更新日:2025.06.24
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2024年1月から電子取引データの保存が完全義務化され、企業の経理実務は大きく変わりつつあります。しかし、経理担当者のなかには、日常的に利用しているインターネットバンキングの取引も電子帳簿保存法の対象になるのか判断に迷っている方も少なくありません。
電子帳簿保存法の要件を満たしていないと、データの適正な保存ができずに、税務調査の際に取引の正当性を証明できなくなるリスクがあります。その結果、追徴課税などのペナルティを受ける可能性も考えられます。また、適切な対応ができていないと、経理業務の効率化も図れず、担当者の負担が増加するかもしれません。
本記事では、インターネットバンキングの利用と電子帳簿保存法の関係について、必要な保存方法やルール、具体的な対応手順をあわせて解説します。
2024年1月1日より電子取引のデータ保存は完全義務化されており、法人・個人事業主を問わず、ほぼすべての事業者が対応する必要があります。これまで認められていた紙での保存は、原則として電子データのままでの保存に変更されました。
電子取引とは、取引情報の授受を電磁的方法によりおこなう取引を指します。電子取引をデータ保存する際には、電子帳簿保存法が定める以下の「真実性の確保」と「可視性の確保」の要件を満たさなければなりません。
要件 |
内容 |
真実性の確保 |
保存したデータが改ざんされていないことを証明する仕組み |
可視性の確保 |
データを容易に確認・検索できるようにするための仕組み |
別途紙で明細が郵送されてくる場合などの一部の例外はありますが、一般的なインターネットバンキングを利用した振込などは、すべて電子取引に該当すると考えられます。
インターネットバンキングの利用明細などのデータは、電子取引のデータ保存の要件を守った保存が求められます。具体的には「取引年月日」「取引金額」「振込先名」などの情報が記載されたデータを、電子取引データの保存要件を満たす形での保存が必要です。
インターネットバンキングに関する電子帳簿保存法の対応は、一般的な電子取引のデータ保存と比較して、より柔軟な運用が認められている部分があるといえます。
ただし、これらの柔軟な運用が認められるのは一定の条件を満たす場合に限られるため、自社の状況に合わせた適切な対応が求められます。とくに、銀行のシステム上での保存期間と法定保存期間の差異には注意が必要です。
ここでは、インターネットバンキングに関する電子帳簿保存法の2つの特徴について、それぞれ解説します。
電子帳簿保存法にもとづけば、インターネットバンキングを利用した振込などにかかわる「取引年月日」「金額」「振込先名」などが記載されたデータは、本来そのデータをダウンロードするかPDFファイルでの保存が必要です。
しかし、国税庁によると、インターネットバンキングの通帳や入出金明細などによる「オンライン上の保存」も同様に保存すれば、電子帳簿保存法対応と認められるとしています。つまり、オンライン上の通帳などによる保存の場合は、随時確認が可能な状態であれば、必ずしもオンライン上の通帳などをダウンロードして保存する必要はありません。
銀行のシステム上で閲覧できる期間が税法で定められた保存期間に満たない場合は、別途保存を検討する必要がある点に注意しましょう。
インターネットバンキングを利用した際には、金融機関の窓口で振込などをおこなった場合に受け取る利用明細と同様の記載事項が記されたデータの保存が必要です。具体的には「取引年月日」「取引先」「取引金額」などが記載されたデータや、取引の際に発行された請求書や領収書などのデータの保存が求められます。
また、取引先からの入金も電子取引に該当するため、入金の事実をデータで残すことで、取引の双方向性を証明できます。
なお、振込依頼の受付が完了した旨を通知するメールや画面上の表示は、取引情報が記載されているわけではないため、保存する必要がありません。
インターネットバンキングの通帳や入出金明細なども同様に保存すれば、電子帳簿保存法対応と認められます。
インターネットバンキングを利用したデータの取扱いは、電子取引の保存要件を満たしていることや、税務職員による質問検査権にもとづく電磁的記録の提示などの求めに応じられるようにしていることが必要です。
ここでは、インターネットバンキングを利用した際のデータを保存する3ステップについて解説します。
インターネットバンキングの利用明細を取得する際は、ダウンロードボタンが表示されている場合は、クリックしてファイルを保存します。一般的に、PDFファイルやCSVファイルとしてダウンロードできることが多く、このようなファイルは、そのまま電子帳簿保存法の要件を満たす形式での保存が可能です。
ダウンロードボタンがなく、データをダウンロードできない場合は、表示された画面のスクリーンショットを撮って保存もできます。
「日付」「取引先」「金額」を含めたファイル名への変更で、検索要件を満たせます。それ以外の場合でも、どのようなファイルなのかがわかりやすくなるため便利です。
誰が保存しても問題ないように、ファイル名の付け方を明確にして、従業員に周知する必要があります。
ファイル名を変更したら、所定のフォルダなどに書類を格納して保存します。フォルダは、取引状況や業務内容などに応じて分けるのがおすすめです。たとえば「年度→取引先→取引種類」といった階層構造にすることで、効率的にファイルを整理できます。
保存場所は、パソコンのハードディスクでもクラウド上でもかまいません。ただし、システム障害などでデータが消えてしまわないように注意が必要です。
インターネットバンキングの利用データを保存する際にはいくつかポイントがあります。適切なデータ保存体制の構築で、税務調査への対応がスムーズになるだけではなく、日常の経理業務の効率化にもつながります。これらのポイントに留意しながら、自社の状況に合った最適な保存方法の構築が大切です。
ここでは、インターネットバンキングの利用データを保存する際のポイントについて解説します。
自社のインターネットバンキングの利用状況を確認して、電子取引の保存要件を満たす形で情報を保存できるように、業務フローを改善します。担当者ごとに対応が変わらないように、処理方法を定めておくことが大切です。
とくに、インボイス(適格請求書)の取扱いには注意する必要があります。インボイスを受領して、代金を支払う際に買手側が手数料を負担する場合、消費税の本則課税事業者は、インボイスの要件を満たした「手数料受取書」などの書類を受領して保存しなければなりません。
インターネットバンキングを利用した際の電子取引のデータ保存方法は、社内に周知する必要があります。経理担当者かどうかにかかわらず、インターネットバンキングを利用したすべての従業員が電子帳簿保存法の電子取引の対象です。
保存が必要な取引情報が誤って破棄されてしまわないように、データの保存方法やルール、具体的な対応方法などを伝えておきましょう。
電子帳簿保存法の観点では、インターネットバンキング上の情報が閲覧可能になった時点が、紙面の取引の場合の郵便物が届いた時点と同等とみなされています。したがって、インターネットバンキングの取引情報は、画面上で入出金処理の終了を照合画面で確認できたタイミングでデータ化するのが適切です。
取引後すぐにデータを保存する習慣をつけることで、取引情報の欠落を防ぎ、後々のトラブルを回避できます。
データの保存期間は、「各税法に定められた保存期間が満了するまで」と電子帳簿保存法で定められています。国税関係書類は、法人税法で7年(欠損金の繰越控除の利用などで必要と認められる場合には最大10年間)保存する必要があり、インターネットバンキングの取引情報も同期間の保存が必要です。
しかし、保存期間や照会期間は銀行ごとに異なるため、必ずしも法定の保存期間分をインターネット上で照会できるとは限りません。したがって、できるだけ自社で適切に保存できる環境を整えておくのがおすすめです。
本記事では、インターネットバンキングの利用と電子帳簿保存法の関係について、必要な保存方法やルール、具体的な対応手順をあわせて解説しました。
インターネットバンキングの取引は電子帳簿保存法の「電子取引」に該当し、適切なデータ保存が必要です。2024年1月から電子取引データの保存が完全義務化されたことで、インターネットバンキングを利用した取引情報も、原則として電子データのままの保存が求められています。
条件を満たせばオンライン上での保存も認められていますが、銀行のシステム保存期間が法定保存期間(7年または10年)に満たない場合は自社で保存しなければならない点に注意が必要です。
適切なデータ保存体制を整えて、税務調査への対応と業務効率化の両立を実現しましょう。