更新日:2024.10.29
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IFRS16号とは、2019年より適用されているリースの新しい会計基準です。IFRSを導入している企業は、強制適用となります。しかし、「IFRS16号と日本基準の違いが分からない」「IFRS16号の適用による影響が分からない」とお悩みの方は多いのではないでしょうか。
今回の記事では、IFRS16号と日本基準の違いや適用で発生する仕訳・会計処理を解説します。適用時の準備についても紹介しますので、IFRSの導入を検討している方は参考にしてください。
IFRS16号とはリースの新しい会計基準であり、前身のIAS17号に比べて対象範囲が拡大しました。これまではオフバランス処理として貸借対照表に計上していなかったリース取引も、オンバランス処理する必要があります。なぜならIFRS16号では、使用権資産とリース負債を計上する処理が求められるからです。
これにより、資産と負債の残高が約2倍となった企業も存在します。また資産及び負債の増加に伴い、自己資本比率や負債比率などの財務指標が悪化します。実際に適用する前に、IFRS16号による影響をよく理解しておくことが大切です。
IFRS16号は、2019年1月1日以降に開始する事業年度 から適用されています。
つまり、2019年1月1日以降に開始する会計年度の財務諸表から、IFRS16号に基づいたリース会計処理が求められます。
ただし、早期適用も認められています。企業は、IFRS16号を早期に適用することを選択することも可能です。
日本基準 では、2023年5月に企業会計基準委員会(ASBJ)からIFRS16号を踏襲した新リース会計基準の公開草案が公表されました。 この新リース会計基準は、2024年4月1日以後開始する事業年度 から適用されました。
日本基準によるリース会計について、以下の処理方法を解説します。
そもそもリースとは、業者が企業に対して設備や機械などを長期にわたって賃貸することです。リースで資産を借りた場合、日本基準では取引区分によって会計処理の方法が異なります。まずは、取引区分の定義をそれぞれ見ていきましょう。
ファイナンス・リース取引とは、実質的に資産を購入することです。分割払いとみなされる取引が該当し、調達した設備や機械を使用しつつ借入金の返済を行います。リース物件から出た利益は借主のものとなりますが、使用に伴うコストが発生した場合も負担する必要があります。
また、ファイナンス・リース取引は途中解約できないのが特徴です。仮に分割払いが完了する前にリース物件が故障したとしても、経年劣化により価値がなくなるため全額負担が強いられます。主に建物や機械装置など、簿価が残らない大型リースに採用される取引です。オンバランス処理が原則で、貸借対照表にはリース料支払い総額の現在価値で計上します。
計上する金額は、リース料総額や見積購入価格から算定します。なお、ファイナンス・リース取引に区分されるのは、以下のいずれかを満たすものです。
ファイナンス・リース取引は、さらに「所有権移転ファイナンス・リース取引」と「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に分類できます。前者は契約満了後、リース物件の所有権を取得できる取引です。一方後者は、所有権を得ることはできません。引き続きリース物件を使用したい場合は再度契約したり、買い取ったりする必要があります。
オペレーティング・リース取引とは、設備や機械を使用するために所定の料金を支払うことです。賃貸とみなされる取引が該当し、主に事務機器や自動車などに採用されます。残存価格を差し引いてリース料を算出できるため、金額を抑えられる点がメリットです。契約満了後は返却が基本となりますが、継続リースや買取の選択肢もあります。
オペレーティング・リース取引で借手が支払った料金は経費となり、オフバランス処理が可能です。また、使用に伴うコストは貸主が負担するため、借主は故障のリスクを避けられます。
IFRS16号と日本基準の以下4つの違いを解説します。
IFRS16号と日本基準は相違点が多く、リース会計に大きな影響を及ぼします。それぞれの違いを理解したうえで、IFRS16号を適用しましょう。
IFRS16号では、リース取引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に区分しません。また原則的に全てのリース取引は、オンバランス処理されます。日本基準ではオペレーティング・リース取引に区分されている自動車や事務機器も、資産として計上しなければなりません。その結果、純資産額が増えて自己資本比率が低下する可能性があります。
IFRS16号では、ファイナンス・リース取引と判断する数値基準はありません。それに対して、日本基準では数値が明確に決められています。IFRS16号の場合、以下の条件を満たすとファイナンス・リース取引として認識されます。
ただし、リースの期間が12ヶ月以内または金額が5,000米ドル(約75万円※2024年2月時点)以下の場合は、オフバランス処理が可能です。IFRS16号の基準に該当していても、資産計上する必要はありません。
IFRS16号では、賃貸契約の期間中に発生する支払いを考慮したうえでリースの割引率を決定します。一方で、日本基準では全ての支払いを考慮する必要はありません。そのため、IFRS16号の方が日本基準で計算するよりも、リース料が高くなる可能性が高いです。
IFRS16号では、契約更新・解除などの可能性を考慮してリース期間を設定する必要があります。契約上ではなく、実際に利用する期間を検討しなければなりません。また、IFRS16号で契約中に期間や賃料の変更が生じた場合は、再見積もりの会計処理が必要です。一方で日本基準では、リースの契約期間をそのまま採用することができます。
IFRS16号の適用で発生する以下3つの仕訳・会計処理を解説します。
IFRS16号を適用することで、経理の実務において大きな変化があります。業務負担の増大も考えられるため、事前にリソースの割り当ても考えておきましょう。
オンバランス処理では、償却・支払利息の計算・計上が必要です。IFRS16号の適用によって、貸借不動産なども新規に計上しなければならない仕訳が増えます。そのため、ファイナンス・リース取引が少ない企業は、特に業務負担が大きくなるでしょう。
IFRS16号では、不動産もオンバランス処理の対象となります。しかし、契約の延長や減額などにより、期間や賃料が変更されるケースも少なくありません。。契約内容に変更が生じた場合は、再見積もりが必要となります。具体的には、以下の流れで算出します。
変更点を正確に把握したり、利息を加味して計算を行ったりする必要があります。そのため、契約変更の登録だけで処理を自動化できるシステムを導入すれば、業務の負担増を軽減できるでしょう。
オンバランス処理する契約は、減損会計の対象となります。特に店舗を多く持つ小売・サービス業は、土地・建物なども該当するため注意が必要です。減損を実施する際は、以下のような複雑なプロセスが発生します。
IFRS16号の適用によって、減損となる対象が大幅に増加します。業務負荷が大きくなる場合は、減損会計のシステム化が必要です。
IFRS16号の適用に必要な、以下4つの準備を解説します。
IFRS16号の適用によって経理の業務負担が増えることを前提に、準備を進めていく必要があります。事前に流れを把握し、スムーズにIFRS16号を適用しましょう。
IFRS16号では、原則全てのリースがオンバランス処理となります。これまでオフバランス処理だったリース取引も、資産として計上しなければなりません。そのため、リースにおける現状の取引状況を把握しましょう。リースの対象となり得る取引も洗い出し、リストアップしておくのがおすすめです。また全ての取引がオンバランス処理された場合、経理処理にどのくらい影響を及ぼすのかも分析しておく必要があります。
目安として、リースに関する仕訳パターンが現状の3〜4倍になると想定しましょう。「現状の経理担当者だけで対応できるのか」「一人あたりの業務量を超えていないか」などを慎重に見極めることが大切です。
現状把握・分析が終わったら、今後の対応方法を検討します。IFRS16号の適用において、特に人員の増強と業務設計の見直しが重要です。現状の人員で対応が難しい場合は、新たに社員を採用したり派遣社員などを雇用したりしましょう。
ただし業務フローが整備されていないと、人員を増やすだけでは対応しきれない可能性があります。そのため、自動化や省力化できる業務がないか検討してみましょう。例えばシステムを導入すれば、これまで人が対応していた業務を自動化できます。担当者の負担が軽減されるだけでなく、ヒューマンエラーの防止につながるケースも考えられます。
システムを導入する場合は、自社の業務フローに合ったものを選定する必要があります。IFRS16号に適した業務フローを構築してから、実現できるシステムを選ぶという流れが一般的です。システムが決まったら、見積もりや導入スケジュールをコンサルタントなどと相談しながら決めていきます。
システム導入後は、一定のトライアル期間を設けることが重要です。担当者が支障なく業務を遂行できるようになるまでには、ある程度の期間が必要となります。また、使い慣れないシステムは従業員の負担になりやすいので、現場の状況を随時確認しながら導入を目指しましょう。
トライアル期間中は、担当者の意見に耳を傾けることも大切です。定期的にヒアリングを行い「業務フローに問題はないか」「問題なく操作できるか」などを確認します。また、IFRS16号の適用後を想定したトレーニングを行っておくことをおすすめします。必要に応じて業務マニュアルを改訂し、適用後に慌てることがないよう計画的に準備を進めていきましょう。
IFRS16号とは、新しいリースの会計基準です。日本基準のようにリース取引を区分せず、原則的に全てオンバランス処理となります。これまでオペレーティング・リース取引に該当していたものも、資産計上しなければなりません。この結果、純資産額が増えて自己資本比率が低下する可能性があります。
また、IFRS16号は経理処理の負担が大きくなることが想定されます。日本基準よりも計算や仕訳の業務が発生するため、状況に応じて人員の増強を検討しましょう。新たなシステムを導入する場合は、従業員に慣れてもらう期間を設ける必要があります。そのため、IFRS16号を適用する際はスケジュールに余裕を持って準備を進めることが大切です。