更新日:2024.10.26
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IFRSは、国際会計基準審議会(IASB)によって定められた世界共通の会計基準です。会計基準とは、企業の財務諸表を作成するためのルールを指します。自社のグローバル展開を目指す一方で「IFRSと日本の会計基準の違いが分からない」「IFRSのメリット・デメリットを知りたい」とお悩みの方が多いのではないでしょうか。
今回の記事では、IFRSの特徴やメリット・デメリットについて詳しく解説します。導入するときのポイントも理解できる内容になっているので、IFRSの知識を身につけたい方はぜひ参考にしてみてください。
項目 | メリット | デメリット |
IFRS | 国際的な比較可能性が高い。海外子会社との会計処理の統一が容易。投資家からの資金調達を容易にする。 |
導入・運用コストが高い。日本基準に比べて複雑で理解が難しい。税務との整合性が低い。
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日本基準 | 日本の会計基準に精通した人材が多い。日本特有の商慣習に対応している。税務との整合性が高い。 |
国際的な比較可能性が低い。海外企業との会計処理の統一が難しい。IFRSに比べて情報開示の範囲が狭い。
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IFRS(International Financial Reporting Standards)とは、国際会計基準のことです。基準の統一を目的に国際会計基準審議会(IASB)にて定められました。IFRSが誕生した背景として、資本市場のグローバル化が挙げられます。従来は国によって会計基準が異なっていたため、貿易などの取引における経営判断に時間がかかっていました。
しかし、現代は消費者のニーズが日々変化しており、素早い意思決定が経営を左右します。IFRSが誕生したことによって、海外の企業においても正確な経営状況の把握が可能となりました。EU加盟国の上場企業に対してIFRSが義務化されたことをきっかけに、世界各国で導入が拡大しています。日本では任意適用であるものの、グローバル展開する企業にとって導入するメリットは多いです。
ここでは、IFRSが日本の会計基準と異なる以下3つの特徴を解説します。
IFRSは、世界各国で適用されることを想定して定められた基準です。日本の会計基準と相違点が多く、国内で広く適用するためには時間がかかると考えられています。
原則主義とは細かい数値基準や判断基準は定めず、具体的な会計処理は企業の判断に任せる方針です。国によって異なる商慣習や法制度に対応できるようになっています。そのため、さまざまな経営実態に適した会計処理を行えることが特徴です。
ただし原則しか定められていないため、企業間で会計処理を行う金額の基準が異なる可能性があります。また、会計処理の根拠を注記に明示しなければならないことから、IFRSは日本の会計基準よりも業務負担が大きくなるでしょう。
それに対して、日本では原則主義とは反対の細則主義を採用しています。数値基準や判断基準が細かく定められており、規則に基づいて会計処理を行う必要があります。そのため会計基準がブレず、企業間の比較がしやすい点が特徴です。
ただし、会計ルールが細かく定められているが故に、不正に処理されてしまう可能性が考えられます。不適切な処理を行っても、形式上は会計基準に沿っているケースがあり得るからです。一方で原則主義の場合、会計処理における判断は経営者の責任となります。根拠も明示しなければならないため、原則主義の方が会計不正の防止に有効です。
資産負債アプローチとは、資産と負債の増減から収益と費用(利益)が発生するという会計観です。貸借対照表を重視しており、企業の価値を把握することを目的としています。一会計期間で期首と期末の残高を比較することで、企業に成長力や事業の継続性があるのかが分かります。
それに対して、日本の会計基準で採用しているのは収益費用アプローチです。収益費用アプローチとは、収益と費用の差額が利益になるという会計観を指します。損益計算書を重視しており、企業の収益力を把握することが目的です。ただし、現在は日本でもIFRSの考え方が反映され、資産負債アプローチに移行する動きが大きくなっています。
IFRSはグローバル基準となるため、国際共通言語である英語で定義されています。英語に統一することで、言語による解釈のズレをなくしています。また、各国の法制度や商慣習などのシステムは加味されていません。そのため、IFRSは国に関わらず導入できるようになっています。
IFRSを導入する以下3つのメリットを解説します。
IFRSの導入は、グローバル展開する企業にとって多くのメリットがあります。期待できる効果を把握したうえで、導入の必要性を考えましょう。
IFRS基準の財務諸表を作成することで、海外の投資家から資金調達がしやすくなります。日本の会計基準とIFRSの違いを説明する工程も不要です。
また、自社の経営状況を正確に伝えられるため、資金調達の交渉や手続きがスムーズになるでしょう。海外の企業と比較が可能となり、結果的に資金調達の選択肢が広がります。
海外にも事業拠点を持つ企業の場合、IFRSを導入することで海外にある子会社の経営状況を管理しやすくなります。会計基準が統一されるため、国内・国外問わず財務情報の比較が容易です。
また、子会社の財務諸表を日本の会計基準に変換する必要がなくなり、スピーディーな意思決定が可能となります。グローバル経営の効率化にもつながるため、海外展開を考えている企業にとってはメリットが大きいです。
IFRSの財務諸表は、国際取引時にそのまま利用できる点がメリットです。日本の会計基準からIFRSの財務諸表へ変換する手間がなくなるため、他の業務にリソースを割り当てられます。国際取引のハードルも下がり、結果的にグローバル展開がしやすくなるでしょう。
IFRSを導入する以下2つのデメリットを解説します。
IFRSにはメリットだけでなく、デメリットも存在します。しっかり把握したうえで、自社に導入するべきか検討しましょう。
IFRSを導入する際は、時間とコストがかかります。日本の会計基準とは大きく異なるため、外部機関のコンサルティングや新しいシステムの導入が不可欠です。また、IFRS導入のプロジェクトを進める人的コストも必要になります。
導入コストは、企業規模が大きくなるほど高くなる傾向があります。また、IFRSへの移行が完全に終わるまで、年単位に期間がかかるケースも少なくありません。期間が長引くとさらにコストがかかる可能性が高いので、リスクを考慮したうえで意思決定をしましょう。
IFRSは現在も頻繁に改定されており、導入後も常にアップデートしていく必要があります。対応するたびに事務コストが増大するため、経営が不安定な状態で導入するのは避けた方が無難です。
IFRSを導入すると計上範囲が広がり、資産を時価で評価しなおす業務が発生します。日本の会計基準と比べて注記の量も増えることから、事務業務の負担は大きくなります。また、IFRS適用企業でも国内で経営する場合は、日本の会計基準に沿った財務諸表が必要です。
IFRSと日本の会計基準の帳簿をそれぞれ作成するため、業務量が倍以上に増えてしまいます。新しいルールの策定やマニュアルの整備なども不可欠なので、事務の負担増大が課題となるでしょう。
IFRSを導入するときの以下3つのポイントを解説します。
IFRSは日本の会計基準と大きく異なるため、導入する際は計画に沿って行動することが大切です。また、従業員への周知・教育も欠かさず行いましょう。
IFRSの導入は、数年かかるケースも少なくありません。会計方針が変更されると、会社の経営管理にも影響します。そのため、導入決定から着手までの期間はできるだけ短くするのがポイントです。
またIFRSの導入には、ITシステムの選定や運用体制構築など多くの準備が発生します。大きなプロジェクトになるため、専門部署を設置することをおすすめします。取り組み全体をサポートできるシステムも不可欠です。企業規模や業種などを考慮して、IFRSに適応できるシステムを選定する必要があります。
初度適用とは、IFRS財務諸表を初めて表示することです。初度適用企業の場合はIFRS財務諸表として、以下の書類を作成しなければなりません。
過去と現在の経営状況を比較するために、前期と当期の少なくとも2期分の財務情報を開示する必要があります。初度適用では準備すべき書類が多くあるので、従業員の負担を考慮してリソースを割り当てることが大切です。
IFRSを導入する際は、従業員への周知・教育を徹底して行いましょう。日本基準との違いや会計処理の方法が分からないと、正確な業績を把握できません。IFRSの導入に伴い、自社で何が変わるのかも理解しておく必要があります。また、新しい会計基準によってルールが変更される場合は、しっかりマニュアルに落とし込むことも重要です。
IFRSとは、世界共通の会計基準です。EU加盟国の上場企業は強制適用されており、世界各国でIFRSを導入する企業が増えています。日本は任意適用であるものの、IFRSを導入することで海外からの資金調達や子会社の管理が容易になります。グローバル展開をする企業や海外に子会社が多い企業は、IFRS導入のメリットを多く享受できるでしょう。
さまざまな分野でグローバル化が進んでいるため、IFRSのニーズはますます高くなると考えられています。しかし、IFRSと日本の会計基準は大きく異なり、導入には時間とコストがかかります。長期的なプロジェクトになるので、計画をしっかり立ててからIFRSを導入しましょう。