更新日:2024.12.24
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インボイス制度は2023年10月からスタートした、消費税を正確に納めるための制度です。制度の導入にともなって、経理や会計におけるさまざまなルール変更が事業者の負担となることから、廃止や緩和を求める声が挙がっています。
どのような点が問題視されているのか、また、それに対する対応策があるのかを把握しておくことで、インボイス制度がスタートしたことによる自社の経理業務への影響を具体的に理解できるでしょう。
本記事では、インボイス制度が廃止される可能性について、制度の基本知識や廃止を求める理由、負担軽減のための措置、事業者がすべきこともあわせて解説します。
インボイス制度とは、2023年10月に施行された消費税に関する新たなルールです。納税額の正確な計算や益税問題の解決を目的として導入されました。
インボイス制度では、売上時に受け取った消費税から仕入時に支払った消費税を差し引ける「仕入税額控除」を利用できます。ただ、仕入税額控除をおこなう際には、「適格請求書(インボイス)」にしたがって請求書の作成や保存が必要になります。
別記事ではより具体的にインボイス制度についてまとめています。本記事とあわせて参考にしてください。
関連記事:インボイス制度とは?対応するための必要な準備について簡単に解説
2024年12月現在では、インボイス制度の廃止が発表されたという事実はありません。また、政府はインボイス制度の普及を目的とした施策を積極的に進めていることから、インボイス制度がただちに廃止される可能性は低いと考えられます。
インボイス制度の廃止について気になっている方も、まずは制度を正しく理解し、自社が制度を導入したことによってどのような影響があるのかを踏まえて、必要な対応策を検討することが重要です。
2022年6月、立憲民主党・社会民主党・日本共産党・れいわ新選組の野党4党は、インボイス制度の廃止や消費税減税を含む「時限的消費税減税法案」を議員立法として提出しました。
また、「全国商工団体連合会」や「インボイス制度を考えるフリーランスの会」などの団体からも、制度の廃止や緩和を求める声が挙がっています。これらの背景には、制度運用に関する複数の懸念があります。
ここでは、インボイス制度廃止の意見が挙がっている理由について、解説します。
インボイス制度では、「適格請求書発行事業者」に登録することで、課税事業者と同様に消費税の申告や納税が必要になります。この仕組みは従来の税制にはなかったものであり、とくに免税事業者に大きな影響を与えると考えられます。
正確に消費税額が計算されるようになるため、場合によっては納税額が増える可能性もあります。
参考:国税庁「納税義務の免除」
インボイス制度の導入により、従来と比べて請求書の形式が変更されたり、消費税の申告や納税が必要になったりするなど、経理関係の新たなルールが加わりました。これらの変更に対応するため、事業者は請求書の作成や管理方法を見直す必要があり、その結果、新たな業務負担が発生します。
こうした負担を軽減するためにも、制度に対応した請求書発行システムや会計ソフトを導入し、効率的に対応することが重要です。
関連記事:請求書発行システムとは?おすすめ5選や導入メリット、選び方も紹介
仕入税額控除を受けるには、適格請求書発行事業者から適格請求書(インボイス)を受け取る必要があります。一方で、インボイス制度に登録していない免税事業者は、インボイス制度の仕入税額控除が受けられません。
その結果、課税事業者は納税額を軽減する目的で、適格請求書発行事業者との取引を優先する傾向が強まります。この影響により、免税事業者が取引相手として選ばれなくなる可能性が高まるでしょう。
インボイス制度には、事業者の負担を軽減するための措置が用意されています。これらの措置は複数あり、それぞれ対象となる事業者や適用される期間が異なるため、違いを正しく理解することが重要です。
ここでは、インボイス制度の負担を軽減させるために使える制度を4つ紹介します。
2割特例は、消費税の納税額を「売上時に受け取った消費税×20%」とする制度です。例えば、売上が100万円・消費税が10万円の場合、計算方法は「10万円×20%=2万円」で、納税額は2万円になります。
この制度は、インボイス制度の導入により課税事業者となった免税事業者を対象としており、事前手続きは不要で、確定申告書に特例を適用する旨を記載するだけで利用できます。
なお、この特例の適用期間は2026年9月30日までです。
参考:国税庁「2割特例の概要」
関連記事:2割特例とは|対象事業者や計算方法と申請方法について徹底解説。
少額特例は課税仕入れが税込1万円未満の場合、一定の項目を記載した帳簿を保存することで、適格請求書の保存が免除される制度です。ただし、適格請求書の交付義務が免除されるわけではないため、課税事業者から求められた場合には発行が必要です。
この特例は、基準期間(※1)の売上高が1億円以下、または特定期間(※2)の売上高が5,000万円以下の事業者のみが対象です。
なお、少額特例の適用期間は2029年9月30日までとなっています。
(※1)参考:国税庁「少額特例の概要 注1」
(※2)参考:国税庁「少額特例の概要 注2」
関連記事:1万円未満の取引では少額特例が適用される要件をわかりやすく解説|インボイス保存が不要になる?
インボイス制度では、返品や値引きが発生した場合、適格返還請求書(返還インボイス)の発行が必要です。ただし、税込1万円未満の返品や値引きについては、適格返還請求書の発行義務が免除されます。また、振込手数料を値引きとして処理する場合も、適格返還請求書の発行は不要です。
なお、この措置に関しては、期限や対象者に特別な制限はありません。
簡易課税制度は、「売上時に受け取った消費税×みなし仕入率」で消費税の納税額を計算できる制度です。業種ごとに定められたみなし仕入率を用いることで、消費税計算の事務負担を軽減できます。
この制度を利用できるのは、納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した事業者です。また、基準期間(個人事業者の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度)の売上高が5,000万円以下である場合に適用されます。
参考:国税庁「簡易課税制度」、国税庁「簡易課税制度 みなし税率」
2024年12月現在、インボイス制度が廃止される可能性は低いと考えられます。
インボイス制度は、一定以上の収入がある事業者が登録を検討すべき制度であるため、登録する場合としない場合の影響を比較し、今後の行動を慎重に判断することが重要です。
ここでは、インボイス制度で事業者が検討すべきことについて、解説します。
適格請求書発行事業者に登録すると、消費税の申告と納税の義務が生じます。一方で、仕入税額控除を受けられるようになるほか、適格請求書が必要な取引相手が離れるリスクを抑えられるというメリットもあります。
適格請求書の発行には一定の手間がともないますが、インボイス制度に対応した請求書発行システムを導入することで負担の軽減が可能です。
関連記事:請求書発行システムとは?おすすめ5選や導入メリット、選び方も紹介
免税事業者として活動を続ける場合、消費税の納付義務や適格請求書の発行義務がないため、これまでと同様の負担で事業を継続可能です。
ただし、取引相手の課税事業者は仕入税額控除を受けられないため、取引を避けられるリスクがあります。仮に取引を継続してもらえたとしても、控除分の負担を補うために値引きを要求される可能性もないわけではありません。
この選択肢を選ぶ場合は、取引先との関係や交渉を慎重に進める必要があります。
適格請求書発行事業者の登録を取り消す場合は、納税地を管轄するインボイス登録センターに廃止届を提出する必要があります。
登録の取消は、原則として届出を提出した日が属する課税期間の翌課税期間の初日から反映されます。例えば、2024年12月1日に届出を提出し、2025年3月15日が課税期間の終了日(確定申告期限)である場合、取消は2025年3月16日から反映されます。
ただし、課税期間終了日の15日前(この例では2025年2月28日)を過ぎて届出を提出した場合、取消の反映は翌々課税期間の初日、つまり2026年3月16日からとなるため、手続きのタイミングには注意が必要です。
参考:国税庁「D1-70 適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める手続」
本記事では、インボイス制度が廃止される可能性について、制度の基本情報、廃止を求める理由、負担軽減のための措置、事業者がすべきこともあわせて紹介しました。
インボイス制度は多くの事業者に影響を及ぼす新しいルールであるため、適切な対応がなければ取引相手への迷惑や税金にまつわるトラブルになる可能性があります。2024年12月現在ではインボイス制度が廃止される可能性は低いと考えられるため、動向を注視しつつ、制度に対応した準備を進めることが重要です。