更新日:2025.06.24
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紙文書の管理・保存は、企業にとって大きな負担となっています。保管スペースの確保やファイリング作業の人件費など、目に見えるコストにくわえて、書類の検索や紛失リスクなど、業務効率を低下させる要因も数多く存在します。
こうした課題を解決するために整備されたのが、電子文書の保存に関する法的枠組みです。なかでも「e-文書法」と「電子帳簿保存法」は、企業の文書管理で重要な役割を果たしています。しかし、この2つの法律は混同されがちで、対象となる文書や要件の違いを正確に理解している担当者は意外と少ないのが現状です。
本記事では、e-文書法と電子帳簿保存法の違いについて、対象となる文書や保存要件、最新の法改正内容をあわせて解説します。
e-文書法とは、これまで紙での保存が法律で義務付けられていた書類を電子データとしての保存を認める法律です。商法や会社法、税法や保険業法など、さまざまな法律で紙での保存が義務付けられていた書類も、一定の要件を満たせば電子保存が可能になりました。
e-文書法は正式には「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の2つの法律の総称です。
前者によって約250の法律を一括して改正することなく電子保存が可能になり、後者では約70の個別法の一部改正により、前者ではカバーしきれない部分を整備しています。
電子帳簿保存法は、税務関連の帳簿や書類のデジタル保存を認め、業務効率化とデジタル化推進を目的とした法律です。
この法律は1998年に施行され、当初はコンピューターで作成した会計帳簿の電子保存のみを対象としていました。その後、2005年にe-文書法の施行にともなって改正され、紙の書類をスキャンして電子保存する「スキャナ保存制度」が導入されました。
さらに近年の法改正では、2022年1月から税務署長の事前承認が不要になり、タイムスタンプ要件の緩和など、電子保存の要件が大幅に緩和されています。電子帳簿保存法への対応は、単なる法令遵守だけではなく、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環としても注目されています。
e-文書法と電子帳簿保存法は、どちらも文書の電子保存に関する法律であるため混同されがちです。しかし、対象文書や保存要件、管轄省庁など、いくつかの重要な違いがあります。
正確な理解がないまま電子保存をおこなうと、法令違反となるリスクがあります。両法律の違いを明確に理解して適切に対応することで、業務効率化やコスト削減などのメリットを享受しながら、コンプライアンスの遵守が可能です。
ここでは、e-文書法と電子帳簿保存法の3つの主要な違いについて、それぞれ解説します。
e-文書法は幅広い法定文書を対象とする一方で、電子帳簿保存法は国税関係の書類に特化しています。法律ごとの対象文書の例は、以下のとおりです。
法律 |
対象文書 |
e-文書法 |
約250の法律で保存・交付が義務付けられた文書 |
電子帳簿保存法 |
国税関係帳簿書類と電子取引のみ |
e-文書法と電子帳簿保存法では、電子保存する際の要件も異なります。それぞれの保存要件は、以下のとおりです。
法律 |
保存要件 |
e-文書法 |
・見読性 |
電子帳簿保存法 |
・真実性の確保 |
e-文書法では4つの基本要件が定められていますが、管轄する省庁ごとに細部が異なる場合があります。これらの保存要件を適切に満たすことで、紙の原本と同等の証明力を持つ電子文書として認められ、業務効率化やコスト削減などのメリットを享受できます。
e-文書法と電子帳簿保存法では、電子保存の位置づけの違いも大きいです。e-文書法が電子保存を「認める(容認する)」法律であるのに対して、電子帳簿保存法は電子保存を「認める」だけではなく一部では「義務化」しています。
e-文書法の対象となる文書は、紙での保存も電子での保存も選択可能です。一方で、電子帳簿保存法では2022年の法改正により、電子取引データは2024年1月から電子保存が義務化されました。
文書の電子保存には、単なるペーパーレス化を超えた多面的なメリットがあります。それらのメリットは相互に関連しており、総合的に企業の競争力強化と働き方改革を推進する基盤となります。
適切な電子保存を実現するためには、対象となる文書がe-文書法と電子帳簿保存法のどちらに該当するかを把握し、それぞれの要件にあった保存方法を選択することが重要です。
ここでは、文書を電子保存することで得られる4つの主要なメリットについて、それぞれ解説します。
文書の電子保存によって直接的なコストだけではなく、間接的なコストも大幅に削減できます。それぞれのコストの具体的な例は、以下のとおりです。
コスト |
具体例 |
直接的なコスト |
・紙代・印刷コストの削減 |
間接的なコスト |
・人件費の削減 |
これらのコスト削減効果は、電子保存の規模や対象文書ごとに異なりますが、中長期的に見れば大きな経営効果をもたらします。
電子保存で業務効率は大幅に向上します。とくに「検索性の向上」「業務プロセスの改善」「対外業務の効率化」の面で効果が期待できます。
それぞれのメリットで期待できる効果は、以下のとおりです。
メリット |
期待できる効果 |
検索性の向上 |
・素早い検索 |
業務プロセスの改善 |
・承認プロセスの迅速化 |
対外業務の効率化 |
・取引先対応の迅速化 |
これらの効率化で、業務の質と量の両面で大きな改善が期待できます。
文書の電子保存で、インターネット経由で必要な文書にアクセスできるようになり、場所を選ばない業務環境の整備が可能です。これにより、テレワークの実施と促進に大きく貢献します。
場所や時間に縛られない働き方で生まれるメリットは、以下のとおりです。
電子保存された文書には場所的制約がなくなるため、物理的な文書の受け渡しも不要になります。このことで業務の時間的制約も少なくなり、個人の事情にあわせた柔軟な勤務形態が可能です。
電子保存は、紙の文書管理では困難であった高度なセキュリティ対策やコンプライアンス強化を実現します。適切なシステム導入で、文書のセキュリティレベルを向上できます。
リスク管理の面で期待できる効果は、以下のとおりです。
これらのセキュリティ向上は同時に、コンプライアンスの強化にもつながります。業務の透明性が確保されることで内部統制の機能が強化されて、確実かつ迅速に記録を提出できるようになるため、説明責任も適切に果たせます。
本記事では、e-文書法と電子帳簿保存法の違いについて、対象となる文書や保存要件、最新の法改正内容をあわせて解説しました。
e-文書法は、約250の法律で定められた法定文書の電子保存を認める法律であり、商法や会社法、保険業法などで保存が義務付けられた幅広い文書が対象です。一方で、電子帳簿保存法は国税関係書類に特化した法律で、仕訳帳や請求書、納品書などの税務関連文書が対象です。
とくに、電子取引データは2024年1月からの完全義務化により、メールで受け取った請求書PDFなどを紙に印刷して保存するだけでは不十分となっています。企業は電子帳簿保存法の要件に沿った保存方法の確立が必要です。
e-文書法と電子帳簿保存法を正しく理解して要件を満たした電子保存の実現で、業務効率化と法令遵守の両立が可能です。これは単なる文書管理の改善にとどまらず、企業全体のDX推進にもつながる重要な取り組みといえます。