更新日:2024.07.27
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経理の事務や勉強をしていて「減価償却累計額」という言葉にとまどったという方がいるのではないでしょうか。「減価償却費」と似ているけど、何が違うのかで考え込んでしまったかもしれません。
資産に関するものであることは、すぐわかりますが、どのように扱えばいいのかと聞かれると、意外に説明は難しいものです。また、どう計算して、どこに仕訳するのかがわからないと、実務で困った経験もあったのではないでしょうか。
本記事では、減価償却累計額と減価償却との関係や違い、勘定科目、仕訳の仕方などについて説明します。経理について理解を深めたい方や、減価償却累計額について深く知りたい方は必見の内容です。ぜひ参考にしてみてください。
減価償却は、何年にもわたって使用する固定資産の取得費用を、その利用年数分に分けて毎年計上してゆく会計処理です。その項目が減価償却費です。経費として計上することで、法人税を節約できます。
一方、減価償却累計額は、「累計額」だから毎年の減価償却費を積み上げた額であることはわかるでしょう。ただし、単に合計額と考えると理解を誤るかもしれません。この2つは、計上される財務諸表が異なります。詳細は、このあと解説していきます。
減価償却累計額は、必ず勘定科目として使用されるというわけではありません。減価償却費の処理方法によって、使用するケースと使用しないケースがあります。処理方法は固定資産から直接減価償却費を減らす「直接控除法」と、毎期の減価償却費を累計する「間接控除法」の2種類があります。
減価償却累計額を勘定科目として使用するのは、後者の間接控除法の場合です。
減価償却の「減価」は、価値が減少することを指します。そして減価償却とは、固定資産費を耐用年数(資産を使用できる期間)で割って処理することです。
ここでの資産は設備や装置、備品など時間とともに劣化していくものを指します。田畑や土地、山林、家屋などの不動産、自動車や工作機械、パソコンなどの機械類、また無形固定資産としてソフトウェアや特許権なども対象になります。
なぜ減価償却が必要かというと、費用と収益との間に矛盾を生まないためです。固定資産を購入した際にすべての費用を計上すると、翌年から費用がかかっていないのに収益が発生する状態になってしまいます。このような矛盾を防ぐために、費用を耐用年数で割って振り替えていくのです。
また、固定資産は種類によって減価償却する年数が異なるのが特徴です。例えば耐用年数が10年なら10年間で減価償却することになります。資産の種類、構造や用途によって、耐用年数が決められています。詳しくは「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によって掲げられており、耐用年数表から見ることができます。
参照:e-GOV法令検索|減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四十年大蔵省令第十五号)
また、減価償却の処理方法は、「定額法」と「定率法」のどちらかです。定額法は毎年同額を処理して、定率法は初期に多額の処理を行います。それぞれのメリットは以下のとおりです。
定額法:計算がしやすいため、資産計画が立てやすい
定率法:大きな節税効果が期待できる
ただし、多くの資産は処理の仕方が定められています。どちらで計算してもよい資産は、メリットの内容を確認してどちらかを選択しましょう。
減価償却累計と減価償却は深い関係があります。次に両者の違いを説明していきます。それぞれの違いを知って理解を深めていきましょう。
減価償却費は「費用」、減価償却累計額は「資産」の勘定科目となります。
減価償却費は、「費」という名前のとおり収益を上げるためにかかる「費用」の勘定科目です。一方、減価償却累計額は取得時から計上している減価償却費(毎期の資産価値の減少額)の累計で、資産価値の減少を表しているので「資産(マイナスの資産)」の控除科目として計上されます。
また、これらの勘定科目は財務諸表上で使用されます。
財務諸表で特に重要なものを「財務三表」といいます。その名称と役割は以下のとおりです。
なお、P/Lとは「Profit and Loss statement」の略で、B/Sは「Balance sheet」の略です。これらのなかで、減価償却費は「損益計算書」に記載し、減価償却累計額は「貸借対照表」に記載します。前述のとおり、減価償却費は費用、減価償却累計額は資産だからです。
減価償却費と減価償却累計額を記載する財務諸表と、勘定科目をまとめると以下のようになります。
減価償却費は当期1年分の減価償却費となりますが、科目が「売上原価」と「販売費および一般管理費」のどちらになるかは内容によって変わります。
製造業などで、工場や機械など製造にかかる減価償却費は「売上原価」として計上され、それ以外の不動産などは「販売費および一般管理費」として計上されるためです。
一方、減価償却累計額の記載場所は「固定資産」ですが、減価の累計なので金額はマイナスになることに注意しましょう。
また、「取得金額」「減価償却の累計額」「取得金額から減価償却額を引いた金額」の3つを載せるか、「取得金額から減価償却額を引いた金額」だけを載せるかの方法があります。
次に、減価償却累計額の処理方法である「直接控除法」と「間接控除法」を紹介します。以下では、それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説していきます。
直接控除法とは、費用を処理する際に固定資産の取得価格から直接、減価償却費を差し引く方法です。「直接法」と呼ばれることもあります。帳簿には借方に減価償却費を記載して、貸方に固定資産を勘定科目として記載します。
メリットは資産価値がどのくらい残っているのかわかりやすい点で、デメリットは固定資産の取得額、減価償却費として計上した額がわかりづらい点です。扱い自体はシンプルでわかりやすいので、初心者や簿記が苦手な方にはおすすめです。
ただし、特許権や商標権のような無形固定資産は、直接控除法しか認められていないので注意しましょう。
間接控除法とは、減価償却した額を減価償却累計額の勘定科目で表示する方法です。固定資産から間接的に差し引くので「間接法」とも呼ばれます。帳簿では借方に減価償却費を記載し、貸方に減価償却累計額を記載します。
メリットは資産の取得価格がわかりやすい点で、デメリットは現在の資産の価値がわからない点です。直接控除法と比べると情報量が多いですが、お金をかけて設備投資する業種には間接控除法がおすすめです。
最後に減価償却累計額の仕訳や、記載の具体例を説明します。直接控除法と間接控除法の仕訳や、貸借対照表と損益計算書の記載の仕方などがわかります。
仕訳例:車両を5,000円で購入し、耐用年数5年を定額法で償却した場合
直接控除法は減価償却累計額を計上しません。その代わり減価償却費を固定資産から直接差し引きます。仕訳の仕方は以下のとおりです。
借方科目 |
金額 |
貸方科目 |
金額 |
減価償却費 |
1,000 |
固定資産 |
1,000 |
借方科目には資産の増加や費用の発生を記載し、貸方科目には負債や純資産の増加、収益の発生を記載します。
間接控除法は固定資産の代わりに、減価償却累計額を加えます。そして、間接的に減価償却費を差し引きます。仕訳の仕方は以下のとおりです。
借方科目 |
金額 |
貸方科目 |
金額 |
減価償却費 |
1,000 |
減価償却累計額 |
1,000 |
固定資産から減価償却費は直接引かないので、貸借対照表に取得原価を記載します。
間接法で減価償却費を計上した場合の貸借対照表(B/S)は以下のようになります。
資産の部 |
金額 |
車両 |
5,000 |
減価償却累計額 |
-1,000 |
決算書では資産の部に表示します。車両の取得価格から減価償却累計額を引くと4,000円になり、資産の現在価格が計算可能です。
減価償却費については、直接・間接控除法どちらも記載の仕方は同じです。車両は「販売費および一般管理費」に計上されます。
科目 |
金額 |
減価償却費 |
1,000 |
本記事では勘定科目や減価償却との関係、仕訳の方法などについて説明してきました。減価償却は「費用」の勘定科目で、減価償却累計額は「資産」の勘定科目です。そのため、記載する財務諸表は、減価償却費が損益計算書で、減価償却累計額は貸借対照表です。
また、仕訳の方法は直接・間接控除法や、貸借対照表と損益計算書によって異なります。それぞれメリットとデメリットがあるので、特徴を押さえて最適な方法を選びましょう。
違いを理解することができれば、適切な決算書の作成ができるようになります。さらに詳しく減価償却累計額について知りたい方や、質問したいことがある方は税理士にアドバイスを求めましょう。
資産についてお悩みの方は、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。