更新日:2025.03.03
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インボイス制度の開始により、免税事業者への影響が大きな課題となっています。
インボイス制度では適格請求書(インボイス)の発行・保存が求められ、発行には「適格請求書発行事業者」への登録が必要です。適格請求書発行事業者へ登録した場合、免税事業者は課税事業者となり、これまで不要であった消費税の申告・納付や事務処理への対応が必要となります。
一方で、登録をおこなわない場合は取引先が仕入税額控除を受けられなくなるため、取引の見直しや取引自体の継続が困難になる可能性があります。インボイス制度には、経過措置や特例制度が設けられており、これらは免税事業者の負担を軽減する仕組みです。
本記事では、インボイス制度が免税事業者に与える影響について、経過措置や特例制度もあわせて解説します。
インボイス制度は2023年10月1日から導入された、消費税の計算をより正確におこなうための制度です。課税事業者が仕入税額控除を受けるためには、適格請求書(インボイス)の保存が必要です。
インボイス制度では、適格請求書の発行・保存に関する要件が定められており、登録番号や適用税率、税率ごとの消費税額などの記載が求められます。適格請求書を発行できるのは、税務署に登録申請をおこなった「適格請求書発行事業者」に限られるため、免税事業者は発行ができません。
インボイス制度の導入で、免税事業者は大きな影響を受けることが予想されます。
とくに、取引先に課税事業者が多い場合は、その影響は顕著となるかもしれません。取引先の課税事業者は仕入税額控除のために適格請求書が必要なため、免税事業者との取引を見直す可能性があります。
一方で、取引先が一般消費者やほかの免税事業者が中心の場合は、影響は比較的小さいと考えられます。これらの取引先は適格請求書を必要としないためです。
取引への影響を判断するには、自社の取引先の状況を正確に把握しておくことが重要です。
インボイス制度では、免税事業者への影響を考慮して複数の支援制度が設けられています。これらの支援制度は、免税事業者の負担を軽減して、円滑な制度移行を支援する目的があります。
支援制度の活用にあたっては、自社の事業状況や将来の事業計画を踏まえた慎重な判断が必要です。
ここでは、インボイス制度における4つの支援制度について、それぞれ解説します。
免税事業者からの仕入れに関する経過措置は、課税事業者が免税事業者との取引を見直すことを防ぐための制度です。この措置により一定期間であれば、課税事業者は免税事業者からの仕入れであっても、部分的に仕入税額控除を受けられます。
経過措置の期間と控除可能な割合は以下のとおりです。
2割特例は、インボイス制度への対応のために免税事業者から課税事業者になった事業者を支援する制度です。2割特例を利用すると、納税額を売上税額の20%に軽減できます。
ただし、適用期間は2023年10月1日〜2026年9月30日までに限られており、期間経過後は通常の計算方法に戻るため注意が必要です。2割特例の活用を検討する際は、適用期間終了後の影響も考慮に入れて判断することが重要です。
簡易課税制度は、課税売上高が5,000万円以下の事業者が利用できる制度です。簡易課税制度では、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を使用して消費税額を計算します。
業種ごとのみなし仕入率は、以下のとおりです。
みなし仕入率を用いることで、実際の仕入額を計算することなく、簡易に消費税額を算出できます。
登録手続きの特例は、免税事業者の円滑な移行を支援するために設けられた措置で、これにより課税事業者になるためのハードルが大きく下がっています。
この特例では、2029年9月30日までは適格請求書発行事業者への登録申請のみで課税事業者になることが可能です。通常は提出が必要な「消費税課税事業者選択届出書」が不要となるため、手続きの簡素化が図られています。
免税事業者から課税事業者への移行は特例期間中に余裕をもって検討し、適切なタイミングで手続きを進めることが望ましいです。
インボイス制度を利用するためには、適格請求書発行事業者への登録が必要です。2029年9月30日までは登録申請のみで課税事業者になれる特例が設けられており、手続きが簡素化されています。課税事業者になるための手順を適切に進めることで、スムーズな移行が可能です。
ここでは、免税事業者が課税事業者になるための5つの手順について、それぞれ解説します。
登録申請は「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出しておこないます。提出方法はe-Taxによる電子申請か、書面での郵送・持参が選択可能です。
登録申請書には事業者の基本情報のほか、課税事業者を選択する課税期間の開始日や特定期間の課税売上高などを記載する必要があります。登録申請書の提出にはe-Taxを利用すると手続きがスムーズで、申請状況も確認しやすいです。
申請書の提出後は、税務署での審査を経て登録番号が発行されます。審査にかかる期間は、e-Taxでの申請で約1か月、書面での申請で約1.5か月です。
登録番号は適格請求書への記載が必須となるため、大切に保管しておく必要があります。登録番号は「T+法人番号」または「T+数字13桁」の形式で付与され、一度発行された番号は変更できません。
取引先への周知や請求書の様式変更にも時間を要するため、余裕をもって申請手続きを進めることをおすすめします。
課税事業者となった後は、適格請求書(インボイス)の発行が必要です。適格請求書を発行する際には、従来の請求書に以下の記載事項の追加が求められます。
また、軽減税率対象品目を扱う場合は、その旨も明記する必要があります。請求書の様式変更は取引先にも影響するため、事前に内容を説明して理解を得ておくことが重要です。
インボイス制度では、発行した適格請求書の写しと受け取った適格請求書を保存する必要があります。したがって、税率ごとの区分管理や帳簿への記載など、適切な記録・管理体制を整えることが重要です。
適格請求書は電子データでの保存も認められているため、業務効率を考慮した保存方法を選択するとよいでしょう。
課税事業者には消費税の納税義務が発生するため、消費税の計算方法を確認して、納税資金の準備をおこなう必要があります。納税額の計算にあたっては、本則課税と簡易課税のどちらを選択するかも重要な検討事項です。
また、消費税の確定申告も必要となるため、申告に向けた準備も進めておく必要があります。課税事業者となった初年度はとくに慎重な対応が求められるため、税理士などの専門家に相談することもおすすめです。
本記事では、インボイス制度が免税事業者に与える影響について、経過措置や特例制度もあわせて解説しました。
インボイス制度の導入により、免税事業者は課税事業者への移行を検討する必要に迫られています。ただし、取引先の状況によっては必ずしも移行が必要ではない場合もあります。
課税事業者になるかどうかは、自社の事務処理体制や将来の事業展開、取引先との関係性を総合的に判断して決定することが重要です。また、経過措置や特例制度の適切な活用で、円滑な移行や事務負担の軽減を図れます。