど、事業の実態と異なる結果になる可能性があります。発生主義では、収益とそれに対応する費用を適切な期間に計上し、期間ごとの利益を比較しやすくします。
発生主義を理解するには、現金主義と実現主義の位置づけを区別することが重要です。
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考え方 |
主な役割 |
計上の考え方 |
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発生主義 |
期間損益を適切に把握する |
現金の動きだけでなく、取引や費用が帰属する期間を基準にする |
|
現金主義 |
入出金を基準に損益を把握する |
現金を受け取った・支払った時点で計上する |
|
実現主義 |
主に収益認識の時期を判断する従来の考え方 |
商品の販売や役務の提供などにより収益が実現した時点で計上する |
現金主義は発生主義と対比される考え方です。一方、実現主義は主に収益の認識時期に関する考え方で、発生主義と単純に対になるものではありません。
現金主義とは、実際に現金を受け取った日や支払った日に、収益・費用を計上する方法です。
発生主義会計との主な違いは、以下のとおりです。
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比較項目 |
発生主義会計 |
現金主義 |
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計上の基準 |
収益・費用が帰属する時期 |
現金を受け取った・支払った時期 |
|
未回収の売上 |
売掛金として計上する |
入金まで計上しない |
|
未払いの費用 |
未払費用などとして計上する |
支払いまで計上しない |
|
特徴 |
期間ごとの経営成績を把握しやすい |
記帳は簡単だが期間損益を把握しにくい |
たとえば、3月に商品を販売・引き渡し、代金が4月に入金された場合、計上時期は次のように異なります。
発生主義会計では、3月に「売掛金/売上」を計上し、4月の入金時に売掛金を普通預金へ振り替えます。現金が動く前から売上と債権を記録する点が、現金主義との大きな違いです。
実現主義とは、商品やサービスの提供などによって収益が実現した時点で、収益を計上する考え方です。従来の企業会計原則では、売上高は実現主義に基づいて認識するとされてきました。
現在、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」が適用される取引では、顧客との契約における履行義務を充足した時点、または充足するにつれて収益を認識します。
たとえば、2月に契約を締結し、3月に商品を引き渡し、4月に代金を受け取った場合、通常は商品を引き渡した3月に売上を計上します。2月は契約しただけであり、4月の入金は売掛金の回収にあたるためです。
関連記事:請求書の月またぎはなぜ起きる?売上計上基準や決算期またぎの注意点についても解説
発生主義では、取引の発生時と現金の入出金時に、それぞれ仕訳が必要になる場合があります。
代表的な処理は、以下のとおりです。
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取引 |
発生時に使う主な勘定科目 |
決済時の処理 |
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商品を掛けで販売した |
売掛金 |
入金時に売掛金を減らす |
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商品を掛けで仕入れた |
買掛金 |
支払時に買掛金を減らす |
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サービスを利用したが未払い |
未払費用・未払金 |
支払時に債務を減らす |
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翌月以降の費用を先払いした |
前払費用 |
対象期間に費用へ振り替える |
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商品提供前に代金を受け取った |
前受金 |
提供時に売上へ振り替える |
3月に商品を11万円で引き渡し、代金を4月に受け取る場合、3月の時点で売上と売掛金を計上します。
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時期 |
借方 |
借方金額 |
貸方 |
貸方金額 |
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3月・商品引き渡し時 |
売掛金 |
110,000円 |
売上 |
110,000円 |
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4月・入金時 |
普通預金 |
110,000円 |
売掛金 |
110,000円 |
3月に売上を計上しても、現金はまだ増えていません。入金されるまでは、売掛金として回収状況を管理します。
3月分の電気料金2万円を4月に支払う場合、3月の費用として計上します。
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時期 |
借方 |
借方金額 |
貸方 |
貸方金額 |
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3月・決算整理時 |
水道光熱費 |
20,000円 |
未払費用 |
20,000円 |
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4月・支払時 |
未払費用 |
20,000円 |
普通預金 |
20,000円 |
請求書が翌月に届く場合でも、当月にサービスを利用していれば、当月分の費用として計上する場合があります。
個人事業主の所得税では、原則として、期末までに債務が成立し、費用の原因となる事実が発生しており、金額を合理的に算定できるなど、債務が確定していることが必要です。
3月に翌期1年分の保険料12万円を支払った場合、支払額のすべてを3月の費用にするのではなく、サービスを受ける期間に配分します。
支払時には前払費用として資産計上し、期間の経過に応じて保険料へ振り替えるのが基本です。
このように、発生主義では「いつ支払ったか」だけでなく、「どの期間の収益・費用か」を確認して処理します。
発生主義には、期間ごとの経営成績を把握しやすいメリットがある一方、現金の動きとは別に債権・債務を管理する必要があります。
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メリット |
デメリット |
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・収益と対応する費用を適切な期間に計上できる ・売掛金や未払費用を含めた財政状態を把握できる ・月ごと・年度ごとの利益を比較しやすい ・予算と実績の差を分析しやすい ・売掛金や未払費用を含めて、期末時点の財政状態を把握できる |
・債権・債務の管理業務が増える ・損益計算書の利益だけで資金状況を判断できない |
発生主義では、その期間に行った取引に対応する収益・費用を計上します。
主なメリットは、以下のとおりです。
現金の支払いを翌月へ延ばしただけで当月の利益が増えるといった、入出金時期による影響を抑えられます。
発生主義のデメリットは、帳簿上の利益と手元資金に差が生じるうえ、債権・債務の管理業務が増えることです。
現金の入出金前に収益や費用を計上するため、利益が出ていても、すぐに使える現金があるとは限りません。たとえば、掛け売上を計上しても、代金を回収するまでは仕入代金や人件費などを別の資金で支払う必要があります。
そのため、発生主義では次のような管理が必要です。
発生主義では、損益計算書の利益だけで資金状況を判断できません。資金繰り表や入出金予定表も使い、将来の現金残高を別途管理することが重要です。
法人や個人事業主の所得計算では、現金の受け取り・支払いだけを基準にするのではなく、収益や費用が帰属する時期に計上するのが基本です。
ただし、一定の個人事業主には、現金主義による所得計算を選択できる特例があります。
法人は、事業年度に対応する収益・費用を計上し、決算書や法人税申告書を作成します。個人事業主も、原則として代金を受け取った日ではなく、商品を引き渡した日やサービスを提供した日などを基準に収入を計上します。
個人事業主の場合、「青色申告なら発生主義、白色申告なら現金主義」と分かれるわけではありません。青色申告・白色申告のどちらであっても、収入や必要経費は原則として、それぞれが帰属する年分に計上します。
特に、55万円または65万円の青色申告特別控除を受ける場合は、正規の簿記の原則による記帳や、貸借対照表・損益計算書の作成など、所定の要件を満たす必要があります。
一定の小規模な青色申告者は、「現金主義による所得計算の特例」を選択できます。
主な要件は、以下のとおりです。
300万円以下かどうかは、青色事業専従者給与などを必要経費に算入する前の金額で判定します。
届出期限は、原則として特例を受けようとする年の3月15日までです。その年の1月16日以後に新たに事業を始めた場合は、開業日から2か月以内に提出します。
なお、現金主義の特例を選択している場合、55万円または65万円の青色申告特別控除は受けられません。記帳の負担だけでなく、利用できる控除額も踏まえて選択しましょう。
発生主義による記帳では、現金が動いた取引だけでなく、月末・期末時点で未処理となっている取引も確認します。
経理処理の主なポイントは、以下の通りです。
月末・期末には、取引が完了しているにもかかわらず、請求書の未着などによって記帳されていない収益・費用がないか確認します。
主な確認項目は、以下のとおりです。
こうした期末の調整は、決算整理仕訳によって帳簿へ反映します。
関連記事:決算整理仕訳とは?進め方の手順と仕訳の種類一覧をわかりやすく解説
発生主義による利益と現金の増減は一致しません。売上が増えていても売掛金の回収が遅ければ、手元資金は増えないためです。
資金繰りを管理する際は、次の情報を確認しましょう。
損益計算書で利益を確認するだけでなく、資金繰り表や入出金予定表を作成し、将来の現金残高を予測することが大切です。
ここでは、クレジットカード払いの計上日や請求書が翌月に届く場合の処理、現金主義の特例と青色申告特別控除の関係など、発生主義についてよくある疑問に回答します。
原則として、銀行口座から引き落とされた日ではなく、商品を購入した日やサービスの提供を受けた日に経費を計上します。
利用時には未払金などを計上し、口座から引き落とされたときに未払金を減らします。カード利用明細だけでなく、領収書や請求書も確認して処理しましょう。
請求書が届いた日ではなく、商品やサービスの提供を受けた時期を基準に判断します。
たとえば、3月に受けたサービスの請求書が4月に届いた場合、原則として3月の費用です。月次・年次決算では、必要に応じて未払費用や未払金を計上します。
現金主義による所得計算の特例を選択している場合、55万円または65万円の青色申告特別控除は受けられません。
適用要件を満たせば10万円の青色申告特別控除を受けられますが、どちらの方法が有利かは、記帳負担や所得額、控除額などによって異なります。判断に迷う場合は、税理士や所轄税務署へ確認しましょう。
発生主義とは、現金の入出金だけを基準にせず、収益や費用が帰属する期間に計上する会計上の考え方です。現金主義は発生主義と対になる計上方法であり、実現主義は発生主義会計のなかで主に収益の計上時期を判断するために用いられます。
発生主義を採用すると、期間ごとの経営成績を把握しやすくなる一方、売掛金や未払費用、前払費用などの管理が必要です。また、帳簿上の利益と手元資金は一致しないため、資金繰りもあわせて確認しましょう。
小規模な青色申告者は現金主義の特例を選択できる場合がありますが、所得要件や届出期限、青色申告特別控除への影響があります。適用を検討する際は、最新の国税庁情報を確認することが大切です。
日々の記帳や決算整理、資金繰り管理を効率化したい方は、以下の資料もご確認ください。