更新日:2026.08.14

ー 目次 ー
売買目的有価証券は、決算時に時価で評価し、評価差額をその期の損益に反映する有価証券です。取得・決算・売却の場面ごとに基準となる金額が変わるため、仕訳や税務上の区分を取り違えやすい点に注意が必要です。
本記事では、その他有価証券との違い、区分の考え方、時価評価と売却時の仕訳、会計と税務のズレ、決算時のチェックポイントを、表とフローで整理します。必要な見出しから確認し、実務のチェックにご活用ください。
売買目的有価証券は、金融商品の種類そのものではなく、企業が「どのような目的で保有しているか」によって区分される点が最大の特徴です。まずは定義と判断の考え方を押さえましょう。
売買目的有価証券とは、時価の変動によって利益を得ることを目的として保有する有価証券です。
企業会計基準第10号では、時価を貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損益として処理すると定められています。
| 確認項目 | 売買目的有価証券の扱い |
|---|---|
| 保有目的 | 短期的な時価変動から利益を得る |
| 決算時の評価 | 時価で評価する |
| 評価差額 | 有価証券評価益または有価証券評価損として当期損益に計上する |
| 貸借対照表の表示 | 流動資産の「有価証券」などで表示する |
| 売却時 | 売却価額と売却時の帳簿価額との差額を売却損益に計上する |
上場株式、債券、投資信託、ETF、REITなどは、短期的な価格変動から利益を得る目的で保有していれば、売買目的有価証券になり得ます。
反対に、上場株式であっても取引先との関係維持や長期的な資産運用を目的とする場合はその他有価証券に該当し、国債や社債であっても満期保有の意思がなく短期売却益をねらう場合は売買目的有価証券に区分される可能性があります。
「将来売るかもしれない」という予定だけでは足りません。取得時の稟議書、資金運用方針、取締役会等の議事録、売買実績などから、時価変動による利益獲得を目的としていることを説明できる状態にしておきましょう。
区分を判断するときは、次のような資料を確認します。
なお、税務上の売買目的有価証券は、会計上の判断と必ずしも一致しません。法人税法上は、専門部署で運用する有価証券のほか、取得日に短期売買目的である旨を帳簿書類へ区分記載した有価証券などが対象となります。
参考:企業会計基準委員会(ASBJ) 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」
参考:国税庁 第5款 有価証券の時価評価損益
有価証券は、保有目的に応じて4つに区分し、決算時の評価方法と評価差額の処理を使い分けます。全体像は次のとおりです。
| 区分 | 保有目的 | 決算時の評価方法 | 評価差額の処理 |
|---|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 短期的な価格変動による利益獲得 | 時価 | 当期の損益 |
| 満期保有目的の債券 | 満期まで保有して元本や利息を受け取る | 償却原価法 | 原則として時価評価しない |
| 子会社株式・関連会社株式 | 子会社の支配や関連会社への影響力の行使 | 取得原価 | 原則として時価評価しない |
| その他有価証券 | 上記のいずれにも該当しない長期保有など | 原則として時価 | 原則として純資産の部 |
有価証券の種類ではなく、保有目的によって会計処理が変わる点が重要です。
売買目的有価証券と混同しやすいのが「その他有価証券」です。両者は評価方法こそ似ていますが、評価差額の行き先が異なります。3つの観点で違いを整理します。
売買目的有価証券は、短期的な価格変動から利益を得ることを目的として保有します。
一方、その他有価証券は、短期売買・満期保有・子会社支配のいずれにも当てはまらない有価証券で、取引関係の維持や長期的な資産運用を目的とするケースが代表例です。
売買目的有価証券とその他有価証券は、いずれも原則として決算時に時価で評価します。
この点だけを見ると同じですが、評価差額の処理が大きく異なります。
売買目的有価証券は、価格変動そのものが投資活動の成果と考えられるため、未売却であっても評価差額を当期損益に反映します。
一方、その他有価証券は短期売買を目的としていないため、原則として評価差額を純資産の部に計上します。
つまり、両者の違いは「評価差額を損益計算書に計上するか、純資産の部に計上するか」にあります。
| 項目 | 売買目的有価証券 | その他有価証券 |
|---|---|---|
| 主な保有目的 | 短期的な価格変動による利益獲得 | 取引関係の維持・長期運用など |
| 決算時の評価 | 原則として時価 | 原則として時価 |
| 評価差額の行き先 | 当期の損益(損益計算書) | 原則として純資産の部 |
| 貸借対照表の表示 | 原則として流動資産 | 原則として固定資産(投資その他の資産) |

売買目的有価証券の処理は、取得原価で計上する → 決算時に時価評価する → 売却時に帳簿価額との差額を計上するという順で進みます。
| 場面 | 行うこと |
|---|---|
| 取得日 | 保有目的を確認し、取得原価を記録する |
| 決算日 | 帳簿価額と時価を比較し、評価損益を計上する |
| 翌期首 | 採用する会計処理(切放・洗替)を確認する |
| 売却日 | 売却価額と売却時の帳簿価額を比較し、売却損益を計上する |
売買目的有価証券を取得したときは、原則として購入代価に付随費用を加えた取得原価で計上します。
たとえば、株式100万円を購入し、購入手数料1万円とあわせて普通預金から支払った場合、取得原価は101万円です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 1,010,000円 | 普通預金 | 1,010,000円 |
売買手数料など、有価証券の取得に直接必要となった付随費用は、原則として取得原価に含めます。
決算日時点の帳簿価額と時価を比較し、時価が高ければ評価益、低ければ評価損を計上します。
上場株式では、決算日の最終売買価格など、継続して採用する合理的な価格を用います。
参考:国税庁 第5款 有価証券の時価評価損益
帳簿価額100万円の株式を例に、時価が110万円になった場合と、95万円になった場合を比べます。
| ケース | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 時価110万円 | 売買目的有価証券 | 100,000円 | 有価証券評価益 | 100,000円 |
| 時価95万円 | 有価証券評価損 | 50,000円 | 売買目的有価証券 | 50,000円 |
複数の売買目的有価証券を保有しているときは、銘柄ごとに帳簿価額と時価を比較します。たとえば、次の3銘柄を保有している場合を考えます。
| 銘柄 | 帳簿価額 | 決算時の時価 | 評価差額 |
|---|---|---|---|
| A社株式 | 1,000,000円 | 1,100,000円 | 100,000円の評価益 |
| B社株式 | 800,000円 | 750,000円 | 50,000円の評価損 |
| C社株式 | 500,000円 | 520,000円 | 20,000円の評価益 |
| 合計 | 2,300,000円 | 2,370,000円 | 70,000円の評価益 |
合計すると、評価益12万円と評価損5万円が発生しており、差額は7万円の評価益です。純額で処理する場合は、差額の7万円を評価益として計上します。
ただし、会計システムや社内の管理方法によっては、銘柄ごとに評価益と評価損を計上することもあります。決算時には、評価額の計算根拠を確認できるよう、銘柄別の明細を残しておきましょう。
売却時は、売却価額と売却時点の帳簿価額との差額を、有価証券売却益または有価証券売却損として処理します。
当初の取得原価ではなく、採用している期首処理を踏まえた帳簿価額を基準にする点がポイントです。
切放処理により帳簿価額110万円を引き継いでいる場合、差額の10万円を売却益に計上します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,200,000円 | 売買目的有価証券 | 1,100,000円 |
| 有価証券売却益 | 100,000円 |
帳簿価額110万円の売買目的有価証券を105万円で売却した場合は、5万円の売却損が発生します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,050,000円 | 売買目的有価証券 | 1,100,000円 |
| 有価証券売却損 | 50,000円 |
株式の配当金は、通常「受取配当金」で処理します。源泉徴収がある場合は、入金額と源泉徴収税額を分けて記録します。仕訳の基本形は、借方に「普通預金」と「仮払法人税等」など、貸方に配当金の総額を「受取配当金」として計上します。
源泉徴収税率は配当の種類や受取法人の状況によって異なり、一定の内国法人への配当では源泉徴収が不要となる場合もあります。
具体的な税率を固定して考えず、支払通知書に記載された税額と自社の勘定科目を確認して仕訳しましょう。使用科目は自社の会計方針に従ってください。

売買目的有価証券では、「評価益・評価損」と「売却益・売却損」を取り違えやすいため、発生する場面を分けて理解しておきましょう。
有価証券評価益は、有価証券をまだ売却していない段階で、決算日の時価が帳簿価額を上回っている場合に計上する利益です。
売却代金を受け取ったことによる利益ではありませんが、売買目的有価証券では短期的な価格変動そのものが投資成果と考えられるため、未売却であっても当期の損益として処理します。
有価証券売却益は、有価証券を実際に売却した際に、売却価額が売却時の帳簿価額を上回った場合に計上する利益です。
反対に売却価額が帳簿価額を下回った場合は、有価証券売却損となります。いずれも売却によって確定した損益である点が、評価損益との違いです。
有価証券評価損は、有価証券をまだ売却していない段階で、決算日の時価が帳簿価額を下回っている場合に計上する損失です。
評価益と同じく、実際の売買を伴わない段階の損益ですが、売買目的有価証券では当期の損益として処理します。
| 項目 | 有価証券評価益・評価損 | 有価証券売却益・売却損 |
|---|---|---|
| 計上する時点 | 決算時 | 売却時 |
| 売却の有無 | 未売却 | 売却済み |
| 比較する金額 | 決算時の時価と帳簿価額 | 売却価額と売却時の帳簿価額 |
| 主な意味 | 保有中の価格変動 | 売却によって確定した損益 |
取得直後は取得価額と帳簿価額が一致しますが、決算で時価評価を行った後は、帳簿価額が取得価額と異なる場合があります。
売却損益は取得価額ではなく売却時点の帳簿価額を基準に計算するため、両者を混同しないよう注意しましょう。
売買目的有価証券は、仕訳だけでなく、区分の根拠と時価の参照元を後から説明できる管理が欠かせません。決算では次の順で確認します。
取得時から短期売買目的であったことを、稟議書・運用方針・議事録・帳簿書類などで説明できるかを確認します。保有目的が不明確なままだと、決算時に正しい評価方法を適用できないおそれがあります。
有価証券管理台帳には、銘柄、取得日、数量、取得原価、保有目的、前期末評価額、当期末時価、評価損益、売却日、売却価額を記録します。
税務上の区分記載が必要な場合は、取得日の記録を後回しにしないことが重要です。経理実務では、次の情報を区別して管理します。
決算日に対応する価格と、その参照元(取引所価格、投資信託の基準価額資料など)を記録しているかを確認します。
継続して採用する合理的な価格を用いることがポイントです。
帳簿価額と時価の差額が、仕訳と一致しているかを確認します。
複数銘柄を保有する場合は、銘柄別の計算表と総勘定元帳を突き合わせ、計算根拠を残しておきましょう。
期中の売却損益、受取配当金、源泉徴収税額の処理に漏れがないかを確認します。あわせて、切放・洗替の会計方針と税務処理を区別できているかもチェックします。
| 確認項目 | チェック内容 | 主な確認資料 |
|---|---|---|
| 保有目的 | 取得時から短期売買目的であることを説明できるか | 稟議書、運用方針、議事録、帳簿書類 |
| 取得原価 | 購入代価と付随費用が正しく集計されているか | 取引報告書、手数料明細 |
| 保有数量 | 会計帳簿と証券会社の残高が一致するか | 残高報告書、管理台帳 |
| 決算時価 | 決算日に対応する価格と参照元を記録したか | 取引所価格、基準価額資料 |
| 評価損益 | 帳簿価額と時価の差額、仕訳が一致するか | 銘柄別計算表、総勘定元帳 |
| 翌期首処理 | 切放・洗替の会計方針と税務処理を区別したか | 会計方針、税務申告資料 |
| 証憑保存 | 仕訳・時価資料・承認記録を関連付けたか | 証憑一式、承認履歴 |
売買目的有価証券は、会計上の処理と税務上の取扱いが一致しないことがあります。決算時には、会計区分と税務区分を別々に確認しましょう。
会計上は保有目的の実態にもとづいて区分しますが、税務上(法人税法上)の売買目的有価証券は範囲がより厳格です。
専門部署で運用する有価証券のほか、取得日に短期売買目的である旨を帳簿書類へ区分記載した有価証券などに限られます。
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 会計上の区分 | 短期的な価格変動から利益を得る目的で保有しているか |
| 税務上の区分 | 法人税法上の売買目的有価証券の要件を満たしているか |
| 取得日の記録 | 短期売買目的である旨を帳簿書類に区分記載しているか |
| 評価損益 | 益金または損金への算入額を確認したか |
| 申告調整 | 会計と税務の区分が異なる場合の調整を確認したか |
会計上は売買目的有価証券であっても、税務上の要件を満たさない場合は、評価損益について申告調整が必要になることがあります。決算時には、会計上の区分と税務上の区分を分けて確認してください。
法人税法上の売買目的有価証券に該当する場合、期末の評価益は原則として益金、評価損は損金に算入されます。また、期末評価損益は翌事業年度に洗替計算を行います。
会計上、前期末の時価評価後の帳簿価額を翌期へ引き継ぐ方法が「切放処理」、翌期首に評価差額を戻して取得原価へ戻す方法が「洗替処理」で、売却損益の計算は採用する方法に応じて基準となる帳簿価額が変わります。

会計上の処理と税務申告上の処理を同じものとして扱わず、申告調整の要否を確認しましょう。会計上は売買目的有価証券でも、税務上の要件を満たさない場合は評価損益の扱いが一致せず、申告調整が必要になることがあります。
決算時には、会計区分と税務区分を別々に確認することが重要です。
参考:国税庁 第5款 有価証券の時価評価損益
売買目的有価証券は、短期的な売買によって利益を得る目的で保有するため、原則として貸借対照表の流動資産に「有価証券」などとして表示します。
長期保有を目的とするその他有価証券や子会社株式などは、固定資産の投資その他の資産に「投資有価証券」「関係会社株式」などとして表示される場合があります。
評価益は、有価証券を売却する前に計上するため、一般的には未実現利益にあたります。ただし、売買目的有価証券は価格変動による利益獲得を目的としていることから、決算時の評価差額を当期損益に計上します。
売買目的有価証券の時価下落は、通常、有価証券評価損として処理します。毎期時価評価するため、取得原価で評価する子会社株式・関連会社株式などに対する減損処理とは区別されます。
売買目的有価証券は、時価の変動から利益を得る目的で保有し、決算時に時価評価して差額を当期損益へ反映します。
まず「保有目的」で区分を決め、次に取得・決算・売却の「仕訳」を押さえ、「評価益・評価損・売却益」の違いを整理し、最後に「決算確認」で根拠資料まで残す。この流れで理解すると、実務での取り違えを防ぎやすくなります。
特に、取得日に保有目的と税務上の区分を確認し、銘柄別の台帳・時価資料・証券会社の残高・仕訳を照合すること、翌期首の切放・洗替と税務上の洗替計算を分けて管理することが、決算や税務申告での手戻り防止につながります。
