更新日:2026.03.26

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2027年3月末で紙の手形・小切手の交換制度が終了すると、これまで手形が果たしていた"調整役"がなくなり、経理現場で見えにくかった請求業務の属人化リスクがより明確になる可能性があります。具体的には、本社・支店など各拠点で請求書の到着ルートや処理タイミングが異なったり、担当者個人の経験や暗黙知に頼った支払条件の判断、あるいはチェック・承認フローがブラックボックス化しているケースが課題として挙げられます。
本記事では、手形廃止が経理業務に与える本質的な影響や、今後備えるべきポイント、属人化リスクへの具体的対策まで、現場視点で詳しく解説します。
参照:紙の手形・小切手利用廃止へ | 一般社団法人 全国銀行協会
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2027年3月末で紙の手形・小切手の交換制度が終了することで、経理業務における「請求業務」の課題が表面化する可能性があります。支払業務は自社主導で管理できる一方、受領請求業務は、取引先や現場ごとの運用ルールに強く影響されてきます、手形が存在していた時代は、業務の不備や調整事項が表面化しにくい状態でしたが、廃止と電子化への移行で表面化することも考えられます。
今後、決済が即時性を持ち、データ上で管理されるようになることで、これまで見過ごされていた業務の属人化や運用の曖昧さが、経理部門で課題として認識されるようになります。以下、具体的にどのような要因が「受領請求業務」の複雑化につながるのかを整理します。
紙の手形・小切手の交換制度は、政府の方針に基づき、2027年3月末での廃止が決定されました。これは、金融庁と全国銀行協会が一体となって推進するキャッシュレス化・ペーパーレス化の流れを汲むものです。近年、手形・小切手の利用枚数は大幅に減少し、ピーク時から約20分の1にまで落ち込んでいます。
一方、代替手段である電子記録債権(でんさい)の利用は過去5年間で約2.5倍に増加しており、デジタル決済への移行が進んでいる現状があります。このような状況を受け、業務の効率化、コスト削減、さらには金融インフラの近代化を目的として、手形・小切手の廃止が決定されました。
これまでの手形運用では、請求内容の遅延や金額の誤り、契約書類の不備、支払条件の曖昧さといった課題があっても、「今回は手形で処理し、次回で調整する」といった柔軟な対応が可能でした。手形は、受領請求業務で発生する細かなミスや未整備な運用を一時的に受け止める"緩衝材"のような役割を果たし、現場の問題を目立たせない仕組みとなっていました。
この調整機能がなくなることで、これまで見過ごされてきた運用の曖昧さがより明確になるかもしれません。
紙の手形が廃止されると、主な決済手段は振込や電子記録債権(でんさい)へと移行します。これらの決済方法は、手形に比べて支払サイトが短くなる傾向があり、実質的に支払タイミングが前倒しされる可能性があります。
これまで手形は、支払期日までの猶予期間を提供し、企業の資金繰りにおいて重要な調整役を担ってきました。この「時間的なクッション」がなくなることで、資金繰り計画の再構築や、より厳密なキャッシュフロー管理が求められます。
特に、手元資金が潤沢でない企業や、手形による長期サイトに慣れていた企業にとっては、資金調達のタイミングや運用計画の見直しが急務となるでしょう。また、支払条件の交渉や期日管理が属人化している場合、予期せぬ資金ショートや取引先とのトラブルに発展するリスクも高まります。
手形廃止は、資金管理のプロセスそのものの見直しを促し、経理部門における資金管理の透明性と計画性を一層高める契機となります。

手形廃止後は、振込や電子記録債権(でんさい)が主な決済手段となるため、支払金額や期日、証憑書類に少しでも不一致があると、決済トラブルや確認作業の遅延につながるリスクが生じやすくなります。以前のように、属人的な判断や担当者の記憶に頼った業務運用では、決済の正確性や業務の透明性が担保できなくなります。
つまり、紙の手形が不要になることで「請求の精度」がこれまで以上に求められ、経理業務の属人化や業務フローの曖昧さが見直しを求められるようになります。
手形の廃止によって、これまで経理現場で見えにくかった属人化の課題が表面化するかもしれません。経理担当者が日々行ってきた取引先ごとの判断や柔軟な運用が、紙の手形という"クッション"を失うことで表面化するためです。
長年の慣習や個人の経験則に頼ってきた企業だと、標準的なルールが確立されていないケースもあり、誰が担当しても同じように処理できる状態にはなっていません。電子記録債権や振込への移行によって、各取引の根拠や決済条件が明確に問われるようになれば、これまで個人の裁量で吸収してきた調整が難しくなることも想定されます。
手形処理や支払業務が属人化していた場合、手形廃止による影響は、特定の担当者がいないと業務が進まなくなってしまいます。たとえば、異動や退職、長期休暇で担当が不在になると、支払条件の判断や取引先からの問い合わせに誰も対応できないことが発生します。
従来は手形が一時的な調整役となっていたため、多少の遅れや不一致があっても現場で吸収できていました。ですが、手形廃止後はこうした「クッション」がなくなり、不備や遅れが全社的なトラブルにつながる可能性があります。
適切な業務の引き継ぎや、属人化を解消した体制構築が求められます。
手形・小切手の銀行間交換制度廃止により、経理部門では一時的な業務混乱だけでなく、組織全体のガバナンスや監査対応に関するリスクが懸念されます。これまで紙の手形が持っていた調整機能が失われることで、これまで見過ごされてきた内部統制の不備や監査対応の難しさも課題になるかもしれません。
特に拠点が複数ある企業やM&Aを経験した組織では、請求・支払ルールが統一されていないことが多く、手形廃止を契機に不整合が表面化する可能性もあります。この章では、経理が直面する具体的なリスクにフォーカスし、実務で注意すべきポイントを整理します。
手形の廃止により、証憑と決済との突合が求められる一方、これまで手形処理で吸収されてきた些細なミスや例外処理が可視化されます。たとえば、請求書と支払い実績が正確に対応していない場合、不正や二重支払いといったリスクが高まる可能性があります。
また、監査時には「なぜこの処理が行われたのか」や「どのような基準で承認されたのか」といった説明を求められ、担当者ベースの運用では対応が難しくなることがあります。従来の手形文化では曖昧な運用でも何とか回っていた部分が、デジタル決済や即時処理への移行で厳密な証跡管理が必須となり、内部統制の脆弱性が顕在化しやすくなります。
子会社や複数拠点を持つ企業では、請求業務の運用が現場ごとに異なっているケースが少なくありません。手形という共通ツールがあった時代は、現場ごとの慣習や個別調整でもなんとか対応できていました。
しかし、手形廃止によって、電子記録債権や振込など新たな決済手段に切り替えると、拠点ごとに異なる運用ルールや特例対応が、手形廃止によって表面化することが考えられます。特にM&Aで統合したばかりの組織では、請求・支払ルールがバラバラのままだと、決済ミスや業務停止、監査時の説明困難など、リスクが顕在化する可能性があります。
手形廃止は、経理業務の均質化や標準化を進める上で良い機会です。
2027年3月末で紙の手形と小切手の交換制度が終了することで、あらゆる経理現場に請求業務の見直しが求められています。従来の手形運用では、担当者ごとの判断や現場独自のやり方でも業務が成立していました。しかし、電子化や即時決済への移行によって、曖昧な運用や担当者の経験に頼る方法が難しくなってきます。
この章では、単に紙のやり取りをやめるだけでは課題解決につながらない理由と、業務設計の見直し、そして現実的な進め方として科目を絞った段階的デジタル化の重要性について解説します。
一般社団法人全国銀行協会が推奨する、でんさい等の電子記録債権やインターネットバンキングへの振り込みを検討いただくのをまず推奨します。
参照:紙の手形・小切手利用廃止へ | 一般社団法人 全国銀行協会
紙の手形を廃止しても、請求書の受け渡し経路や支払ルールが整理されていなければ、担当者の裁量や経験則に頼った属人化の問題は、紙を廃止しただけでは経理負荷の解消はされません。たとえば、請求書が本社・支店・現場など複数の経路でバラバラに届いている場合や、「この条件は今回は例外」といった運用が人の記憶にしか残っていないケースが典型です。
こうした状況では、たとえ電子的な仕組みを導入しても、業務の流れや判断基準が不明確なまま温存されてしまい、属人化の問題は解消できません。まずは、請求書の流入口や支払条件を明確にし、判断基準やルールを標準化することが不可欠です。
システム化やDXの導入は、現場の属人的な運用を隠すことは困難になります。むしろ、紙の手形がなくなることで「誰が・どの条件で判断しているか」が可視化され、これまで見えにくかった業務の不透明な部分が、明確になるでしょう。
これを機に、担当者の経験や暗黙知に頼らず、台帳やマニュアルに業務プロセスを落とし込むことが重要です。今こそ、業務設計そのものを見直し、誰が担当しても同じ基準で処理できる体制づくりに取り組む良い機会です。
請求業務全体を一度にデジタル化するのは、負担が大きくなりがちです。頻度が高く処理量も多い科目や業務からデジタル化を始めることで、効果を実感しやすく、徐々に他の領域へと広げていくことができます。こうした段階的な取り組みが、経理体制全体の標準化と効率化につながります。
手形廃止は、経理業務を単に効率化する制度変更ではなく、これまで担当者の経験やノウハウに依存していた受領請求処理の問題点が、より明確になる契機となります。2027年3月末には紙の手形・小切手が実務上利用できなくなり、現状、電子記録債権や口座振込への移行は徐々にシフトしています。
実際、代替手段としての電子記録債権の利用は過去5年間で約2.5倍に増加し、手形・小切手の利用枚数はピーク時から20分の1まで減っているというデータも出ています。こうした急速な環境変化の中で、経理担当者が「これまでのやり方」に固執すると、ミスや内部統制上のリスクが生じやすくなる可能性があります。属人化を前提にしない業務体制への移行が不可欠です。
でんさい等の電子記録債権やインターネットバンキングへシフトしつつ、標準化・デジタル化を進めることが現実的な一歩です。
手形が廃止されることで、経理部門は「人にしかできない調整」や「担当者ごとの暗黙知」に頼ることが難しくなります。紙の手形時代には、請求書の遅れや金額の誤り、取引先ごとの特例対応なども、最終的に手形を回収できれば問題にならないケースが多くありました。
しかし、今後は振込や電子記録債権が決済の中心となるため、支払期日や金額の違い、証憑書類の不一致がトラブルの原因となる可能性があります。担当者の経験や記憶だけに頼っていた運用は、組織全体で管理できる仕組みに変える必要があります。
まずは、請求書の受領経路や支払いルール、チェック・承認の流れを整理し、属人化している部分を特定することから着手しましょう。