更新日:2026.08.31

ー 目次 ー
インボイス発行事業者への登録は任意です。課税事業者であっても、登録するかどうかは自分で決められます。
ただし、課税事業者の場合は「登録しない=消費税を納めなくてよい」ではありません。登録の有無にかかわらず消費税の申告と納付は必要で、登録しなければインボイスを発行できない状態だけが残ります。
この記事では、課税事業者が登録しない場合に何が起きるのか、それでも登録しない判断に合理性があるのはどういう事業者かを整理します。あわせて、登録と取りやめの手続き、使える特例についても解説します。
インボイス登録の議論は免税事業者を前提に語られることが多いのですが、課税事業者の場合は判断の構図がまったく異なります。
| 免税事業者が登録しない場合 | 課税事業者が登録しない場合 | |
|---|---|---|
| 消費税の納税義務 | なし | あり(登録の有無と関係ない) |
| 申告・記帳の事務負担 | なし | あり |
| インボイスの発行 | できない | できない |
| 登録しないことで得られるもの | 納税義務と事務負担を負わずに済む | 公表サイトに掲載されない程度 |
免税事業者にとって「登録しない」は、納税義務を負わないという実利と引き換えの選択です。一方、課税事業者にはその実利がありません。納税と事務負担は変わらないまま、インボイスを発行できないという状態だけが残ります。
登録していない課税事業者が発行する請求書には、登録番号を記載できません。受け取った買い手は、その請求書では仕入税額控除ができません。
買い手から見ると、免税事業者から受け取った請求書と扱いは同じです。実際には消費税を納めている取引先であっても、買い手にはその区別がつきません。ここが、課税事業者が登録しない場合のもっとも不利な点です。
買い手が仕入税額控除を受けるには、原則としてインボイスの保存が必要です。登録番号のない請求書しか受け取れない場合、買い手はその分の消費税を控除できず、自社の納税額が増えます。
取引先が課税事業者で、かつ本則課税で申告している場合、この負担はそのまま取引条件の見直し圧力になります。
インボイス発行事業者以外からの仕入れについては、一定割合を控除できる経過措置があります。令和8年度税制改正で内容が見直され、控除割合と期間は次のようになりました。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以降 | 控除できない |
改正前は2026年10月に80%から50%へ一度に下がり、2029年9月末で終了する予定でした。改正によって下げ幅がなだらかになり、終了時期も2年延びています。
ただし、下がっていく方向であることは変わりません。買い手が負担する差額は年を追うごとに大きくなるため、登録しないままでいると取引条件の見直しを求められる場面は増えていきます。
買い手が控除できない分を理由に値下げを求めてくることがあります。協議のうえで合意した価格改定であれば問題になりませんが、一方的に代金を減額する行為は別です。
2026年1月に施行された取適法(中小受託取引適正化法)では、価格に関する協議に応じないまま一方的に代金を決めることが禁止されています。また、取引上の立場の差を背景に一方的な不利益を与える行為は、独占禁止法の優越的地位の濫用として問題になり得ます。
求められた減額に応じるかどうかは、控除できない金額を自分で試算したうえで判断してください。仕入額に含まれる消費税の20%(2026年10月以降は30%)が、買い手が実際に負担する金額の目安です。
登録しないことが不利になるかどうかは、売上の相手が誰かでほぼ決まります。
| 売上の相手 | インボイスの必要性 | 登録しない選択 |
|---|---|---|
| 本則課税の課税事業者 | 必要とされる | 不利になりやすい |
| 簡易課税・2割特例の事業者 | 仕入税額控除に使わないため不要 | 影響は小さい |
| 免税事業者 | 不要 | 影響はない |
| 一般消費者 | 不要 | 影響はない |
飲食店、美容室、小売店、学習塾など、売上の相手が一般消費者に偏っている事業では、取引先からインボイスを求められる機会がほとんどありません。
この場合、登録しても発行の事務負担が増えるだけで、得られるものが少ない状態になります。ただし、法人の接待利用や経費精算で領収書を求められる業種では、まったく需要がないとは言い切れません。過去1年分の売上のうち、事業者向けがどの程度あるかを確認してから判断してください。
簡易課税制度を選択している事業者は、みなし仕入率で消費税を計算するため、仕入先のインボイスを必要としません。2割特例を適用している事業者も同じです。
取引先の申告方法を正確に把握することは難しいものの、小規模な事業者との取引が中心であれば、インボイスを求められる頻度は低くなります。
登録によって納税負担が増えることを心配する声がありますが、課税事業者の場合、登録しても納税額は変わりません。もともと納めているためです。
負担軽減の特例についても、対象を正確に押さえておく必要があります。
| 特例 | 対象 | 期間 |
|---|---|---|
| 2割特例 | インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった事業者。もともと課税事業者である場合は対象外 | 令和8年9月30日を含む課税期間まで(個人事業者は令和8年分が最後) |
| 3割特例 | 2割特例の対象だった個人事業者のみ。法人は対象外 | 令和9年分・令和10年分 |
| 簡易課税制度 | 基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者。もともと課税事業者でも選択できる | 期限なし |
つまり、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている課税事業者にとって、選べる軽減策は簡易課税制度だけです。
簡易課税制度は、実際の仕入れを集計せず、売上税額にみなし仕入率を掛けて仕入控除税額を計算する方法です。基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることが条件になります。
納税額は「売上税額-(売上税額×みなし仕入率)」で求めます。みなし仕入率は業種によって次のように分かれます。
| 事業区分 | 業種 | みなし仕入率 |
|---|---|---|
| 第1種事業 | 卸売業 | 90% |
| 第2種事業 | 小売業、農林水産業(食用) | 80% |
| 第3種事業 | 製造業、建設業、農林水産業(非食用)など | 70% |
| 第4種事業 | 第1種から第3種、第5種、第6種以外。飲食店業など | 60% |
| 第5種事業 | 運輸通信業、金融業、保険業、サービス業(飲食店業を除く) | 50% |
| 第6種事業 | 不動産業 | 40% |
サービス業を第4種、不動産業を第5種と誤って適用している例が見られます。事業区分を誤ると税額が変わるため、日本標準産業分類を基礎に判定してください。
また、簡易課税を選択している場合でも、インボイスの発行義務は残ります。免除されるのは仕入先から受け取ったインボイスの保存であって、自社が発行する側の義務ではありません。
簡易課税制度を使うには、適用を受けようとする課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出します。期首を過ぎてからでは、その課税期間には適用できません。
いったん選択すると、事業を廃止した場合を除き、2年間は本則課税に戻せません。設備投資を予定している年は本則課税のほうが有利になることがあるため、事前に両方で試算しておきます。
「適格請求書発行事業者の登録申請書」をe-Taxまたは書面で提出します。登録の効力は、登録簿に登載された日(登録日)から生じます。通知が届いた日ではありません。
登録通知までにかかる期間は時期によって変動します。国税庁が登録通知時期の目安を公表しているため、申請前に確認してください。登録番号を取引先に案内する時期を決めるうえで必要になります。
すでに登録している事業者が登録をやめる場合は、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出します。
提出した日の属する課税期間の翌課税期間の初日から効力を失いますが、そのためには翌課税期間の初日から起算して15日前の日までに提出する必要があります。1日でも過ぎると、効力を失うのは翌々課税期間の初日になります。
この15日前の日が土曜日、日曜日、祝日、12月29日から31日に当たっても、翌日に延びません。12月決算の法人や個人事業者が1月1日から取りやめる場合、期限は12月17日です。
登録を取り消しても、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば課税事業者のままです。消費税の申告と納付は続きます。
登録の取消しと、免税事業者に戻ることは別の話です。混同すると、インボイスを発行できないのに納税は続くという、もっとも不利な状態になります。
登録されていません。課税事業者であっても、登録申請書を提出しなければインボイス発行事業者にはなりません。自社の登録状況は、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで登録番号を入力すると確認できます。
氏名または名称、登録番号、登録年月日などが公表サイトに掲載されます。法人は本店所在地も公表されます。個人事業主の住所は、本人が希望した場合に公表されます。
伝えたほうが取引はスムーズです。買い手は経過措置を適用するために、その仕入れが経過措置の対象であることを帳簿に記載する必要があります。登録番号がない請求書を受け取った時点で買い手側の処理が変わるため、事前に共有しておくと確認の手間が減ります。
できます。課税事業者であれば、登録申請書を提出して登録された日から効力が生じます。登録日より前に発行した請求書はインボイスになりません。
課税事業者が登録しない場合、消費税の納税義務と事務負担はそのまま残り、インボイスを発行できないという不利だけが加わります。免税事業者と違って、登録しないことで得られる実利がありません。
それでも登録しない判断に合理性があるのは、売上の相手が一般消費者や免税事業者、簡易課税の事業者に偏っている場合です。まずは過去1年の売上を相手先で分類し、本則課税の事業者向けがどの程度あるかを確認してください。
登録する場合、負担軽減として使えるのは簡易課税制度です。2割特例はもともと課税事業者だった場合には使えません。届出の期限を過ぎると1年待つことになるため、判断は期首より前に済ませておきます。