更新日:2024.07.02
ー 目次 ー
IFRSはEU加盟国の上場企業で適用が義務付けられており、世界各国で採用が拡大しています。自社のグローバル展開に向けて、IFRSの導入を検討している方はいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、IFRSは日本基準と異なる点が多くあるため、事前に確認しておくことが大切です。IFRSと日本基準の違いを表でまとめると以下のようになります。
項目 |
IFRS |
日本基準 |
基準設定主体 |
国際会計基準審議会(IASB) |
企業会計基準委員会(ASBJ) |
採用状況 |
世界約140ヵ国 |
日本国内 |
会計処理の考え方 |
原則主義(基本的な会計ルールのみ定め、具体的な数値基準や判断基準は設けない) |
細則主義(数値基準や判断基準が細かく決められている) |
利益の計算方法 |
資産負債アプローチ(資産と負債の差額を利益とする) |
収益費用アプローチ(収益から費用を差し引いて利益を計算する) |
のれんの償却方法 |
非償却 (毎年減損テストを実施) |
償却 (償却期間は20年以内) |
固定資産における減価償却の方法 |
要素別減価償却(固定資産を構成要素ごとに分解して減価償却を行う) |
取得単位別減価償却 (固定資産を取得単位ごとに減価償却を行う) |
メリット |
国際的な比較可能性、海外からの資金調達容易性、M&Aや提携の円滑化 |
法令遵守・税務上のメリット、日本商慣習・法制度への適合性 |
デメリット |
基準の解釈の難しさ、慣れない会計処理 |
国際的な比較可能性の低さ、海外投資家への説明の煩雑さ |
今回の記事では、IFRSと日本基準の4つの違いについて解説します。財務諸表の違いや適用する手順も紹介しますので、IFRSを導入するときの参考にしてください。
IFRSと日本基準は、双方ともに企業が財務諸表を作成する際に従う会計基準です。
IFRSと日本基準は、それぞれ異なる特徴を持っており、企業はそれぞれの基準を理解し、適切な会計処理を行う必要があります。
国際会計基準審議会(IASB)が定める国際的な会計基準です。世界中の多くの国で採用されており、企業の財務情報を国際的に比較可能にすることを目的としています。IFRSを採用することで、企業は海外の投資家や金融機関からの資金調達が容易になり、海外企業とのM&Aや提携もスムーズに進めやすくなるなどのメリットがあります。
IFRSは、原則主義(プリンシプル・ベース)を採用しており、具体的なルールよりも、取引の経済的な実態を反映させることを重視しています。そのため、企業はIFRSの原則に基づき、自社の状況に合わせて柔軟に会計処理を行うことができます。
企業会計基準委員会(ASBJ)が定める日本の会計基準です。日本国内で上場している企業などが主に採用しています。日本基準は、日本の商慣習や法制度に合わせた会計処理が求められる場合に適しています。
日本基準は、細則主義(ルール・ベース)を採用しており、詳細なルールが定められており、それに従って会計処理を行います。そのため、企業は日本基準に従って会計処理を行うことで、法令遵守や税務上のメリットを得ることができます。
IFRSと日本基準の以下4つの違いを解説します。
IFRSと日本基準は相違点が多くあるため、導入前にしっかり理解しておきましょう。
IFRSは原則主義、日本基準は細則主義を採用しています。原則主義では基本的な会計ルールのみ定めており、数値基準や判断基準は設けていません。細かい部分は状況に応じて、企業の判断に委ねています。またIFRSは国際会計基準であり、商慣習や法体系が異なる国でも比較できるのが特徴です。
一方で、原理に沿っていない例外処理は認められません。会計処理を行う際は、原則に沿っている根拠を示す必要があります。日本基準よりも注記の量が増えるため、業務負担が大きくなる点がデメリットです。
それに対して日本基準でもある細則主義は、数値基準や判断基準が細かく決められています。同じ基準で会計処理を行うため、企業間での比較がしやすくなっています。しかし、商慣習や法体系が異なる国では比較が難しくなります。
また、会計基準が厳密に決められているだけに、不正処理されやすい点がデメリットです。細則主義の場合、意図的に財務諸表を改ざんしたり、経営状況の把握に必要な情報を隠蔽したりするケースがあります。会計処理の不正を防止することも、IFRSが原則主義を採用している理由の1つです。
IFRSは資産負債アプローチ、日本基準は収益費用アプローチを採用しています。資産負債アプローチとは、資産と負債の差額を利益とする会計観です。貸借対照表を重視しており、期末の純資産が期首に比べて「どれくらい増加したか」に着目しています。
なお、収益は資産の増加または負債の減少、費用は資産の減少額または負債の増加によって算出可能です。資産負債アプローチでは先に資産と負債を定義しており、その変動額で利益を測定します。それに対して収益費用アプローチとは、一会計期間の収益と費用の差額を利益とする会計観です。
損益計算書を重視しており、企業の利益獲得能力を把握する際に役立ちます。しかし、近年の投資家が重視しているのは、企業の存続力や成長力です。そのため、日本基準でも資産負債アプローチに移行する動きが大きくなっています。
のれんとは、売り手企業の純資産よりも高い価格で買い手企業が買収した際に発生する差額です。ブランド力や技術・ノウハウなど目に見えない価値も含まれているため、売り手の純資産以上の価格で買収されるケースがあります。IFRSでは「将来的な収益にどのような影響を及ぼすかは予測がつかない」などの理由から、のれんを非償却とするのがルールです。
その代わりに、のれんの価値を客観的に検証するために毎年減損テストを行います。ディスカウントキャッシュフロー方式(DCF法)を採用しており、企業が将来生み出す価値を算出します。計上されている価値よりも大幅に低下した場合は、減損処理が必要です。
それに対して、日本基準ではのれんを償却しています。償却期間は会社・案件ごとに設定できますが、20年以内でなければなりません。また、償却期間は一度決めると変更ができなくなるため注意が必要です。
IFRSは固定資産の要素ごとに減価償却を行います。たとえばジェット機の場合は、ボディ・内装部品・エンジンなどの構成要素に分解します。要素ごとに耐用年数を見積もり、減価償却を行うのがルールです。それに対して、日本基準では固定資産の取得単位ごとに減価償却を行います。
また、IFRSでも定率法で減価償却するのは認められていますが、実態に合っていることを証明するのは困難です。そのため、IFRS適用企業のほとんどは定額法を採用しています。
IFRSと日本基準の財務諸表における、以下2つの違いを解説します。
キャッシュ・フロー計算書や財政状態計算書は、IFRSと日本基準に大きな違いはありません。しかし、損益計算書は相違点が多くあるため、事前に理解しておくことが大切です。
非継続事業とは、期末までに廃止・売却される企業の構成単位です。事業の不採算による撤退や営業譲渡・事業譲渡などによって発生します。IFRSでは、当期利益を継続事業と非継続事業の2つに区分します。継続事業から得られた当期利益を重視することで、将来的な企業のキャッシュ・フローの予測に役立ちます。
その一方で、日本基準では当期利益を区分しません。両者の損益区分がないため、予測段階で誤差を出してしまう可能性があります。非継続利益が生み出す損益は、将来に大きな影響を及ぼさないからです。IFRSでは廃止・廃止予定の事業を全て開示する必要があるものの、企業の業績を正確に反映した状態で将来の予測が行いやすくなります。
IFRSは「経常的・臨時的」の区分がなく「営業に関する損益」と「金融損益」のみ存在します。日本基準のような「経常利益(経常損失)」の概念はありません。また「特別損益」の表示も禁止しているのが特徴です。
固定資産の売却や火災・災害など、特別なケースによる損益も認められていません。これらは全て営業損益に含まれます。日本基準では、特別損益を含まない経常利益が通常状態で収益力を表す指標として重視されていました。
しかし会社を経営するうえで、予想外の事象が起きるのは当然のことです。IFRSではリスクを抑えることも経営者の責任と考えているため、特別損益も含めて企業の収益力を測っています。
IFRS適用によって大きく変わる、以下3つのポイントを解説します。
IFRSを適用することで、特にグローバル展開をする企業は多くのメリットを享受できます。一方でさまざまな面で変更点が出てくるため、対応できるよう準備しておくことが大切です。
IFRSでは日本基準とは異なるルールで財務諸表を作成するため、会計方法の変更が必要です。特に、売上計上基準と固定資産会計が大きく異なります。日本基準では、出荷の時点で売上に計上できます。それに対してIFRSは、商品の納入が終わらない限り売上に計上できません。そのためIFRSを適用することで、売上計上のタイミングが変わる場合があります。
また、固定資産は法人税法で定められた減価償却計算が採用されていました。IFRSでは各企業が耐用年数を設定し、償却計算を行う必要があります。
IFRSは個別財務諸表が適用されないため、日本基準に沿って作成する必要があります。結果的に、従来よりも会計プロセスが増えてしまう可能性が高いです。たとえば、決算対応を行う際は「現地とIFRSの元帳を両方持つ」「勘定科目を現地とIFRS基準で分ける」などの方法があります。
固定資産の減価償却も法人税・IFRSの2通りで計算しなければなりません。そのため、IFRSの導入では業務負担の増大が課題となるでしょう。
IFRSでは売上計上や固定資産の減価償却など、自動化していたものがそのまま利用できなくなります。そのため、IFRS導入に伴い会計システムの変更も必要です。IFRS対応のシステムを導入したり、ELTによってデータ移行したりする方法があります。
ELTとは、Extract(抽出)・Load(書き込み)・Transform(変換)の略称です。データベースが持つ機能の1つで、メモリに書き込んだあと必要に応じて形式を変換します。企業によって最適な方法は異なるため、よく検討したうえで対応しましょう。
IFRSを適用する、以下3つの手順を解説します。
IFRSの導入は時間やコストがかかるため、スムーズに進めることが大切です。あらかじめ流れを把握し、緻密な計画に沿って行動しましょう。
まず、IFRSの導入が及ぼす影響を調査・分析します。日本基準との差異を特定し、各基準の課題識別を行いましょう。親会社だけでなく、グループ内において重要度の高い子会社も調査するのが一般的です。自社への影響と課題が特定できた段階で、IFRS導入のロードマップを策定します。
実際に着手する前段階として、全体感を把握するために役立ちます。影響の度合いやIFRS移行の目標年度などを踏まえて、ロードマップに落とし込むことが大切です。IFRS導入を成功させるためには、チーム構成が重要となります。ただし、この段階ではロードマップの策定が主な業務となるので、少人数でチームを構成するのが一般的です。
策定したロードマップに基づいて、運用体制を構築します。具体的には、親会社でIFRSに対応するための会計方針やインフラの検討を行いましょう。IFRSは原則主義を採用しているため、特に会計方針の検討が重要です。グループ内で基本的な会計ルールのみ定めると、決算業務にブレが生じてしまいます。
そのため、IFRSの基準を理解したうえで、グループとしての会計方針を明確する必要があります。自社の会計方針を踏まえて、業務やシステム上の対応方法も策定します。親会社内での検討が終わったら、IFRSに対応するための環境を作りましょう。
この段階から子会社もプロジェクトに参加するため、進捗管理やコミュニケーションが大きな課題となります。展開活動は、子会社の数や企業風土などによって適切な方法は異なるため注意が必要です。いずれにせよ、移行日までにグループ全体がIFRSに沿った財務諸表を作成できる環境を構築しましょう。
並行開示期間では、各種インフラの運用を開始します。しかし、新たな業務やシステムは、当初想定していない問題が出てくるケースがほとんどです。
そのため、課題を吸い上げて、継続的に改善を行う必要があります。また、並行開示期間は経理部門への業務負荷が想定されます。事前に並行開示期間の決算スケジュールや、リソースの割り当ても検討しておきましょう。
IFRSを適用する前に、日本基準との違いを理解しておくことが大切です。会計方針自体が変わるため、管理会計や制度会計などに大きな影響を及ぼします。日本基準との差異から、IFRS適用による影響・課題を洗い出しましょう。
会計基準の違いを明確にすることで、適用後に起こりうる問題をある程度予想できるようになります。それでも新たなシステムの導入や業務の変更により想定外の問題が出てくるケースは多いです。継続的に改善を繰り返し、新たな会計システムを従業員が使いこなせるようにしましょう。