更新日:2025.01.30
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インボイス制度は、消費税に関する請求書の記載や保存などの対応方法を決めたルールです。2023年10月から施行され、請求書や保存の形式が以前よりも複雑になりました。
インボイス制度の施行によって、普段は漫画家として活動されている方にも影響があります。また、インボイスは個人情報の公開や事務作業の増加など影響があるため、登録を悩んでしまう漫画家も少なくありません。
インボイス制度の登録を検討している場合、税制や取引先との関係を考慮すると、インボイス制度を利用することをおすすめします。
本記事では、インボイス制度の漫画家への2つの影響について、漫画家がインボイス制度を利用するべき理由や媒介者交付特例を交えて解説します。
インボイス制度は、消費税に関する請求書の記載や保存などの対応方法を決めたルールです。「適格請求書等保存方式」にしたがって、取引内容や消費税率や消費税額などの所定の要件が記載された「適格請求書(インボイス)」を発行し、保存することが定められています。
インボイス制度に登録して番号を取得すると「適格請求書発行事業者」となります。取引先は受け取った適格請求書をもとに、消費税の仕入税額控除が受けられる仕組みです。
漫画家でも適格請求書を発行する場合は、インボイス制度の利用が推奨されます。
ただ、現時点では、インボイス制度の登録は任意です。しかし、出版社側の経理処理の都合上、インボイス制度に登録している漫画家との取引を優先される可能性が高くなっています。取引先が未登録の場合、消費税の仕入税額控除ができなくなってしまうためです。
このような背景から、仕事の継続性を踏まえてインボイス制度の登録の検討が必要でしょう。
一方で、日本漫画協会は「インボイス制度の導入」に反対の意思表示をしています。反対の理由は、以下のとおりです。
インボイス制度には、仕入税額控除が利用できる以外にもメリットがあります。このようなメリットを知っておくと、インボイス制度の利用の検討材料になるでしょう。
ここでは、漫画家がインボイス制度を利用する2つのメリットを紹介します。
漫画家がインボイスに登録すると、適格請求書の発行ができます。適格請求書の発行・保存によってインボイス制度の要件を満たせるため、出版社側は消費税の仕入税額控除が可能です。
インボイス制度の登録している漫画家との取引の場合、企業は消費税の負担を軽減できるため優先する可能性が高くなるでしょう。一方、インボイス制度に登録していない場合は企業が仕入税額控除を受けられなくなるため、取引の見直しや依頼数の減少が検討されるかもしれません。
適格請求書発行事業者になると、消費税額を2割に軽減できたり、媒介者によってインボイスの手続きを代理できたりなどの特別措置が受けられます。受けられる特別措置は以下のとおりです。
特別措置 |
概要 |
条件 |
2割特例 |
課税金額を2割まで減額 |
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媒介者交付特例 |
媒介者が代理で買い手側との適格請求書の手続きを進めてくれる制度 |
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特別措置が適用内の場合は、消費税額や経理事務の負担を減らせます。
インボイス制度を利用した際に発生するのはメリットのみではありません。インボイス制度の登録によって漫画家の活動に悪影響もあります。このような悪影響を理解しておくと、インボイス制度の登録後のトラブル防止につながるでしょう。
ここでは、漫画家がインボイス制度を利用する2つの影響を紹介します。
まず、インボイスにより事務作業の負担が増えます。日本・東京商工会議所の調査によると、インボイスを導入した2,365社のうち82.2%もの事業者が「事務負担が増えた」と感じています。インボイスの登録で負担の増える作業の例は、以下のとおりです。
また、事業のアシスタントを複数人に委託している場合、それぞれの事業者に応じて請求書を適切に仕分け、管理しなければなりません。事務作業が増えてしまうと、本来の創作活動の時間が減るといった影響が生じます。
参考:日本・東京商工会議所「中小企業におけるインボイス制度、電子帳簿保存法、バックオフィス業務の実態調査 結果」
適格請求書発行事業者になると、登録番号とともに個人情報が公表サイトによって公開されてしまいます。ペンネームで活動している漫画家は、本名が公表されてしまうため、プライバシーに関わる影響が出てくるでしょう。
本名を公表サイトに公開したくない場合は、以下の対応が必要です。
一方、ペンネームといった屋号や住所に関しては、本人からの申し出がない限り公開されません。そのため、公表サイトのみでは本名と屋号を一致させるのは難しいでしょう。
インボイスには、事務負担の増加や個人情報の公開などの影響があります。インボイス制度による負担を軽減するために、対策を講じることも可能です。
ここでは、インボイス制度の影響への対策方法を紹介します。
媒介者交付特例とは、漫画家と買い手側の間に仲介が入る場合に、媒介者が代理で買い手側と適格請求書の手続きを進めてくれる制度です。
漫画家は媒介者と適格請求書の手続きをするため、買い手側と直接の手続きが不要となります。活用するためには、以下の条件を満たしておく必要があります。
また、媒介者交付特例のメリットと注意点は以下のとおりです。
メリット |
注意点 |
匿名性が高い |
インボイス制度の登録が必要 |
事務負担を軽減できる |
類似した「代理交付」と間違えやすい |
関連記事:媒介者交付特例とは?代理交付との違いや具体的事例をわかりやすく解説。
事業規模や取引状況によっては、免税事業者のままで活動を続ける選択肢もあります。免税事業者の場合、インボイス制度に関連する事務作業が一切発生せず、個人情報の公開も避けられます。
しかし、取引先との関係では、以下の影響を考慮した検討が必要です。
このため、主要な取引先(出版社)と事前に話し合い、今後の方針を決めることがおすすめです。また、契約の見直しが必要な場合は、すぐに決めるのではなく、準備期間を確保して交渉を進めましょう。
本記事では、インボイス制度の漫画家への2つの影響について、漫画家がインボイス制度を利用するべき理由や媒介者交付特例を交えて解説しました。
現時点ではインボイス制度の登録は任意ですが、漫画家でも適格請求書を発行する場合は適格請求書発行事業者への登録がおすすめです。インボイス制度に登録するメリットは以下のとおりです。
一方で、事務作業の負担や個人情報の公開などの影響もあるため、不安な方は現在の状況を見ながら必要であれば登録しましょう。