更新日:2024.09.30
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インボイス制度がきっかけで、免税事業者から課税事業者への転身を検討されている方も多いのではないでしょうか。しかし、課税事業者になる場合、消費税の納税負担が増えるほか、事務作業の手間もかかるため、不安が大きい方も多いと思います。
このような事業者に対して、2023年の改正で「2割特例制度」が定められましたが、適用できる条件や注意点を理解したうえで、活用することが大切です。
そこで本記事では、2割特例とはなにか、適用される事業者の条件や注意すべきポイントなどを解説します。インボイス制度における負担を軽減したい事業者や企業の経理担当の方は、ぜひ参考にしてください。
インボイス制度では、免税事業者が課税事業者に転身すると、今まで免除されていた消費税の支払いが発生するほか、制度に対応するための経理作業の負担が増加することになります。
そのため、負担を緩和するために、2023年度の改正により「2割特例」が制定されました。2割特例とは、仕入税額控除の金額を特別控除税額にできる制度のことです。インボイス制度開始後の3年間の間、消費税の納税額を売上税額の2割に減らすことができる特別制度となります。
具体的には、本来であれば預かった分の消費税額を全て納める必要がありますが、2割特例を活用することにより、消費税額の8割が控除され、残りの2割分を納付することになります。
負担を軽減することにより、課税事業者への転換を促す狙いもありますが、適用できる事業者の要件や期間限定の措置となるため、注意が必要です。
2割特例を活用したいと考えている事業者の方は、要件に当てはまるかなどを確認したうえで、インボイス制度に対応できるようにしましょう。
免税事業者から課税事業者に転身すると、今までかかっていなかった消費税の負担が増えることや、事務作業の負担が発生することから、フリーランスをはじめとした小規模事業者の間で、なかなか登録に至らないケースがあります。
このような背景から、免税事業者への負荷軽減に対する様々な声が上がり、適格請求書発行事業者への登録推進のために2割特例が制定されました。基本的に消費税を算出する際は、原価や経費なども考慮したうえで納税額を算出する必要がありますが、2割特例では売上や収入の金額のみで計算が可能です。
免税事業者から転身する事業者にとって、負担が大幅に少なくなることから、2割特例は「小規模事業者に対する負担軽減措置」と呼ばれることもあります。
2割特例は、適用できる期間が決まっているため、期間限定の特例措置です。インボイス制度の開始日である2023年10月1日の課税期間から、2026年9月30日の課税期間までしか適用できません。
個人事業主の場合、1月1日から12月31日が確定申告の対象期間となるため、最長で2026年度分の申告までは適用可能です。
法人の場合は、決算月により異なります。9月決算であれば「2026年10月1日から2027年9月30日」まで、3月決算であれば「2026年4月1日から2027年3月31日」まで適用可能です。
適用期間を過ぎたあとは、本来の計算方式で算出した消費税額を申告する必要があるため、2割特例を適用した事業者でも、終了期間前に事務作業の確認などを事前に行っておきましょう。
2割特例を適用した際の、消費税額の計算方法は以下の通りです。
複数の事業を経営している場合、業種によって計算方法が異なりますが、2割特例を適用すれば、仕入税額控除額は一律80%となります。
このように、軽減税率と標準税率の適用税率ごとの売上合計額がわかれば、シンプルに計算できることが2割特例のメリットとも言えます。
2割特例を適用するためには、決められた基準に沿っている必要があります。具体的には、以下のようなケースです。
免税事業者である者がインボイスの登録を受け、登録⽇から課税事業者となる場合
免税事業者である者が課税事業者選択届出書を提出し、登録を受けてインボイス発⾏事業者となる場合
参考:国税庁「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答 」
インボイス制度を機に、免税事業者から適格請求書発行事業者となった場合に、2割特例が適用できます。ただし、基準期間の課税売上が1000万円を超えていたり、2023年10月1日より前から課税事業者の場合は2割特例は適用できませんので、注意しましょう。
これらの内容について更に以下で詳細に解説していきます。
インボイス制度導入を機に、これまで免税事業者だった事業者が課税事業者へと転換した場合、一定期間は「2割特例」という優遇措置を受けることができます。これは、消費税の納税額を本来の2割に軽減する制度で、課税事業者への転換に伴う負担を軽減し、円滑な移行を支援するためのものです。
課税売上高が1,000万円以下の小規模事業者も、2割特例の対象となります。これは、小規模事業者の税負担を軽減し、事業活動を支援するための措置です。ただし、課税売上高が1,000万円を超えた場合は、2割特例の適用を受けることができなくなります。
2割特例を適用するための事前の登録や、申請の手続きは不要です。
納税額の負担が減ることや、計算方法も簡易的な2割特例ですが、あらかじめ申請の手続きをする必要がないことも、免税事業者が課税事業者に転身するハードルが低くなっていると言えるでしょう。
ただ、2割特例の適用を受けるためには、インボイス制度の登録を受けた課税事業者である必要があります。更に、課税売上高が1,000万円を超えた場合は、2割特例の適用を受けることができなくなります。
2割特例の適用を受けるにあたり、事前の届出は不要です。これは、インボイス制度導入に伴う事業者の負担を軽減し、スムーズな移行を支援するための配慮です。
2割特例の適用を受けるためには、消費税の確定申告時に、確定申告書にその旨を記載する必要があります。
具体的には、「消費税及び地方消費税の確定申告書」の第1表の「適用を受ける軽減税率制度に関する事項」欄に、「二割特例」と記載します。
2割特例と同じような役割を持つ制度として「簡易課税」があります。簡易課税とは区分された事業ごとにみなし仕入率が決まっており、預かり消費税額に対象の仕入率をかけることで、消費税額を算出できる制度です。
簡易課税も2割特例と同様に、消費税の納税額を簡易的に算出できる制度ですが、対象の事業者や適用するための手続き、計算方法に違いがあります。
簡易課税は、課税売上高5,000万以下の事業であれば適用できますが、2割特例はインボイス制度をきっかけに消費税の納付義務が発生した事業者が対象です。また、手続きについても違いがあり、簡易課税を適用するためには、定められた書類を提出しなければいけません。
複数の事業を経営していれば、簡易課税は事業区分ごとに計算が必要になることも、違いとして挙げられます。
どちらも小規模事業者に対しての特例制度となりますが、2つの違いを理解し、自社にはどちらが適用できるかを見極めたうえで、活用しましょう。
2割特例を活用する際に、気をつけたい注意点が3つあります。
以下でそれぞれ注意すべきポイントを、解説していきます。
2割特例は2023年10月1日から2026年9月30日までと、定められた期間でしか適用できません。また、個人で事業を営んでいる場合と法人とでは、確定申告や決算月によって期間が異なるため、注意が必要です。
特に、手続きが必要ないことがメリットではあるものの、適用期間を忘れてしまう恐れがあります。定められた期間を過ぎると従来の計算式で消費税額を申告する必要がありますので、期間終了後は納税額を間違えないようにしましょう。
また、2027年度以降に課税事業者への転身を検討されている方も、制度終了後となるため2割特例は適用外となりますので注意が必要です。
2割特例は売上時に発生した消費税額×20%で算出しますが、自社が仕入れなどで支払った金額が高い場合、損をする可能性があります。理由として、一般課税で消費税額を申告した場合、仕入額が売上額よりも高いと消費税の還付を受けられる可能性があります。
2割特例は、決まって8割を控除する制度のため、売上より仕入額が上回ったとしても、消費税の還付はされません。
このようなケースが発生する場合があるため「事務負担が少ないから」という理由だけで、活用するのはやめておきましょう。負担軽減措置における特別制度は複数ありますので、2割特例が自社の事業に適切かどうかは、検討の上活用することをおすすめします。
2割特例が適用できるのは、インボイス制度を機に課税事業者への転身を余儀なくされた事業者に限ります。10月1日以前から課税事業者である場合は、適用できません。
ただし、2023年1月1日から9月30日に課税事業者に登録した場合は、以下のことを実施することで2割特例を適用できます。
・2023年4月1日から2023年12月31日までに課税事業者選択不適用届出書を提出
・インボイスの発行事業者に登録
上記のケースでは、特例として認められているため、条件に当てはまるかを確認したうえで、活用しましょう。
2割特例はインボイス制度により、免税事業者の負担を減らすための制度です。消費税額の計算が簡易的なものになるほか、納税額の負担を軽減するための特別措置となります。
手続きは特に不要で、消費税の確定申告時の書類に記載しておくことで適用できますが、対象となる事業者は限られています。適用できる条件は、インボイス制度を機に課税事業者に転身した人や、売上高が1,000万円以下の事業者などです。
2割特例は小規模事業者に対しての「特例」となるため、適用期間に限りがあることや、他の制度よりも消費税額が増えてしまう可能性があることを理解する必要があります。
自社に適切なものかを見極めたうえで、活用しましょう。