更新日:2024.08.26
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法人税の計算と納付は、企業にとって重要な義務です。しかし、法人税の仕訳は複雑で、特に初めて経理業務を担当する方や、税務に関する知識が十分でない方にとっては困難を感じることも多いでしょう。法人税の仕訳を誤ると、税務調査で指摘を受けたり、余分な税金を支払うことになったりすることもあります。
この記事では、法人税の仕訳における勘定科目や具体的な仕訳例、そして消費税の仕訳についても詳しく解説します。法人税の仕訳に関する基礎知識から、実務で役立つ具体的な事例、注意点まで網羅的に解説していきます。
法人が納付する税金の種類には「法人税・法人住民税・法人事業税・消費税」と、主に4つです。名称が似ている法人税と法人住民税、法人事業税は、すべてをまとめて「法人税等」と呼ばれます。
それぞれ税金を納める対象が国や都道府県・地方などと異なり、支払う税額も変わります。以下でくわしく解説していきます。
法人税とは、1年の所得金額に課される税金のことです。個人にかかる「所得税」をイメージすると、どのような税金かわかりやすいでしょう。
法人税は国税にあたり、普通法人や協同組合などに課せられ、事業の所得に対して課税金額が決まります。所得の基本的な考え方は、売上収入から原価や損失をマイナスした金額ですが、企業の会計上の金額と一致するとは限りません。税務調整後に算出された金額が、課税対象となる所得になるため、あくまでも目安として考えてください。
法人住民税とは、事業所がある自治体に納める税金のことで、地方税にあたります。各都道府県と市町村に納付しますが、東京23区のみ「法人都民税」と呼ばれ、税率も異なります。納めた税金の使い道は、公的サービスに活用し、地域を営むうえで必要な費用が補填されているのです。
また、法人住民税には都道府県民税と市町村民税の2つがあり、どちらも納付しなければいけません。税額は「法人税割」と「均等割」の合計額で求めることができます。法人税割は、法人税額に定められた税率をかけて算出します。均等割は、企業の資本金や従業員数によって異なるため、自社が事務所を構えている地域の税務署や、役所のホームページなどで確認しましょう。
法人事業税とは、各都道府県に事業所を構えている場合に課される税金のことで、都道府県民税にあたります。公共法人は対象外となりますが、基本的にすべての法人に納税の義務があります。ただし、法人の所得が赤字になるケースでは、法人事業税を納める必要はありません。
また、法人住民税は「構成員として地域社会を守るための税金」で、法人事業税は「事業に対して課される税金」という違いがあります。どちらも都道府県民税にあたりますが、税金を納める目的が異なります。
法人事業税の税額は、所得に法人事業税率をかけて算出します。税率は業種や所得金額によって変わるため、事前に確認しておきましょう。
消費税とは、商品やサービスの消費に課される税金のことです。消費者が購入時に支払った消費税を、法人が納付する仕組みの間接税にあたります。厳密には消費税は国税と地方税に分かれていますが、納付する際はまとめて支払います。
消費税は、資本金が1,000万円以上、もしくは売上高が1,000万円を超えた翌々年度から課税対象になるので注意が必要です。また、売上高が一時的に1,000万円を超えた場合は、該当する年度に消費税を納付しなければなりません。課税対象であることを忘れて、納付が遅れないようにしましょう。
法人税の納付タイミングは、主に以下の3つのケースがあります。
タイミング | 説明 |
確定申告時 |
事業年度終了後2ヶ月以内に、その事業年度の法人税を確定申告し、納付します。
|
中間申告時 |
事業年度開始から6ヶ月を経過した日から2ヶ月以内に、中間申告を行い、中間納付額を納付します。
|
予定納税 |
前事業年度の法人税額が一定額以上の場合、中間納付額に加えて、予定納税額を納付する必要があります。予定納税の納付期限は、第1期が事業年度開始から3ヶ月を経過した日から1ヶ月以内、第2期が事業年度開始から6ヶ月を経過した日から1ヶ月以内、第3期が事業年度開始から9ヶ月を経過した日から1ヶ月以内です。
|
これらの納付期限を守らないと、延滞税が発生する可能性がありますので、注意が必要です。
また、法人税以外にも、法人住民税や法人事業税、消費税などの納付が必要になります。これらの税金についても、それぞれの納付期限がありますので、事前に確認しておきましょう。
原則として、勘定科目は法律で定められていないため、自由に決めることができます。ただし、貸借科目と損益科目の大まかなカテゴリは、明確に分ける必要があります。
加えて、法人税は一時的に負債を計上したり、前払いとして税金を納付するなど様々なタイミングで仕訳を行わなければいけません。そのため、金銭の流れがわかるような勘定科目を、使用タイミングによって使い分けます。
ここでは、法人税・法人住民税・法人事業税を仕訳する際は「法人税等」の勘定科目を使用して解説していきます。その他に必要な勘定科目も、仕訳の具体例を用いて解説しますので、参考にしてください。
前提として、法人税額は決算時に正しい納税額が決まります。決算から2ヶ月以内に納税するよう定められていますが、期日までは未払いであることを、一時的に計上しておかなければいけません。そのため、納付する法人税等を算出後は「未払法人税等」として計上しておきます。
法人税確定時:法人税は500,000円であった。
借方 |
貸方 |
||
法人税等 |
500,000 |
未払法人税等 |
500,000 |
上記の通り、税金納付時には負債として計上していた「未払法人税等」を、削除する仕訳をします。
法人税支払い時:計上していた法人税を納付した。
借方 |
貸方 |
||
未払法人税等 |
500,000 |
当座預金 |
500,000 |
税金納付時には上記のとおり、仕訳をします。
そもそも中間申告とは、納付すべきおおよその税額を見積もり、年の途中で税金の一部を前払いで納めることです。中間申告の対象となるのは、前年度の法人税額が20万円以上の企業になります。
中間申告時のタイミングでは「仮払法人税等」の勘定科目を使用します。「仮払」とされているのは、確定申告前で税額が決定していないためです。
中間申告時:見積もった法人税額を中間申告で納付した。
借方 |
貸方 |
||
仮払法人税等 |
500,000 |
当座預金 |
500,000 |
また、中間申告時の納税額が多い場合、確定申告で税額が決定後に還付されます。
決算から2ヶ月以内に法人税の確定申告を行うため、決算時点では法人税を納めるケースはほとんどありません。万一、決算時に法人税を納める場合は「仮払法人税等」「未払法人税等」の勘定科目を使用し、仕訳していきます。
決算時:中間納付で500,000円支払い、残り500,000円を納付した。
借方 |
貸方 |
||
法人税等 |
1,000,000 |
仮払法人税等 未払法人税等 |
500,000 500,000 |
中間納付をした納税額分を「仮払法人税等」、残りの金額分を「未払法人税等」で仕訳します。業績悪化により仮払法人税等の金額が法人税等を上回る場合は、「未払法人税等」を「未収金」として計上します。
確定申告が完了したら、翌事業年度に法人税を納付します。そのため「未払法人税等」として負債を計上した分を、削除する仕訳をします。
確定申告時:法人税が500,000円に確定したため、納付した。
借方 |
貸方 |
||
未払法人税等 |
500,000 |
当座預金 |
500,000 |
また、中間申告で多く納税した場合、確定申告後に還付金として返済されます。還付された際は、以下の通り仕訳をします。
還付時:中間申告時の納税額が多すぎたため、100万円が還付された。
借方 |
貸方 |
||
当座預金 |
1,000,000 |
未収法人税等 |
1,000,000 |
「未収法人税等」の勘定科目を使用し、還付額を計上します。利息である還付加算金は、還付金とは別に仕訳する必要があります。還付加算金は「雑収入」として計上しましょう。
還付時:還付加算金が300,000円振り込まれた。
借方 |
貸方 |
||
当座預金 |
300,000 |
雑収入 |
300,000 |
法人税の仕訳は、正確な会計処理と納税のために非常に重要です。しかし、法人税の計算は複雑で、税法の知識も必要となるため、注意すべき点がいくつか存在します。ここでは、法人税の仕訳における3つの重要な注意点を解説します。
法人税の仕訳では、「法人税、住民税及び事業税」「未払法人税等」「仮払法人税等」など、似たような勘定科目が複数登場します。これらの勘定科目の意味と使い分けを正しく理解することが重要です。
勘定科目 | 説明 |
---|---|
法人税、住民税及び事業税 | 確定した法人税等の金額を計上する勘定科目です。 |
未払法人税等 | 決算時に計上され、翌期に納付する法人税等の金額を計上する勘定科目です。 |
仮払法人税等 | 中間申告や予定納税により納付した法人税等の金額を計上する勘定科目です。 |
法人税の計算においては、費用を「損金算入」できるかどうかが重要です。損金算入できる費用は、税務上、会社の利益を減らすことができます。
損金算入の可否は、税法の規定に基づいて判断されます。
項目 | 説明 | 損金算入の可否 |
---|---|---|
給与 | 従業員に支払う給与 | 可 |
接待交際費 | 一定の要件を満たす接待交際費 | 可 |
寄付金 | 特定の寄付金 | 可 |
罰金 | 法律違反により支払う罰金 | 不可 |
交際費 | 社員の個人的な交際費 | 不可 |
会計上の利益と税務上の所得は、必ずしも一致しません。これは、会計基準と税法の規定が異なるためです。
項目 | 会計上の処理 | 税務上の処理 |
---|---|---|
減価償却費 | 定額法で償却 | 定率法で償却(場合による) |
引当金 | 計上できる | 計上できない(場合による) |
消費税の勘定科目も、法律で定められてはいません。ただし、税抜処理と税込処理で対応が異なるため注意が必要です。
以下で、ケース別に解説していきます。
消費税の税抜処理の場合は、「仮受消費税」「仮払消費税」を使用して仕訳していきます。
「仮受消費税」とは消費者から預かった消費税のことで「仮払消費税」とは消費税の負担額のことを指します。
仕入時:30万円(税込33万円)の商品を仕入れた。消費税は10%とする。
借方 |
貸方 |
||
仕入 仮払消費税 |
300,000 30,000 |
当座預金 |
330,000 |
売上時:30万円(税込33万円)の商品を売り上げ、代金は掛けとした。消費税は10%とする。
借方 |
貸方 |
||
売掛金 |
330,000 |
仮受消費税 売上 |
30,000 300,000 |
消費税の税抜処理の場合は、仕訳がとてもシンプルです。消費税額分も含めて金額を記載するため、項目が少なく済みます。納税する際は「租税公課」の勘定科目を使用し、仕訳していきます。
借方 |
貸方 |
||
仕入 |
330,000 |
当座預金 |
330,000 |
借方 |
貸方 |
||
売掛金 |
330,000 |
売上 |
330,000 |
借方 |
貸方 |
||
---|---|---|---|
租税公課 |
100,000 |
当座預金 |
100,000 |
消費税の仕訳は、正確な会計処理と納税のために非常に重要です。しかし、複雑な制度や変更点があるため、注意すべき点がいくつか存在します。ここでは、消費税の仕訳における3つの重要な注意点を解説します。
消費税の経理方式には、「税込経理方式」と「税抜経理方式」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、自社にとって最適な方式を選択することが重要です。
経理方式 | 説明 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
税込経理方式 | 売上や費用を税込金額で記帳する方式です。 | 仕訳がシンプル、日常業務での計算ミスが起きにくい | 実際の売上高を把握しづらい、消費税額が明確でない |
税抜経理方式 | 売上や費用を税抜金額で記帳する方法 | 消費税額を明確に把握できる | 仕訳が複雑、計算ミスが発生しやすい |
消費税の仕訳は、取引の種類によって異なります。
取引の種類 | 説明 | 例 | 仕訳で使用する勘定科目 |
---|---|---|---|
課税取引 | 標準税率(10%)が適用される取引 | 商品の販売、サービスの提供 | 売上高、仕入、仮受消費税、仮払消費税など |
非課税取引 | 消費税が課されない取引 | 土地や有価証券の売買、家賃収入 | 消費税に関する勘定科目は使用しない |
免税取引 | 消費税が免除される取引 | 輸出取引、国際輸送 | 消費税に関する勘定科目は使用しない |
2023年10月からは、インボイス制度が導入されました。インボイス制度では、適格請求書発行事業者のみが、仕入税額控除を受けることができます。
また、軽減税率制度も導入されており、食料品や新聞など、特定の商品やサービスには軽減税率(8%)が適用されます。
これらの制度改正に対応するためには、以下の点が重要です。
これらの制度改正は、消費税の仕訳に大きな影響を与えます。常に最新の情報を入手し、適切に対応していくことが重要です。
法人税の勘定科目は納税するタイミングによって、仕訳方法が異なります。使用する勘定科目は法律で定められていないため、自由に決めることができます。ただし、一般的には「未払法人税等」「仮払法人税等」を使用して仕訳することが多く、項目としてもわかりやすいため、参考にしてください。
また、法人が支払う税金には消費税も含まれており、消費者が支払った税金を代わりに納める必要があります。消費税は税抜処理・税込処理どちらで仕訳するかによって、記載方法が異なります。