更新日:2026.01.22

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2026年1月1日に「中小受託取引適正化法」(下請法を発展させた新たな枠組み)が施行され、実務上は、2026年1月1日以降に発注する取引から新ルール(禁止行為等)が適用されます。
今回の施行により、発注から支払までの一連の経理業務が、支払期日管理、決済手段、証跡管理の面で根底から見直されるのではないかと不安を感じていませんか。
特に、手形支払いが原則禁止になることでキャッシュアウトのタイミングが早まるほか、支払期日が「受領日を起点に60日以内」と厳格化されました。遅延時には受領日から60日経過後から支払日までの期間に対して年率14.6%の遅延利息が発生する可能性があることから、資金繰りや期日管理に大きな影響を受ける企業も多いはずです。
本記事では、この法改正の具体的な内容や経理実務への詳細な影響、さらには現場の混乱を防ぐためにDX導入前に確認すべき重要ポイントまで、実務担当者の視点から徹底的に解説します。
参考リンク:中小受託取引適正化法テキスト 「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁)
こんな方にオススメ
この記事を読むと···
2026年1月から施行される「中小受託取引適正化法」は、これまでの下請法を発展させた新しい枠組みです。発注側と受託側の関係を見直し、サプライチェーン全体で取引条件の是正や価格転嫁を促すことが主な狙いです。
従来は親事業者と下請事業者という呼称でしたが、今回の法改正では「委託事業者」と「中小受託事業者」と表現が改められました。これによって、契約や支払、証跡管理の実務にも影響が及ぶため、経理部門には新たな運用の見直しが求められます。
ここからは、法の目的や全体像、サプライチェーン全体への波及、そして法律の枠を超えた改正理由について解説します。
この法律は、発注者による不当な取引条件の押し付けを抑止し、受託側が適正な対価を得られるような取引環境を整備することを目的としています。たとえば、納品物の受領を正当な理由なく拒否したり、支払いを遅延させたり、一方的な減額や不当に低い価格設定を行うことなどが、具体的な禁止事項として規定されています。
さらに、発注内容や支払期日などを明記した書面の交付、受領日から60日以内での支払い、取引記録の作成・保存義務なども課されています。これにより、受託側が安定した資金繰りや公正な対価を得やすい環境を作ることが目的です。
今回の改正では、原材料やエネルギーなどのコスト上昇時に、受託側が価格見直しを求めた場合、発注側は協議に応じる義務が強化されました。単に価格を決めるだけでなく、価格交渉の過程や説明責任も重視されるようになり、サプライチェーン全体で公正な価格転嫁が進むよう監督が強化されています。
これにより、単に価格だけでなく、価格協議そのものの進め方や記録の残し方も実務上重要になりました。発注から支払までの全体的な流れの適正化が求められるため、経理実務も従来以上にサプライチェーン全体を見渡した対応が必要です。
今回の法改正は、単に法律を守るだけでなく、企業の日常的な取引慣行や業務プロセスそのものを見直し、より持続可能なビジネス環境を築くことを目指しています。背景には、賃金や原材料費の上昇といった経済環境の変化に対応し、受託側が安定して事業を継続できる社会的な仕組み作りの必要性があります。
従来は実態把握が難しかった価格据え置きや協議拒否といった問題にも踏み込んでおり、「法律さえ守れば良い」から一歩進んで、企業文化や業務プロセスそのものを見直すことが求められています。今回の法令変更で、企業ごとの支払慣行や証跡管理、システム運用なども、実態に即した運用への再設計が避けられなくなっています。
今回の法改正では、受託取引の現場に直接影響する重要なポイントが4つあります。適用対象の拡大や、禁止行為の追加、支払・文書ルールの強化、そして執行体制の拡充です。これらの変更は、経理部門が日々向き合う運用ルールや支払、証跡管理の在り方そのものに直結します。
各ポイントを押さえることで、今後の実務対応への備えやリスクの見極めがしやすくなります。
従来は資本金の規模だけで適用範囲が決まっていましたが、今回の改正からは、資本金基準が満たされない場合は従業員数も判断基準に加わりました。例えば、製造委託の場合は従業員が300人を超える企業、役務提供では100人を超える場合も新たに対象となります。
資本金が小さいながらも規模の大きい企業や、従来は下請法の対象外と考えられていた取引先も、法の規制下に入るケースが増えるため注意が必要です。また、荷主と物流事業者間の運送委託(特定運送委託)も新たに対象となり、運送・保管の委託で発生する契約や支払条件も管理対象となります。
新たに追加された禁止事項として、「受託側からの価格見直し要請に対して、発注側が協議に応じずに一方的に金額を決める行為」が明確に規定されました。たとえば、値上げ交渉を無視したり、理由を示さず価格を据え置くことなどが該当します。
さらに、手形払いや決済期日まで満額が確保できない電子記録債権・ファクタリング等の決済スキームも支払期日までに"手数料等を含む満額"を現金として受け取れない形態は違反になり得ます。従来の買いたたきの立証が難しかった場面でも、プロセス面での違反が問われやすくなります。
発注時の契約内容や取引条件は、従来の紙書類だけでなく、電子メールなどのデジタル手段でも正式な記録として認められるようになりました。また、これらの取引記録を最低2年間保存することが義務付けられ、証跡管理の強化が求められています。
支払遅延が生じた場合の遅延利息(年率14.6%)に加え、正当な理由なく減額した場合もその金額が遅延利息の対象となります。値引きや控除などの取り扱いもこれまで以上に慎重な対応が必要です。
これまで公正取引委員会や中小企業庁が中心となっていた執行体制に、各業界を所管する主務大臣にも指導・助言の権限が付与されました。違反行為の摘発や是正指導が、複数の省庁連携によってより厳格に行われることになります。
ルール強化により負荷が増える面もありますが、本来の目的は中小企業の公正な取引環境を守ることにあります。
中小受託取引適正化法の施行により、各業界は契約や支払、内部統制の実務において具体的な見直しを迫られます。特に法適用範囲の拡大や新たな禁止行為の追加が業務運用に直接影響します。物流・運輸分野では委託先との契約内容や支払条件の透明化が求められ、製造業ではコスト上昇時の価格交渉の記録が重要視されます。
また多店舗展開する小売や外食業では、委託先管理や支払の統制業務が複雑化しやすい状況ですし、これらの変化は、経理部門にとっても日々の運用見直しや証跡管理の強化を必要とするため、業界ごとの特徴を把握し早期に準備を進めることが求められます。
特定運送委託が新たに対象となったことで、物流や運輸の分野では荷主側が従来以上に取引の適正化を担う必要が出てきました。従来は曖昧だった荷役・荷待ちの無償負担といった課題が背景となり、発荷主→元請への運送委託も対象に追加されました。物流取引でも、契約条件の明示や支払手段の適正化を含め、取引管理の重要性が増します。
委託契約書には対価や責任範囲、追加作業の有無などを具体的に記載し、発注時点で双方が合意した証拠を残す運用が基本となります。経理部門では、支払期日や支払方法の設定、契約内容の明示と証跡保存をより厳密に管理する体制づくりが欠かせません。
今回の改正により、製造業ではコスト増加時に価格改定を求められた場合、発注側は協議に応じ、そのやり取りを記録として残すことが義務付けられました。一方的な価格決定や交渉の無視は、監査で問題視されるリスクが高まります。
交渉自体を無視したり、説明のないまま価格を据え置くと、監査で問題視されるリスクが高まります。加えて、手形による支払が禁止され、現金振込など満額受領ができる決済に切り替える必要が生じるため、資金繰りや購買条件の再設計が求められます。多層的な製造委託構造を持つ企業ほど影響は大きくなります。
小売や外食チェーンのように拠点数が多く、委託先が多岐にわたる業態では、今回の法改正によって適用範囲が拡大したことが大きな課題になります。例えば、各店舗で発生する清掃や設備保守、販促物制作、システム運用といった役務委託も対象取引に含まれやすくなりました。
発注や契約内容の明示が電子メールなどでも可能となったため、現場ごとに異なる運用をしている場合は、統一した発注明示や証跡の管理が不可欠です。委託先が多いほど、どの取引が法適用になるかの判定や、支払統制をきちんと保つための仕組み作りが難しくなり、経理部門の負担が増加します。支払方法の見直しや運用ルールの統一が、今後の大きな課題となるでしょう。
中小受託取引適正化法の施行により、経理部門では支払期日の管理方法や決済手段の見直し、減額・控除処理の基準、取引記録の保存など、実務面で大きな変更が求められます。特に、支払のタイミングが明確に規定されることで、従来より厳格な期日管理が必要となります。
また、これまで利用してきた手形など一部の決済方法に制限がかかるほか、減額や控除の処理も根拠や合意の証跡が不可欠です。さらに、発注から支払までの流れを一元的に記録し、2年間保存する義務が課されるため、現場運用や社内フローの再設計が不可避となります。
この章では、それぞれの具体的な影響について詳しく解説します。
これまでの支払期日は、契約や請求書の発行日を基準に設定されることが一般的でした。しかし、法改正後は、商品やサービスを受け取った日から数えて60日以内、かつ可能な限り短い期間で支払期日を設定することが義務付けられます。
経理担当者は、検収や受領のタイミングを正確に把握し、支払サイトを管理しなければなりません。万が一支払が遅延すると、年率14.6%の遅延利息が発生するため、従来以上に厳密な期日管理とフローの見直しが必要です。
新制度のもとでは、手形を使った支払いが原則として認められなくなります。さらに、電子記録債権やファクタリングなどで、支払期日までに全額が受け取れない決済方法も禁止されるため、現金振込など即時に全額が支払われる方法への切り替えが必要です。
これにより、振込など現金による決済が中心となり、資金繰りのタイミングが変化します。特に、手形運用を前提に資金計画を組んでいた場合は、短期借入枠や運転資金の見直しが求められます。
経理部門では、現在の決済手段を棚卸しし、ルールに合致した方法へ転換する準備が欠かせません。
これまで振込手数料や値引き、相殺、ペナルティ控除など、請求金額から差し引く処理が慣例的に行われてきました。今回の法改正では、正当な理由がないまま金額を減額した場合、その減額分についても遅延利息が課されることが明確に規定されました。
たとえば、振込手数料を取引先負担とし、その分を差し引く場合も減額として整理されます。今後は、値引きや控除の根拠や双方の合意内容、証跡の整備が不可欠となり、これらの記録が監査対象となります。
発注内容や契約条件は紙だけでなく電子メールでも記録可能となりましたが、これらの取引記録を少なくとも2年間保管することが経理部門に求められています。
発注から検収、請求、支払までの一連の流れを記録し、証跡が分断されないように一元管理する必要があります。これにより、経理だけでなく契約や購買、現場部門と連携したフロー設計が重要となります。
証跡管理の徹底と保存体制の強化が、今後の監査やトラブル時のリスクヘッジにつながります。
中小受託取引適正化法の改正により、経理部門では受け取った請求書の処理にさまざまな課題が浮き彫りになっています。特に、支払期日の厳格化や証跡管理の必要性が高まる中、従来の運用では乗り越えにくい構造的な問題が現場で顕在化しています。
この章では、請求書受領から支払いまでの流れで生じやすい3つのボトルネックに焦点を当て、どのような点で業務の効率や正確性が損なわれるかを整理します。
請求書を受け取った日を起点に「60日以内の支払い」が義務付けられたことで、受領日と検収日が異なる場合、期日管理が複雑化します。たとえば、現場で納品を受けた後に検収が遅れる、あるいは複数の担当者が分担して検収を進めるケースでは、どの時点を支払期日算定の基準とするかがあいまいになりやすいです。
こうした運用では、支払遅延が発生しやすく、遅延利息(年率14.6%)の発生や、違反時の指導リスクが増します。経理としては現場や購買と連携し、受領・検収タイミングを統一しない限り、期日管理の徹底は困難です。
イレギュラーな取引や、減額・控除・返品など例外処理が発生すると、締め作業に支障が出やすくなります。特に、振込手数料の負担や値引き、相殺などが「減額」として扱われ、正当な理由や証跡がなければ遅延利息の対象となるため、処理ごとに根拠や合意を明文化して残す必要があります。
例外が多いほど、経理部門の負担は増し、月末や四半期の決算時に締め作業が遅延するリスクも高まります。各部門との調整や証跡管理の仕組みを整えないと、法改正後の運用は混乱しやすい状況です。
受け取る請求書のフォーマットがバラバラで、電子化や統一フォーマットの導入が進んでいない場合、システムによる自動化が進めづらいという問題があります。発注明示が電子メール等でも認められる一方で、紙やPDF、異なる書式の請求書が混在して届くため、データ連携や一元管理が難しくなります。
結果として、手作業での確認や入力が残り、経理業務の負荷軽減やミス削減が進まない現状があります。請求書処理の全体最適化には、現場と連携したフォーマット統一や電子化の推進が欠かせません。
中小受託取引適正化法の施行によって、請求から支払までの業務フロー全体の見直しが求められています。しかし、新しいシステムやDXツールの導入を急いだ結果、現場の課題を正確に把握しないまま進めてしまい、期待した効果が得られないケースが少なくありません。
本章では、まず「何を導入するか」よりも、自社の現状や課題をしっかり洗い出すことが重要である理由を整理します。加えて、経理の現場で実際に起きている問題点や、課題の特定方法についても具体的に解説します。これにより、ツール選定やDX推進が本当に自社の業務改善につながるための土台作りができます。
システムやデジタルツールを検討する際、「どのサービスを導入すれば課題が解決するのか」という視点から始めてしまいがちです。しかし、現場の具体的な業務フローやボトルネックを把握せずにツール導入を決めると、結局は従来の運用を無理にデジタル化するだけになり、根本的な業務改善にはつながりません。
たとえば、請求書の受領から検収、支払いまでの流れが複雑化していたり、例外処理が多発している場合、どんなに高機能なツールでも現場の混乱は解消されません。まずは業務の現状を可視化し、本質的な課題を特定することが成功の第一歩です。
ツール導入前に重要となるのが、自社の経理業務を客観的に分析することです。弊社インボイスが考える「経理の3C分析」で自社をまず分析されてみてください。
資料では仮で受取請求書のデジタル化に絞っていますが、今回の中小受託取引適正化法へ改正することによるシステム改修やDX導入に向けて何を導入すべきかに置き換えてみてください。Capacity / Category / Compatibilityの3つで、経理DXの前提を整理するフレームワークです。
→月間請求書枚数と、ピーク時の工数は把握できているか?(会社×人材)
→欲しいのは「電子化」か「自動化」か「一本化」か「外注」か?(混ぜていないか)
→サンプル請求書を数枚見れば、ツール適用可否が分かれる領域はどこか?
法改正で求められる運用に適応するためには、現場のどこに業務の停滞やミスが発生しやすいかを細かく特定することが不可欠です。たとえば、受託取引の請求書処理では、受領から検収までが部門ごとに分散し、支払期日を正確に管理できなくなることがあります。
また、例外処理が増加して締め作業が遅れる、紙ベースの請求書が混在して自動化が進まないといった問題も生じがちです。こうした現場の課題を整理した上で初めて、ツールやDXによってどこをどう変えるべきかが明確になります。経理3C分析を行うことにより、導入の失敗を避けることができます。
中小受託取引適正化法の施行により、経理実務から取引全体の運用まで幅広く見直す必要が出てきました。特に、従来の手形払いや支払期日管理の慣習がそのまま通用しなくなるため、経理部門単独での対応だけでなく、発注や検収の現場、購買部門、システム担当とも連携した全社的な準備が不可欠です。
法律改正の内容を正しく理解し、現状の運用や業務フローを点検することで、後手に回ることなくリスクを抑えた対応が可能になります。今のうちから自社の実態を見つめ直し、必要な修正点や改善策を洗い出しておくことが、混乱やトラブルを防ぎ、適正な取引関係を維持するカギとなります。
導入検討の初期ほど、この経理3C分析は判断軸が明確になります。ツール比較に入る前に、Capacity / Category / Compatibilityで前提を揃えるだけで、導入の頓挫や形骸化を避けやすくなります。
取適法は、経理に正しい対応だけでなく、なぜその運用で回るのかを説明できる状態を求めます。だからこそ、経理DXはツール探しではなく、環境認識(前提整理)から始めるのが大事です。