更新日:2025.12.18

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2024年1月から本格的に義務化された電子帳簿保存法。「中小企業はどこまで対応すればいいの?」「何から始めればいいかわからない」とお悩みではありませんか?この記事では、中小企業が最低限対応すべき義務の範囲を明確にし、具体的な対策を3つのステップでわかりやすく解説します。対応システムの選び方やファイル名のルール設定といった実務的な方法から、知らないと損をする猶予措置やIT導入補助金まで、あなたの会社の負担を最小限に抑えつつ、法令に準拠するための知識もご紹介。この記事を最後まで読めば、電子帳簿保存法への漠然とした不安が解消され、自社に最適な対応方法がわかります。
電子帳簿保存法(でんしちょうぼほぞんほう)とは、法人税や所得税など、国税に関する帳簿や書類について、紙ではなく電子データ(電磁的記録)で保存することを認めた法律です。
これまで多くの企業では、会計ソフトで作成した帳簿や、取引先から受け取った請求書などを紙に印刷してファイリング・保管するのが一般的でした。この法律は、こうした業務のデジタル化を後押しし、ペーパーレス化による業務効率の向上やコスト削減を目指すものです。
「大企業向けの話だろう」と思われるかもしれませんが、電子帳簿保存法は企業の規模に関わらず、すべての事業者が対象となります。特に2024年からの改正内容は、中小企業にとっても無視できない重要な変更点が含まれており、正しい理解と対応が不可欠です。
中小企業の経理担当者が最も押さえておくべきポイントは、2024年1月1日から「電子取引データ保存」が完全義務化されたことです。
「電子取引」とは、請求書や領収書などをメールの添付ファイル(PDFなど)で受け取ったり、インターネットのサイトからダウンロードしたり、クラウドサービス上で授受したりする取引を指します。これまでは、こうした電子データを紙に印刷して保存することも認められていましたが、2024年からは原則として認められなくなりました。
つまり、電子データで受け取ったものは、必ず電子データのまま、法律で定められた要件を満たして保存しなければならない、ということです。
ただし、すべての書類を電子化しなければならないわけではありません。あくまで「電子的にやり取りしたデータ」が対象であり、紙で受け取った請求書などを無理に電子化する必要はありません。
電子帳簿保存法では、保存方法が大きく3つの区分に分けられています。どこまで対応すべきかを理解するためにも、まずはそれぞれの区分の違いを把握しましょう。
特に「電子取引データ保存」が義務であるのに対し、他の2つは任意対応である点が重要です。
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保存区分 |
対象となる書類の例 |
対応義務 |
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電子帳簿等保存 |
会計ソフトで作成した仕訳帳、総勘定元帳、決算関係書類など |
任意 |
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スキャナ保存 |
紙で受け取った請求書、領収書、契約書など |
任意 |
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電子取引データ保存 |
メールで受け取ったPDFの請求書、ECサイトからダウンロードした領収書など |
義務 |
「電子帳簿等保存」とは、自社が会計ソフトなどを使って最初から一貫してパソコンで作成した帳簿(仕訳帳や総勘定元帳など)や書類(貸借対照表や損益計算書など)を、紙に印刷することなく電子データのまま保存する方法です。この対応は任意であり、これまで通り紙に印刷して保存し続けることも認められています。ペーパーレス化を推進したい企業が選択する方法です。
「スキャナ保存」とは、取引先から紙で受け取った請求書や領収書、契約書などを、スキャナやスマートフォンのカメラで読み取って画像データとして保存する方法です。この対応も任意であり、紙の書類を電子化して保管したい場合に活用します。スキャナ保存を行うことで、ファイリングの手間や保管スペースを削減できるメリットがあります。ただし、解像度やタイムスタンプの付与など、一定の要件を満たす必要があります。
「電子取引データ保存」は、前述の通り、電子的に授受した取引情報を電子データのまま保存する方法です。具体的には、メールで送られてきたPDFの請求書、Webサイトからダウンロードした領収書、クラウドサービスを介して受け取った取引データなどが対象となります。この区分のみ、中小企業を含むすべての事業者にとって対応が義務となります。この章で最も重要なポイントとして、必ず覚えておきましょう。
多くの中小企業の経営者や経理担当者の方が、「何から手をつければいいのか」「どこまで対応すれば罰則を受けないのか」と不安を感じているのではないでしょうか。
結論から言うと、すべてを一度に対応する必要はありません。この章では、中小企業が具体的にどこまで対応すべきかを明確に解説します。
電子帳簿保存法への対応で、中小企業がまず押さえるべき最も重要なポイントは、「電子取引データ保存」が個人事業主から大企業まで、すべての事業者にとっての義務であるという点です。
電子取引とは、請求書や領収書、見積書などを電子メールの添付ファイル(PDFなど)やクラウドサービス、ECサイトなどを通じてデータでやり取りする取引を指します。
2024年1月1日以降、これらの電子取引で授受したデータは、必ずデータのまま、所定の要件を満たして保存しなければなりません。以前のように、データで受け取った請求書を印刷して紙で保存することは、原則として認められなくなりました。まずは自社で行われている電子取引をすべて洗い出し、適切にデータ保存できる体制を整えることが急務です。
電子帳簿保存法には、「電子取引データ保存」のほかに「スキャナ保存」と「電子帳簿等保存」という区分がありますが、これら2つへの対応は任意です。つまり、中小企業は必ずしも対応する必要はなく、従来通りの方法を継続しても問題ありません。
これらの任意対応は、ペーパーレス化による業務効率化やコスト削減といったメリットが期待できますが、システム導入や運用ルールの策定が必要になります。
まずは義務である「電子取引データ保存」への対応を最優先し、その上で、将来的な業務改善を見据えて任意区分の導入を検討するのが現実的な進め方と言えるでしょう。
電子帳簿保存法への対応は、義務だから仕方なく行うという側面だけでなく、中小企業の経営にプラスの効果をもたらす可能性も秘めています。
義務である「電子取引データ保存」はもちろん、任意である「スキャナ保存」や「電子帳簿等保存」まで含めて対応した場合のメリットとデメリットを整理しました。
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分類 |
具体的な内容 |
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メリット |
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デメリット |
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デメリットもありますが、長期的に見れば業務効率化やコスト削減といったメリットは非常に大きいと言えます。
特に人手不足に悩む中小企業にとって、法対応をきっかけとしたDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、経営基盤の強化につながる重要な一手となるでしょう。
手順を踏んで準備を進めれば、電子帳簿保存法への対応は決して難しいことではありません。
ここでは、中小企業が電子帳簿保存法に対応するための具体的な3つのステップを、わかりやすく解説します。
最初に行うべきことは、自社でどのような「電子取引」が行われているかをすべて洗い出すことです。電子取引とは、請求書や領収書などを紙ではなくデータでやり取りする取引全般を指します。具体的には、以下のようなものが該当します。
まずは、経理部門だけでなく、営業担当者や各部署でどのような電子データのやり取りがあるかを確認し、一覧にしてみましょう。この作業を行うことで、保存すべきデータの種類と量を正確に把握でき、次のステップであるルール作りに進みやすくなります。
次に、洗い出した電子取引データを法律の要件に従って保存するための社内ルールを定めます。電子取引データの保存要件は、大きく「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つに分けられます。
「真実性の確保」とは、保存されたデータが改ざんされていないことを証明するための措置です。中小企業が対応しやすい具体的な方法は、主に以下の4つです。この中から、自社の状況に合わせていずれか一つを選択し、運用ルールを決めましょう。
特に、最後の「事務処理規程の策定」は、特別なシステム導入が不要なため、多くの企業にとって最も取り組みやすい方法です。
「可視性の確保」とは、保存したデータを税務調査などの際に、誰もがすぐに確認できる状態にしておくための措置です。具体的には、以下の3つの要件を満たす必要があります。
これらの要件を満たすため、次のステップで紹介する具体的な保存方法を検討します。
ステップ2で定めたルールを実践するための、具体的な保存方法を3つご紹介します。自社の予算やITへの習熟度に合わせて最適な方法を選びましょう。
電子帳簿保存法に対応した会計ソフトや文書管理システムを導入する方法です。クラウド会計ソフトの多くは、請求書や領収書のデータを取り込むだけで、保存要件である真実性や可視性(検索機能)を自動で満たしてくれます。初期費用や月額費用はかかりますが、最も安全かつ効率的に対応できる方法であり、経理業務全体の効率化にも繋がります。
専用システムを導入せず、自社のパソコンやサーバーにデータを保存する場合の方法です。この場合、特に「可視性の確保(検索要件)」を満たすために、ファイル名の付け方に統一したルールを設けることが重要です。例えば、以下のようなルールが考えられます。
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項目 |
ルール |
ファイル名(例) |
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取引年月日 |
西暦8桁で記載(例:2024年10月31日 → 20241031) |
20241031_株式会社サンプル商事_110000.pdf |
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取引先名 |
正式名称を記載(例:株式会社サンプル商事) |
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取引金額 |
税込金額を数字のみで記載(例:110,000円 → 110000) |
このようにファイル名を統一することで、OSの検索機能を使えば要件を満たすことができます。このルールを全社で徹底することが成功の鍵です。
コストをかけずに「真実性の確保」要件を満たすための有効な手段です。事務処理規程とは、電子データの訂正や削除の取り扱いに関する社内ルールを文書化したものです。
国税庁のウェブサイトにサンプル(ひな形)が公開されているため、それを参考に自社の状況に合わせて作成し、社内に備え付けておけば問題ありません。ファイル名ルールでの保存とこの事務処理規程を組み合わせることで、システムを導入せずに最低限の法対応が可能になります。
リソースが限られる中小企業においては「すぐに対応できない場合、どうなるのか?」「何か救済策はないのか?」といった不安がつきものです。
ここでは、電子帳簿保存法に対応しない場合のリスクと、中小企業が活用できる猶予・緩和措置について、具体的なポイントを解説します。
電子取引データの保存義務を果たさなかった場合、単なる手続き上のミスでは済まされず、税法上・会社法上のペナルティが科される可能性があります。
特に青色申告の承認が取り消されると、欠損金の繰越控除や特別償却といった税制上の優遇措置が受けられなくなり、企業のキャッシュフローに深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
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罰則・リスクの種類 |
具体的な内容 |
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青色申告の承認取消 |
法令で定められた帳簿書類の保存要件を満たしていないと税務調査で判断された場合、青色申告の承認が取り消されるリスクがあります。 |
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追徴課税(加算税) |
税務調査で申告漏れが指摘された際、通常課される過少申告加算税が5%加重される場合があります。 |
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重加算税の加重措置 |
電子取引データに関して隠蔽や仮装といった不正行為が発覚した場合、本来の重加算税(35%または40%)に、さらに10%がペナルティとして上乗せされます。 |
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会社法上の過料 |
会社法第976条では、会計帳簿や事業に関する重要資料を保存しなかった場合、代表者等に100万円以下の過料が科されると定められています。 |
「罰則は理解したが、すぐの完全対応は難しい」という中小企業の実情に配慮し、負担を軽減するための猶予措置や緩和措置が設けられています。自社がどの措置の対象となるかを正確に把握し、適切に活用することが重要です。
2023年末で終了した「宥恕(ゆうじょ)措置」に代わり、2024年1月1日から新たな「猶予措置」が施行されました。以下の要件を両方満たす事業者は、保存要件を満たせなくても、電子データを単純保存し、税務調査の際に紙で出力して提示・提出できれば問題ないとされています。
この猶予措置に事前の申請は不要ですが、税務調査の際には「相当の理由」を客観的に説明できるよう準備しておくことが望ましいでしょう。
電子取引データ保存の大きなハードルであった「検索機能の確保」についても、中小企業向けに大幅な緩和措置が設けられています。
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対象事業者 |
緩和される内容 |
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基準期間(2事業年度前)の売上高が5,000万円以下の事業者 |
税務調査の際に税務職員からのデータのダウンロードの求めに応じられれば、「取引年月日」「取引金額」「取引先」での検索要件がすべて不要になります。 |
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電子データを紙に出力し、取引先や日付ごとに整理された状態で提示・提出できる事業者 |
売上高にかかわらず、すべての検索要件が不要になります。 |
特に、売上高5,000万円以下の事業者に対する緩和措置は、多くの小規模事業者にとって大きな負担軽減となります。これらの措置を正しく理解し、自社の状況に合わせた現実的な対応を進めていきましょう。
電子帳簿保存法への対応を進める中で、多くの中小企業様から寄せられる疑問や不安について、Q&A形式でわかりやすく解説します。自社の状況と照らし合わせながら、具体的な対応へのヒントとしてご活用ください。
各種調査機関のアンケート結果を見ても、法律そのものの認知は広がっている一方で、実際の対応状況には企業ごとに大きな差があることが分かっています。
特に「電子取引データの保存義務化は理解しているものの、具体的なシステム導入や社内ルールの整備までは進んでいない」という企業が多い状況です。人手不足やIT担当者の不在を理由に挙げる声も多く、情報を集めながら、どのシステムを導入するか、どのように業務フローを見直すべきかを検討している段階にとどまっているケースが目立ちます。
一方で、インボイス制度への対応をきっかけに会計ソフトや販売管理システムを刷新し、その流れで電子帳簿保存法への対応まで完了させた企業も増えてきました。周囲の状況も参考にしながら、一つずつ着実に対応を進めていきましょう。
「過去に紙で受け取ったり作成したりした請求書や領収書も、すべてスキャンして電子化しなければならないのか?」というご質問をよくいただきますが、その必要はありません。
電子帳簿保存法の改正は、過去に遡って適用されるものではありません。したがって、法律が施行される前に紙でやり取りした国税関係書類については、これまで通り紙のまま、定められた期間(法人税法上は原則として7年間)保存しておけば問題ありません。
今回の法改正で義務化されたのは、あくまで「2024年1月1日以降に行う電子取引のデータ」を「電子データのまま保存する」ことです。例えば、メールに添付されたPDFの請求書や、ECサイトからダウンロードした領収書などがこれに該当します。これらのデータを紙に印刷して保存することは、原則として認められなくなりました。
過去の紙書類を電子化する「スキャナ保存」は、あくまで任意の対応です。ペーパーレス化による業務効率の向上や、保管スペースの削減といったメリットを目的として導入を検討するものであり、義務ではありません。
電子帳簿保存法への対応で会計ソフトやクラウドサービスなどのITツールを導入する際には、国が実施している補助金を活用できる場合があります。中小企業が利用できる代表的な制度が「IT導入補助金」です。
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化や売上アップをサポートする制度です。電子帳簿保存法やインボイス制度への対応も、この補助金の対象となっています。
特に「インボイス枠(電子取引類型)」は、電子帳簿保存法で義務化された電子取引の保存要件に対応するITツールの導入を支援するもので、多くの中小企業にとって利用価値の高い制度です。会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフトなどが対象となり、クラウド利用料も最大2年分補助の対象となる場合があります。
具体的な補助対象や補助率、申請スケジュールは公募回ごとに異なりますので、必ず公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。申請は、採択された「IT導入支援事業者」と共同で行う必要があります。
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項目 |
内容 |
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対象経費 |
電子帳簿保存法の要件を満たす会計・受発注・決済ソフト等の導入費用、クラウド利用料(最大2年分)など |
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補助率 |
中小企業は最大3/4以内、小規模事業者は最大4/5以内など |
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補助額 |
下限なし~最大350万円など |
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注意点 |
申請にはIT導入支援事業者との連携が必須。公募回により内容が変更されるため、公式サイトでの確認が必要。 |
このほか、各地方自治体が独自にDX推進やデジタル化を支援する助成金・補助金制度を設けている場合もあります。自社の所在地を管轄する自治体のウェブサイトなども確認してみるとよいでしょう。
2024年1月から完全義務化された「電子取引データ保存」は、企業の規模にかかわらず、すべての中小企業が対応必須です。まずはこの義務化された範囲への対応を最優先で進めましょう。一方で、「電子帳簿等保存」や「スキャナ保存」への対応は任意です。これらは業務効率化やコスト削減といったメリットが期待できるため、自社の状況に合わせて段階的に導入を検討するのが現実的な進め方と言えます。具体的な対応の第一歩として、まずは自社でどのような電子取引があるかを洗い出し、「真実性の確保」と「可視性の確保」の要件を満たすための保存ルールを策定することが重要です。この記事を参考に、自社に合った方法で着実に対応を進めていきましょう。