更新日:2025.11.28

ー 目次 ー
紙の請求書の管理や手入力に追われ、「もっと楽にならないだろうか」と感じていませんか?
請求書のデータ化は、日々の経理負担を軽くするだけでなく、コスト削減や電子帳簿保存法への確実な対応にもつながる取り組みです。まず何から始めればよいかを3ステップで紹介し、Excelや無料のOCR(光学的文字認識)ツールを使った始め方、会計ソフトと連携できるツールの見極め方、運用で迷いやすい法的ポイントまで、一つずつ整理していきましょう。
請求書のデータ化は、経理業務の効率化やペーパーレス化に不可欠な取り組みです。紙やPDFなど様々な形式で届く請求書を扱うのは手間がかかり、入力ミスや紛失のリスクも伴います。しかし、正しい手順を踏めば、誰でもスムーズにデータ化を進めることが可能です。ここでは、請求書をデータ化するための基本的な3つのステップを具体的に解説します。
データ化の最初のステップは、様々な形式で届く請求書の受領方法を一つにまとめることです。請求書が紙で届く場合と電子データ(PDFなど)で届く場合で、それぞれ対応方法を決め、社内でルールを徹底することが重要です。これにより、後続のデータ読み取り作業が格段に効率化されます。
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受領形式 |
主な対応方法 |
ポイント |
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紙の請求書 |
スキャナやスマートフォンのカメラで読み取り、PDFなどの画像データに変換します。 |
電子帳簿保存法のスキャナ保存要件を満たす解像度や設定でスキャンすることが求められます。 |
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電子請求書(PDFなど) |
メール添付やWebサイトからダウンロードした請求書データを、社内の指定フォルダ(クラウドストレージなど)に集約します。 |
ファイル名の命名規則(例:「日付_取引先名_請求番号」)を設けることで、管理がしやすくなります。 |
また、可能であれば取引先にお願いして、請求書を電子データで送付してもらうように依頼することも有効な手段です。これにより、スキャンする手間そのものを削減できます。
次に、統一された請求書データから必要な項目を読み取り、会計ソフトなどで扱える形式のデータに変換します。このステップには、手入力とOCRを利用する方法の主に2つがあります。
請求書の内容を目で見て、Excelや会計ソフトに直接入力する方法です。特別なツールが不要なため手軽に始められますが、入力ミス(ヒューマンエラー)が発生しやすく、請求書の枚数が多いほど時間と手間がかかる点がデメリットです。
OCR(光学的文字認識)ツールを利用して、請求書の画像データから文字情報を自動で読み取る方法です。近年はAI技術を活用した「AI-OCR」が主流で、手書きの文字や非定型のフォーマットでも高い精度で読み取ることが可能です。手入力に比べて作業時間を大幅に短縮し、入力ミスを削減できるメリットがあります。
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データ化の方法 |
メリット |
デメリット |
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手入力 |
特別なツールが不要で、すぐに始められる。 |
時間がかかる。入力ミスが発生しやすい。 |
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OCR |
作業時間を大幅に短縮できる。入力ミスを削減できる。 |
ツールの導入コストがかかる場合がある。100%の読み取り精度ではないため確認作業が必要。 |
最後のステップは、作成した請求書データを会計システムや文書管理システムに保存し、いつでも検索・活用できる状態にすることです。データを適切に管理することで、経理の月次処理や監査対応がスムーズになります。
データを保存する際は、2024年1月から完全義務化された電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。特に、電子取引で受領した請求書データは、単にフォルダに保存するだけでなく、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たした上で保存しなければなりません。
具体的には、タイムスタンプを付与したり、訂正・削除の履歴が残るシステムを利用したりする必要があります。また、「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索できる機能を確保することも求められます。これらの要件に対応した会計ソフトや請求書受領サービスを活用することで、法改正にも適切に対応しながら、安全かつ効率的にデータを管理できます。
請求書を紙媒体からデータに移行することで、単にペーパーレス化が進むだけでなく、経理業務全体に大きなメリットをもたらします。ここでは、請求書をデータ化することで得られる代表的な3つのメリットを詳しく解説します。
紙の請求書処理には、郵送物の開封、内容の確認、会計ソフトへの手入力、承認印のための回覧、ファイリングといった多くの手作業が発生します。これらの作業は時間がかかるだけでなく、入力ミスや紛失などのヒューマンエラーを引き起こす原因にもなります。請求書をデータ化し、OCR機能やシステム連携を活用することで、これらのプロセスを自動化し、経理担当者の負担を大幅に軽減できます。
以下の表は、紙とデータでの業務プロセスの違いをまとめたものです。
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項目 |
紙の請求書 |
データ化した請求書 |
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受領 |
郵送で受け取り、手作業で開封・仕分け |
メールや専用システムで自動的に受領 |
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データ入力 |
目視で確認し、会計ソフトへ手入力 |
OCRで自動読み取り、またはCSVデータで一括取込 |
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承認・回覧 |
押印のために物理的に書類を回覧 |
ワークフローシステム上で申請・承認が完結 |
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保管 |
ファイリングし、キャビネットや倉庫で保管 |
クラウドストレージやサーバーに自動で保存 |
業務プロセスの自動化・効率化は、人件費の削減に直結します。手入力や確認作業にかけていた時間を、より付加価値の高い業務に充てることが可能になります。また、紙の請求書で発生していた印刷代、インク代、郵送費、書類を保管するためのキャビネットや倉庫のスペース費用といった物理的なコストも不要になり、企業全体のコスト削減に大きく貢献します。
「過去のあの取引の請求書を確認したい」と思った際に、大量のファイルの中から目的の一枚を探し出すのは大変な手間と時間がかかります。請求書をデータ化すれば、取引先名、発行日、金額、請求書番号など、さまざまな条件で瞬時に検索できます。これにより、監査対応や問い合わせ対応の際にも、必要な情報を迅速に見つけ出すことが可能です。
データ化された請求書は、クラウド上のシステムなどで一元管理されるため、権限さえあれば時間や場所を問わずにアクセスできます。これにより、経理担当者のリモートワーク(テレワーク)が容易になるだけでなく、本社と支社、あるいは経理部門と事業部門といった複数拠点・部門間での情報共有がスムーズになります。承認者が出張中であっても、オンラインで承認プロセスを進められるため、業務の停滞を防ぎます。
請求書は、法人税法などの法律によって一定期間の保存が義務付けられている重要な証憑書類です。データとして管理することで、法改正(特に電子帳簿保存法)にも柔軟に対応しやすくなり、企業のコンプライアンス体制を強化できます。多くの請求書受領サービスは、電子帳簿保存法の要件を満たす形でデータ保存を行う機能を提供しています。
紙の書類は、紛失や盗難、火災や水害による毀損、経年劣化といった物理的なリスクが常に伴います。請求書をデータ化し、適切な管理体制を構築することで、これらのリスクを大幅に低減できます。具体的には、アクセス権限を役職や担当者に応じて設定することで不正な閲覧を防いだり、操作ログを記録することでデータの改ざんを防止したりできます。また、定期的なバックアップを行うことで、万が一のシステム障害や災害時にもデータを保護することが可能です。
請求書のデータ化は、専用のシステムを導入しなくても、コストをかけずに始めることが可能です。特に、事業を始めたばかりの方や、まずはデータ化を試してみたいという企業におすすめの方法です。ここでは、多くの人が利用しやすい「Excel」と、スマートフォンアプリなどでも利用できる「無料OCRツール」の2つの方法を具体的に解説します。
最も手軽に始められるのが、Microsoft Excelを使って請求書の管理台帳を作成する方法です。多くのPCに標準でインストールされており、追加の費用がかからない点が大きなメリットです。受け取った紙やPDFの請求書の内容を見ながら、手作業でExcelの表に入力していきます。
データ化する際は、後で管理しやすいように項目を統一したテンプレートを作成しましょう。最低限、以下の項目を入れておくと管理がしやすくなります。
この方法は、コストがかからない一方で、請求書の枚数が増えると入力作業に時間がかかり、入力ミス(ヒューマンエラー)が発生しやすいというデメリットがあります。月に数枚程度の請求書を処理する場合に適した方法と言えるでしょう。
手入力の手間を削減したい場合、無料のOCR(光学的文字認識)ツールやスマートフォンのアプリを活用する方法があります。OCRとは、スキャナやカメラで読み取った画像データから文字情報を自動で抽出し、テキストデータに変換する技術のことです。紙の請求書を撮影したり、PDFファイルをアップロードしたりするだけで、記載されている情報をテキストとして取り込むことができます。
これにより、手入力の作業を大幅に削減し、業務の効率化が期待できます。無料で利用できる代表的なツールや機能には、以下のようなものがあります。
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ツール・機能の例 |
主な特徴 |
注意点(無料利用の範囲) |
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Google ドライブ |
PDFや画像ファイルをアップロードし、Googleドキュメントで開くことで、画像内の文字が自動でテキスト化されます。 |
請求書の項目を自動で判別する機能はなく、テキストが羅列される形式のため、手動でのコピー&ペーストが必要です。 |
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Microsoft Lens |
スマートフォンアプリ。カメラで撮影した書類をテキストデータとして抽出したり、Excel形式で出力したりできます。 |
読み取り精度は100%ではないため、必ず目視での確認と修正作業が発生します。大量の請求書処理には向きません。 |
無料のOCRツールは手軽に利用できる反面、読み取り精度には限界があります。特に、手書きの文字や複雑なレイアウトの請求書では誤認識が多くなる傾向があります。また、無料版では読み取り枚数に上限が設けられている場合も多いため、あくまで補助的なツールとして、最終的な確認は人の目で行うことが不可欠です。
請求書データ化ツールは数多く提供されており、自社の目的や業務フローに合ったものを選ぶことが業務効率化の鍵となります。ここでは、ツール選定時に比較すべき6つの重要なポイントを解説します。
請求書のデータ化において、ツールの中核となるのがOCR(光学的文字認識)による読み取り精度です。精度が低いと、結局手作業での修正が増えてしまい、導入効果が半減してしまいます。
特に、AI技術を活用した「AI-OCR」を搭載したツールは、多様なフォーマットの請求書を学習し、使うほどに読み取り精度が向上する特徴があります。手書きの文字や、印影が文字にかかっているような複雑な帳票でも高精度に読み取れるかを、無料トライアルなどを利用して確認しましょう。実際に自社で受け取っている請求書をスキャンし、読み取り結果を比較検討することが重要です。
データ化した請求書情報を、現在利用している会計ソフトにスムーズに取り込めるかは、経理業務全体の効率を左右する重要なポイントです。手入力の手間を省き、入力ミスを防ぐためにも、会計ソフトとの連携機能は必ず確認しましょう。
弥生会計、freee会計、マネーフォワード クラウド会計といった主要な会計ソフトとAPI連携できるツールであれば、ボタン一つで仕訳データを自動で反映させることが可能です。API連携に対応していなくても、会計ソフトが取り込める形式のCSVファイルを出力できるかどうかも確認しておくと良いでしょう。
請求書をデータで保存する場合、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。選定するツールがこの法律に準拠しているかを確認することは、コンプライアンスの観点から必須です。
特に、スキャナ保存や電子取引データの保存要件を満たしているかを確認しましょう。具体的には、タイムスタンプの付与機能や、訂正・削除の履歴が確保されるシステムであることなどが挙げられます。信頼性の高い指標として、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が認証する「JIIMA認証」を取得しているかどうかも、ツール選びの大きな判断材料となります。
ツールは経理担当者だけでなく、複数の従業員が利用する可能性があります。そのため、誰でも直感的に操作できる分かりやすいインターフェースであることは非常に重要です。マニュアルを読み込まなくても基本的な操作ができるかどうか、無料トライアル期間中に確認しましょう。
また、導入時の初期設定や運用開始後にトラブルが発生した際のサポート体制も確認すべきポイントです。電話やメール、チャットなど、どのような問い合わせ方法があり、対応時間はどうなっているのかを事前に把握しておくと、安心して運用を開始できます。
請求書には取引先の情報や金額など、企業の重要な情報が含まれています。そのため、ツール選定時には万全なセキュリティ対策が講じられているかを確認しなければなりません。
具体的には、通信の暗号化(SSL/TLS)、不正アクセスを防ぐIPアドレス制限、ログイン時の二段階認証といった機能の有無をチェックしましょう。また、情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格である「ISO/IEC 27001(ISMS認証)」を取得しているかどうかも、サービスの信頼性を測る上で有効な指標となります。
請求書をデータ化する際は、関連する法律、特に「電子帳簿保存法」の要件を正しく理解することが不可欠です。コンプライアンスを遵守し、適切に業務を進めるために、法律上の主要なポイントを解説します。
スキャナ保存とは、紙で受け取った請求書や領収書などを、スキャナやスマートフォンのカメラで読み取って電子データとして保存することです。この方法で保存するには、電子帳簿保存法で定められた以下の要件を満たす必要があります。
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区分 |
主な要件 |
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真実性の確保 |
タイムスタンプの付与、または訂正・削除の履歴が残る(もしくは訂正・削除ができない)システムを利用して保存する。 |
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可視性の確保 |
解像度200dpi相当以上、カラー画像(赤・緑・青それぞれ256階調以上)で読み取ること。また、PCやディスプレイ、プリンタ等を備え付け、速やかに出力できるようにしておく。 |
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検索機能の確保 |
「取引年月日」「取引金額」「取引先名」の3項目で検索できるようにする。 |
これらの要件を満たすことで、原本である紙の請求書を破棄することが可能になります。
電子取引とは、メールに添付されたPDFの請求書や、Webサイトからダウンロードした請求書など、電子データで授受した取引情報を指します。2024年1月1日より、この電子取引データは紙に出力して保存することが認められなくなり、電子データのまま保存することが全ての事業者に対して義務化されました。
電子取引データを保存する際は、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たす必要があります。
以下のいずれか1つの措置を講じる必要があります。
可視性の確保では、保存場所にPCやディスプレイなどを備え付け、データを速やかに出力できるようにしておくことに加え、以下の検索機能を確保する必要があります。
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検索要件 |
内容 |
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主要3項目での検索 |
「取引年月日」「取引金額」「取引先名」を検索条件として設定できること。 |
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範囲指定検索 |
取引年月日または取引金額の範囲を指定して検索できること。 |
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組み合わせ検索 |
2つ以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できること。 |
ただし、税務調査の際に税務職員からのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合は、「範囲指定検索」と「組み合わせ検索」の要件は不要となります。
請求書データ化は、受け取り方をそろえる → 情報を読み取る → 正しく保存・管理する、という3つの手順で整理すると、より確実に進められます。
少量ならExcelや無料OCRで十分始められますが、処理量が増えてきていたら、OCR精度・会計連携・電帳法対応(真実性/可視性)の3点を軸に専用ツールをご検討ください。日々のミスと探し物の時間が減り、月次や監査対応がぐっと楽になります。