更新日:2025.11.28

ー 目次 ー
フリーランスや個人として仕事をしていると、「請求書に自宅の住所を書くのはちょっと抵抗があるな...」と感じる方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、請求書に住所を記載することは法律で義務づけられておらず、記載しなくても問題はありません。ただし、注意したいポイントがいくつかあります。この記事では、住所を載せない場合に気をつけたい3つの注意点を、源泉徴収やインボイス制度の観点も含めてわかりやすく解説します。また、プライバシーを守りながら取引先に安心感を与える方法なども紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
結論から言うと、フリーランスや個人事業主が発行する請求書に、自宅などの住所を記載しなくても法的には問題ありません。特にプライバシーの観点から、自宅兼事務所の住所を取引先に公開することに抵抗がある方も多いでしょう。まずは、なぜ住所がなくても良いのか、その理由を解説します。
現在の日本の法律(所得税法や法人税法など)では、請求書に発行者の住所を記載することは必須要件とされていません。
請求書は、あくまで取引の事実と支払いを証明・依頼するための書類です。そのため、法律で定められた下記の項目が記載されていれば、書類として有効に成立します。
※ただし、後述するインボイス制度(適格請求書)を発行する場合は、一部例外となるケースがあるため注意が必要です。
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項目 |
内容 |
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発行者の氏名または名称 |
請求書を発行したフリーランスの氏名や屋号 |
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取引年月日 |
商品やサービスを提供した日付 |
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取引内容 |
提供した商品やサービスの詳細(例:「Webサイトデザイン費用として」など) |
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取引金額(税込) |
消費税を含めた合計請求金額 |
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交付を受ける事業者の氏名または名称 |
請求先の企業名や担当者名 |
法的な義務がないにもかかわらず、多くの請求書テンプレートに住所欄が設けられ、記載するのが一般的となっているのには、主に2つの理由があります。
一つ目は「取引上の信頼性を高めるため」です。請求書に住所や電話番号といった連絡先が明記されていることで、特に新規の取引先にとっては「実在する事業者からの正式な請求である」と認識し、安心感を得られます。
二つ目は「ビジネス上の慣習」です。請求書だけでなく、契約書や見積書など、企業間でやり取りされる書類には発行元の情報を明記するのが長年の慣習となっています。万が一、請求内容に不備があった際の連絡や、郵送物が発生した場合に備えるという意味合いも含まれています。
実際の取引ではいくつかの注意点が存在します。知らずに進めると、クライアントとの信頼関係を損ねたり、思わぬ手続きで手間取ったりする可能性があります。
ここでは、請求書の住所をなしにする際に必ず押さえておきたい3つのポイントを解説します。
請求書に住所を記載することは法律上の義務ではありませんが、日本の商習慣では住所を記載するのが一般的です。そのため、住所のない請求書を受け取った経理担当者が「このままで処理してよいのか」と迷ってしまうケースもあります。なかには、社内規定で「住所のない請求書は受け付けられない」と定めている企業もあります。
こうしたトラブルを防ぐためには、事前に取引相手へ「住所を記載したくない理由」を丁寧に伝え、理解を得ておくことが大切です。その際は、単に「書きたくない」と伝えるのではなく、
「プライバシー保護のため、住所の記載を控えさせていただいてもよろしいでしょうか」
のように、配慮ある言葉で相談すると良いでしょう。
事前に合意を取っておけば、余計な誤解を防ぎ、スムーズな取引と信頼関係の維持にもつながります。
ライターの原稿料やデザイナーのデザイン料など、フリーランスが受け取る報酬の中には、源泉徴収の対象となるものがあります。この場合、報酬を支払うクライアント側は、税務署へ「支払調書」を提出する義務を負います。
支払調書には、報酬を受け取る側(フリーランス)の氏名や住所、マイナンバーを記載する必要があります。したがって、請求書に住所を記載しなかったとしても、源泉徴収の対象となる取引では、最終的にクライアントへ住所を伝えなければなりません。請求書上は非公開にできても、税務手続き上は住所の開示が必要になることを覚えておきましょう。
2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)も、住所記載の要否に関わる重要なポイントです。あなたが免税事業者か、あるいは課税事業者で適格請求書発行事業者(インボイス登録事業者)かによって、対応が異なります。
インボイス登録事業者として適格請求書(インボイス)を発行する場合、記載要件が法律で定められています。個人の場合、「氏名または名称」の記載は必須ですが、住所の記載は任意です。ただし、屋号で活動しており、氏名を公表したくない場合は注意が必要です。国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」では、登録番号を検索すると登録者の氏名や事務所の所在地などが公表されるため、インボイス登録によって間接的に住所が公開される可能性があることを理解しておく必要があります。
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事業者区分 |
請求書の種別 |
住所記載の要否 |
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免税事業者 |
区分記載請求書 |
任意(法的な記載義務なし) |
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課税事業者(インボイス登録事業者) |
適格請求書(インボイス) |
任意。ただし、公表サイトで主たる事務所の所在地が公開される可能性がある。 |
インボイス制度は複雑なため、自身の事業者区分に合わせて、請求書の記載要件を正しく理解し、適切に対応することが求められます。
ここでは、取引先に安心感を与えつつ、ご自身の個人情報を守るための具体的な方法を2つご紹介します。
バーチャルオフィスとは、物理的なオフィススペースを借りることなく、事業用の住所や電話番号などをレンタルできるサービスです。自宅の住所を公開せずに事業を行いたいフリーランスにとって、非常に有効な選択肢となります。
バーチャルオフィスを利用することで、クライアントからの信頼性を高めつつ、プライバシーを保護できるという大きなメリットがあります。サービスによっては法人登記に利用できる住所を提供している場合もあります。ただし、月額費用が発生する点や、サービス内容が運営会社によって異なる点には注意が必要です。
住所を記載しない場合、請求書発行者としての信頼性を他の情報で補うことが重要になります。特に「屋号」と「事業用の連絡先」は、あなたが個人ではなく、一つの事業として責任を持って取引に臨んでいることを示す有効な情報です。
屋号は、開業届を提出する際に記載する事業上の名前です。請求書に屋号を明記することで、プロフェッショナルな印象を与え、取引の透明性を高めます。また、連絡先として個人の携帯電話番号やプライベートのメールアドレスを記載するのではなく、事業専用の電話番号(IP電話サービスなど)やメールアドレスを用意することをおすすめします。これにより、公私の区別が明確になり、クライアントとの円滑なコミュニケーションにも繋がります。
住所の代わりに、以下の情報を明確に記載しましょう。
フリーランスとして活動していると、請求書の住所記載について様々な疑問が浮かぶものです。ここでは、特によくある3つの質問にお答えします。クライアントとの良好な関係を築きながら、ご自身のプライバシーを守るためのヒントとしてご活用ください。
クライアントに住所を伝えたくない場合、正直かつ丁寧に理由を説明し、代替案を提示することが重要です。契約前など、できるだけ早い段階で伝えるのがスムーズです。
伝え方のポイントは以下の通りです。
【伝え方の例文】
「請求書の件でご相談がございます。大変恐縮なのですが、自宅兼事務所のため、セキュリティの観点から請求書への住所記載を控えさせていただいております。代わりに、屋号、氏名、電話番号、メールアドレスを記載いたしますが、ご了承いただけますでしょうか。」
ご実家の許可が得られていれば、請求書に実家の住所を記載すること自体は可能です。ただし、開業届に記載した住所との違いや、郵便物の管理について注意が必要です。
開業届に記載する住所と、請求書に記載する住所の役割は異なります。
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項目 |
開業届の住所 |
請求書の住所 |
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役割 |
納税地として税務署に登録する住所。確定申告に関する書類などが届きます。 |
事業所の所在地として取引先に提示する住所。郵便物や連絡先としての役割が主です。 |
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一致の要否 |
必ずしも一致させる必要はありません。 |
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注意点 |
税務署からの重要書類が確実に届く住所である必要があります。 |
取引先からの郵便物が確実に受け取れ、事業の連絡先として機能する必要があります。 |
請求書に実家の住所を記載する場合、ご家族に郵便物の受け取りや管理を依頼し、重要な連絡を見逃さない体制を整えておくことが不可欠です。開業届に記載した納税地と請求書の住所が異なっていても、税務上の手続きを正しく行っていれば直ちに問題とはなりませんが、それぞれの住所の役割を理解し、適切に管理しましょう。
海外に居住しながら日本のクライアントと取引する場合、請求書には現在活動の拠点としている現地の住所を記載するのが基本です。日本の住所(実家など)を記載すると、税務上の居住者であると誤解され、手続きが複雑になる可能性があるため避けましょう。
海外在住者が請求書を作成する際のポイントは以下の通りです。
グローバルに活動する場合、ご自身の居住ステータスを正しく伝え、それに沿った請求書を発行することが、円滑な取引の鍵となります。
フリーランスの請求書に住所を記載する義務はなく、基本的には住所なしでも問題ありません。ただし、クライアントによっては住所の記載を求められる場合もあるため、事前に相談・確認をしておくことが大切です。また、源泉徴収が発生する取引や、インボイス制度で登録事業者となっている場合など、一部のケースでは住所情報が必要になることもあります。自宅住所を公開したくない場合は、バーチャルオフィスの住所を使うなど、安全に取引を進められる方法も検討してみましょう。