更新日:2024.12.27
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企業が事業を進める上で発生する経費は、大きく「固定費」と「変動費」に分けられます。固定費と変動費は、企業の経営の状況や成績を把握する上で、重要な費用です。しかし、会計処理に詳しくない方にとっては、2つがどのように違うのか、どのように分類するのかなど、わからない点が多くあるでしょう。
本記事では、固定費と変動費について詳しく解説し、分類方法を紹介します。また、固定費と変動費の分類に迷ったときの対処法や、分析できる指標についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
企業で発生する経費は、固定費と変動費の2つに分けられます。経営状況の分析には、この2つの分類が欠かせません。そこで、固定費と変動費は一体どのような費用として考えられているのかを、ここで解説します。
固定費は、売り上げの増減にかかわらず、一定で決まった額がかかる費用を指します。例えば、固定費として以下のような費用が挙げられます。
固定費の大きな特徴は、売り上げにかかわらず常に一定で発生するため、商品・サービスの販売数や売上高が変わっても、変動しない点です。
変動費は、売り上げの増減に比例して、増えたり減ったりする費用です。例えば、変動費として以下のような費用が挙げられます。
会計業務上、商品やサービスは売れた分だけを計上するので、事前に大量に仕入れを行っていたとしても、全く売り上げがなければ、売上原価も発生していないものとみなされます。もし売り上げが10倍に増加した場合は、変動費も比例して10倍になります。
企業によっては、商品が売れやすい繁忙期のみ派遣社員や契約社員を雇うケースがあるでしょう。その場合、売り上げや販売数に応じて増えた経費なので給与は変動費に分類されます。
固定費と変動費を分けることを「固変分解」と言い、一般的には「勘定科目法」と「回帰分析法」の2つが知られています。ここでは2つの方法について詳しく解説します。
勘定科目法では、勘定科目ごとに、固定費と変動費のどちらに該当するかを一つひとつ判断します。固変分解をする際に、よく使われている手法です。
勘定科目法の場合、固定費と変動費のどちらに振り分けられるかは、業種や発生理由によって異なります。判断に迷う場合は、中小企業庁が2003年度に策定した「中小企業の原価指標」を参考にしましょう。
回帰分析法とは、会計年度の売上高と総費用を使って、固変分解を行う方法です。縦軸が「費用」、横軸が「売上高」のグラフを用意して、月毎に交わる点をグラフ上に打っていきます。次に、グラフ上に打った12個(12ヶ月分)の点をできるだけつなげるように直接を書いていきます。このとき、各点から大幅に外れていなければ、多少ずれていても問題ありません。
ここで完成した直線グラフの傾きが変動費率で、切片は固定費となります。「y=ax+b」という計算式で表せて、aには変動費が、bには固定費が入ります。
グラフを作成する際、ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトを活用すると簡単です。一般的に、勘定科目法の方が活用されていますが、より正確な分析を求める場合に回帰分析法を使う企業もあります。
上記で紹介した方法を使っても、固定費と変動費のどちらに分けたら良いのか困ってしまう場合があるでしょう。ここでは、分類に迷った際の対処法を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
固定費と変動費、どちらに振り分けたら良いのかわからない場合の対処法として、費用の明細を確認して細かく分類する方法があります。例えば、人件費や地代家賃、広告宣伝費などは、発生した理由や内容に応じて、以下のように固定費と変動費に分けられます。
■人件費
固定費:正社員の給料や各種手当、福利厚生費、退職金など
変動費:販売数が上がる繁忙期に雇用する派遣社員の給料、インセンティブ費用など
■地代家賃
固定費:売り上げに左右されず発生する毎月の家賃
変動費:売り上げが増えると支払い金額が増えるテナント料
■広告宣伝費
固定費:売り上げに左右されず毎月発生するCM費用、毎月予算を決めて運用している広告費用など
変動費:期間限定のセール費用
会計処理をする際に、固定費と変動費どちらに該当するのか、細かく分類して決定すると良いでしょう。ただこの場合、会計処理が多少複雑になるというデメリットがあるので注意が必要です。
会計処理の手間を省くために、過去の実績や売り上げに応じて、固定費と変動費を割合で按分する方法があります。具体的には、以下のような方法です。
ただし、会計処理の度に違う割合で計算すると、正しく比較できません。過去の実績や売り上げにあわせて割合を決めてしまったら、できる限り変更しないようにしましょう。
上記で紹介した方法でも、固定費か変動費かどうしても分類できないケースがあるでしょう。その場合は、固定費に分類するのをおすすめします。
固定費と変動費を使ってどれくらいの利益が出せるのかを計算する際、変動費よりも固定費が多いほうが厳しい分析ができます。分類に迷ったときには固定費として分類しておくことで、利益の予測が甘くなり「後々、想定通りの利益が出なかった」といった事態を避けられます。
固定費と変動費は、分類そのものではなく、その後の分析が重要です。したがって、分析が甘くならないように処理を行っておけば、分析結果にもとづいて安心して経営判断ができるでしょう。
固定費と変動費は経営状況の分析に役立てられるため、しっかりと分類する必要があります。ここでは固定費と変動費の分類によって分析が可能な、経営において重要な4つの指標を紹介します。
限界利益とは売上高から変動費を引いた額を指します。利益は、売上高から固定費と変動費を引いた額なので、以下のような式で表せます。
式からもわかるように、売上高が高ければ限界利益も高くなります。限界利益が黒字の場合は、安定した経営が行われていると判断する1つの材料になります。
具体的な数値を用いて限界利益を計算してみます。例えば、以下のような商品を販売するとしましょう。
このとき、売上高は1,500円で、変動費は仕入れ代金の1,000円なので、限界利益は以下のように算出できます。
ここで注意しなければならないのが、限界利益には固定費が含まれているためそのまま企業の利益にはならない点です。限界利益から固定費を引いた利益は「経常利益」と呼ばれます。
また、限界利益から売上高を割って「限界利益率」を算出できます。限界利益率とは「売上高が増えるにつれ、どれだけ利益が増えるのか」を表した数値です。限界利益率が高い商品に力を入れて販売すれば、限界利益率が低い商品を売るよりも、利益の増加につながりやすくなります。
損益分岐点とは、売上高と費用がつり合う点で、利益も赤字も出ない場合の売上高のことです。つまり、「売上高-費用=0」となる点を指します。損益分岐点の売上高は、「固定費÷限界利益率」で算出でき、以下の式が成り立ちます。
損益分岐点の数値から「商品をいくつ売れば利益が出るのか」「利益を上げるために固定費・変動費の削減がどれくらい必要なのか」がわかります。
ここで、以下のような商品の場合の損益分岐点を計算してみましょう。
このとき、損益分岐点は以下のように計算できます。
つまり、1か月で40個販売できなければ、損益分岐点を下回り、赤字になるとわかります。仮に、変動費を4,000円に抑えた場合は、損益分岐点は「20万円÷(1-(4,000円÷1万円)=約33万3,333円」となり、販売数約33個で利益を出せるとわかります。このように、損益分岐点はいかに企業が利益を出せるかを判断できる重要な指標です。
安全余裕率は、会社の利益に余裕があるのかどうかを判断する指標で、以下の式で表せます。
安全余裕率を確認することで、会社の経営が厳しい状態なのか、利益を出すしくみがあるのか、会社の状態を判断できます。安全余裕率の目安は、一般的に10%~20%と言われています。安全余裕率がマイナスの場合、企業の経営は赤字です。数値が高いほど、経営が安定していると判断できます。
特に、固定費が比較的高い場合は、安全余裕率も悪くなるケースが多いです。改善するには、販売数を増やすか単価を上げるなどで売上高を伸ばす、もしくは固定費や変動費を抑えて損益分岐点売上高を下げる必要があります。
売上高変動費率は、売上高に対する変動費の比率で、変動費が高ければ比率も高くなります。
変動費は売り上げに連動し、売り上げがなければ発生しない費用です。したがって、売上高変動費率が高い場合は赤字になるリスクは少ないと判断できます。しかし、一方で、売上高変動費率が高い場合、売り上げが上がってもその分費用も発生するため、大きな利益を得るのは難しいでしょう。
一般的には、70~80%が平均だと言われ、中小企業の場合は大企業よりも平均水準が低く設定されています。
企業がより利益を出すには、固定費と変動費をできるだけ抑える必要があります。ここでは、固定費と変動費の具体的な削減方法を紹介します。
固定費は売り上げの増減に影響せずにかかる費用のため、経費を削減したい場合、変動費よりも固定費を先に見直しましょう。固定費を削減するための具体的な方法には、以下のようなものがあります。
ほとんどの場合、固定費の中でも高い割合を占めているのが家賃です。契約更新のタイミングでオーナーへ値下げの交渉を行ったり、テレワークへの移行に伴って解約したりするなどで、家賃の見直しを行いましょう。
また、利用しているチャットツールやWeb会議ツール、データ共有システムなど、さまざまなツールの見直しも1つの手です。本当に必要なのか、どれくらいの人が活用しているのかを明確にして、ツール変更や解約を検討するのをおすすめします。ほかにも、システムの導入で効率化につながったり、業務の自動化によって削減できたりする経費がないか、確認しましょう。
固定費の削減に限界があるのであれば、次に変動費に注目しましょう。変動費の削減方法としては、主に以下の2つがあります。
商品の仕入れ価格を下げられないか取引先と交渉したり、ほかの仕入れ先を検討したりすることで、変動費の削減につながります。また、製造工程の見直しによって、原価を抑えられる可能性もあるでしょう。
しかし、仕入れ価格を下げると、その分品質の低下につながってしまう可能性があります。そのため、品質に影響が出ないような削減方法を考える必要があります。
また、無駄な在庫を抱えないように、常時必要な在庫数を把握するのも変動費削減の1つの方法です。余っている在庫は、早めの現金化を徹底しましょう。
固定費は、売上高や販売数に影響されずに常に一定でかかる費用を指します。一方、変動費は、売り上げや販売数に比例して増減する経費です。
固定費と変動費の分類方法を固変分解と呼び、主に勘定科目法と回帰分析法が使われています。2つの方法でも分類が難しければ、明細を細かく見て分類したり、過去の実績に応じて割合で分類したりと、いくつか方法があります。
固定費と変動費の分析によって、限界利益や損益分岐点などの会社経営に関わる指標の算出が可能です。固定費と変動費の分類は、経費削減だけでなく経営判断を行うために重要なので、しっかりと行いましょう。