更新日:2026.07.24

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2024年1月から、電子帳簿保存法(電帳法)における電子取引データの電子保存が全事業者に義務化されました。その保存要件の1つが「真実性の確保」であり、これをコストゼロで満たせる現実的な手段が「事務処理規程」の整備です。
本コラムでは、事務処理規程の役割・作成方法・運用ポイントを、2026年最新の法令情報に基づいて解説します。
電子帳簿保存法(電帳法)は、国税関係帳簿書類を電子データで保存するためのルールを定めた法律です。1998年の制定以降、たびたび改正が行われ、2024年1月からは電子取引データの電子保存が完全義務化されました。
電帳法は、保存対象となるデータの発生源によって以下の3区分に分かれています。このうち任意なのは①②、義務なのは③のみという点が実務上のポイントです。
| 区分 | 対象 | 対応 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| ① 電子帳簿等保存 | 自社で電子的に作成した帳簿・書類 | 任意 | 会計ソフトで作成した総勘定元帳・仕訳帳、決算書 |
| ② スキャナ保存 | 紙で受領・作成した書類 | 任意 | 紙の請求書・領収書をスキャンして保存 |
| ③ 電子取引データ保存 | 電子的に授受した取引情報 | 義務 | メール添付のPDF請求書、ECサイトの領収書、EDI取引 |
電子取引データ保存の義務化は当初2022年1月に施行されましたが、準備が整わない事業者へ配慮し、2022〜2023年の2年間は「宥恕措置」により紙保存も認められていました。
2024年1月以降は宥恕措置に代わり、以下の要件を満たす場合に限り「猶予措置」が適用されます(期限は現時点で未定)。
※猶予措置を受けている場合でも、電子データそのものの保存は必須です(紙のみ保存で電子データを破棄することは認められません)。
事務処理規程とは、電子帳簿保存法における「真実性の確保」要件を満たすために、社内で電子データの訂正・削除ルールを明文化した文書です。単なる社内マニュアルではなく、税務調査時に「改ざん防止の措置を講じている」ことを客観的に示す根拠となります。
電子取引データを保存する際は、以下の2要件を満たす必要があります。どちらか一方を満たせば良いのではなく、両方を同時に満たさなければならない点が重要です。
| 要件 | 内容 | 対応方法の例 |
|---|---|---|
| 真実性の確保 | データが改ざんされていないことを担保する | タイムスタンプ、訂正削除履歴が残るシステム、事務処理規程 など |
| 可視性の確保 | データをいつでも検索・提示できる状態にする | ディスプレイ・プリンタの備付け+「取引年月日・金額・取引先」の3項目で検索可能にする |

真実性の確保は、以下4つのうちいずれかを講じれば要件を満たします。このうち④が事務処理規程の整備・運用にあたり、コスト面で最も現実的な選択肢とされています。
| 措置 | 概要 | 主なコスト | 向いている事業者 |
|---|---|---|---|
| ① タイムスタンプ付与済データの授受 | 取引先が付与したタイムスタンプ付データを受領 | 取引先依存 | 一部の取引のみ対応可 |
| ② 受領後にタイムスタンプ付与 | 授受後、おおむね7営業日以内に自社でタイムスタンプを付与 ※事務処理規程を定めている場合は「最長2か月+おおむね7営業日以内」まで延長可 |
月額数千円〜 | 取引量の多い中堅企業以上 |
| ③ 訂正削除履歴が残るシステム利用 | JIIMA認証取得の会計ソフト・文書管理システム等を使用 | 月額数千円〜 | クラウド会計を活用する企業全般 |
| ④ 事務処理規程の整備・運用 | 訂正・削除の防止ルールを社内規程で定める | ほぼ無料 | コスト制約のある中小企業・スタートアップに特に有効(規模を問わず選択可) |
事務処理規程は法令対応にとどまらず、以下の副次的なメリットももたらします。
事務処理規程は「電帳法対応のため」だけの文書ではありません。経理部門の運用効率・コンプライアンス強化・内部統制といった観点でも有効です。ここでは、規程整備がもたらす4つのメリットを整理します。
| メリット | 内容 | 経理にとっての価値 |
|---|---|---|
| ① コスト圧縮 | タイムスタンプや高額システム導入なしで電帳法対応が可能 | 予算稟議のハードルを下げ、早期対応につながる |
| ② 業務標準化 | 電子データの保存場所・命名規則・訂正手順を全社統一 | 属人化を防ぎ、担当者交代時の引継ぎコストを削減 |
| ③ 監査・税務調査耐性 | 「なぜこのルールで運用しているか」を客観的に説明できる | 青色申告取消し・仕入税額控除否認のリスクを回避 |
| ④ 内部統制強化 | 責任者・処理担当者・訂正削除申請フローの明確化 | 上場企業・子会社を持つ企業のJ-SOX対応にも寄与 |
多拠点展開している企業や上場(子会社あり)企業では、拠点ごとにローカルルールで電子データが処理されると、監査で統一性を証明できません。事務処理規程を本社主導で整備し、全拠点で運用する体制が、内部統制上不可欠です。
特にM&A後や子会社統合時は、旧法人ごとに異なっていた電子取引の運用ルールを本社規程に統一する必要があります。事務処理規程は、この統合作業の基準文書としても機能します。
事務処理規程はゼロから作成する必要はありません。国税庁が公表している雛形をベースに、自社の実態に合わせて修正するのが最も効率的で確実な方法です。
国税庁は電帳法対応に活用できる各種サンプルをWord・Excel形式で無料公開しています。電子取引に対応するには、下表の1つ目(法人)または2つ目(個人事業者)を利用します。可視性確保のための索引簿サンプルも併せて活用しましょう。
| サンプル種別 | ファイル形式 |
|---|---|
| 電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程(法人の例) | Word/25KB |
| 電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程(個人事業者の例) | Word/18KB |
| 索引簿の作成例(可視性確保用) | Excel/11KB |
| スキャナによる電子化保存規程 | Word/20KB |
| 国税関係書類に係る電子計算機処理に関する事務の手続を明らかにした書類 | Word/16KB |
| 国税関係帳簿に係る電子計算機処理に関する事務手続を明らかにした書類 | Word/13KB |
ダウンロード先:国税庁 参考資料(各種規程等のサンプル)

実務では以下の流れで整備を進めます。特にステップ①の対象範囲特定を丁寧に行うことで、規程が形骸化しない実効性のある文書になります。
| ステップ | 実施内容 | 担当 |
|---|---|---|
| ① 対象範囲の特定 | 電子取引に該当する取引を洗い出し(EDI・メール添付PDF・ECサイトDL・クラウド請求書 等) | 経理・情報システム |
| ② 保存場所の決定 | 保存先サーバー/クラウドを1か所に集約し、アクセス権限を設計 | 情報システム |
| ③ 雛形の入手・修正 | 国税庁のサンプルをダウンロードし、自社名・責任者・対象データを追記 | 経理 |
| ④ 責任者の任命 | データ管理責任者・処理責任者を明記(役職名で指定推奨) | 経理課長・総務 |
| ⑤ 社内周知・運用開始 | 社内イントラで公開し、経理・関連部門で説明会を実施 | 経理・総務 |
国税庁サンプルおよび電子帳簿保存法取扱通達を踏まえた、最低限の記載項目は以下のとおりです。自社の業務実態に応じて追記・修正を行いましょう。
| 項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 目的 | 電子帳簿保存法第7条(電子取引)に関する規程である旨 |
| 適用範囲 | 対象部門・対象取引 |
| 管理責任者 | 経理課長/情報システム部長 等 |
| 電子取引の範囲 | 見積書・注文書・請求書・領収書・契約書 等 |
| 保存場所・保存年数 | ○○サーバー内/原則7年(欠損時10年) |
| 運用体制 | 管理責任者・処理責任者の役割 |
| 訂正削除の原則禁止 | 保存後の訂正・削除は原則禁止する旨 |
| 訂正削除を行う場合の手続 | 申請書提出→責任者承認→履歴保存 の流れ |
保存期間の設定は、税法上の要件に沿う必要があります。事業形態や書類の種類、欠損金の有無で異なる点に注意しましょう。特に法人の場合、欠損金の繰越控除を受ける事業年度は10年保存となる点を見落としがちです。
| 事業者区分 | 状況 | 保存期間 |
|---|---|---|
| 法人 | 通常 | 原則7年 |
| 法人 | 欠損金の繰越控除を受ける事業年度 | 10年(平成30年4月1日前開始は9年) |
| 個人事業主(青色申告) | 帳簿・決算関係・現金預金取引等関係書類 | 7年 |
| 個人事業主(青色申告) | その他の取引関係書類 | 5年 |
| 個人事業主(白色申告) | 法定帳簿 | 7年 |
| 個人事業主(白色申告) | それ以外の帳簿書類 | 5年 |
| 課税事業者(インボイス発行事業者含む) | 消費税法上の書類 | 7年 |
※起算日は「確定申告書の提出期限の翌日」です(事業年度終了日ではありません)。
参考
国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間 / 記帳や帳簿等保存・青色申告 / No.6621 帳簿の記載事項と保存
事務処理規程は「作らなくても即座に罰金」というものではありません。しかし、電帳法の保存要件を満たせない状態は、税務・会計の両面で重大な不利益を招きます。特に以下4つのリスクは押さえておくべきポイントです。
| リスク | 内容 | 影響度 |
|---|---|---|
| ① 青色申告の承認取消し | 保存要件を満たさない=帳簿書類の保存が適正でないと判断された場合 | 大(欠損金繰越控除・各種特別控除が使えなくなる) |
| ② 仕入税額控除の否認 | 消費税法上、帳簿・請求書等の保存が仕入税額控除の要件 | 大(消費税負担が大幅増加) |
| ③ 重加算税の10%加重 | 電子取引データに係る記録事項について隠蔽・仮装があった場合、その事実に基づく申告漏れ等に課される重加算税が10%加重(電帳法第8条第5項) | 大 |
| ④ 推計課税・信用低下 | 帳簿の裏付けが不十分となり、税務調査で推計課税を受けるリスク | 大(金融機関・取引先からの信用にも影響) |
※加重対象は「重加算税」のみで、過少申告加算税・無申告加算税単体は対象外です。ただし電子取引データに関する隠蔽・仮装が認定されれば、重加算税(35%または40%)+10%加重=最大50%の税負担となります。
上場企業や子会社を持つ企業では、内部統制監査(J-SOX)・M&Aデューデリジェンスの場面でも、電帳法対応の整備状況が問われます。事務処理規程はその「整備している証拠」として機能する文書です。
また、M&A後の請求管理統合の局面では、被買収企業側の電子取引ルールが本社基準と異なるケースが多く、事務処理規程の統一が経理統合の第一歩となります。
事務処理規程は一度作成すれば完了ではありません。法改正・業務変化・技術進化に合わせて定期的に見直す運用が求められます。ここでは実務で押さえたい3つの運用ポイントを整理します。
| 視点 | 具体的な取り組み |
|---|---|
| ① 定期見直し | 年1回以上、法改正・業務フロー変更・システム更改のタイミングでレビュー |
| ② 責任者による内部監査 | データ保存状況、アクセス権限、訂正削除履歴のサンプルチェック |
| ③ 従業員教育 | 新入社員・異動者向けの説明会、eラーニング、Q&Aの整備 |
事務処理規程は電帳法だけを見ていれば足りるわけではありません。以下の関連法規も併せて確認し、規程の内容に矛盾がないよう整合を取りましょう。
| 関連法規 | 押さえるポイント |
|---|---|
| 個人情報保護法 | 電子取引データに含まれる個人情報の管理・第三者提供ルール |
| 不正競争防止法 | 営業秘密の指定・アクセス制限(限定提供データ含む) |
| インボイス制度(消費税法) | 適格請求書の保存要件との整合 |
| 会社法 | 計算書類の保存期間(10年) |
令和7年度税制改正により、令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税から、国税庁長官が定める基準に適合する「特定電子計算機処理システム」を利用し、一定の要件を満たして保存された電子取引データ(特定電磁的記録)は、電子取引データに係る重加算税の10%加重措置の対象外となります。
対象となるシステムの基準には、デジタル庁が管理するデジタルインボイス標準仕様(JP PINT・JP Self-Billing)による取引データや、金融機関の決済データ(ZEDI等)を、要件に従って保存できる機能を備えていることが含まれます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 適用開始 | 令和9年1月1日以降に法定申告期限が到来する国税 |
| 除外対象 | デジタルインボイス(Peppol系)・預貯金口座の決済データ等を、特定電子計算機処理システムで送受信・保存した電子取引データ |
| 要件 | ①訂正削除履歴が残るシステムでの授受・保存 ②金額の訂正削除履歴を電子帳簿と紐付け可能 ③電子取引データと電子帳簿の相互関連性の確保 ④上記システム使用の事実を確認できる状態 |
| 事前手続 | あらかじめ届出書の提出が必要 |
参考:国税庁 令和7年度税制改正の大綱
また、青色申告特別控除65万円の適用要件についても、上記システムを使用して電子取引データを保存している事業者に適用可能となる措置が新設されます(令和9年分以後の所得税)。デジタルインボイスへの対応は、令和9年以降の税務対策として重要な選択肢となる見込みです。
さらに令和8年度税制改正では、青色申告特別控除の控除額体系そのものが見直されます。令和9年分以後の所得税では、従来の「55万円控除」が廃止され、e-Tax申告が実質必須化されるとともに、優良な電子帳簿の保存や適格請求書データの自動連携を満たす場合に最大75万円控除が適用される見込みです。事務処理規程による足元の対応と並行して、電子帳簿・申告のデジタル化を進めることが、控除額の確保にも直結します。
参考:国税庁 令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)(抄)
※数値・適用時期は改正の施行内容により変わり得るため、公開時に国税庁の最新情報でご確認ください。
電子帳簿保存法対応において、事務処理規程は「真実性の確保」を担うコストゼロの現実的な選択肢です。特に中小企業・スタートアップにとっては、タイムスタンプや高額システムの導入なしで法令対応できる貴重な手段といえます。
一方で、規程は作って終わりではなく、運用と定期見直しが不可欠です。電子取引の拡大、法改正、業務フロー変更に合わせてブラッシュアップしていくことが、税務調査耐性・内部統制の両面で価値を発揮します。
株式会社インボイスでは、経理担当者がすぐ着手できるよう、税理士監修の『事務処理規程の作り方ガイド』を無料で配布しています。
| 章 | 掲載内容 |
|---|---|
| 1章 | 電子帳簿保存法と事務処理規程の全体像 |
| 2章 | 事務処理規程の基本構成と作成方法 |
| 3章 | 作成時に押さえるべき実務ポイント(国税庁サンプル活用術) |
| 4章 | 実施・運用体制の作り方(責任者設計・内部監査) |
| 5章 | 関連法規への対応と最新の法改正フォローアップ |
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