更新日:2025.01.30
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電子帳簿保存法に基づく「電子取引」の保存義務は、企業や個人事業主がデジタル時代に対応した税務管理を行う上で避けて通れない重要なポイントとなっています。しかし、その要件や具体的な保存方法については複雑でわかりにくい部分も多いのが現状です。
本記事では、電子取引に関する基本的な定義から、電子帳簿保存法で求められる保存要件の詳細、そして実務における具体的な対応方法に至るまで、徹底的に解説します。
この記事を読むことで、タイムスタンプや検索機能の重要性、クラウドサービスや専用ソフトウェアなどを活用した効率的な運用方法、さらに税務調査における注意点なども理解できるようになります。これまでの疑問をすっきり解消し、自信を持って対応できる知識を身につけましょう。
電子取引とは、インターネットやデータ交換を介して行われる取引を指します。具体的には、電子メールを使った請求書や領収書のやりとり、ECサイトを通じた商品の購入、銀行のオンライン取引などが該当します。
これらの取引は、紙媒体でのやりとりがなくデジタルデータのみで行われるため、従来とは異なる保存方法や規制への対応が求められます。特に日本では「電子帳簿保存法」の施行により、適切なルールに従った保存が必要です。
電子取引が普及する中、信頼性や透明性の確保を目的に、行政や税務当局は取引データの保存義務を規定する法律を整備しています。日本でも「電子帳簿保存法」がこの目的を果たしています。
この法律は、税務申告や調査において必要な書類を適切に管理することを義務づけています。また、電子取引でやりとりされたデータは紙と同様に法的証拠能力を持つ資料とみなされるため、ルールに従わない場合はペナルティが科される可能性があります。
企業は、このような規制に適切に対応することで、コンプライアンスを遵守し、税務調査のリスクを軽減できます。
電子帳簿保存法に基づき、電子取引で発生するデータで保存の対象となる書類には以下のようなものが含まれます。
対象データ |
具体例 |
請求書・領収書 |
電子メールで送信されたPDF形式の領収書や請求書 |
契約書 |
電子サインを用いたオンライン上での契約書 |
注文書 |
ECサイトの注文履歴データ |
取引履歴 |
オンラインバンキングの取引明細 |
なお、これらのデータは「業務に関するもの」であることが前提条件となります。
関連記事:【2024年最新】電子帳簿保存法の対象書類を一覧で紹介!保存要件もわかりやすく解説
電子取引で扱うデータの保存においては、紙での保存と大きく異なる点がいくつかあります。
まず、電子データはその形式や保存技術によっては簡単に修正や改ざんが可能であるため、保存時には「真実性」と「可視性」を確保する必要があります。具体的には、タイムスタンプの付与や訂正削除履歴の保存が求められることがあります。
また、紙の場合は物理的な倉庫に保管することで保存が完了しますが、電子データの場合は適切なファイル形式、保存期間、検索性などを満たさなければなりません。これに対応できていない場合、税務調査で指摘を受ける可能性があります。
さらに、電子取引による保存義務は企業全体の情報管理体制にかかわるため、経理部門だけでなくIT部門や経営層も巻き込んだ総合的な対応が重要です。
企業が予期せぬトラブルやペナルティを回避するためには、上記すべてのポイントを押さえ、正確に運用することが必要不可欠です。また、最新の法改正に対応した実務ガイドラインや公認会計士、税理士の意見を取り入れることも推奨されます。
電子帳簿保存法において、電子取引によって受領または発信された電子データは、一定の保存要件を満たした形で管理する必要があります。この章では、保存要件に求められる具体的な条件と、それに対応するための実務上のポイントを詳しく解説します。
電子データの保存には、いくつかの具体的な条件が設けられています。これらの条件を理解し、それに対応する方法を実践することが重要です。以下に主な要件を説明します。
電子データの保存では、改ざんや消去されるリスクを防ぐために、その真実性を確保することが求められます。この真実性の確保については、以下の方法が推奨されています。
タイムスタンプは、電子データがいつ作成または受領されたかを証明する技術です。これを付与することで、データが改ざんされていないことを第三者が確認できます。タイムスタンプを適切に利用することで、法律上の要件を満たすことが可能です。
関連記事:電子帳簿保存法におけるタイムスタンプとは?不要なケースや利用手順も解説 | 請求ABC
電子データに誤りがあった場合には、その訂正や削除が行われることがあります。しかし、これらの操作が記録され、追跡可能である必要があります。システム上に訂正削除履歴を残す仕組みを導入することが重要です。
保存システムの概要についてまとめた「システム概要書」の作成も求められています。これにより、保存方法や管理フローを整理するとともに、税務調査の際に簡単に提示することができます。
保存された電子データは、必要な際にすぐに確認でき、かつ関連するデータと簡単に紐づけできる状態であることが求められます。以下のポイントを抑えることが有効です。
保存データへのアクセスを迅速かつ簡単にするために、検索機能の搭載は必須です。例えば、日付、金額、取引先名などのキーワードで迅速にデータを抽出できるシステムを構築しましょう。
関連記事:https://media.invoice.ne.jp/column/electric-book-storage-act/search-requirements
電子取引に関連する複数のデータや書類を紐付けることは、データの全体像を把握するうえで非常に重要です。これは主にシステム設計や運用管理に依存しますが、紙媒体の補助書類なども併せて紐づけながら管理する方策を取るべきです。
要件名 |
具体的な対応方法 |
タイムスタンプの活用 |
電子データ受領後、一定期間内に適切なタイムスタンプを付与する |
訂正削除履歴の管理 |
訂正や削除の記録をシステム上に保持し、追跡可能性を担保 |
可視性の確保 |
データを迅速に検索可能とする機能を実装 |
書類の紐づけ |
関連する電子書類を関連付けて保存管理 |
クラウドサービスを活用することは、電子取引の保存方法として推奨される選択肢の一つです。クラウドサービスを利用することで、データのセキュリティやバックアップが自動化され、企業が独自で管理する手間が軽減されます。特に「マネーフォワードクラウド会計」や「freee」などの国内で広く利用されているクラウドソリューションは、電子帳簿保存法に対応したサービスを提供しています。
これらのサービスは、タイムスタンプ処理や検索性の確保といった電子帳簿保存法上の要件を満たす機能を備えており、インターフェースも分かりやすいため、初めて電子取引を導入する事業者にも適しています。また、モバイルアプリを提供しているため、外出先や在宅勤務時でも即座に記録を確認・管理することが可能です。
クラウドサービス以外に、専用ソフトウェアを使った保存方法も高い安全性と利便性を提供します。電子帳簿保存法に対応したソフトウェアとしては、国内で実績のある「PCA会計DX」や「弥生会計」などが挙げられます。
こうした専用ソフトウェアは、企業のセキュリティポリシーに応じてシステムをカスタマイズすることが可能な点が特徴です。例えば、自社サーバー内で管理することで全データをオフライン環境で運用することが可能となり、情報漏洩のリスクを軽減します。一方で、専用ソフトウェアの導入には初期費用が発生する場合が多いため、導入コスト面も検討する必要があります。
企業規模が大きく、自社ITチームを有している場合、自社システムを構築して電子取引データを保存・管理する選択肢もあります。この方法は、業界や企業固有のニーズに対して柔軟に対応できるという利点があります。
たとえば、ERP(Enterprise Resource Planning)システムとして国内で広く採用されている「SAP」や「Oracle」などを活用することで、電子取引データの保存から取引処理までを一元管理することが可能です。ただし、システムの開発や運用には専門知識を持った人材が必要であるため、一定の運用コストや時間がかかる点に注意が必要です。
小規模事業者の場合、電子取引に対応した保存方法に十分な予算やリソースを割けない場合があります。そのため、簡易的かつコスト効率の良い方法を検討することが重要です。
まずは、無料または低価格で利用可能なクラウドサービスを活用することを推奨します。たとえば、「Google ドライブ」や「Dropbox」などを利用し、電子取引データを安全に保管できます。ただし、これらは電子帳簿保存法に完全には対応していないため、帳簿保存の要件を満たす場合には追加の措置が必要となるかもしれません。
さらに、税務署や商工会議所が提供している情報やセミナーを活用し、最新の法令や実務に関する情報を収集することも重要です。特に商工会議所は、小規模事業者向けの相談窓口を設置しており、詳細な助言を受けられる場合があります。
電子取引に対応するためには、経理部門での運用フローを構築することが重要です。このフローには、以下の手順が含まれるべきです。
手順 |
具体例とポイント |
システムの選定 |
クラウドサービスや専用ソフトウェア、自社システムの中から適切なプラットフォームを選定します。 |
保存ルールの設定 |
タイムスタンプや検索性確保の要件を満たす保存ルールを明文化します。 |
社員教育 |
すべての関係者(特に経理担当者)に法令や運用についてのトレーニングを実施します。 |
定期的な監査 |
保存ルールが順守されているか、内部監査または外部監査を定期的に行います。 |
特に、社員教育に関しては、法改正や新しいシステムの導入時には都度トレーニングを実施することが望ましいです。また、チェックリスト形式で日々の業務をスムーズに進めるためのサポートを提供することも効果的です。
電子帳簿保存法の対応開始期限は企業や事業主の理解を深めるために設けられた猶予期間の有無がポイントになります。2020年(令和2年)の法改正により、電子取引に関する電子データの保存義務が強化され、2022年1月1日から施行されました。ただし、2022年12月31日までは実務上の経過措置として紙保存が認められていました。
2023年以降は、電子取引において作成または受領した電子データは、原則として電子的に保存しなければなりません。
電子帳簿保存法では、紙で受け取った書類や、電子データではない形で保存している帳簿についても一定の条件を満たす必要があります。以下に代表的な保存方法を挙げます。
保存方法 |
主な条件 |
対象となる書類 |
紙保存 |
帳簿や領収書などを原本で保管し、改ざんや破損を防ぐ対策を講じる |
手書きの帳簿、受領書など |
スキャナ保存 |
スキャナで電子データ化し、タイムスタンプや検索機能を備える |
契約書、請求書など |
クラウドサービス |
税法を遵守したサービスを利用し、保管と共有機能を活用 |
すべての電子取引データ |
電子取引で保存要件を満たさない場合、税務調査などで問題になる可能性があります。以下に考えられるリスクを示します。
仮に電子データの保存が不十分であっても、即座に法的措置が取られるわけではなく、指導が入る場合がほとんどです。ただし、自社のコンプライアンス維持の観点から、早期に対応策を講じることが重要です。
電子帳簿保存法や電子取引の保存義務においてよく見られるミスは、以下の通りです。
これらのミスを回避するためには、以下の対策を講じる必要があります。
税務調査では、電子データの保存状況が確認されます。具体的には以下の点が監査されることが多いです。
これらの要求を満たすために、適切な電子保存ツールを導入して運用フローを整備しておくことが推奨されます。
電子帳簿保存法に基づく電子取引データの保存は、税法遵守のための重要な要件です。本記事では、電子データ保存の具体的な条件や、タイムスタンプの活用、検索機能の確保といった実務的なポイントを詳しく解説しました。その結果、真実性と可視性を確保することが法対応の鍵であることがわかります。さらに、クラウドサービスや専用ソフトウェアを活用するなどの具体的な方法を紹介し、小規模事業者でも取り組みやすい対策に言及しました。電子保存が不十分な場合のリスクを認識し、正確な運用を行うことが重要です。これを機に、早めの対策で自社の経理体制を強化しましょう。