更新日:2024.12.24
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インボイス制度の導入で、経理処理の方法が大きく変化しました。インボイス制度では従来の請求書の形式から項目が変化した箇所があるため、この変化に対応しないと取引先とのトラブルに発展する可能性があります。また、変化に対応した処理をしないと追徴課税や罰金の支払いリスクなどが発生します。
したがって、インボイス制度下での経理処理の方法を適切に理解して、対応する必要があります。
本記事では、インボイス制度での経理処理の方法について、対応のポイントや経過措置にも触れて解説します。
インボイス制度とは、事業者が適切な税額を納付できるようにするための制度です。この制度により、請求書の作成や保存などの経理処理の方法が大きく変化しました。
既存の処理方法をあわせ、インボイス制度で変化した点を理解しておかないと、経理業務上でトラブルが生じる可能性があります。
ここでは、インボイス制度下で必要な5つの経理処理について、解説します。
インボイス制度では「適格請求書(インボイス)」の発行・保存をしなければなりません。この適格請求書は従来の請求書の記載方式から以下の項目が追加されています。
この記載方式の項目が記載されていれば、領収書や納品書などの請求書以外の書類も適格請求書として扱えます。
インボイス制度では適格請求書を交付した場合に、請求書が書面である場合はその写し、電子データの場合はデータを保存しなければなりません。請求書の保存期間は書面・データともに7年間です。
一方で、買い手側は交付された請求書と一定の事項が記載された帳簿を7年間保存する必要があります。
なお、電子データを保存する場合は、電子帳簿保存法の要件を満たさなければなりません。
2019年10月1日からの消費税の引き上げにともない、軽減税率制度が開始されました。軽減税率の対象品目は、酒類を除く飲食料品と、週2回以上発行される新聞です。
これにより現行では標準税率(10%)と軽減税率(8%)の複数税率となっており、インボイス制度では適格請求書に税率を明記しなければなりません。基本となる課税区分は、仕入税額控除の対象になる課税仕入と対象外の課税仕入です。
インボイス制度を利用するためには、適格請求書発行事業者に登録しなければなりません。申請方法は以下の3つです。
申請には、自社の状況にあわせて効率的な方法を選びましょう。また、提出から登録通知が届くまで約1か月〜1.5か月かかるため、余裕をもって申請しましょう。
なお、登録が完了すると、インボイスに記載される登録番号が税務署から通知されます。
インボイス制度の開始にともない、請求書の保存方式が適格請求書等保存方式に変更されました。この方式は従来の方式と異なり、3つの項目が追加された以下の6つの記載要件を満たさなければなりません。
これにともなって、自社で使用していたフォーマットを変更する必要があります。適切な経理処理のためにも、制度に対応したものにしましょう。
免税事業者はインボイスが発行できないため、インボイス制度を活用できません。しかし、2029年9月までは、免税事業者から仕入した場合でも仕入税額控除が受けられる措置を政府が講じています。なお、経過措置の適用期間と控除対象となる消費税は以下のとおりです。
期間 |
控除対象 |
制度開始~2026年9月 |
消費税額の80% |
2026年10月~2029年9月 |
消費税額の50% |
また、この措置を受けるための保存方式が定められています。保存方式の対象となる2つの書類は、以下のとおりです。
この経過措置を活用して、免税事業者のようなインボイスが交付されない取引先と今後も取引を続けるかどうかを見直しましょう。
参考:国税庁「免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置を適用する場合の税額計算」
経過措置を受けるためには満たさなければならない要件があるため、内容をきちんと理解して対応しましょう。
ここでは、経過措置を受けるための2つの要件をそれぞれ解説します。
経過措置を受けるためには、区分記載請求書等保存方式と同じように書かなければなりません。区分記載請求書等保存方式とは、以下の6つの要件を満たす必要があります。
これらの項目が書かれた請求書を保存すれば、経過措置期間中は控除が段階的に受けられます。
経過措置を受けるためには、帳簿に関する以下の4つの要件を満たさなければなりません。
控除の対象である取引には「80%(50%)控除対象」や「消費税非課税事業者からの仕入」などと書くか、記号・番号を付けて欄外に説明を書きましょう。
免税事業者からの仕入を仕訳する際には、経過措置期間を考慮したり、帳簿記載時に「免税事業者からの仕入」などと記載したりする必要があります。また、仕訳を誤ることで、消費税の過大・過少申告や利益計算の誤りなどにつながるかもしれません。
ここでは、免税事業者から仕入した場合の仕訳例について、パターン別に解説します。
消費税額を本体価格に上乗せして仕訳すると、支払いの際に仕訳が完結します。たとえば、2024年12月1日に価格5万円(消費税10%)の商品を仕入れたと仮定しましょう。この期間は消費税額の80%が控除されるため、消費税5,000円の80%分の4,000円が控除の対象です。
本体価格に上乗せした仕訳は、以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
仕入 |
51,000円 |
現金 |
55,000円 |
仮払消費税など |
4,000円 |
ー |
0円 |
仕入税額控除の分の4,000円は「仮払消費税など」に仕訳して処理します。
この場合は、以下の手順で仕訳します。
先ほどと同じ例で説明すると、支払いの際の仕訳方法は、以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
仕入 |
50,000円 |
現金 |
55,000円 |
仮払消費税など |
5,000円 |
ー |
0円 |
決算の際の仕訳方法は、以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
雑損失 |
1,000円 |
仮払消費税など |
1,000円 |
このような場合、決算の際には、先ほど仮定した期間中には控除されない消費税の20%分(ここでは1,000円)を雑損失に仕訳して処理します。
本記事では、インボイス制度での経理処理の方法について、 対応のポイントや経過措置にも触れて解説しました。
インボイス制度が開始されて、適格請求書の項目の追加や保存方法の変更など、経理処理にも大きな影響を与えました。また、免税事業者との取引には一定期間の経過措置が設けられており、期間中は仕入にかかる消費税額が控除されます。
ミスなく効率的に経理処理するためにも、適格請求書に対応した会計ソフトや自動仕訳機能などのシステムの活用を検討しましょう。