更新日:2026.02.24

ー 目次 ー
決算業務では、企業会計のルールと税法の規定が異なるため、利益や費用の認識タイミングに食い違いが生じます。その結果、会計上の利益と税務上の所得が一致しないケースが多々あります。こうした差異を調整するために導入されているのが「税効果会計」です。しかし、その仕組みが複雑なため、経理担当者が理解に苦しむことも少なくありません。
本記事では、そのような「税効果会計」の基本概念から、実際の決算業務で役立つ具体的な処理の流れ、実践的な仕訳例、そして見落としがちな注意点までを体系的に、かつ分かりやすく解説します。これにより、経理担当者として自信を持って実務に取り組むための基礎知識を習得できるでしょう。
こんな方におすすめ
この記事を読むと・・・
税効果会計とは、会計基準と税法の違いによって発生する利益や費用の認識タイミングのズレを調整し、企業の損益や財務状況をより実態に近い形で示すための会計手法です。日々の経理処理や決算作業の中で、会計上の利益と税務計算上の所得が異なる場面が多く見られますが、これらの差異をそのまま損益に反映させてしまうと、企業の実際の業績を正確に把握できなくなります。
税効果会計を理解することで、こうした一時的な差異を正確に把握し、将来の税負担まで見据えた損益計算が可能になります。この章では、なぜ会計と税務でズレが生じるのか、そのズレをどのように調整するのかを丁寧に解説します。
会計基準と税法では、収益や費用を認識するタイミングや基準に違いが設けられています。例えば、会計上は棚卸資産の評価損をその期の費用として処理できても、税務上は損金算入の時期や要件が細かく定められているため、同じ取引でも処理結果が異なることがあります。
このように、同じ取引でも会計と税務で処理の時期や金額が異なることで差異が発生します。税効果会計では、こうした差異のうち、将来的に解消される見込みがある「一時差異」を仕訳処理によって調整し、その内容を損益計算書や貸借対照表に反映させます。これにより、会計上の損益と税務計算上の所得の食い違いを適切に管理できるようになります。
税効果会計の根幹となるのは、「一時差異」を適切に期間損益へ反映させるという考え方です。一時差異とは、会計と税務で収益や費用を認識するタイミングが異なることで一時的に生じる差額であり、将来的には必ず解消される性質を持っています。例えば、会計上は当期に費用として処理したものが、税務上は翌期以降に損金として認められるケースなどが該当します。
このような差異を調整するために、貸借対照表には「繰延税金資産」や「繰延税金負債」を計上し、損益計算書では「法人税等調整額」を用いて当期の税金費用を補正します。これにより、企業の収益力や費用構造をより実態に近い形で把握できるようになります。
税効果会計は、経理担当者として欠かせない基礎知識のひとつです。会計上の利益と税務上の所得が一致しない理由を理解し、その違いを調整する仕組みを学ぶことで、ミスの防止や正確な財務報告につながります。
また、決算書類を作成する際や監査・税務調査対応でも、税効果会計の理解があるかないかで指摘リスクや作業負担が大きく変わります。この章では、税効果会計を正しく理解することがなぜ実務上で重要なのか、具体的に解説します。
決算を迎えると、会計上の利益と税務上の所得が異なる場面が多く発生します。一時差異を見落とすと、税金費用の計算や繰延税金資産・負債の計上にミスが起こりやすくなります。
たとえば、引当金や減価償却のズレを正しく把握していないと、損益計算書や貸借対照表に本来反映すべき金額がずれ、全体の精度が損なわれます。税効果会計の基本を押さえておくことで、決算作業の各工程で迷いなく処理でき、結果としてミス防止につながります。
税効果会計を導入することで、会社の実態に即した利益や純資産の金額を示せます。会計と税務のルール違いによる一時的なズレを調整することで、損益や資産・負債の値がより正確に表現され、外部のステークホルダーにも信頼性の高い財務情報を提供できます。
これにより、経営判断や資金調達の場面でも、誤った認識に基づくリスクを減らすことが可能になります。
税務調査や会計監査では、税効果会計の処理誤りが指摘されやすいポイントのひとつです。一時差異の把握や、繰延税金資産・負債の計上漏れ・過大計上があると、調査や監査で修正を求められることがあります。
事前に税効果会計の論点を押さえておけば、そのような指摘を受けるリスクを下げ、スムーズな対応が可能となります。税務調査や監査対応の負担軽減にも直結するため、経理初心者ほど早めに理解を深めておくことが大切です。
税効果会計は、会計の利益と税務上の課税所得が一致しない場合に、そのズレを調整するための一連の手続きです。決算で混乱しやすいポイントですが、処理の流れを理解することで、正しく損益や財務状況を示すことができます。
ここでは、実際の手順を段階ごとに整理し、一時差異の発見から、繰延税金資産・負債の計上、法人税等調整額による損益計算書の調整まで、現場でつまずきやすい部分を丁寧に解説します。初めて税効果会計に取り組む方が一通りの流れをつかみ、実務でのミスや迷いを減らせるよう、分かりやすくまとめています。
これらの内容を押さえておくことで、決算業務の精度が向上し、税務調査や監査対応にも自信を持てるようになります。正確な処理方法を身につけ、経理の基礎力を高めていきましょう。実
税効果会計の処理は、まず会計と税務で利益や費用の認識時期が異なる点を明確にすることから始まります。このズレを把握し、一時差異として整理することで、将来の税金がどのように影響を受けるかを見通せるようになります。
次のステップとして、差異の内容や金額を具体的に集計し、今後どのように解消されるかの見込みを立てる必要があります。その上で、繰延税金資産や繰延税金負債を計上し、損益計算書の法人税等調整額で税金費用を適切に調整します。これらの手続きはすべてつながっており、順序立てて進めることが正確な決算につながります。
一時差異とは、会計上は費用や収益として計上されているが、税務上は別のタイミングで課税や損金算入が行われることで生じるズレを指します。これらの差異は、法人税申告書作成時における加算調整(損金不算入・益金算入)や減算調整(益金不算入・損金算入)として現れ、それぞれが将来の税金費用に影響を与える「一時的なズレ」となります。代表的な一時差異の具体例と税効果会計上の扱いは以下の通りです。
|
区分 |
具体例 |
会計上の処理(発生時) |
税務上の調整(発生時) |
将来の税務上の影響(解消時) |
税効果会計上の計上科目 |
|---|---|---|---|---|---|
|
加算項目 (将来減算一時差異) |
減価償却費の償却超過額 |
会計上で費用計上 |
損金不算入(法人税申告で利益に加算) |
将来、損金算入され課税所得を減らす |
繰延税金資産 |
|
貸倒引当金繰入限度超過額 |
会計上で費用計上 |
損金不算入(法人税申告で利益に加算) |
将来、損金算入され課税所得を減らす |
繰延税金資産 |
|
|
棚卸資産評価損 |
会計上で費用計上 |
損金不算入(法人税申告で利益に加算) |
将来、損金算入され課税所得を減らす |
繰延税金資産 |
|
|
減算項目 (将来加算一時差異) |
国庫補助金等による圧縮積立金 |
会計上の収益計上を繰り延べ(特別償却) |
益金不算入(法人税申告で利益から減算) |
将来、課税所得が増加する見込み |
繰延税金負債 |
実務では、これらの項目ごとに会計と税務の認識時期や金額を比較し、差異の内容を一覧にまとめることが重要です。差異の発生年と将来の解消時期を整理しておくことで、後の仕訳や表示がスムーズに進みます。
一時差異を整理した後は、それが将来税金の減額につながるものか、増額につながるものかを判定します。将来減税になる見込みがあれば繰延税金資産、将来増税になる見込みがあれば繰延税金負債として貸借対照表に計上します。
計上額は、差異の金額に適用税率を掛けて算出します。たとえば、当期に損金にならなかった費用が将来損金化される場合、その分だけ税金が減るため繰延税金資産となります。逆に、当期は税務上課税されなかった利益が将来課税される場合は、繰延税金負債となります。この計上は、決算書の信頼性を高めるための重要なプロセスです。
繰延税金資産や繰延税金負債を計上したら、損益計算書の税金費用も合わせて調整します。具体的には、当期の税金費用に「法人税等調整額」を加減することで、会計上の利益と税務上の課税所得のズレをならします。
この調整額は、繰延税金資産・負債の増減と連動しており、損益計算書の税金費用が適切な金額として表示されるように働きます。これにより、会計上の期間損益が実態に即した形で示され、説明責任や監査対応でも安心できる決算資料が整います。
税効果会計を理解するうえで、「どの税金が対象になるのか」「実際にどのような仕訳を作成するのか」を知ることは不可欠です。
この章では、初めて税効果会計に取り組む方がつまずきやすいポイントを解説しつつ、実務でよく出てくる税金の種類や、繰延税金資産・負債の計上仕訳例、計算で用いる税率について整理します。代表的なパターンを押さえておくことで、決算業務や仕訳作成時の迷いを減らすことにつながります。
税効果会計で対象となるのは、主に「会計と税法のルール違いによって時期がズレる税金」です。具体的には、法人税、住民税、事業税が代表的な例です。
|
税金の種類 |
税効果会計の対象となる理由 |
一時差異が生じやすい具体例 |
税効果会計での扱い |
|---|---|---|---|
|
法人税 |
会計と税務で収益・費用の認識時期が異なるため |
・減価償却費の償却超過・不足 |
一時差異を把握し、繰延税金資産または繰延税金負債を計上 |
|
住民税 |
法人税額を基礎に計算されるため、法人税の差異が影響する |
・法人税の一時差異に連動して発生 |
法人税とあわせて実効税率に含めて処理 |
|
事業税 |
所得基準で課税され、会計・税務の差異が反映される |
・減価償却差異 |
原則として税効果会計の対象(※付加価値割・資本割は対象外) |
これらの税金は、会計上の利益と課税所得の算定方法が異なることで、一時的に費用計上のタイミングや損金算入の時期がズレることがあります。たとえば、会計では当期費用になる評価損や引当金が、税務上は制限される場合などが該当します。まずはこの3つの税金が対象になることを押さえましょう。
繰延税金資産は、当期に税務上損金にできなかった金額が将来損金として認められる見込みがある場合、「将来減税」として資産に計上するものです。
たとえば、貸倒引当金のうち税務限度を超過した部分が100,000円発生し、実効税率を30%と仮定した場合、繰延税金資産は30,000円(100,000円 × 30%)となります。このとき、次のように仕訳します。
|
借方科目 |
金額 |
貸方科目 |
金額 |
|---|---|---|---|
|
繰延税金資産 |
30,000円 |
法人税等調整額 |
30,000円 |
この仕訳により、当期に税務上損金不算入だった貸倒引当金が、将来的に損金算入されることを見越して、将来の税金負担軽減効果として資産計上が行われます。
繰延税金負債は、当期は税務上課税が繰り延べられているが、将来その分が課税される見込みがある場合に「将来増税」として負債計上します。
たとえば、国庫補助金等による圧縮記帳によって、当期の課税が繰り延べられた部分が100,000円発生し、実効税率を30%と仮定した場合、繰延税金負債は30,000円(100,000円 × 30%)となり、以下のような仕訳となります。実効税率を30%と仮定すると、繰延税金負債は30,000円(100,000円 × 30%)となり、以下のような仕訳となります。
|
借方科目 |
金額 |
貸方科目 |
金額 |
|---|---|---|---|
|
法人税等調整額 |
30,000円 |
繰延税金負債 |
30,000円 |
この仕訳によって、将来課税される税金の見込み額を負債として記録し、会計上の利益と税務上の課税所得のズレを調整します。
繰延税金資産や繰延税金負債を算定する際には、将来その差異が解消されるときに適用される見込みの税率を使います。法人税、住民税、事業税などの合計実効税率を用いるのが一般的です。
たとえば、実効税率が30%であれば、一時差異の金額に0.3を掛けて計算します。計算時には、今後の税制改正や税率変更の可能性も確認しておくことが重要です。
税効果会計を正しく運用するうえで、実務ではいくつかの重要な注意点があります。特に、「いつ」「どのような一時差異が発生するか」「個別論点ごとの扱いがどう違うか」「繰延税金資産の回収可能性をどう見極めるか」といった点を押さえることが、決算の正確性や税務調査対応の観点から不可欠です。
以下のポイントを具体的に理解し、日々の経理業務に役立てていきましょう。
会計と税務で費用や収益の計上時期が異なる場合、一時差異が発生します。たとえば、会計上は当期費用として処理した内容が、税務ではその年度に損金として認められず、翌期以降に損金算入されるといったケースが該当します。
この差異が生じるタイミングと内容を正確に把握しておくことで、将来どの時点で解消するかを見通すことができます。決算作業を進める際は、当期発生分と将来解消見込分を整理し、繰延税金資産や負債の計上根拠を明確にしておくことが重要です。
棚卸資産の評価損や貸倒引当金の繰入限度超過額など、個別論点ごとに会計と税務で認識時期や金額が異なる場合があります。
たとえば、棚卸資産の評価損は会計上すぐに費用化されますが、税務では損金算入の条件や時期が決まっており差異が生まれやすいです。また、貸倒引当金も会計では見積もりで計上できますが、税務上は限度額があるため超過分が損金にならず差異が発生します。
こうした論点は、発生時と解消時を分けて検討し、仕訳に誤りがないよう注意しましょう。
繰延税金資産は、将来の課税所得から控除できる見込みがある場合に資産計上します。ただし、事業環境の変化や業績の悪化などにより、実際に回収できないリスクもあります。
そのため、決算ごとに将来の所得予測や回収可能性を再確認し、必要に応じて繰延税金資産の取り崩しも検討することが求められます。この見直しが不十分だと、財務諸表の信頼性に影響を及ぼすため、注意深く対応してください。
税効果会計は、経理業務の現場で必ず求められる知識の一つです。特に経理担当者になりたての方や、部下に基本を身につけさせたい方にとっては「どこから学べば良いのか」「何を押さえておくべきか」が最初の不安になりがちです。税効果会計は、会計上の利益と税金の計算の間に生じるズレを整理し、企業の財務状況や損益をより正確に示すために導入されています。
そのため、理解が浅いと決算時に誤った処理をしてしまい、財務諸表の信頼性が損なわれたり、税務調査や監査時に指摘を受けるリスクも高まります。
このページでは、税効果会計の基本から、実際の仕訳例や注意すべきポイントまで、初心者の方でも順序立てて学べるように構成しています。一時差異の意味や具体的な手順、繰延税金資産・負債の考え方、計算に使う税率まで、一つひとつ丁寧に解説していますので、「この内容だけ押さえれば大丈夫」という自信を持てるはずです。
税効果会計への不安や疑問をここで解消し、実務で迷わない知識を身につけていただければと思います。
また、記事を読んで「自社の実務に当てはめるにはどうしたらよいか」「仕訳の手順をもう少し詳しく知りたい」など個別の疑問が生じた場合は、経理業務に詳しい専門家や、豊富な経験を持つ担当者への相談も選択肢の一つです。基礎を押さえておくことで、経理の実務力は確実に高まります。
自信を持って決算業務に取り組めるよう、今このタイミングで税効果会計の知識を深めてみてください。