更新日:2026.02.18

ー 目次 ー
経理業務で手形の処理に戸惑うことはありませんか。たとえば、手形を振り出す・受け取る際の売掛金・買掛金からの振り替えや、決済時の二段階処理といった複雑な仕訳、複数の手形にまたがる期日管理の難しさ、あるいは発生すると資金繰りや企業信用に影響を及ぼす不渡り発生時の対応など、具体的な業務シーンで頭を悩ませることはないでしょうか。新たに経理に配属され、手形特有のルールや仕組みに不安を感じる方も少なくないでしょう。
本記事では、手形の基本(約束手形・為替手形といった種類や受取手形・支払手形といった勘定科目の位置づけ)から、手形受領・振出から決済までの実践的な代表仕訳例、二重計上や残高不一致といった計上ミスを防ぐための重要ポイントまでを網羅的に解説します。さらに、来る2027年3月の手形廃止を見据え、業務効率化や資金繰り改善を目的としたその背景から電子記録債権「でんさい」や振込決済といった新たな決済手段への移行、および今後の実務対応まで、経理担当者が押さえるべき情報を体系的に深掘りします。
こんな方におすすめ
この記事を読むと···
手形は、商取引において現金や振込以外で代金をやり取りする際に使われてきた、将来の支払いや受け取りを約束する証書です。近年、手形取引は一部の業種や中小企業で根強く残る一方、徐々に使用頻度が下がっています。
経理担当者としては、手形の役割や仕組みを正確に理解しておくことで、計上ミスや業務の混乱を避けることができます。この章では、手形の基本構造や実務で押さえるべき種類について解説します。具体的には、以下の内容を深掘りします。
手形とは、将来の特定の日に、決められた金額の支払いまたは受け取りを約束する文書です。たとえば、商品を納品した後、即時に現金をやり取りせず、一定期間後にまとめて支払う約束を正式な書面として残すのが手形の役割です。
現金払いや銀行振込と違い、実際に資金が動くのは約束した期日になってからです。そのため、手形は取引先との信頼関係を基礎にした信用取引の一形態として長年使われてきました。
経理業務で押さえておきたい主な手形には、「約束手形」と「為替手形」、さらに「受取手形」と「支払手形」があります。約束手形は、手形を作成した人が受取人に対して、決められた日にお金を支払うことを明記した証書です。これに対し、為替手形は、支払いを別の第三者に委託する形式で、三者が関与する決済方法である点が特徴です。
実務で圧倒的に多いのは約束手形です。また、「受取手形」は自社が代金を受け取る側、「支払手形」は自社が代金を支払う側で使われます。これらの違いを理解しておくことが、日々の仕訳や資金管理の正確さにつながります。
経理実務において「手形」は、取引内容を正確に記録するうえで欠かせない勘定科目です。2027年3月の手形廃止を前に、今なお多くの企業が日常的に手形取引を行っており、正しい知識が求められています。
この章では、まず「手形」勘定科目の位置づけを明確にし、売掛金・買掛金との違いや貸借対照表での扱いについて解説します。そのうえで、どのような場面で手形取引が発生しやすいのか、実際の取引シーンを具体的に押さえ、月次や期末で注意すべきポイントも整理します。経理初心者が理解を深め、計上ミスを防ぐための基礎を固める内容となっています。具体的には、以下の2点を解説します。
手形は会計上、「受取手形」は資産、「支払手形」は負債としてそれぞれ貸借対照表に記載されます。具体的には、受取手形は将来的に入金される権利を示すため資産に、支払手形は将来の支払い義務を表すため負債に分類されます。
売掛金や買掛金と異なり、手形は期日まで現金化できない点が特徴です。経理処理では、売掛金や買掛金から手形へ振り替えるタイミングを正確に捉える必要があり、記載の誤りが資金管理や決算に影響を及ぼすこともあります。
手形取引が発生するのは、主に売上代金の回収や仕入代金の支払い時です。たとえば、商品を納品した際に現金や振込ではなく、受取手形で代金回収を行うケースが挙げられます。
また、商品を仕入れた際に支払手形を振り出し、将来の決済日まで支払いを猶予する方法も代表的です。卸売業や製造業など法人間の取引で手形が多く用いられ、期末や月次の締め処理では未決済手形の管理が重要になります。決済日や振替処理の確認を怠ると、売掛金や買掛金に手形残高が二重計上されるリスクがあるため、実務では帳簿残高と手形台帳の突合が欠かせません。
手形の仕訳は、経理担当者にとって基礎となる知識でありながら、実際の業務では混乱しやすい部分です。特に2027年の手形廃止までの移行期間中は、従来のやり方に慣れていると見落としやすい点も出てきます。
この章では、受取手形・支払手形それぞれの仕訳例を具体的に解説し、よくある計上ミスや注意したいポイントについても整理します。実務で迷わず処理できるよう、仕訳の流れや判断基準をしっかり確認しておきましょう。具体的には、以下の4点を解説します。
ここでは実際の仕訳例を見てみましょう。
売上代金を現金や振込ではなく手形で受け取る場合、まずは売掛金から受取手形への振り替えを行います。たとえば、商品を納品し、後日約束手形を受け取る場合、以下の流れで仕訳を行います。
例:A社へ商品100万円を販売し、約束手形を受け取った場合
■商品販売時:A社へ商品を販売・約束手形を受取り
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借方 |
金額(円) |
貸方 |
金額(円) |
|---|---|---|---|
|
受取手形 |
1,000,000 |
売上 |
1,000,000 |
その後、決済日に現金化されたタイミングで「当座預金」や「普通預金」に記帳する流れです。
■手形決済(当座預金入金)時の仕訳:約束手形が決済され、当座預金に入金
|
借方 |
金額(円) |
貸方 |
金額(円) |
|---|---|---|---|
|
当座預金 |
1,000,000 |
受取手形 |
1,000,000 |
このように、受取手形は「回収の約束を受けた時点」(手形受領時)と「実際に現金化された時点」(決済時)で仕訳が分かれる点が特徴です。
仕入代金を手形で支払う場合は、仕入先への支払い方法として約束手形を発行した時点で以下の仕訳を記帳します。
例:B社から商品50万円を仕入れ、約束手形を振り出した場合
■商品仕入れ時の仕訳:B社から商品を仕入・B社へ約束手形を振り出し
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借方 |
金額(円) |
貸方 |
金額(円) |
|---|---|---|---|
|
仕入 |
500,000 |
支払手形 |
500,000 |
実際に決済期日が到来し、銀行口座から引き落とされた際には以下の仕訳を行います。
■手形決済(当座預金引き落とし)時の仕訳:約束手形が決済され、当座預金から引き落とし
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借方 |
金額(円) |
貸方 |
金額(円) |
|---|---|---|---|
|
支払手形 |
500,000 |
当座預金 |
500,000 |
支払手形も、発行時点と決済時点で2段階の処理が必要です。
手形の仕訳でよくある混乱には、「発生主義」と「決済主義」の違いを認識せずに処理してしまうケースがあります。
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発生主義 |
収益や費用が「発生した時点」で帳簿に計上する会計原則。売上や仕入は商品やサービスの提供・受領時点で計上される |
| 決済主義 | 実際に現金や預金が「動いた時点」で帳簿に計上する会計原則。現金払いや銀行振込が代表的 |
たとえば、現金取引と同じ感覚で、手形の決済をもって売上や仕入の計上タイミングを誤ることがあります。手形取引では、売上や仕入れは商品やサービスの引き渡し時点で発生主義によって計上されるため、手形を受け取った(振り出した)時点、そして決済された時点と、段階的に処理が行われます。
現金取引のように「売上時に現金が入り、仕入時に現金が出る」という単純なものではありません。
また、現金・預金と混同しやすい点もあります。例えば、売上または仕入時に売掛金や買掛金をはじめに計上していた場合を考えます。この場合、手形がまだ回収・決済されていないのに、売掛金や買掛金をすぐに消し込んでしまうミスを生じるケースもあります。こうした点は、実際の資金移動と簿記上の記帳タイミングが一致しないことに注意が必要です。
たとえば、100万円の商品を販売し、翌月に手形で受け取る場合、売上は販売時に計上されますが、手形による現金化は翌月以降になります。ここで手形を現金と混同して売掛金残高を誤ってゼロにしてしまうと、未回収の債権が帳簿上見えなくなり、資金繰り計画に支障をきたす恐れがあります。
手形処理の現場で特に注意したいのは、売掛金・買掛金の残高管理と期日管理です。
手形に振り替わった売掛金や買掛金が正しく消し込まれているか、また決済後の手形勘定残高がゼロになっているかを常に確認する必要があります。実務では、会計システムの残高だけでなく、手形の種類、金額、期日、振出人(または受取人)などを管理する手形台帳と会計帳簿の残高を定期的に突合し、不一致がないかをチェックすることが不可欠です。
手形が決済されたにもかかわらず、手形勘定が残ったままだと、実際の残高と帳簿が合わなくなり、決算の信頼性にも影響します。
受取手形・支払手形の期日を正確に把握し、決済日前に金融機関への取立依頼や、自社の支払準備を進めることが重要です。期日を見誤ると、受取手形であれば資金回収の遅延につながり、資金繰りが悪化する可能性があります。
一方、支払手形であれば不渡り(手形が決済できない状態)という事態を招き、会社の信用問題に発展するリスクがあるため、細心の注意が必要です。
これらのポイントを押さえることで、計上ミスを防ぎ、安定した経理処理ができるようになります。
2027年3月をもって、手形取引は大きな転換点を迎えます。この章では、手形廃止の背後にある理由や、実際にどのような変化が起こるのか、今後の取引方式や仕訳処理への影響まで、経理実務に直結するポイントを整理します。
新たな決済方法への移行や勘定科目の見直しが求められるため、基礎から実務への影響まで体系的に理解できる内容です。具体的には、以下の4点を深掘りします。
紙の約束手形は、これまで多くの企業間取引で利用されてきました。しかし、近年では中小企業を中心に受取手形の売上比率が減少している一方、卸売業や製造業などでは依然として手形取引の慣習が残っています。
こうした中で、手形の発行・管理にかかる手間やコスト、資金繰りサイトの長期化が企業や金融機関双方の負担となっていました。そこで、公正取引委員会は下請け取引の支払い条件の見直しを進め、約束手形の決済期間短縮やデジタル化推進を図るため、手形廃止の方針が打ち出されました。これにより、企業の資金繰り改善や業務効率化、そしてデジタル決済への移行が強く後押しされています。
参照:紙の手形・小切手利用廃止へ | 一般社団法人 全国銀行協会
2027年3月以降、紙の手形は原則として利用できなくなります。これまでは現物の手形を発行・回収していた取引ができなくなり、電子記録債権などデジタル方式への完全移行が求められます。
ただし、すぐに全ての取引が一斉に切り替わるわけではなく、実際の業務現場では徐々に移行が進みます。特に、手形決済が主流だった業界では、実務の運用や社内規定の見直しが必要となります。
経理担当者は、これまでの手形管理が不要になる一方で、新たな決済方法への対応やシステム設定の変更も考慮しなければなりません。
手形廃止後は、振込決済や電子記録債権(でんさい)など、デジタル化された取引方法が主流となります。特に電子記録債権は、手形に代わる新たな信用取引手段として位置付けられています。
これにより、売掛金・買掛金の管理も従来と異なる運用が必要になります。また、決済期間の短縮や資金繰りの透明化が進むため、現金化までのプロセスが変化します。
従来の紙手形に依存していた場合には、取引先との調整や社内フローの再構築も重要な課題となります。
電子記録債権・債務を利用する場合は、「電子記録債権」や「電子記録債務」などの新しい勘定科目を設けて処理します。
例:A社へ商品100万円を販売し、電子記録債権を受け取った場合
■電子記録債権発生時の仕訳:A社から電子記録債権が発生
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借方 |
金額(円) |
貸方 |
金額(円) |
|---|---|---|---|
|
電子記録債権 |
1,000,000 |
売上 |
1,000,000 |
■決済(当座預金入金)時の仕訳:電子記録債権が決済され、当座預金に入金
|
借方 |
金額(円) |
貸方 |
金額(円) |
|---|---|---|---|
|
当座預金 |
1,000,000 |
電子記録債権 |
1,000,000 |
■電子記録債務発生時の仕訳:B社へ電子記録債務が発生
|
借方 |
金額(円) |
貸方 |
金額(円) |
|---|---|---|---|
|
買掛金 |
500,000 |
電子記録債務 |
500,000 |
■決済(当座預金引き落とし)時の仕訳:電子記録債務が決済され、当座預金から引き落とし
|
借方 |
金額(円) |
貸方 |
金額(円) |
|---|---|---|---|
|
電子記録債務 |
500,000 |
当座預金 |
500,000 |
科目計上していた受取手形・支払手形が電子記録債権・電子記録債務に置き換わって仕訳されることを覚えておきましょう。
2027年3月に紙の手形が廃止される動きが進んでいますが、現時点では多くの企業が手形を活用しています。経理部門としては、今後の変更に向けて現状の手形取引の全体像をつかみ、社内ルールやマニュアルの見直しを計画的に進めることが重要です。
ここでは経理部全体として必要な準備や、実践的な対策を解説します。
まず、自社で現在どのような場面で手形が利用されているかの洗い出しが必要です。たとえば、どの取引先が手形決済を用いているか、支払・受取双方の件数や金額の把握も欠かせません。
次に、2027年に紙の手形が廃止されることを見据え、手形関連の社内ルールやマニュアルの内容を確認し、電子記録債権や振込決済への切り替え手順を具体的に整理しましょう。特に、手形を用いた売掛金・買掛金の処理フローや期日管理の方法については、今後の実務に直結するため、現状を可視化し、変更点を分かりやすくまとめることが大切です。
さらに、手形廃止後も円滑に業務を移行できるよう、関係部門との連携や外部取引先とのコミュニケーションも早めに進めておくと安心です。
手形業務を理解すには、まず「なぜ今、手形について学ぶ必要があるのか」を明確に伝えることが効果的です。手形は将来的に廃止されるものの、現在の実務ではまだ使われており、基礎理解が日常業務の正確さに直結します。
特に、売掛金・買掛金と手形の違いや、仕訳の流れ、決済時の処理など、計上ミスを防ぐためにおさえておくべきポイントを整理して教えることが重要です。また、2027年以降は電子記録債権や振込決済が中心になるため、「今後どんな業務フローが求められるか」をセットで伝えると、将来を見据えた経理スキルの土台を築けます。
実務の変化に戸惑わないためにも、定期的な知識のアップデートの習慣化も推奨します。
この記事では、手形の基礎から2027年3月の廃止に向けて押さえておきたい実務ポイントまでを解説しました。手形は「将来の支払いや回収を約束する証書」として長年利用されてきましたが、現在は紙の約束手形が廃止され、電子記録債権などデジタル化への移行が加速しています。
実際、卸売業や製造業など一部の業種では手形取引の慣習が根強く残っているものの、全体としては売上に占める手形の比率は徐々に下がっています。2027年の廃止を機に、経理実務も変化を迎えます。
今後は手形の基礎知識をしっかり身につけることで、売掛金・買掛金や期日管理での計上ミスを未然に防ぎ、変化に柔軟に対応できる経理担当者になれます。これから経理を担う方や教育を担当する方も、本記事を参考に知識のアップデートを進めてみてください。
まず、手形は信用取引の一形態として、売掛金・買掛金と並ぶ基礎科目です。受取手形・支払手形の仕訳や、売上・仕入の取引に伴う記帳の流れを正しく理解することが、実務でのミス削減につながります。
特に、売掛金や買掛金との振替、期日管理、決済時の処理を曖昧にすると、残高の不一致や勘定科目の誤りが起きやすくなります。
一方で、2027年の紙手形廃止により、電子記録債権や振込決済への移行が一段と進みます。これにより仕訳もシンプルになりますが、移行期には社内ルールやマニュアルの見直し、手形取引の棚卸しが必要です。
教育担当の方は、なぜ今も手形を学ぶ必要があるのか、廃止後にどう変わるのかを丁寧に伝えることが大切です。
手形の知識は今後「過去の制度」になる一方、現在進行形の実務でも重要です。基礎を身につけておくことで、制度変更後もスムーズに業務を遂行しやすくなります。
今こそ知識を整理し、変化に強い経理担当者を目指しましょう。
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