更新日:2024.11.29
ー 目次 ー
電子帳簿保存法の施行により、電子取引は電子データとしての保存が義務付けられています。電子データとして保存する際、ファイル名に関して次のような疑問を抱く方もいるでしょう。
「ファイル名には決められたルールはあるの?」
「電子データを保存する際のフォルダ管理の方法は?」
「データは何年保存するの?」
本記事では、これらの実務的な疑問を解消するため、電子帳簿保存法に基づくファイル名設定のルールや、実践的なポイントをわかりやすく解説します。この記事を読んで、適切なファイル管理ができるようにしましょう。
2024年1月1日から電子取引でやりとりしたデータは、電子データでの保存が義務化されています。ここでは、電子データを保存する際のファイル名のルールを解説します。
電子帳簿保存法では、ファイル名に関する具体的なルールは明示されていません。ただし、データの保存方法は、次の3つに分類されています。
電子帳簿等保存(任意適用) |
電子的に作成した帳簿や書類をデータのまま保存 |
スキャナ保存(任意適用) |
紙で受領・作成した書類を画像データで保存 |
電子取引データ保存(法人・個人事業者は必須対応) |
電子的に授受した取引情報をデータで保存 |
国税関係帳簿書類のデータ保存やスキャナ保存への対応は任意ですが、メールやクラウドサービスで受領したデータは、電子データのままで保存することが義務付けられています。そのため、ファイル名を適切に設定して保存する必要があります。
参照:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました」〜令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要〜
電子帳簿保存法では、電子データを保存するため「検索機能の確保」が求められます。検索機能の確保とは、保存した電子データを速やかに検索、閲覧できるようにすることです。
法令を遵守したうえでファイル名を設定するためには、下記3つの検索要件のうち、少なくとも1つ以上の基準を満たす必要があります。
(1)取引年月日、取引金額、取引先により検索できること
(2)日付または金額の範囲指定により検索できること
(3)二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること
そのため、規則的なファイル名の設定が求められます。
ここでは、具体的な記載例を用いて電子帳簿保存法におけるファイル名の設定方法を解説します。まず、ファイル名を設定する際は、以下のようなルールを決めることが重要です。
ファイル名:取引年月日_取引先名_取引金額_書類の種類
【記載例】
20241101_〇〇株式会社_100000_見積書.pdf |
20241115_〇〇文具店_15000_領収書.pdf |
20241130_株式会社〇〇商事_250000_請求書.pdf |
このように、取引年月日や取引先名、金額、書類の種類を規則的に記載します。順番は前後せず、すべての書類に対して同じルールを適用しましょう。
ファイル名を設定したあとは、やり取りした取引をエクセルなどで一覧表にすると検索機能の要件を満たせます。一覧表は、2つ以上の記録項目を組み合わせて検索できることが求められます。
ファイル名をつけた電子データは、以下のような一覧表にまとめると良いでしょう。
【取引台帳の記載例】
連番 |
取引年月日 |
取引先 |
金額 |
書類 |
1 |
2024/11/01 |
〇〇株式会社 |
100,000円 |
見積書 |
2 |
2024/11/15 |
〇〇文具店 |
15,000円 |
領収書 |
3 |
2024/11/30 |
株式会社〇〇商事 |
250,000円 |
請求書 |
ファイル名の内容に従い、取引年月日、取引先、金額、書類の名前を記載します。検索しやすいように、ファイル名には日付順に連番の数字を入力しておくのがおすすめです。
電子帳簿保存法に基づくファイル名を設定する際は、以下3つのポイントを押さえましょう。
それぞれ解説します。
ファイル名を入力する際は、規則的なファイル名に統一しましょう。企業ごとに順番を変えず、すべて同じルールでファイル名を付けると検索しやすくなります。
例:取引年月日_取引金額_取引先 |
順序は変えず、1項目ごとにアンダーバーで区切ると分かりやすくなります。情報を入れすぎるとファイルを探す手間が増えるだけではなく、取引先もファイルの区別がしづらくなるため、できるだけシンプルな構成で設定しましょう。
ファイル名の日付は、電子データを受領した日ではなく取引年月日で揃えます。例えば、2024年11月30日の請求書を12月1日に受領した場合は、20241201とせず「20241130」と記載します。
取引年月日は、和暦、西暦どちらでも構いませんが、混在を防ぐためどちらかに統一しておくと良いでしょう。
ファイル名に記載する取引金額は、帳簿の処理方法に合わせて設定しましょう。税抜経理または税込経理どちらかに統一すると、経理処理がスムーズになります。
国税庁のサイトでは、取引金額に関して、税抜・税込どちらとすべきかの質問に以下の回答を示しています。
"帳簿の処理方法(税込経理/税抜経理)に合わせるべきと考えられますが、受領した国税関係書類に記載されている取引金額を検索要件の記録項目とすることとしても差し支えありません"
(引用:国税庁「お問い合わせの多い質問(令和3年11月)」)
ファイル名に使用する金額は、税抜・税込のどちらでも構いません。帳簿に記載された取引金額をそのまま使用することも可能です。ただし、管理が複雑化しないよう組織として統一した基準を設定し、関係者間で共有するのが望ましいでしょう。
取引先に電子データを送る際は、配慮すべき点がいくつかあります。記載例は以下のとおりです。
【記載例】
2024年11月分_〇〇有限会社御中_印刷代請求書.pdf |
【御見積書】2024.12.01_株式会社〇〇御中_広告宣伝費用.pdf |
書類先に電子データを送付する際は、改ざん防止のためMicrosoft Word、Microsoft Excelなどの編集可能なファイルではなく、PDF形式に変換して送付しましょう。
ここからは上記の記載例に基づいて、取引先に送る際のポイントを紹介します。
取引先向けのファイル名は、一目で内容がわかるようシンプルな表記にします。請求書の場合は、取引年月日ではなく、取引月や取引内容を記載しておくとファイル名だけで情報を提示しやすくなります。
見積書を送る際は、先頭に「見積書」と記載し、日付、会社名、サービス内容などを明記しておくと取引先も確認しやすくなります。また、株式会社や有限会社を表記する際は㈱や㈲などの略号は文字化けする恐れがあるため、使わないようにしましょう。
さらに、ビジネスマナーとして会社名のあとには「御中」を添えると丁寧です。
電子データを保存する際は、電子取引の種類に合わせた保存方法が大切です。ここでは、4つの保存方法を解説します。
電子メールで請求書や領収書を受け取った場合は、以下2通りの保存方法があります。
Microsoft WordやMicrosoft Excelのファイル形式で受領したデータはPDFに変換して保存します。パスワードが付与されている場合は、解除してからの保存が認められています。
発行元のWebサイトからデータをダウンロードする場合は、自社のクラウド上もしくはサーバーに保存します。なお、HTML形式で受領した電子データは、以下の対応が必要です。
変換できないデータの場合は、スクリーンショットによる画像保存も認められています。
クラウドサービスを利用して受け取った電子データは、クラウド上にそのまま保存可能な場合が多いです。または、クラウドサービスからPDF形式でダウンロードし、サーバーに保存する方法も選べます。
社員がスマートフォンのアプリを利用して経費を立て替えた場合は、アプリに表示されたデータを電子メールで経理担当者に送信し、自社システムに保存しましょう。
なお、スマートフォンでスクリーンショットしたデータでの保存も認められています。
電子帳簿保存法では、フォルダ分けに関する具体的なルールは定められていません。ただし、国税庁の一問一答では、データの格納先について次のような説明があります。
「電子データの格納先や保存方法についても、取引データの授受の方法等に応じて複数に分かれることは差し支えありませんが、電子データを検索して表示する場合には、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるように管理しておく必要があります。」
そのため、必要なときにデータを迅速に取り出せるよう、適切にフォルダを分けることが大切です。主なフォルダの分け方は、以下のとおりです。
【フォルダ分けの一例】
2024年案件別フォルダ |
||
A社 |
B社 |
C社 |
|
|
|
まず、年度別、案件別のフォルダを作成し、その中に取引会社ごとのフォルダを作ります。さらに取引会社のフォルダ内に、見積書、請求書、領収書など書類別にフォルダを作成します。
取引先の数が多い場合は、フォルダ分けが細かくなり作業が煩雑になる可能性があるため注意が必要です。このような場合は、電子帳簿保存法に対応したシステムの活用を検討すると良いでしょう。
フォルダ分けした電子データには、保存期間が設けられています。保存期間は、法人、個人事業主、書類の種類によって異なるため注意が必要です。
ここでは、電子データの保存期間をケース別に解説します。
法人の場合、帳簿や取引に関連する書類は、確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存が義務付けられています。また、下記に該当する事業者は、10年間の保存が必要です。
個人事業主の場合は、以下のように保存期間が定められています。
帳簿の種類 |
保存期間 |
|
青色申告者 |
|
7年保存 |
|
5年保存 |
|
白色申告者 |
|
7年保存 |
|
5年保存 |
個人事業主の場合は、青色申告と白色申告、書類の種類によって保存期間が異なるため、注意が必要です。
副業などの雑所得がある人のうち、前々年分の業務による収入が300万円を超える場合は、5年間の保存が求められます。この場合、300万円は経費を差し引いた金額(所得)ではなく、売上金額(収入)となるため注意してください。
適格請求書は、法人、個人事業主に関わらず7年間の保管が義務付けられています。また、買手側の事業者は、適格請求書の保存が仕入額控除の要件となるため、適格請求書の控えも保存が必要です。
個人事業主の場合、請求書は原則5年間の保存が必要ですが、適格請求書に該当する場合は7年間保存する必要があるため、気をつけましょう。
参照:国税庁「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き」
電子帳簿保存法のファイル名に関するよくある質問と回答を解説します。
はい、保存が必要です。電子帳簿保存法では、メールなどの電子取引で発行した請求書の控えは、電子データとしての保存が義務付けられています。
電子帳簿保存法では、ファイル名そのものに関する罰則は定められていません。ただし、ファイル名が不規則で検索機能が十分に確保されていない場合は、罰則の対象となる可能性があるため、注意が必要です。
電子帳簿保存法が定める検索機能の要件を満たすため、ファイル名には取引年月日や取引先名、金額など必要な情報を規則的に記載する必要があります。また、このように体系的なファイル名を設定することで、効率的に検索できます。
取引先に送る際は、ファイル内容が一目で把握できるような配慮も大切です。ファイル名のルールは組織内で統一し、電子帳簿保存法に準じた適切なファイル名を設定しましょう。