更新日:2024.12.27
ー 目次 ー
見積書と請求書は、ビジネス上の取引において受注側から発注側に発行する書類であり、似ている部分もありますが、それぞれの役割や発行のタイミングに違いがあります。混同するとトラブルになる可能性があるため、注意が必要です。
この記事では、見積書と請求書の違いについて、主に以下の疑問点を解決できます。
違いを理解し、取引をスムーズに行いましょう。
見積書と請求書の違いは、主に以下の5つです。
それぞれ解説します。
見積書と請求書の役割は明確に異なります。
役割 |
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見積書 |
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請求書 |
|
契約交渉の際に見積書があると、受注側は提案しやすくなり、交渉がスムーズに進められるのがメリットです。そして双方が内容に同意すれば、契約手続きに進みます。
一方、請求書は取引完了後に取引内容を明確にして支払いトラブルを防ぐためにも役立ちます。
見積書と請求書には、記載内容にも違いがあります。
それぞれの記載内容は以下のとおりです。
見積書の内容 |
請求書の内容 |
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見積書は契約前の予想費用であるため、途中で条件の変更等があれば内容が変わります。一方、請求書は支払いの確定金額が記載されており、振込先や支払条件などの支払情報が記載されています。
また、請求書は既に提供された商品やサービスの内容と、その対価を示す書類であり、基本的に金額や内容が変わることはありません。
なお、請求書は税務においても重要な書類であることに留意が必要です。不正確な請求書は税務上の問題を引き起こす可能性があるため、正確な情報を記載しているかしっかり確認しましょう。
見積書と請求書は、発行するタイミングが異なります。
発行のタイミング |
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見積書 |
取引の「契約前」に発行する |
請求書 |
取引の「完了後」に発行する |
なお、一般的な取引の流れは以下のとおりです。
見積書と請求書は受取側の対応にも違いがあります。
受け取った側の対応 |
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見積書 |
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請求書 |
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見積書を受け取った際は、契約内容の検討や注文の判断が求められますが、この段階では支払いの義務は生じません。請求書を受け取った場合は、支払い手続きが必要です。
請求書と見積書の法的な性質の違いは、以下のとおりです。
法的な性質の違い |
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見積書 |
通常、法的な拘束力はない |
請求書 |
法的効力が認められる |
請求書は取引の存在を証明する証拠となります。また、民法によると契約に基づく支払い請求は、最後の取引から5年以内に行う必要があるとされています。これは請求書が発行された後、発注者が支払いを義務付けられる点で、見積書とは大きく異なるでしょう。
見積書と請求書は両方、原則的に発行義務はありません。ただし、建設業は建設業法によって見積書の発行が義務付けられているため注意してください。
見積書と請求書の金額は通常一致していますが、一致しないケースもあります。
金額が変わる理由として、以下の5つが考えられます。
見積もり後に金額の変動があった場合、受注側は請求書を作成する前に必ず発注側に通知し、金額の変更について合意を得ることが重要です。その際、変更点と理由を明確に説明したうえで、適切な請求書を作成しましょう。
一方、発注側は金額の変更が合理的であるかを評価し、最終的には双方の合意のもとで支払います。
見積書と請求書の保存期間と保存方法には、違いはありません。
保管期間は以下を参考にしてください。
見積書と請求書の保管期間 |
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法人 |
発行年度の法人税申告期限日から7年間 |
法人で欠損金が生じた場合 |
10年間 ※欠損金の繰越控除を受ける場合 |
個人 |
発行年度の確定申告期限日から5年間 |
適格請求書 |
法人・個人事業主にかかわらず7年間 |
なお、電子取引で受け取った見積書や請求書は電子データとして保管し、同様の期間保存する必要があります。
見積書の内容に不備があると、トラブルの原因となります。
トラブルを回避するためのポイントは以下の4つです。
それぞれ解説します。
複数のプランがある取引の場合は、それぞれのパターンで見積書を作成しておくと金額や内容の混同を防げます。また、複数パターンの見積書を用意することで、発注側は比較・検討しやすいメリットがあります。
複数パターンの見積書を作成することで、発注する組み合わせによって単価を安くするなどの提案も行いやすく、発注率の向上にも役立つでしょう。
法的に見積書の有効期限を設ける必要はありません。しかし、見積書に有効期限を設定することで、取引先とのトラブルを未然に防止できます。期限後の価格変更への対応や、取引先に契約を進める動機を与える効果が期待できるでしょう。
原則、有効期限が過ぎた見積書は、その時点での価格や条件を保証しなくなります。期限後でも取引先が元の見積書に基づいて発注しようとする場合は、元の条件と異なる可能性が高いため、新たな見積書を提出し双方の合意を改めて確認することが大切です。
見積書の詳細を念入りに確認することで、請求書発行時の認識の違いを防ぎます。見積書は、双方の条件に誤認がないことを確認したうえで提出しましょう。
提出後にミスが発覚した場合は速やかに報告し、正確な見積書を再発行してください。
取引先とのトラブルを回避するため、見積書には取引条件を明記しておくことが重要です。特に以下のような取引条件は、誰が見ても分かるように詳しく記入しましょう。
見積書を発行する際は「受注から2週間以内に納品する」「支払いは納品後60日以内」など、具体的な数字を表記しておくとトラブル防止につながります。
見積書と請求書に関するよくある質問と回答をまとめました。
請求書がなくても取引内容が証明される見積書があれば、支払いをすることは可能です。ただし、請求書がないと取引の事実を証明することが難しくなります。
そのため、受注者側に支払いの証拠として請求書を作成してもらいましょう。
見積額は変動する可能性があり、顧客とのトラブルを招く恐れがあります。また、見積書と請求書を一緒にすることで役割が不明瞭になるため、別々に作成することをおすすめします。
見積書と請求書は同じ日付での発行が可能です。ただし、同じ日付の場合は見積書なのか請求書なのかを明確に区別し、混乱を避けるためにもその違いを説明しましょう。
交渉や条件変更などにより見積書を再発行する場合は、変更点や新しい発行日を記載してください。
インボイス制度における適格請求書の代用として、見積書を発行するケースも稀にあります。適格請求書はひとつの書類のみですべての要件を満たす必要はなく、納品書や見積書など複数の書類を合わせてひとつの適格請求書とみなすことが可能です。
見積書を適格請求書として代用する場合は、インボイスの登録番号を記載しておくと請求書と紐づけやすくなります。
参照:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」
見積書と請求書はどちらも取引において重要な書類ですが、役割や発行するタイミング、受取側の対応、法的効力などさまざまな違いがあります。そのため、それぞれの違いを正しく理解しておくことで、効率的な経理処理が実現します。
見積書や請求書を作成する際は、取引先との合意が欠かせません。円滑な取引のためにも正確な情報を共有し、トラブルを未然に防ぎましょう。