更新日:2026.10.02

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繰越欠損金とは、過去の事業年度に生じた税務上の欠損金のうち、翌年度以降へ繰り越している金額です。
一定の要件を満たせば、将来の所得から控除でき、法人税の負担を軽減できます。なお、会計上の赤字と税務上の欠損金は必ずしも同額ではありません。
この記事では、繰越欠損金の仕組みや繰越期間、適用要件、確認方法、仕訳の考え方をわかりやすく解説します。
繰越欠損金とは、法人税の課税所得を計算する際に、過去に生じた欠損金を将来の所得から差し引くために管理される税務上の金額です。
法人税は原則として各事業年度の所得をもとに計算しますが、一定の要件を満たす欠損金については、翌年度以降の所得と相殺できます。この仕組みを「欠損金の繰越控除」といいます。
たとえば、前年度に100万円の欠損金が生じ、翌年度に200万円の所得が発生した場合、一定の要件を満たせば次のように計算できます。
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項目 |
金額 |
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翌年度の所得 |
200万円 |
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控除する繰越欠損金 |
100万円 |
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控除後の所得 |
100万円 |
この例では、法人税の計算対象となる所得を200万円から100万円へ圧縮できます。控除しきれなかった欠損金は、繰越期限内であればさらに翌年度以降へ繰り越せます。
ただし、繰越欠損金は税務上の所得を計算するための制度です。赤字分の現金が支給されたり、過去の税金が自動的に返金されたりするものではありません。
会計上の赤字と、税務上の欠損金は必ずしも同じ金額にはなりません。
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区分 |
意味 |
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会計上の赤字 |
収益から費用を差し引いた結果、当期純損失となった状態 |
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税務上の欠損金 |
益金より損金が多く、法人税法上の所得がマイナスとなった金額 |
法人税の申告では、会計上の利益または損失に、損金不算入・益金不算入などの税務調整を加えて所得を計算します。そのため、損益計算書が赤字でも欠損金が生じない場合や、会計上は黒字でも税務上の欠損金が生じる場合があります。
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法人の繰越欠損金を利用できる期間は、欠損金が生じた事業年度の開始日によって異なります。
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欠損金が生じた事業年度 |
繰越期間 |
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2018年4月1日以後に開始した事業年度 |
10年間 |
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2018年4月1日前に開始した事業年度 |
9年間 |
繰越期間を過ぎた欠損金は、原則としてその後の所得から控除できません。欠損金の発生年度だけでなく、控除期限も年度ごとに管理する必要があります。
2018年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は、原則として10年間繰り越せます。それより前に開始した事業年度に生じた欠損金の繰越期間は9年間です。
なお、複数年度の欠損金が残っている場合は、任意の年度を選んで控除するのではなく、発生年度が古いものから順に控除します。期限切れが近い欠損金から使用される仕組みです。
個人事業主の場合、法人の繰越欠損金に相当する制度として「純損失の繰越控除」があります。
青色申告者に純損失が生じた場合は、損失を翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年分の所得から控除できます。法人の原則10年間とは期間が異なるため、混同しないよう注意しましょう。
なお、2023年4月1日以後に発生した特定非常災害による一定の純損失については、繰越期間が5年間に延長されます。
繰越欠損金をその年度の所得から控除できる上限は、法人の区分によって異なります。
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法人の区分 |
控除限度額 |
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中小法人等 |
原則として控除前所得の100% |
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中小法人等以外の法人 |
原則として控除前所得の50% |
中小法人等に該当すれば、繰越欠損金の残高が十分にある場合、その年度の課税所得をゼロにできる可能性があります。一方、中小法人等以外の法人は、原則として所得の50%が課税所得として残ります。
中小法人等は、原則として繰越欠損金控除前の所得の100%まで控除できます。
たとえば、控除前所得が1,000万円、繰越欠損金が1,200万円ある場合、1,000万円を控除し、課税所得をゼロにできます。残った200万円は、期限内であれば翌年度以降へ繰り越せます。
ただし、資本金1億円以下であれば、すべての法人が中小法人等に該当するとは限りません。資本金5億円以上の大法人による完全支配関係がある法人や、大通算法人などは対象から除外されます。
中小法人等に該当しない大法人などの控除限度額は、原則として繰越欠損金控除前の所得の50%です。
控除前所得を1,000万円、繰越欠損金を1,200万円として、中小法人等と中小法人等以外で繰越残高を比較すると以下のようになります。
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項目 |
中小法人等 |
中小法人等以外 |
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当期の控除額 |
1,000万円 |
500万円 |
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控除後の所得 |
0円 |
500万円 |
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翌期への繰越残高 |
200万円 |
700万円 |
ただし、新設法人や会社更生・民事再生など一定の事実が生じた法人では、例外的に所得の100%まで控除できる事業年度があります。2026年度税制改正では、一定の事業再生手続についても対象が拡充されています。
自社がどの区分に該当するか不明な場合は、資本金だけで判断せず、株主構成やグループ通算制度の適用状況も確認しましょう。
繰越欠損金の控除を受けるには、主に次の要件を満たす必要があります。
赤字で納付する法人税がない年度でも、申告や帳簿保存を継続することが重要です。それぞれの要件を詳しく確認しましょう。
繰越控除の対象となるのは、原則として青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金です。
青色申告の承認を受けているだけでなく、欠損金が生じた年度について、青色申告書である確定申告書を提出する必要があります。
欠損金が生じた年度以降も、各事業年度の確定申告書を連続して提出する必要があります。
赤字が続いている場合や、繰越欠損金を控除して所得がゼロになる場合でも、申告は省略できません。赤字の年度でも申告を省略しないよう注意しましょう。
青色申告書を提出した年度に欠損金が生じた場合、帳簿書類の保存期間は次のとおりです。
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欠損金が生じた事業年度 |
繰越期間 |
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2018年4月1日以後に開始した事業年度 |
10年間 |
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2018年4月1日前に開始した事業年度 |
9年間 |
保存対象には、仕訳帳や総勘定元帳、貸借対照表・損益計算書・契約書・請求書・領収書などが含まれます。欠損金の根拠を説明できるよう、申告書と対応させて保管しましょう。
繰越欠損金を控除する年度の法人税申告書には、別表七(一)「欠損金の損金算入等に関する明細書」など、必要な書類を添付します。
別表七(一)には、欠損金の発生年度や控除未済額、当期控除額、翌期繰越額を記載します。前年度の申告書から残高が正しく引き継がれているかも確認しましょう。
繰越欠損金を管理する際は、期限や控除限度額だけでなく、次の点にも注意が必要です。
複数年度に欠損金が生じている場合は、最も古い事業年度の欠損金から順に控除します。会社が控除する年度を自由に選び、新しい欠損金だけを先に使用することはできません。
別表七(一)では、欠損金を発生年度ごとに記載し、当期控除額と翌期繰越額を管理します。毎期、前年度の翌期繰越額と当年度の控除未済欠損金額が一致しているか確認しましょう。
繰越欠損金によって法人税の課税所得がゼロになっても、会社が負担する税金のすべてがゼロになるとは限りません。
たとえば、法人住民税の均等割は、所得の有無にかかわらず課税されるのが原則です。また、消費税や固定資産税などは、法人税とは別の基準で計算されます。
関連記事:法人税の勘定科目や仕訳方法|記載箇所や中間納付時の対処法を解説。
合併などの組織再編を行った場合、被合併法人の繰越欠損金を引き継げるかどうかは、適格組織再編の要件や支配関係などによって異なります。
また、欠損金を持つ法人に新たな特定支配関係が生じ、その後に事業を大きく変更するなど一定の事由に該当した場合は、既存の繰越欠損金を控除できなくなることがあります。
M&Aや組織再編を予定している場合は、繰越欠損金をそのまま利用できると判断せず、実行前に税理士などへ確認することが重要です。
税効果会計を適用している会社では、繰越欠損金による将来の税負担軽減効果を「繰延税金資産」として計上する場合があります。
ただし、繰越欠損金が存在するだけで、全額を自動的に資産計上できるわけではありません。繰越期間内に十分な課税所得が発生し、税負担の軽減効果を回収できると見込まれる範囲で計上します。
将来の事業計画が変わり、利益の発生が見込めなくなった場合は、繰延税金資産の取り崩しが必要になることもあります。計上額を検討する際は、欠損金の期限、将来の課税所得、タックス・プランニングなどを確認しましょう。
関連記事:【科目解説】税効果会計とは?ここを間違えると決算が全部ズレる仕組みを解説
繰越欠損金の残高は、決算書だけでは正確に確認できません。法人税申告書と決算書を分けて確認することが重要です。
繰越欠損金は、法人税申告書の別表七(一)「欠損金の損金算入等に関する明細書」で確認します。
別表七(一)には、主に次の金額が記載されます。
確認する際は、翌期繰越額だけでなく、各欠損金の発生年度と期限も把握しましょう。
申告ソフトを変更した場合や税理士を変更した場合は、前期の申告書から残高が正しく引き継がれているか確認する必要があります。
繰越欠損金は法人税の申告上管理する金額であり、欠損金を翌年度へ繰り越すこと自体について、通常の会計仕訳は行いません。
損益計算書で生じた当期純損失は、決算手続きを通じて利益剰余金へ反映されますが、税務上の繰越欠損金は別表七(一)で管理します。
一方、税効果会計を適用し、回収可能性があると判断した場合は、繰延税金資産を計上することがあります。
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処理 |
借方 |
貸方 |
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繰延税金資産を計上する場合 |
繰延税金資産 |
法人税等調整額 |
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繰延税金資産を取り崩す場合 |
法人税等調整額 |
繰延税金資産 |
実際の計上額は、繰越欠損金に税率を掛けるだけでは決められません。将来の課税所得や回収可能性を踏まえて判断します。
ここでは、控除時期の選択や繰戻し還付との違いなど、繰越欠損金についてよくある疑問に回答します。
控除できる所得が発生した場合、会社の判断で控除を見送り、繰越欠損金を将来の年度へ残しておくことは原則としてできません。
繰越控除の要件を満たす欠損金は、控除限度額の範囲内で古い年度のものから損金算入されます。
繰越控除は、当年度の欠損金を将来の所得から控除する制度です。一方、繰戻し還付は、欠損金を前年度の所得へ繰り戻し、前年度に納付した法人税の還付を受ける制度です。
繰戻し還付を受けられる法人や対象期間には要件があります。また、繰戻し還付の計算に使用した欠損金は、繰越控除には使用できません。
繰越期間を過ぎた欠損金は、通常の事業年度の所得から控除できません。ただし、会社の解散や会社更生など、一定の場合には期限切れ欠損金について特別な取り扱いが適用されることがあります。
通常の繰越控除とは要件が異なるため、該当する可能性がある場合は個別に確認しましょう。
繰越欠損金とは、過去の事業年度に生じた税務上の欠損金を翌年度以降へ繰り越し、将来の所得から控除できる制度です。
2018年4月1日以後に開始した事業年度の欠損金は、原則として10年間繰り越せます。控除限度額は、中小法人等が原則として所得の100%、それ以外の法人が原則として所得の50%です。
制度を利用するには、欠損金が生じた年度の青色申告、その後の連続した申告、帳簿書類の保存が必要です。別表七(一)で発生年度・控除額・繰越残高・期限を毎期確認し、利用できる欠損金を失効させないよう管理しましょう。
繰越欠損金の扱いも含め、決算処理や日々の経理業務を効率化したい方は、以下の資料もご確認ください。