更新日:2024.12.27
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2024年1月から電子取引のデータ保存は、電子帳簿保存法により完全に義務化されました。電子帳簿保存法は、業務のデジタル化を促進する重要な制度ですが、データの信頼性確保や適切なスキャナ保存への対応など、遵守すべき要件が多岐にわたり、戸惑う方もいるでしょう。
本記事では、電子帳簿保存法における基本要件についてわかりやすく解説します。具体例を交えながら保存手順についても紹介しますので、ぜひ活用してください。
電子帳簿保存法の概要を解説します。
電子帳簿保存法とは、かつて紙での保存が基本だった国税関係の帳簿・書類を電子データとして保存することを認める法律です。この法律は、デジタル化の推進やペーパーレス化によるコスト削減、業務の効率化などを目的としています。
電子データでの保存により、帳簿・書類の物理的な保管スペースが不要になったり、必要な書類を探すことが容易になったりと業務の効率化が図れます。また、書類の印刷や発送、保管にかかるコスト削減も可能です。
電子帳簿保存法は、基本的にすべての法人および個人事業主が対象です。ただし、電子取引をまったくしていない事業主は、この法律の対象外となります。
電子帳簿保存法は、主に3つの区分に分類されます。
それぞれの保存方法は以下のとおりです。
保存区分 |
概要 |
電子帳簿等保存 |
電子的に作成した帳簿や書類をそのまま電子データで保存 |
スキャナ保存 |
紙でやり取りした書類をスキャンして画像データで保存 |
電子取引データの保存 |
電子的に行った取引情報をそのまま電子データで保存 |
電子帳簿保存法は、主に以下のような帳簿・書類が対象となります。
帳簿や書類の種類によって保存方法が異なるため、それぞれに応じた対応をしましょう。
電子帳簿保存法には大きく分けて、以下2つの要件が定められています。
上記2つの要件を踏まえ、保存要件の全体像をまとめた表は以下のとおりです。
真実性の確保 |
以下4つのいずれかの措置をとる
|
可視性の確保 |
自社開発システムを使用する場合は、システム概要書等を備え付ける |
パソコン、ディスプレイ、プリンターおよびこれらの操作マニュアルを備え付け、速やかに出力できるようにしておく |
|
下記の条件で検索できるようにする(検索機能の確保)
|
全体像を把握しておくと、以下に解説する保存要件の詳細が理解しやすくなるでしょう。
以下、それぞれ解説します。
真実性の確保とは、保存したデータが不当な理由で削除・改ざんされていないことを証明する要件です。以下4つのうち、いずれかを行うと要件を満たせます。
特に、事務処理規程を定める要件は、新たなシステムを導入する必要がないため、少ないコストで運用したい企業にとって満たしやすい要件といえるでしょう。
取引データの正確性を証明するために、これまではタイムスタンプの付与期間が概ね3営業日以内とされていました。
しかし、電子帳簿保存法の改正により「最長約2か月と概ね7営業日」と要件が大幅に緩和されています。
可視性の確保とは、電子取引の情報をいつでも閲覧できるようにするための要件です。可視性を確保するためには、以下3つの要件をすべて満たす必要があります。
特に3つ目、検索機能の確保には、さらに枝分かれして3つの要件が定められています。
以下、検索機能の要件について詳しく解説します。
可視性の確保に含まれる、検索機能の確保では以下3つすべての条件で検索できるようにする必要があります。
上記の検索条件は、以下いずれかの方法で要件を満たせます。
具体的な電子データの保存手順は、本記事の後半で解説します。
電子帳簿保存法の改正により、検索要件のすべてを不要とする措置の見直しが実施されています。以下に該当する事業者は、検索機能に関する3つの要件をすべて満たす必要はありません。
参照:国税庁「電子帳簿保存方法が改正されました」〜 令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要 〜
令和5年度の電子帳簿保存法改正により、2024年1月1日以降、電子データ保存要件における新たな猶予措置がとられています。以下に該当する事業者は、保存時に満たすべき要件に沿った対応は不要となり、電子取引データを単に保存しておくことが可能です。
税務調査の際にはダウンロードの依頼に応じられるよう、紙で保存している場合でも電子データとして適切に保管しておく必要があります。
参照:国税庁「電子帳簿保存方法が改正されました」〜 令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要 〜
電子帳簿保存法には、電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引データ保存の3つの保存方法があります。それぞれの保存要件を詳しく解説します。
電子帳簿等保存とは、パソコンや会計ソフトなどで作成した国税関係帳簿や国税関係書類を電子データで保存することです。
基本的な会計ルールに基づいて作成された帳簿であれば、訂正・削除を行った履歴が残らない保存方法でも、以下の基本要件を満たせば電子データのまま保存できます。
さらに、過少申告加算税の軽減措置を受けたい場合は、以下の検索要件を満たした「優良帳簿」の認可を受ける必要があります。
税務職員から要請があった際に、データのダウンロードに対応できる状態であれば、上記2つ目の検索範囲の設定と、3つ目の複数条件での検索機能は不要となります。
優良帳簿として認められると、過少申告加算税の軽減措置や青色申告特別控除の増額など、税制上の優遇措置が受けられます。ただし、この優遇措置を受けるためには事前に税務署への届出が必要です。
【2024年1月から適用の改正点】
かつては、すべての会計帳簿の保存が必要でしたが、改正によって優良帳簿の認可を受けるために必要な帳簿の範囲が大幅に見直され、基本的な会計記録と重要な取引を記録した帳簿のみに限定されました。これにより、企業の負担が軽減されることになります。
参照:国税庁「電子帳簿保存方法が改正されました」〜 令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要 〜
スキャナ保存とは、紙で作成または受領した国税関係書類を、スキャナやスマートフォンなどで読み取り、画像データで保存する方法です。
スキャナ保存も電子帳簿等保存と同様に、真実性や可視性の確保のほか、検索機能の要件を満たすことが求められます。
ただし、スキャナ保存では税務職員によるダウンロードの要請に応じられる場合、検索機能の要件のうち「年月日・金額・取引先名の条件で検索できる」のみが保存義務となります。
なお、スキャナ保存では解像度が200dpi相当以上で読み取るなど、ほかにも細かな要件があるため注意しましょう。また、重要書類と一般書類で求められる要件が異なります。詳しい要件については国税庁の資料でご確認ください。
【2024年1月から適用の改正点】
改正により、税務署長の事前承認制度の廃止やタイムスタンプ付与期間の延長(最長約2か月と概ね7営業日)など、多くの要件が緩和されました。これにより負担が軽減され、スキャナ保存を導入しやすくなっています。
参照:国税庁「電子帳簿保存方法が改正されました」〜 令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要 〜
電子取引データの保存は、電子帳簿保存法の改正に基づき、2024年1月1日からすべての事業者に対して義務化されました。主な保存要件は以下のとおりです。
電子取引では、真実性や可視性の確保に加え、検索機能の要件のうち「年月日・金額・取引先名の条件で検索できる」ことが義務化されています。電子帳簿等保存やスキャナ保存と同様、ダウンロードの求めに応じてデータの引き渡しが可能であれば、ほか2つの検索機能の要件への対応は必要ありません。
電子取引とは、注文書や契約書、請求書、領収書等の取引で交わされる書類を、電子的な方法で授受する方法です。具体的には以下の取引方法が挙げられます。
例えば、交通系ICカードを用いて立替精算を行う場合も、電子取引に該当します。
電子データの保存が完全義務化されていることから、以下の管理方法は認められていません。
電子取引上でのデータは削除せずに、要件に応じて保存していれば、紙で保存しても問題ありません。なお、紙で受け取った請求書やレシートは紙のまま保存が可能です。
【2024年1月から適用の改正点】
電子取引データの保存が完全に義務化されるとともに、保存要件の緩和や事前申請の廃止など、企業の負担軽減策も導入されました。一方で、データの削除・改ざんに対する罰則が強化され、適切な事務処理規程の整備も求められるなど、より厳格な管理体制の構築が必要となっています。
2024年最新の電子帳簿保存法の改正点について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【2024年最新】電子帳簿保存法の改正での変更点|改正前との違いを解説
参照:国税庁「電子取引関係」
電子帳簿保存法に準じた電子データの保存手順を、以下の具体例に沿って解説します。
具体例)
2024年11月30日にA株式会社から250,000円の請求書をクラウドシステムで受け取った場合
クラウドシステムを通じて受け取ったPDFを、パソコン上にダウンロードします。
ダウンロードした書類には、検索要件に従い規則的なファイル名をつけます。
【ファイル名の具体例】
20241130_A株式会社_250000_請求書.pdf |
ファイル名は、以下のように規則的なルールを設けましょう。
「取引年月日_取引先名_取引金額_書類の種類」
このように、取引年月日や取引先名、金額、書類の種類を規則的に記載し、1項目ごとにアンダーバーで区切ると分かりやすくなります。
情報を入れすぎるとファイルを探す手間が増えるため、できるだけシンプルな構成で設定します。順番は前後せず、すべての書類に対して同じルールを適用しましょう。
電子帳簿保存法に沿ったファイル名や保存方法などについて、より詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
関連記事:【例あり】電子帳簿保存法のファイル名ルールと設定ポイント・保存方法を解説
ダウンロードした請求書データは、社内で定められた請求書フォルダに保存します。パソコン内のフォルダに保存する際は、パソコンの故障などに備えてバックアップを取っておくと安心です。
索引簿は、保存した電子データを後で簡単に検索できるようにするための記録です。牽引簿を作成しておくと「2つ以上の検索指定」の検索機能の要件を満たすことができます。
牽引簿の記載例は以下のとおりです。
【牽引簿の記載例】
連番 |
取引年月日 |
取引先 |
金額 |
書類 |
1 |
2024/11/05 |
株式会社〇〇商店 |
50,000円 |
見積書 |
2 |
2024/11/20 |
〇〇工務店 |
330,000円 |
領収書 |
3 |
2024/11/30 |
A株式会社 |
250,000円 |
請求書 |
ファイル名の内容に従い、取引年月日、取引先、金額、書類の名前を記載します。ファイル名には日付順に連番の数字を入力しておくと、検索しやすくなります。
電子帳簿保存法の要件は、3つの保存方法に対しそれぞれの要件が細かく設定されています。なかでも、電子取引でやりとりしたデータは、電子データとしての保存が必須です。
真実性や可視性の確保に加え、必要な検索機能を整備するなど、電子帳簿保存法で決められた要件に沿って電子データを適切に保存しましょう。