更新日:2024.08.23
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委託販売を行っている場合など、3者間での取引が発生する場合、インボイス制度にどのように対応すべきかお悩みの方も多いのではないでしょうか。
受託側が代理で請求書を購入者に発行できる、媒介者交付特例が制定されていますが「どのように活用すべきかがわからない」ということもあるかと思います。
そこで本記事では、媒介者交付特例の概要や適用するための要件などを解説します。また、類似した制度の「代理交付」との違いやポイントなども解説しています。委託販売を行っている事業者の方は、インボイス制度に備えるために、ぜひ参考にしてください。
媒介者交付特例とは、商品の販売などを委託している場合、受託側の名義や登録番号で適格請求書を発行できる制度のことを指します。例えば、以下のようなケースが当てはまります。
受託側が多くの取引先と契約している場合、商品と委託側の請求書情報の管理が煩雑になるため、このような制度が制定されています。なお、媒介者交付特例を使用する場合は2つの要件を満たす必要があり、詳細は後述しますので参考にしてください。
媒介者交付特例と類似した制度として「代理交付」があります。代理交付とは、委託側が商品を販売し請求書やレシートを発行する際に、委託側の氏名や事業所名、登録番号を代理で記載できる制度のことです。
複数の委託先の商品を購入された場合は、各委託先ごとの適格請求書の要件を1枚にまとめて発行も可能です。
ただし、様々な企業や事業者と取引がある委託販売者からすると、それぞれの登録番号や商品、税率の区別をしなければいけないため、手間やミスが発生しやすいので注意が必要です。
代理交付を適用する場合は、取引先が少数である場合に絞った方がよいでしょう。
媒介者交付特例と代理交付は、どちらも委託者に代わって、委託販売者が適格請求書を発行できる制度です。インボイス制度への対応負担を減らすために、請求書の発行フローが煩雑にならないよう制定されています。
2つの特例制度では、請求書に記載する事業者が違うことが挙げられます。
また、代理交付は受託側が適格請求書発行事業者でなくても、請求書の発行が可能です。媒介者交付特例は、受託側と委託側のどちらもがインボイス制度への登録を行っている必要があります。
このように、どちらも似ている制度ではありますが、請求書の記載事項や要件が異なるため、違いを理解しておきましょう。
媒介者交付特例を適用するためには、前述の通り2つの要件を満たす必要があります。
出典:国税庁「適格請求書の交付方法」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-08.pdf
以下で要件の内容を、それぞれ解説していきます。
媒介者交付特例では、商品の販売などの委託側・受託側、どちらも適格請求書発行事業者である必要があります。
理由として、インボイス制度では適格請求書を発行するために登録申請を行う必要があります。媒介者交付特例では、受託側の情報で請求書を作成するため、登録を受けている事業者でなければ適格請求書が発行できません。
また、受託側が委託側に代わって請求書を発行できるという点から、本来であれば委託側が交付すべき請求書です。そのため、受託側・委託側の両者が適格請求書発行事業者でなければいけないのです。
片方が登録申請をしていない場合は適用できない、または、登録が必要になるため注意しましょう。
取引前までに、委託側が受託側に適格請求書発行事業者の登録を受けている旨を通知します。通知するタイミングは、以下の通りです。
どちらの方法でも、書面や電子データなど記録が残る形で通知しておきましょう。
また、媒介者交付特例は、商品販売以外に会計や経理業務などの業務を委託している場合でも適用可能です。例えば、請求書の発行業務を委託している場合などが挙げられます。このケースでも、同じように2つの要件を満たした上で、媒介者交付特例を適用できます。
媒介者交付特例を適用した請求書には、以下の記載が必要です。
これらの記載事項を漏れなく記載することで、適格請求書として認められます。
Amazonでは、出品者が「Amazon.co.jpにおける販売事業者」である旨を登録し、Amazonが買い手に代わって適格請求書を発行する「媒介者交付特例」を導入しています。 これにより、出品者は個別に請求書を発行する必要がなくなり、販売業務に集中できます。
不動産管理会社が、オーナーに代わって入居者に家賃の請求書を発行する場合も、媒介者交付特例が適用されます。 オーナーは、不動産管理会社に適格請求書発行事業者としての登録番号を通知する必要があります。
媒介者交付特例を利用した場合、受託側で対応すべき内容は以下の2つです。
出典:国税庁「適格請求書の交付方法」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-08.pdf
2つの要件について、それぞれ解説していきます。
インボイス制度では適格請求書を発行した場合、写しの保存が義務付けられています。媒介者交付特例を活用する際も同様に、交付した請求書の写しを保存します。
保存方法は、請求書を紙で発行している場合はコピーしたものをはじめ、電子記録でも問題ありません。保存期間は7年間のため、紙や電子データなど請求書の発行方法を統一し、管理しやすい方法を事前に決めておきましょう。
媒介者交付特例では、委託販売の依頼を受けた受託者側の登録情報で請求書を発行できる制度です。ただし、本来であれば委託側が発行すべき請求書であるため、委託側にも発行した請求書を提供する必要があります。
また、交付した請求書が多数ある場合は、精算書等を発行することでも対応が可能です。精算書に記載する内容は、以下の通りです。
載する内容は、以下の通りです。
委託側が税額を算出しやすいよう、消費税についての内容を明確にします。なお、精算書で委託側に提供する場合は、発行した適格請求書との関連性がわかるようにしておく必要があります。
媒介者交付特例を利用した場合、委託側の対応は2つです。
2つの要件について、それぞれ解説していきます。
媒介者交付特例は、委託側・受託側の両者が適格請求書発行事業者であることが要件の1つにあります。また、委託側が適格請求書を発行すべきものを、受託側が代理で発行しているということも特徴です。
そのため、委託側が適格請求書発行事業者でなくなった場合は、受託側に通知する必要があります。
通常、登録を解除するまでには申請の手続きや確認期間が発生するため、時間がかかります。この間に受託側の混乱を招かないよう、登録を解除することが決定した時点または、予定している時点で通知や報告をしておきましょう。
適格請求書は受託側が発行していますが、委託側は請求書の写しを保存する義務があります。インボイス制度の義務要件にならい、7年間の保存が必要です。
また、受託側から精算書で提供された場合は、精算書を保存します。この場合の保存期間も同様に、7年間です。受託側の保存義務が守られていないと、インボイス制度の義務要件に対応できていないことになるため、注意しましょう。
万一、受託側から請求書の写しや精算書が届いていない場合は、交付の連絡を促す必要があります。事前にいつ提供されるのかを確認しておくなどして、抜け漏れがない体制を構築しておくことをお勧めします。
媒介者交付特例を適用した場合、基本的には通常の取引と同様に仕訳を行います。
例えば、ECサイト運営事業者が販売手数料を受け取る場合、以下の仕訳となります。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金預金 | 売上 |
消費税 |
借方 | 貸方 |
---|---|
現金預金 | 預り消費税 |
媒介者交付特例では、委託先が免税事業者の場合、要件を満たすことができないため適用が不可となります。取引先が免税事業者であるか課税事業者であるかを確認しておき、活用する場合に備えておきましょう。
ただし、複数の委託先が存在し、適格請求書発行事業者と免税事業者の両方が混在しているケースが発生する可能性があります。
この場合、適用される範囲が以下のように異なります。
委託側・受託側の両者がインボイスを発行できるケースのみ適用されるため、請求書の保存義務などもそれぞれ変わります。委託側からみたときに、取引先が免税事業者と適格請求書発行事業者の両者がいる場合は、どの請求書の保存が必要かを確認しておきましょう。
また、媒介者交付特例が使用できない場合でも、代理交付が可能なケースもあるため、自社や取引先の状況を確認したうえで制度を活用しましょう。
媒介者交付特例は、委託側に代わり受託側が自社の名称で適格請求書を発行できる特例制度です。業務の委託先が複数ある場合、日頃の実務を担っている受託側に請求書の発行を依頼できるため、委託側のメリットが大きいと言えます。
制度を活用するためには、
上記の2つの要件を、どちらも満たす必要があります。
委託販売をしている事業者は、インボイス制度の要件や媒介者交付特例の概要を理解した上で、活用しましょう。