更新日:2025.12.01

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インボイス制度の開始後、「仕入税額控除を受けるには、請求書と領収書の両方を保存する必要があるの?」と疑問に思っていませんか。結論からお伝えすると、インボイスは「適格請求書」の記載要件を満たしていれば、請求書か領収書のどちらか一方があれば全く問題ありません。この記事では、なぜ請求書と領収書のどちらか一方で良いのか、その明確な理由を国税庁の見解も踏まえて解説します。最後まで読めば、インボイス制度における請求書と領収書の扱いに迷うことがなくなり、日々の経理業務を安心して進められるようになります。
2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)において、仕入税額控除を受けるためには「適格請求書(インボイス)」の保存が必要です。この適格請求書について、「請求書と領収書の両方が必要なのか?」と疑問に思う方も多いですが、結論から言うと請求書か領収書のどちらか一方があれば問題ありません。
取引の証明として両方の書類を受け取った場合でも、定められた要件を満たしているどちらか一方を適切に保存していれば、仕入税額控除の適用が可能です。
インボイス制度で最も重要なのは、書類の「名称」ではなく、その書類に法律で定められた情報が「記載されているか」どうかです。インボイス(適格請求書)とは、特定のフォーマットや「請求書」という名称の書類を指すわけではありません。
たとえ書類のタイトルが「領収書」「レシート」「納品書」であっても、必要な記載要件を満たしていれば、それは法的に有効なインボイスとして扱われます。したがって、買い手側は受け取った書類の名称に惑わされず、記載内容を確認することが肝心です。
この考え方は、制度を管轄する国税庁の公式な見解でも示されています。国税庁は「適格請求書は、その名称を問わず、必要な事項が記載された書類が該当する」と明言しています。
つまり、売り手(発行側)が交付する書類が、請求書や領収書、あるいはそれ以外の名称であっても、インボイスの要件を満たしていれば問題ないということです。以下の表のように、書類の種類に関わらず、要件を満たすことがインボイスとしての効力を決定づけます。
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書類の名称(例) |
インボイスとしての扱い |
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請求書、納品書兼請求書 |
適格請求書の記載要件を満たしていればインボイスとして認められます。 |
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領収書、レシート |
小売業などが発行する簡易インボイス(適格簡易請求書)の要件を満たしていればインボイスとして認められます。 |
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手書きの領収書 |
手書きであっても、登録番号を含むすべての記載要件が満たされていればインボイスとして有効です。 |
請求書と領収書のどちらか一方、あるいはレシート1枚でも、要件を満たしていれば仕入税額控除のための証憑として十分機能するのです。
インボイス制度において、仕入税額控除の適用を受けるためには「適格請求書(インボイス)」の保存が必要です。しかし、この適格請求書は「請求書」という名称の書類に限定されません。なぜ請求書か領収書のどちらか一方で良いのか、その理由を制度の仕組みから解説します。
インボイス制度における「適格請求書」の最も重要な役割は、取引における正確な消費税額と適用税率を、売り手から買い手へ明確に伝えることです。買い手側は、この適格請求書を保存することで、支払った消費税額を証明し、仕入税額控除を受けることができます。
つまり、適格請求書は「仕入税額控除を受けるための証明書類」としての役割を担っています。国税庁が定めた記載要件さえ満たしていれば、その書類の名称が「請求書」であっても「領収書」「納品書」「レシート」であっても、法的に有効なインボイスとして認められるのです。
請求書がインボイスとして扱われるのは、主に企業間(BtoB)で行われる掛取引(後払い)のケースです。商品やサービスを提供した後に、取引内容と金額をまとめて請求する際に発行されます。
例えば、以下のような取引では、発行される請求書がインボイスの要件を満たしていれば、それが仕入税額控除の証明書類となります。
領収書やレシートがインボイスとして機能するのは、主にその場で代金の支払いが行われる取引です。特に、小売業や飲食業、タクシー業など、不特定多数の顧客を相手にする事業で一般的です。
これらの事業者は、買い手(取引相手)の氏名や名称の記載を省略できる「適格簡易請求書(簡易インボイス)」の発行が認められています。そのため、私たちが日常的に受け取るレシートも、必要な記載要件を満たしていればインボイスとして有効です。
このように、取引の形態によってインボイスとして機能する書類の種類が異なります。
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書類の種類 |
主な取引形態 |
具体例 |
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請求書 |
企業間取引(BtoB)、掛取引(後払い) |
原材料の仕入れ、コンサルティング料の請求、業務委託費の請求など |
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領収書・レシート |
現金取引、都度決済、不特定多数への販売(BtoCなど) |
飲食店での経費利用、タクシー代、備品購入(小売店)など |
取引の際に請求書と領収書の両方を受け取った場合や、どちらか一方しか受け取らなかった場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
ここでは「買い手側」と「売り手側」それぞれの立場から、具体的なケース別に解説します。
取引先から請求書と領収書の両方を受け取るケースは少なくありません。この場合、どちらを保存すればよいか迷うかもしれませんが、重要なのは「どちらか一方がインボイスの記載要件を満たしているか」です。
原則として、インボイスの要件を満たしている書類が1枚あれば、仕入税額控除の適用は可能です。どちらの書類を正として保存するかは、自社の経理フローに合わせてルール化しておくことをおすすめします。例えば、銀行振込の場合は請求書を、現金払いの場合は領収書を正本として保存するなど、一貫した処理を行うことで管理がしやすくなります。
以下の表を参考に、受け取った書類の状況に応じて対応しましょう。
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受け取った書類の状況 |
保存すべき書類と対応 |
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請求書のみがインボイス要件を満たしている |
請求書を保存します。領収書は支払いの証拠として別途保管しても問題ありませんが、仕入税額控除の要件書類は請求書となります。 |
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領収書のみがインボイス要件を満たしている |
領収書を保存します。特に小売店や飲食店での経費精算では、領収書やレシートがインボイスとなるケースが多く見られます。 |
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請求書と領収書の両方がインボイス要件を満たしている |
どちらか一方を正本として保存します。経理処理の混乱や二重計上を防ぐため、社内ルールに基づきどちらか一方(一般的には請求書)を仕入税額控除の適用書類としてください。 |
注意点として、請求書と領収書の両方がインボイスの要件を満たしている場合、誤って二重に仕入税額控除を適用しないよう、厳重な管理が求められます。
請求書のみ、あるいは領収書やレシートのみを受け取った場合は、その書類がインボイスの記載要件を満たしているかを確認することが最も重要です。
受け取った一枚の書類に、適格請求書発行事業者の登録番号や適用税率、消費税額などの必要な情報がすべて記載されていれば、その書類を保存することで仕入税額控除が受けられます。もし記載要件を満たしていない場合は、原則として仕入税額控除が適用できません。その際は、取引先に連絡し、要件を満たしたインボイスの発行を依頼する必要があります。
インボイスを発行する売り手側(適格請求書発行事業者)は、買い手側からインボイスの交付を求められた際に、それに応じる義務があります。その際、請求書と領収書のどちらをインボイスとして発行するかは、双方の取り決めに従います。
売り手側の主な注意点は以下の通りです。
インボイス制度に対応する際、請求書や領収書が「適格請求書(インボイス)」として認められるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。書類の名称ではなく、記載されている内容が最も重要です。ここでは、売り手側・買い手側双方が知っておくべき3つのポイントを解説します。
請求書や領収書がインボイスとして認められるには、以下の6つの項目がすべて記載されている必要があります。受け取った書類、または発行する書類がこれらの要件を満たしているか必ず確認しましょう。
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番号 |
記載要件 |
内容 |
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1 |
発行事業者の氏名・名称と登録番号 |
適格請求書発行事業者の氏名または名称と、「T」から始まる13桁の登録番号を記載します。 |
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2 |
取引年月日 |
課税資産の譲渡等を行った年月日(例:商品を引き渡した日)を記載します。 |
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3 |
取引内容 |
販売した商品やサービスの内容を記載します。軽減税率の対象品目である場合は、その旨がわかるように(例:「※」印を付けるなど)記載します。 |
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4 |
税率ごとに区分して合計した対価の額と適用税率 |
税率(10%または8%)ごとに合計した取引金額(税抜または税込)と、適用される税率を記載します。 |
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5 |
税率ごとに区分した消費税額等 |
税率(10%または8%)ごとに区分した消費税額または地方消費税額を記載します。 |
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6 |
書類の交付を受ける事業者の氏名・名称 |
取引相手(買い手)の氏名または名称を記載します。 |
不特定多数の顧客に対して販売を行う小売業、飲食店業、タクシー業などの特定の事業者は、「簡易インボイス(適格簡易請求書)」を交付することが認められています。一般的なレシートや領収書がこれに該当します。通常のインボイスとの主な違いは以下の通りです。
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項目 |
適格請求書(インボイス) |
適格簡易請求書(簡易インボイス) |
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書類の交付を受ける事業者の氏名・名称 |
記載が必要 |
記載が不要 |
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適用税率と消費税額等の記載 |
適用税率と消費税額等の両方の記載が必要 |
適用税率または消費税額等のどちらか一方の記載でよい |
簡易インボイスも仕入税額控除のための有効な書類となりますので、買い手側は要件を満たしているか確認の上、適切に保存してください。
インボイス制度では、1枚の書類で全ての記載要件を満たす必要はなく、複数の書類を組み合わせて要件を満たすことも認められています。例えば、請求書と納品書の2枚で1つのインボイスとすることが可能です。
この場合、それぞれの書類に記載された内容をすべて合わせることで、適格請求書の6つの要件が満たされていれば問題ありません。ただし、書類間の関連性が明確であることが重要です。例えば、請求書に納品書番号を記載するなど、どの書類がセットなのかを客観的にわかるようにしておく必要があります。
買い手側としてこれらの書類を受け取った場合は、仕入税額控除の適用を受けるために、関連する書類をすべてセットで保存するようにしましょう。
原則として、登録番号の記載がない領収書だけでは、仕入税額控除を受けることはできません。
インボイス制度で仕入税額控除の適用を受けるためには、適格請求書発行事業者の「登録番号」を含む、法律で定められた6つの要件が記載された書類(適格請求書)の保存が必須となります。もし受け取った領収書に登録番号の記載がない場合は、発行元に連絡し、要件を満たしたインボイスを再発行してもらうよう依頼してください。
ただし、発行元が免税事業者などで適格請求書発行事業者ではない場合、インボイスは発行されません。その場合、原則として仕入税額控除は適用できませんが、一定期間は仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。
はい、税法上は、適格請求書の記載要件を満たした「請求書」が1枚あれば、仕入税額控除の適用を受けることができます。その場合、別途「領収書」を保存する必要はありません。
インボイス制度で求められるのは、あくまで記載要件を満たした「適格請求書」の保存であり、書類の名称が「請求書」か「領収書」かは問われません。したがって、要件を満たした請求書があれば、それで仕入税額控除の要件は満たされます。
ただし、これは消費税法上の扱いです。社内の経理規定によっては、支払いの証拠として別途領収書の保管を義務付けているケースもあります。税法上の要件と社内ルールは分けて考える必要がありますので、自社の規定を必ず確認しましょう。
仕入税額控除を受けるためには「請求書」か「領収書」のどちらか一方があれば問題ありません。その理由は、インボイス制度では書類の名称ではなく、法律で定められた記載要件を満たしているかどうかが最も重要だからです。インボイス制度への対応は、日々の経理業務に直結します。請求書と領収書の役割を正しく理解し、自社の業務フローが適切であるか、この機会に改めて確認しておきましょう。