更新日:2025.11.28

ー 目次 ー
請求書を作成するたびに、「どこまで書けば足りるのか」「インボイスで何が変わったのか」と不安になっていませんか?
押さえるべき基本の必須項目を軸に、インボイス制度で追加された要件まで、一つずつ丁寧に確認していきましょう。宛名や金額の内訳、税率ごとの記載など、つまずきやすいポイントも具体例で解きほぐします。読み終えていただければ、実務にそのまま移せる形で、迷わず・正確に・信頼される請求書を仕上げられるはずです。
請求書は、フリーランスや個人事業主、企業間の取引において、提供した商品やサービスの対価を請求するために発行する重要な書類です。法律や税務上の要件を満たした請求書を作成することは、取引先とのトラブルを未然に防ぎ、信頼関係を築く上で極めて重要です。
請求書には、主に以下の3つの役割があります。これらの役割を正しく果たすために、記載すべき要件が定められています。
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役割 |
具体的な内容 |
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1. 取引内容の証明 |
「いつ、誰が、誰に対して、どのような商品・サービスを、いくらで提供したか」を客観的に証明する公式な証拠となります。万が一、取引内容について認識の相違があった場合の確認資料としても機能します。 |
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2. 支払いの請求 |
取引相手に対して、商品やサービスの対価の支払いを正式に要求する役割です。支払期日や振込先を明記することで、スムーズな入金を促します。 |
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3. 経理・税務処理の根拠 |
発行側にとっては売上を計上する根拠、受取側にとっては経費を計上し、消費税の仕入税額控除を受けるための証憑(しょうひょう)書類となります。税務調査の際にも提出を求められる重要な書類です。 |
請求書に定められた要件を記載することが重要な理由は、法的・税務上の有効性を担保し、取引を円滑に進めるためです。特にインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、消費税の仕入税額控除を受けるためには、国が定めた要件を満たす「適格請求書」の保存が必須となりました。
要件を満たした請求書は、取引の透明性を高め、相手方の経理処理をスムーズにします。これは支払いの遅延を防ぐことにも繋がり、結果として発行者自身の事業を守ることになります。正確で不備のない請求書は、取引先からの信頼を得るための第一歩とも言えるでしょう。
もし請求書の記載要件が満たされていない場合、以下のようなトラブルに発展する可能性があります。
このように、請求書の要件を正しく理解し、遵守することは、円滑な事業運営に不可欠です。次の章から、具体的な必須項目について詳しく解説していきます。
誰が発行した請求書なのかを明確にするための項目です。
法人の場合は会社名(登記上の正式名称)、個人事業主の場合は屋号と氏名を記載します。合わせて、会社の住所、電話番号、メールアドレスなどの連絡先も記載するのが一般的です。これらの情報があることで、請求書に関する問い合わせ先が明確になり、取引先も安心して処理を進めることができます。
請求の対象となる取引がいつ行われたかを示す日付です。
商品や製品を販売した場合は「販売日」や「納品日」、サービスを提供した場合は「役務提供日」などを記載します。取引先は、この日付をもとに自社の経理処理を行うため、正確な日付を記載することが求められます。
どのような商品やサービスに対して請求しているのか、その内容を具体的に記載します。
例えば「Webサイト制作費用」「コンサルティング料」「商品A 10個」のように、誰が見ても取引内容を正確に把握できるように書くことが重要です。「お品代として」といった曖昧な表現は、後々の確認の手間やトラブルの原因となるため避けましょう。数量や単価も併記すると、より丁寧で分かりやすい請求書になります。
請求する金額を記載します。通常、以下の項目を分けて記載すると親切です。
金額は、取引の信頼性に関わる最も重要な情報の一つです。計算間違いがないよう、発行前には必ず確認しましょう。
請求書を送付する相手、つまり支払いを依頼する取引先の名称を正確に記載します。
会社名、部署名、担当者名などを記載しますが、事前に取引先へ宛名の指定を確認しておくと確実です。会社名や部署名など、組織宛ての場合は「御中」、特定の個人宛ての場合は「様」を使い分けます。
この請求書を作成し、発行した日付を記載します。
一般的には、取引先の締め日に合わせて発行日を設定することが多いです。この発行日は、取引先がいつの経費として計上するかを判断する基準にもなるため、重要な項目です。
法律上の必須要件ではありませんが、記載することを強く推奨します。
請求書ごとにユニークな番号(例:202405-001)を割り振ることで、自社での管理が格段に楽になります。また、取引先からの問い合わせがあった際に、この番号を伝えることで、どの請求書に関する話なのかを迅速に特定でき、スムーズなやり取りにつながります。
請求した金額をいつまでに支払ってもらいたいかを示す日付です。
取引先との契約内容に基づいて「2024年6月30日」や「翌月末日」のように明確に記載します。支払期限を明記することで、入金遅延を防ぎ、キャッシュフローを安定させる効果が期待できます。
請求金額を振り込んでもらうための口座情報を記載します。以下の情報を正確に記載しましょう。
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項目 |
記載内容 |
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金融機関名 |
例:〇〇銀行 |
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支店名 |
例:〇〇支店 |
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預金種別 |
普通預金 または 当座預金 |
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口座番号 |
7桁の数字 |
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口座名義 |
カタカナで正確に記載(例:カ)〇〇ショウジ) |
また、振込手数料をどちらが負担するのか(「恐れ入りますが、振込手数料は貴社にてご負担いただけますようお願い申し上げます。」など)を一言添えておくと、認識の齟齬を防ぐことができます。
2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、事業者が消費税の仕入税額控除を受けるための新しいルールです。この制度に対応するため、従来の請求書(区分記載請求書)に加えて、新たに3つの項目を記載した「適格請求書(インボイス)」を発行する必要があります。
ここでは、適格請求書に必須となる追加要件とその具体的な書き方を解説します。
適格請求書を発行するためには、事前に税務署へ申請し「適格請求書発行事業者」として登録を受ける必要があります。登録が完了すると、事業者ごとに「登録番号」が通知されます。この番号は、アルファベットの「T」と13桁の数字(法人の場合は法人番号、個人事業主などには新たに指定される番号)で構成されています。
請求書の発行者情報欄の近くなど、受け取った側が確認しやすい場所に必ず記載してください。この登録番号がない請求書は、適格請求書として認められません。
取引した商品やサービスごとに、どの消費税率が適用されるのかを明確に記載する必要があります。現在の消費税率は標準税率(10%)と軽減税率(8%)の2種類が存在するため、品名の横などに「10%」や「8%」と具体的に税率を明記します。
複数の税率が混在する取引の場合は、どの品目がどちらの税率に該当するのかが、一目で判別できるように記載することが重要です。
インボイス制度では、消費税額の計算方法が厳密に定められています。標準税率(10%)と軽減税率(8%)の対象となる取引金額をそれぞれ合計し、その合計額に対して計算した消費税額等を個別に記載しなければなりません。
従来の請求書のように、全体の合計金額に対して消費税額を一つだけ記載する方法は認められなくなりました。なお、消費税計算時に発生する端数の処理は、一つの適格請求書につき、税率ごとにそれぞれ1回ずつ行うルールとなっています。
以下に、税率ごとに区分した金額と消費税額の記載例を示します。
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区分 |
税抜対価の額 |
消費税額等 |
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10%対象 |
50,000円 |
5,000円 |
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8%対象 |
30,000円 |
2,400円 |
請求書の各項目は、取引の事実を正確に証明するための重要な要素です。ここでは、特に間違いやすい「宛名」「金額」「品目」について、ビジネスマナーに沿った正しい書き方を具体例とともに解説します。これらのポイントを押さえることで、取引先に信頼感を与え、経理処理をスムーズに進めることができます。
請求書の宛名で使う敬称は、送付先が組織か個人かによって「御中」と「様」を正しく使い分ける必要があります。両方を同時に使うことはありませんので注意しましょう。
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送付先 |
敬称 |
具体例 |
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会社・部署など組織全体 |
御中 |
株式会社〇〇 御中 株式会社〇〇 経理部 御中 |
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担当者など個人 |
様 |
株式会社〇〇 経理部 鈴木太郎 様 |
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担当者名が不明な場合 |
御中 |
株式会社〇〇 経理部御中 (「ご担当者様」と記載しても可) |
担当者名が分かっている場合は、会社名・部署名の後に個人名を記載し、敬称は「様」を付けます。このとき、「御中」は不要です。「株式会社〇〇 御中 鈴木太郎 様」という書き方は誤りですので気をつけましょう。
金額は請求書の中でも最も重要な項目です。トラブルを避けるためにも、誰が見ても分かるように内訳を明確に記載することが求められます。
請求金額の内訳として、「小計(税抜金額)」「消費税額」「合計金額(税込金額)」をそれぞれ分けて記載するのが基本です。特にインボイス制度に対応した適格請求書では、適用税率(10%または8%)ごとに合計した金額と、それに対する消費税額を明記する必要があります。複数の税率の商品やサービスを同時に請求する場合は、税率ごとに小計と消費税額を計算して記載しましょう。
フリーランスのライターやデザイナーなど、特定の報酬を受け取る個人事業主は、取引内容によって源泉徴収が必要になる場合があります。源泉徴収の対象となる報酬を請求する際は、源泉徴収税額を請求書に明記するのが一般的です。
源泉徴収税額は、原則として以下の計算式で算出します。
請求書には、消費税額を記載した後に源泉徴収税額をマイナス項目として記載し、最終的な請求金額(振込依頼額)が分かるように示します。
「品目」や「但し書き(備考欄)」は、何の対価として金銭の支払いをお願いしているのかを具体的に示すための項目です。取引相手が経理処理をする際に重要な情報となるため、分かりやすく記載しましょう。
品目には、「商品代として」といった曖昧な表現は避け、具体的なサービス名や商品名を記載します。数量や単価も併記すると、より丁寧で分かりやすい請求書になります。
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品目 |
数量 |
単価 |
金額 |
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Webサイトデザイン費(トップページ) |
1 |
150,000 |
150,000 |
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システム開発保守費用(2023年10月分) |
1 |
50,000 |
50,000 |
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商品A |
10 |
3,000 |
30,000 |
また、請求書には「備考欄」を設けて補足情報を記載することがあります。振込手数料の負担をお願いする場合や、納品日、プロジェクト名などを記載する際に活用できます。
【備考欄の記載例】
請求書は、必須項目を記載して発行すれば終わりではありません。取引先との円滑な関係を維持し、法的なトラブルを避けるために、発行のタイミングや送付マナー、法律で定められたルールについても正しく理解しておく必要があります。
ここでは、請求書を発行する際に知っておくべき重要な注意点を4つ解説します。
請求書の発行タイミングは、取引先との契約内容によって主に2つの方式に分けられます。
どちらの方式を採用する場合でも、事前に取引先と合意したタイミングで遅滞なく発行することが重要です。また、請求書を送付する際は、ビジネスマナーを守ることで相手に良い印象を与えられます。
郵送の場合は、送付状(添え状)を同封するのが丁寧です。封筒の表面には「請求書在中」と記載すると、他の郵便物と区別され、経理担当者にスムーズに届きやすくなります。メールで送付する場合は、件名を「【株式会社〇〇】請求書送付のご案内(2024年5月分)」のように分かりやすくし、本文で簡単な挨拶と請求内容の概要を伝えましょう。ファイルはPDF形式で添付するのが一般的です。
下請事業者として取引を行う場合、「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」によって支払期日が保護されています。下請法では、親事業者は下請事業者から商品やサービスの提供を受けた日(給付を受領した日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内に、支払期日を定めなければならないと義務付けられています。
この法律は、親事業者の資本金と下請事業者の資本金の組み合わせによって適用対象が決まります。例えば、資本金1,000万円超の法人から個人事業主や資本金1,000万円以下の法人へ発注する場合などが該当します。自社が下請事業者に該当する場合は、契約時に不当に長い支払期日が設定されていないか確認しましょう。
発行または受領した請求書(の控え)は、法律で定められた期間、適切に保管する義務があります。保管期間は、法人か個人事業主かによって異なります。
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区分 |
保管期間(原則) |
備考 |
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法人 |
7年間 |
欠損金の繰越控除を受ける事業年度は10年間 |
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個人事業主(青色申告) |
7年間 |
前々年分の事業所得が300万円以下の場合は5年間 |
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個人事業主(白色申告) |
5年間 |
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また、2024年1月1日から「電子帳簿保存法」が本格的に施行され、メールの添付ファイル(PDFなど)やクラウドサービス経由で受け取った電子データの請求書は、紙に出力しての保存が認められず、電子データのまま保存することが義務付けられました。保存の際は、「取引年月日・取引金額・取引先」で検索できる状態にするなど、定められた要件を満たす必要がありますので注意が必要です。
万が一、発行した請求書の内容に誤りが見つかった場合、二重線や訂正印で修正するのは避けましょう。経理処理の混乱やトラブルの原因となるため、原則として正しい内容の請求書を「再発行」します。
再発行の手順は以下の通りです。
入金後に金額の間違いが発覚した場合は、差額を返金して「返金明細書」を発行するか、不足分を追加で請求するなど、取引先と相談の上で誠実に対応しましょう。
請求書は、取引の事実を第三者に伝わる形で証明し、円滑な支払いにつなげるビジネスの土台です。
基本の必須項目(発行者・取引日・取引内容・金額・宛名・発行日・請求書番号・支払期限・振込先)を整えたうえで、インボイスの登録番号・適用税率・税率別の消費税額を忘れずに、発行タイミングや送付マナー、電子帳簿保存法に沿った保存も併せて運用すれば、手戻りや差し戻しが減り、取引先からの信頼が着実に積み上がります。貴社の標準を整えていきましょう。