
北海道斜里町役場 様
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導入以前、同役場の通信費の支払業務は多くの自治体と同様、紙の請求書を中心としたフローで運用されていた。学校や保育園、支所といった各施設に個別に届く請求書は、それぞれの担当者が内容を確認し、「支出命令書」と呼ばれる支払伝票を手作業で起票し、すべての伝票が本庁舎の会計課に集められた後、支払処理が行われるという流れであった。毎月の請求書は約110枚にものぼり、そのすべてに同様の作業が発生していた。

特に大きな課題となっていたのが地理的な制約である。本庁舎から約40km離れたウトロ支所では、作成した伝票を物理的に本庁舎まで届けなければならなかった。本庁舎の経理担当者は「ウトロ支所の担当者が業務の都合を見ながら本庁舎まで持ってこなければならず、時間的な猶予がない場合もありました」と当時を振り返る。
請求書がウトロ支所に到着してから支払いまでの期限は1週間となり、請求書の到着が月末にずれ込むと、担当者は他の業務の合間を縫って急いで伝票を作成し、届けなければならなかった。
さらに、自治体特有の複雑な予算制度も業務を煩雑にしていた。「民間企業と比べ、予算科目が細かく分かれており、例えば同じ通信費でも『総務費の〇〇事業の通信費』といったように分類されます。今年度はその分類が89通りに及び、それぞれ正確に振り分けなければなりません」と仕分け業務の細かさも課題の一つにあげられていた。この細かい仕分け業務も担当者が一件ずつ手作業で行っており、大きな負担となっていた。紙媒体であるが故にデータの活用は進まず、将来的な人員減を見据えたとき、このままのやり方を続けることは困難であるという危機感が業務プロセスの見直しを後押しした。
同役場では、これらの課題を解決するため、以前からRPAを導入し、定型業務の自動化を模索していた。
しかし、請求書自体が紙媒体であるため、RPAを十分に活用しきれていないというジレンマがあった。そんな中、転機となったのは町の指定金融機関である北洋銀行からの紹介で、既存の法人カードの取引を通じてインボイス社の請求書一括サービスを知ることになった。
サービスの選定にあたって、他社の類似サービスとも比較検討を行った。
しかし、最終的な決め手となったのはやはりコスト面での優位性であった。「他の企業からもオファーはあったが、何倍かの違いがありました」と担当者は語る。限られた予算の中で最大限の効果を出すことが求められる自治体にとって、費用対効果は極めて重要な選定基準である。
また、町の指定金融機関である北洋銀行からの紹介という点も、サービス選定における安心材料となった。単にサービスを導入するだけでなく、将来にわたって安定した運用を実現するためには、パートナーとなる企業の信頼性が重要になる。
さらに、コストメリットも大きいインボイス社のサービスは、同役場が抱える課題を解決するための最適な選択肢であった。
サービスの導入後、これまで各施設にバラバラに届いていた請求書はインボイス社に集約され、同役場は毎月1回、請求情報をまとめたCSVデータを受け取るのみになった。
同役場ではこのCSVデータを起点として、既存のRPAが支払伝票を自動で起票する仕組みを構築した。特に効果が大きかったのは、課題であった細かい予算科目の振り分け作業の自動化である。「CSVに含まれる電話番号をキーにして、VLOOKUPであらかじめ設定しておいた勘定科目に自動で振り分けるようにしました」。これにより、担当者が一件ずつ手作業で行っていた煩雑な仕分け作業は完全に不要となった。
「この仕組みは業務の効率化だけでなく、正確性の向上にも大きく貢献していて支払漏れがなくなりました」と担当者は語る。手作業が介在することで発生していたヒューマンエラーリスクを排除し、業務の品質を高めることにも成功した。インボイス社の試算では、サービス導入により月間で約16時間もの業務時間削減に繋がった。データ化を起点としたRPAとの連携は、まさに同役場が目指していたDXそのものであった。

本事例はRPAを導入済みだがその活用に課題を感じている企業や地方自治体にとって、多くの示唆を与えている。紙の請求書を電子データ(CSV)に置き換えるという一見小さな変更が、RPAという既存の仕組みと結びつくことで、伝票起票や仕分けといった後続業務全体を効率化させた。大規模なシステム刷新ではなくとも、業務プロセスのボトルネックを的確に捉え、最適なツールを組み合わせることで大きな成果を生み出せることを証明している。
特に、自治体特有の「細かい予算科目」という課題に対し、電話番号をキーにした自動振り分けという具体的な解決策を見出した点は他の自治体担当者にとっても大いに参考になるだろう。
同役場では今後電子決裁導入を視野に入れており、実現すれば伝票の印刷や押印といった物理的な作業からも解放され、さらなるペーパーレス化と効率化が進むことが期待される。まずは一つの業務からデータ化・自動化のサイクルを回し始めることが、持続可能な業務改革への第一歩となるだろう。

| 自治体名 | 北海道斜里町 |
|---|---|
| 本庁所在地 | 北海道斜里郡斜里町本町12番地 |
| 拠点 | 2拠点(本庁舎、ウトロ支所)※2025年時点 |
| サイト | https://www.town.shari.hokkaido.jp/ |