更新日:2023.07.26
ー 目次 ー
2023年10月から本格的にインボイス制度が施行されます。さまざまな現場でインボイス制度について議論されているものの、実際にインボイス制度とはどんな制度なのか分からないという方が多いのではないでしょうか。
インボイス制度は企業だけの問題ではなく、個人事業主やフリーランスで働いている方にとっても大きな問題となります。
そこで、本記事ではインボイス制度とは何か、導入する上で知っておくべきメリットやデメリットについて解説していきます。本格的に制度が運用される前にインボイス制度について知り、賢く制度を利用するためにもぜひ最後までご覧ください。
インボイス制度のメリットやデメリットを解説する前にインボイス制度の概要や目的などについて解説していきます。なんとなくインボイス制度について知っている方もぜひ一度お読みください。
現行の区分記載請求書は、2019年10月1日の消費税10%の引上げに伴い、導入された軽減税率により消費税10%と8%の税率を区別するために設けられた区分記載請求書方式で、現在の請求書のやり取りはこの区分記載請求書で行なわれています。
この区分記載請求書方式が2023年10月1から「適格請求書等保存方式」へと変更され、請求書には新たに商品やサービスにかかる消費税額・登録番号・適用される税率を記載する必要があります。この記載義務のことを「インボイス制度」といいます。
区分記載請求書の発行は任意であったものの、適格請求書では交付義務があります。ただし、適格請求書の発行を行うことができるのは「適格請求書発行事業者」のみです。適格請求書発行事業者になるためには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署へ提出し、審査が行われたのちに登録されます。
適格請求書発行事業者として登録できるのは、消費税の課税事業者に限られており、免税事業者の場合は登録することはできません。そのため、免税事業者と取引を行うと「仕入税額控除」の対象外となり、課税事業者は仕入にかかる仕入税額が適用されません。
では、インボイス制度が導入された目的や必要性について解説していきます。
インボイス制度が導入されたのには以下のような益税が現行の制度で問題視されています。
つまり、免税事業者も含め、正確な税額を把握し適切に納税してもらうという目的からインボイス制度の導入が検討されました。
2019年に導入された軽減税率の導入は、税率が8%と10%に区別されているため、取引において税率ごとに記載された請求書でなければ、事業者は性格な税額と仕入税控除額を把握が難しくなりました。
これに対応するべく、取引ごとの消費税率と消費税額を細かく記載した請求書が「区分記載請求書等保存方式」です。今後は、適切な税額や控除額を把握するべく「適格請求書保存方式」、つまりインボイス制度が導入されます。
インボイス制度では、課税事業者と免税事業者で対応が異なります。
課税売上高によって、該当する事業者が異なるため、自分がどちらに該当するのか注意してください。
課税事業者(消費税課税事業者)とは、消費税を納入する義務がある法人や個人事業主を指します。
課税事業者は、以下のいずれかの条件に当てはまる方が対象です。
いずれかの条件に該当する方は課税事業者となり、消費税を計算して納税しなければなりません。
課税事業者は、インボイス制度の対象事業者として適格請求書発行事業者の登録申請手続をする必要があります。
免税事業者は、課税売上高が1,000万円以下となる法人または個人事業主のことを指します。免税事業者は、「事業者免税点制度」により消費税の納付を免除されます。
インボイス制度導入では、課税事業者が申請の対象となるため、免税事業者は申請等の必要はありません。
インボイス制度導入には、以下のようなメリットがあります。
インボイス制度を導入することで現行の区分記載請求書発行方式で感じるデメリットを払拭することができます。ここでは、インボイス制度を導入することで得られるメリットについて解説していきます。
電子インボイスを受領した場合、データ取り込み処理を行い、これらを支払データとして利用できるため、紙の請求書とは異なり、担当者による支払処理が必要ありません。
さらに、適格請求書を電子データで保存することで、請求書や領収書を保管するスペースも経費も必要としないため、ファイル名などで必要な情報をパソコン上で閲覧できます。また、タイムスタンプの付与やeシールによってデータ改ざんされるリスクを軽減させられます。
現在利用されている請求書では消費税率が混在しているため、確定申告や仕入税額控除を行う際にはそれぞれの税率に分けて消費税額を算出し直す必要がありました。
しかし、適格請求書では商品ごとの消費税率と消費税率ごとの消費税額が記載されるため、商品やサービスにかかった消費税額を正確に把握が可能となります。
インボイス制度では、消費税額と税率の明記が義務付けられているため、混合する税率の記載による税率の不正や人為的なミスの発生を大幅に軽減できます。
免税事業者が発行した請求書では、「仕入税額控除」を受けることができないため、取引先を他の適格請求書発行事業者に変更されるかもしれません。
しかし、適格請求書発行事業者の登録を行うことで、取引先から契約を継続される可能性が高まります。
一方で、インボイス制度にも以下のようなデメリットがあります。
インボイス制度導入時に置ける注意点に留意し、インボイス制度施行開始まで経理体制を整えておくようにしましょう。
インボイス制度では、請求書の記載事項の追加、仕入税額控除を受けるための要件が変更されるので、経理担当者の業務が増えてしまいます。
インボイス制度導入による経理の複雑化は必然的に起こるので、事前にインボイス制度のセミナーに参加したり、企業で研修会を行なったりするなど、企業全体でインボイス制度の体制を整えるようにする必要があります。
インボイス制度の導入で、取引先が適格請求書発行事業者でなければ、仕入税額控除を受けることができません。そのため、消費税の控除額が減少してしまう可能性があります。また、適格請求書発行事業者になるには、課税事業者になる必要があります。
しかし、免税事業者が課税事業者になるには、今まで免除されていた消費税の納付義務が発生し、税負担が増えるため簡単に課税事業者になることは難しいとされています。
ただ、インボイス制度には経過措置があり、「適格請求書発行事業者以外(免税事業者)からの仕入も一定割合で控除できる」という内容が含まれています。経過措置期間10年間の期間があるものの、軽減税率が開始された2019年からカウントされるため、実際には2029年が経過措置終了予定となります。
インボイス制度を焦って導入するよりも一旦様子をみながら対策を行うようにしましょう。
免税事業者との取引では、適格請求書の発行ができず、仕入税額控除を受けられません。
そのため、不便に感じる取引先からは契約を打ち切られるリスクがあります。
免税事業者は経過措置を利用しながら状況を鑑みて課税事業者になるかを検討するべきだといえます。
インボイス制度の導入にあたって、不利益が生じないよう導入までに以下のことを準備しておきましょう。
インボイス制度を賢く利用するためにも、ぜひご覧ください。
管轄の税務署宛に「適格請求書発行事業者登録申請書」を提出し、登録を済ませることでインボイスを発行できます。申請方法は「e-Taxによる電子申請」「書面を直接持参」「郵送」のいずれかで申請を行うようにしましょう。
申請受付は現在も行われています。今まではインボイス制度開始の2023年10月1日から適格請求書を発行するためには、2023年3月31日までに申請書を提出しておかなければなりませんでした。また、4月1日〜9月30日の提出でも「3月までの提出が困難な事情」を記載すれば、10月1日から適格請求書発行事業者として認められると定められていました。そのため、適格請求書を発行したい事業者は急いで申請書の提出準備をするか、事情を記載するかが求められていました。
しかし、令和5年度の税制改正大綱にて、事業者の準備状況に差があることなどを踏まえ、申請書に「困難な事情」の記載を求めず、4月以降の登録申請を可能とする緩和措置を講じました。事業者は以前より余裕を持ってインボイス制度対応への準備をすることができます。
課税事業者でないと適格請求書発行事業者登録を行うことができないため、仕入税額控除を受けたい免税事業者は課税事業者への登録を行う必要があります。
ただし、課税事業者になると免税されていた仕入税額を納税しなければならないので今よりも経費負担が大きくなることを前提に導入するようにしましょう。
現行の区分記載請求書から以下の3つの記載事項が追加されます。
これらのフォーマットを準備し、インボイスを発行できるよう準備しておきましょう。
インボイス制度導入で、経理業務はこれまでより複雑化になります。適格請求書受領後の処理の流れや保存方法等の業務フローを見直し、会社内で共有しておくようにしましょう。
インボイス制度に対応できる会計システムを新たに導入することで経理業務を効率化するようにしましょう。導入するにあたって、運用中の会計・請求書作成システムがインボイスに対応可能かどうかを確認しておくこと、電子帳簿保存方法の要件にも対応しているかを確認しておく必要があります。
インボイス制度を導入することで、請求書をデータで管理可能になるだけでなく、適切な消費税額を把握できるといったメリットを受けられます。導入によるコストはかかるものの、請求書のデータ改ざん・不正を防止できるので会社にとっても大きなメリットとなるでしょう。
2023年に10月に制度が開始されるものの、2029年までの経過措置を活用して適格請求書が発行できるよう社内の体制を整えていく必要があります。
今回の記事で解説したインボイス制度におけるメリットやデメリットを参考にインボイス制度導入の準備を行なっていきましょう。