更新日:2025.07.01
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インボイス制度で請求書を作成する際、「消費税の端数処理を商品ごとに行っても大丈夫なのか?」と迷われたことはありませんか?実は、国税庁からは端数処理の明確なルールが示されており、適切に対応しないと税務処理上のリスクにつながることもあります。
本記事では、インボイス制度における端数処理の国税庁の見解、具体的な計算方法などを丁寧に解説いたします。適切な請求書対応で経理業務の不安を解消しましょう。
インボイス(適格請求書)とは、売手が買手に対して発行する請求書や領収書の一種で、適用税率や税率ごとに区分した消費税額などが正確に記載されたものを指します。インボイス制度の導入により、買手が仕入税額控除(売上にかかる消費税額から仕入れにかかった消費税額を差し引くこと)の適用を受けるためには、原則としてこのインボイスの保存が必要となりました。
消費税は、商品やサービスの取引価格に上乗せされて徴収され、最終的に事業者が国に納付する仕組みです。インボイス制度は、この消費税の仕入税額控除の金額を正確に把握し、複数税率(標準税率10%、軽減税率8%)に対応した適正な経理処理と納税を促すことを目的としています。
インボイスには、記載すべき事項が法律で定められており、その一つに「税率ごとに区分した消費税額等」があります。この消費税額等を計算する際に、1円未満の端数が発生することがあり、その端数をどのように処理するかが「端数処理」の問題となります。インボイス制度下では、この端数処理にも一定のルールが設けられています。
消費税額の計算過程で生じる1円未満の端数を、切り捨てるか、切り上げるか、あるいは四捨五入するかといった処理方法が「端数処理」です。この処理方法が統一されていなかったり、誤っていたりすると、以下のような問題が生じる可能性があります。
インボイス制度の開始に伴い、端数処理のルールを正確に理解し、適切に対応することが、すべての事業者にとってより一層重要になっています。
国税庁は、適格請求書(インボイス)における消費税額等の端数処理について、明確な指針を示しています。結論として、適格請求書では1請求書につき税率ごとに1回の端数処理が原則であり、商品ごとの端数処理は認められません。
基本ルールは、「一の適格請求書につき、税率の異なるごとに区分した消費税額等に1円未満の端数がある場合には、その端数を処理すること」とされています。これは、具体的には以下のことを意味します。
例えば、1枚の請求書に複数の商品が記載されている場合、各商品の金額に対して消費税を計算し、その時点で端数処理を繰り返すのではなく、税率ごとに合計した課税標準額に対して消費税額を算出し、その結果に対して1回端数処理(切り上げ、切り捨て、四捨五入など、事業者の任意の方法)を行います。
一つの適格請求書の中に、標準税率(10%)の対象となる商品と軽減税率(8%)の対象となる商品が混在しているケースは少なくありません。このような場合、端数処理は以下のように行います。
税率区分 |
端数処理の考え方 |
標準税率(10%)対象商品 |
10%対象の全商品の税抜価額の合計額から消費税額を計算し、その合計消費税額に対して1回の端数処理を行います。 |
軽減税率(8%)対象商品 |
8%対象の全商品の税抜価額の合計額から消費税額を計算し、その合計消費税額に対して1回の端数処理を行います。 |
つまり、請求書全体としては、適用税率の数(この場合は2回)だけ端数処理が行われることになります。各商品ラインで個別に端数処理を行うわけではない点に注意が必要です。
インボイス制度では、原則として「税率ごとに1回だけ」端数処理を行うルールが定められています。ただし、実務でよく使われる「積上げ計算」という方法を選ぶ場合、ここに"例外"が生じます。積上げ計算では、商品ごとに消費税額を計算し、その段階で端数が出た場合には「その都度、切り捨てなどの端数処理をしてOK」とされています。これが、いわゆる"特例"です。
ただし注意点があります。
この特例はあくまで「計算途中」の話であり、最終的に適格請求書へ記載する「消費税額等」は、税率ごとに合計した金額に対して処理を行った結果を記載する必要があります。、もう一度だけ端数
つまり、「商品ごとに端数処理して、それを合算して請求書に書けばよい」という解釈は誤りです。あくまでも、インボイスに記載する金額は「税率ごとに1回処理された結果」でなければなりません。この"特例の使いどころ"と"最終的な記載ルール"の違いを混同しないよう、くれぐれもご注意ください。
割戻し計算とは、請求書に記載された税率ごとの税抜合計金額に対して消費税率を乗じ、消費税額を算出する方法です。算出した消費税額に1円未満の端数が出た場合に、その端数を処理します。インボイス制度においては、原則として後述する「積上げ計算」が求められますが、売手が買手に支払う振込手数料を売上値引として処理する場合や、小売業などで多数の商品を一度に販売する際に合計額から消費税を計算する場合など、一定の条件下では割戻し計算も認められています。
具体的には、適格請求書に記載する消費税額等について、税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の対価の額に税率を乗じて算出し、その結果に対して端数処理を行う方法です。この場合、端数処理は税率ごとに1回のみとなります。複数の税率が混在する取引では、それぞれの税率ごとに計算し、端数処理を行います。
積上げ計算とは、個々の商品やサービスごとに消費税額を算出し、それらを合計して全体の消費税額を求める方法です。インボイス制度における消費税額の計算は、原則としてこの積上げ計算で行います。商品ごとに消費税額を計算する際に端数処理を行い、その端数処理後の金額を税率ごとに積み上げて合計するため、「商品ごとの端数処理」はこの積上げ計算が前提となります。
適格請求書においては、税率ごとに区分した消費税額等の記載が必要であり、積上げ計算の場合、個々の商品について算出した消費税額(端数処理後)を税率ごとに合計し、その合計額を記載します。この方法では、商品ごとに端数処理を行うため、請求書全体で一度だけ端数処理を行う割戻し計算とは、最終的な消費税額に差異が生じる可能性があります。
インボイス制度では、原則として「積上げ計算」による消費税額の算出が求められています。これは、適格請求書に税率ごとの消費税額等を正確に記載する必要があるためです。具体的には、適用税率ごとに区分した個々の商品・サービスの税抜価格または税込価格を基に消費税額を算出し、その結果を積み上げて税率ごとの消費税額を求めます。
ただし、前述の通り、売手が負担する振込手数料を売上値引として処理する場合など、対価の返還等に係るものであれば、例外的に「割戻し計算」も認められています。また、少額な取引を多数行う小売業など、事業の特性によっては割戻し計算の方が実務に即している場合もあります。どちらの計算方法を採用するかは事業者の任意ですが、一度選択した計算方法は、原則として継続して適用する必要があります。また、どちらの方法を選択するにしても、インボイスの記載要件を満たし、正確な経理処理を行うことが重要です。税理士などの専門家に相談し、自社の事業内容に合った方法を選択しましょう。
インボイス制度における端数処理は、1つの適格請求書につき、税率ごとに1回ずつ行います。その際の端数の処理方法(切り上げ、切り捨て、四捨五入など)は、事業者自身が任意で選択し、統一して適用します。ここでは、商品ごとに消費税額を計算し端数処理を行う「積上げ計算」と、税率ごとの合計額に対して消費税額を計算し端数処理を行う「割戻し計算」の例を比較してみましょう。端数処理は「切り捨て」と仮定します。
項目 |
商品A (標準税率10%) |
商品B (標準税率10%) |
商品C (軽減税率8%) |
合計消費税額 |
税抜価格 |
999円 |
999円 |
999円 |
- |
積上げ計算 (商品ごとに消費税計算・端数処理し、税率ごとに合計) |
||||
各商品の消費税額 (計算) |
999円 × 10% = 99.9円 |
999円 × 10% = 99.9円 |
999円 × 8% = 79.92円 |
- |
各商品の消費税額 (端数処理後) |
99円 (切り捨て) |
99円 (切り捨て) |
79円 (切り捨て) |
- |
税率ごとの消費税額合計 |
10%対象: 99円 + 99円 = 198円 |
8%対象: 79円 |
198円 + 79円 = 277円 |
|
割戻し計算 (税率ごとに合計し消費税計算・端数処理) |
||||
10%対象 税抜合計 |
999円 + 999円 = 1,998円 |
- |
- |
|
10%対象 消費税額 (計算・端数処理) |
1,998円 × 10% = 199.8円 → 199円 (切り捨て) |
- |
199円 + 79円 = 278円 |
|
8%対象 税抜合計と消費税額 (計算・端数処理) |
- |
999円 × 8% = 79.92円 → 79円 (切り捨て) |
上記の例のように、同じ商品構成であっても、積上げ計算と割戻し計算(税率ごとの合計額から算出)では、最終的な消費税額に差異が生じることがあります。インボイス制度では、原則として積上げ計算が基本とされていますが、事業者はどちらの計算方法を選択するかを決定し、一貫して適用する必要があります。自社がどちらの計算方法を採用しているか、また、それがインボイス(適格請求書)の要件に適合しているかを確認することが重要です。不明な点があれば、所轄の税務署や税理士に確認しましょう。
インボイス制度導入に伴い、消費税の端数処理ルールが厳格化されたことで、従来の処理方法と差額が生じる場合があります。この差額への対応は、請求書の発行側と受領側で異なります。
対応者 |
差額調整のポイント |
売手側(請求書発行事業者) |
適格請求書を発行する際は、国税庁の指針に基づいた正しい計算方法(割戻し計算または積上げ計算のいずれかを選択)で消費税額を算出し、記載する必要があります。もし計算誤りや記載漏れがあった場合は、速やかに修正インボイスを発行して対応します。 |
買手側(請求書受領者) |
原則として、受領した適格請求書に記載された消費税額に基づいて仕入税額控除を行います。ただし、請求書に記載された消費税額の計算方法が明らかにインボイス制度のルールに反している場合や、記載内容に疑義がある場合は、発行事業者に確認し、必要であれば修正インボイスの交付を依頼してください。 |
差額が生じる主な原因は、インボイス制度では1つの適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理が原則(割戻し計算の場合)とされるためです。積上げ計算を選択する場合は、個々の商品ごとに算出した消費税額(端数処理済み)を合計します。いずれの方法を採用するにしても、インボイス制度のルールに則った処理が求められます。
インボイス制度開始前後で、請求書の取り扱いが異なります。
2023年9月30日までに発行された請求書(区分記載請求書等)については、インボイス制度の端数処理ルールは適用されません。したがって、当時の税法及び経理処理の慣行に従って商品ごとに端数処理が行われていたとしても、インボイス制度開始を理由に遡って修正する必要はありません。
2023年10月1日以降に発行される適格請求書(インボイス)については、消費税の端数処理ルールが明確に定められています。
国税庁は、適格請求書における消費税額等の計算について、以下のいずれかの方法によるとしています。
したがって、「商品ごと」の端数処理が直ちに誤りとなるわけではありません。積上げ計算を採用していれば、商品ごとの端数処理結果を積算することになります。重要なのは、選択した計算方法がインボイス制度のルールに準拠しているかという点です。
もし、採用している計算方法がこれらのルールに適合していない場合(例:割戻し計算を選択しているにもかかわらず商品ごとに端数処理を行っている、あるいは不適切な積上げ計算を行っているなど)、その請求書は適格請求書の記載要件を満たしていない可能性があります。この場合、買手側が仕入税額控除を適切に行えないリスクがあるため、売手側は速やかに修正インボイスを発行するなどの対応が求められます。
受領した適格請求書(インボイス)について、仕入税額控除を正しく行うためには、端数処理が適切に行われているかを確認することが重要です。以下の点をチェックしましょう。
これらのチェックポイントを確認し、もし適格請求書の記載要件を満たしていない、あるいは端数処理に誤りがあると思われる場合は、請求書発行事業者に確認し、必要に応じて修正インボイスの交付を依頼してください。不備のあるインボイスでは、仕入税額控除が認められない可能性があるため注意が必要です。
インボイス制度では、「適格請求書1枚につき税率ごとに1回の端数処理」が基本ルールとなっており、商品ごとに端数処理を行うことは原則として認められておりません。
また、割戻し計算と積上げ計算という2つの方法がありますが、どちらを採用するにしてもインボイスの記載要件に合致している必要があります。実務では計算ミスや端数の扱いによる差額も生じやすいため、不安な点があれば税理士等に相談しながら、自社に合った処理方法を運用していきましょう。