更新日:2024.11.29
ー 目次 ー
電子帳簿保存法はデジタル化が急速に進化していることもあり、それに応じた法改正が頻繁に行われています。
「今までの保存方法で問題はないのか?」
「注意すべきポイントはどこ?」
と不安を持つ方もいるでしょう。
本記事では、令和5年の税制改正大綱により電子帳簿保存法で変わったポイントをわかりやすく解説します。
ここでは、電子帳簿保存法の概要を解説します。
電子帳簿保存法とは、デジタル時代に対応するために国税関連の帳簿や書類を電子データで保存できるようにした法律です。これにより、従来の紙ベースでの管理から電子データでの保存が可能になり、コスト削減や業務効率化が期待されています。
電子帳簿保存法は、国内の電子化を推進する目的で、要件緩和などの改正が頻繁に行われています。そのため、改正後の要件をしっかり把握することが大切です。
電子帳簿保存法における書類の保存方法は、次の3つに分けられています。
電子帳簿等保存 |
電子的に作成した帳簿、書類をデータのまま保存 |
スキャナ保存 |
紙でやり取りした書類をスキャンし、画像データで保存 |
電子取引データ保存 |
電子取引で受け取った書類をそのまま電子データで保存 |
電子帳簿保存法の対象となる書類は以下のとおりです。
書類の種類によって保存方法が異なるため、それぞれに応じた対応をしましょう。
電子帳簿保存法の対象者は、国税関係帳簿書類の保存が義務づけられているすべての事業者です。事業規模を問わず、すべての法人と個人事業主に適用されます。
2023年の税制改正大綱により2024年1月1日以降、電子帳簿保存法の要件緩和や見直しが行われています。これにより、事業者にとって重要な変更点がいくつかあります。
ここでは、具体的な改正内容を解説します。
電子帳簿保存法の2022年の改正により、電子取引でやり取りされたデータは、電子保存が義務づけられました。しかし、対応システムの導入が間に合わない企業も多かったため、経過措置が設けられ、一部の書類に関して紙での保存が一時的に認められました。
経過措置が終了した現在は、電子取引による電子データでの保存が完全に義務化されています。
電子帳簿保存法の改正により、2022年1月1日から2年間の経過措置が設けられ、2023年12月31日まで一部の書類については紙での保存が許可されていました。しかし、この経過措置は2023年12月31日をもって廃止されています。
つまり、2024年1月1日以降は原則として、電子取引による電子データを紙で保存することは禁止です。ただし、紙で取引した書類のスキャナ保存については、2024年1月1日以降も任意とされています。
「令和5年度税制改正大綱」により、2024年1月1日以降では新たな猶予期間が設けられています。この猶予措置が適用されるのは、以下の事業者に限られます。
所轄の税務署により相当な理由が認められた事業者は、引き続き電子取引による電子データを紙に出力して保存することが可能です。ただし、税務調査の際に提示の求めに応じるため、取引情報の電子データをいつでもダウンロードできる状態にしておく必要があります。
そのため、元となる電子データは削除せず、適切に保管することが求められます。
電子帳簿保存に関して、以下2つの内容が改正されました。
それぞれ解説します。
検索機能の要件とは、保存した帳簿や書類の電子データを必要に応じて速やかに取り出せることを示す条件です。この条件には、真実性の要件や可視性の要件が求められています。
それぞれ、以下のように一部が廃止・緩和されています。
【真実性の要件(データの信頼性を確保する要件)】
【可視性の要件(データの閲覧・検索をしやすくするための要件)】
優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置については、改正後の条件緩和が実施されています。優良な電子帳簿とは、申告漏れが発生した際に過少申告加算税が5%に軽減される特例の対象となる電子帳簿のことです。
改正後は「その他の必要な帳簿」の範囲が以下のように限定されています。
優良な電子帳簿の対象となる帳簿 |
|
見直し前 |
見直し後 |
(すべての青色関係帳簿) |
(以下に記載されたものに限定)
|
この見直しにより、必要となる帳簿の種類が明確になり、優良な電子帳簿として認定されやすくなりました。
改正後の電子帳簿保存法では、スキャナ保存に関して3つの要件が緩和されており、以前よりスキャナ保存が利用しやすくなっています。ここでは改正後の内容を解説します。
電子帳簿保存法の改正により、スキャンする際の「解像度」「階調」「大きさ」に関する情報を保管する要件が、廃止されました。
ただし、スキャンする際には、適切な解像度や階調を守る必要があるため注意が必要です。
電子帳簿保存法の改正により、入力者情報の確認要件も廃止されています。ここでの入力者とは、スキャンした画像が元の紙の記述や色調と一致していることを検証する人を指します。
この緩和により、スキャンデータの正確性は維持しながら実務上の負担を軽減しています。
改正前は、受領した国税関係書類をスキャンした際に、全ての書類について帳簿との相互関係性を確認・管理するよう求められていました。しかし、2024年1月1日以降は、確認が必要な書類を以下の重要書類に限定しています。
重要書類: 契約書・領収書・送り状・納品書等のように、資金や物の流れに直結・連動する書類 |
これにより、作業の効率化が図られています。ただし、スキャンデータの改ざんや不正が発覚した場合は、追徴税額に10%上乗せされる重加算税の対象となるため、適切な管理は必要です。
関連記事:【2024年最新】電子帳簿保存法の罰則規定完全ガイド|対応をしないと100万円以下の罰則あり!
電子帳簿保存法の改正は、コンプライアンスの側面だけでなく、企業にとって多くのメリットをもたらします。ここでは、電子帳簿保存法を活用する4つのメリットを見ていきましょう。
大きなメリットは、紙から電子保存に切り替えることで、業務効率化が図れる点です。電子データで保存管理を行うと、今まで紙で行っていたファイリングやラベリング、封入、発送業務など書類管理にかかる手間が大幅に軽減できます。
これにより、従業員は他の業務に集中できるようになり、組織全体のパフォーマンス向上が期待できます。
コスト削減につながることも、電子帳簿保存法を活用するメリットのひとつです。具体的には、紙やインク、保管用のファイル代、郵送代などの経費が削減できます。
また、経理に関わる人件費だけではなく、保管スペースを借りている事業者はトランクルームの賃料などのランニングコストも軽減できます。システム導入で初期投資はありますが、長期的な視点ではコスト削減の効果が期待できます。
紙での書類の管理は、物理的なリスクが伴います。例えば、紙の破れや汚れ、紛失、盗難の危険もあるでしょう。電子保存に対応することで、これらのリスクを大幅に軽減し、安全にデータが管理できます。
さらに、予期せぬ水害や火災などの災害が発生しても、クラウドにバックアップをとっておけば、大切なデータを安全に守ることが可能です。
電子保存を活用することで、紙で保存していた書類やファイルが不要になるため、空いたスペースを有効活用できます。
空いたスペースには、新たな設備の導入や従業員の作業スペースとして活用できるため、社内環境の改善にも役立つでしょう。
電子帳簿保存法の改正は頻繁に行われるため、いくつかのポイントを押さえることが重要です。ここでは、電子帳簿保存法の改正にうまく対応するコツを解説します。
改正の多い電子帳簿保存法に上手く対応するためには、電子帳簿保存法に対応したシステムの導入がおすすめです。クラウド型の会計ソフトなら、すぐにアップデートできるため、改正による変更に混乱する心配がありません。
また、紙の書類でやり取りを行っている取引先がある場合は、スキャナ保存と電子データ保存の両方に対応したシステムであれば、業務の効率化が図れます。
見積書や請求書など電子データと紙が混在する企業では、管理方法を一元化することで書類管理が効率的に進められます。具体的には、以下の方法が考えられます。
一元化の方法 |
メリット |
すべて紙で出力し保管する |
|
すべて電子データで保存する |
|
どちらにもメリットはありますが、電子取引で受領した書類は電子データのまま保存する義務があるため、紙での一元管理を選択した場合、紙に出力してからデータとして保存する必要があります。そのため、効率面では電子データの一元化が最適でしょう。
電子帳簿保存法に関するよくある質問と回答を解説します。
紙で受領したレシートは、2024年1月以降も紙のままの保存が可能です。しかし、紙のレシートは感熱紙を使用したものが多いため、色褪せによる影響で文字が読み取りにくくなるリスクがあります。適切な保存のためには、コピーを取るか、スキャンして電子保存をするのがおすすめです。
電子帳簿保存法の対象書類は、基本的に税務申告に必要な以下のような書類が対象となります。
国税関係帳簿 |
決算関係書類 |
取引関係書類 電子取引書類 |
|
|
|
判断に迷う場合は、税理士や税務署、経理ソフトのサポートに相談して確認しましょう。
デジタル化の流れに応じて、電子帳簿保存法も改正が重ねられています。2024年以降、電子取引のデータ保存が義務化される一方で、検索機能やスキャナ保存の要件が緩和され、実務での運用がしやすくなっています。
この法改正を、業務のデジタル化推進の好機として活用しましょう。
参照:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました」〜令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要〜