更新日:2024.12.27
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電子帳簿保存法の施行により、帳簿や請求書などの紙の書類をスキャンし、電子データとして保存することが可能になりました。ただし、電子化された書類は複製や改ざんが起こりやすいため、タイムスタンプの付与が必要です。
なお、一定の条件を満たす場合はタイムスタンプが不要なケースもあります。本記事では、タイムスタンプを省略できるケースや2022年以降に緩和された条件、そして具体的なタイムスタンプ付与の方法を詳しく解説します。
タイムスタンプの仕組みを正しく理解して、電子帳簿保存法に対応しましょう。
タイムスタンプは、電子データの信頼性を保証するための技術です。電子データは改ざんや複製が容易なため、作成された日時と、作成後に内容が変更されていないことを証明する必要があります。
タイムスタンプの付与により、次のことが証明できます。
電子帳簿保存法では、タイムスタンプを付与することが電子データの保存要件のひとつです。しかし、近年の改正によってタイムスタンプの要件は緩和され、ほかの要件を満たせばタイムスタンプの付与が必須ではないケースもあります。
タイムスタンプと電子署名は、どちらも書類の信頼性を示す技術ですが、その役割には以下のような違いがあります。
タイムスタンプと電子署名は、それぞれ異なる役割を持っています。これらを適切に利用し、電子文書や電子契約書の信頼性を高めましょう。
電子帳簿保存法では、条件を満たせばタイムスタンプが不要になるケースがあります。多くの場合、電子帳簿保存法に対応したシステムを利用すると、タイムスタンプが省略できますが、システムの仕様や運用方法によっては条件を満たせない場合もあるため注意が必要です。
ここでは、タイムスタンプが不要な3つのケースを具体的に解説します。
電子データとして書類を保存する場合、電子帳簿保存法では以下3つの保存区分が設けられています。
このうち、国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存をする場合は、タイムスタンプの付与は原則として不要です。国税関係帳簿書類とは、国税に関する法律で保存が義務付けられた帳簿書類を指します。主に、会計ソフトなどで作成された次のような帳簿書類が該当します。
参照:国税庁「法第4条((国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存等))関係」
受領側が、データの訂正や削除が確認できるシステムを利用してデータを保存する場合、タイムスタンプの付与は免除されます。
そのため、データの変更や編集履歴が記録されるシステムを導入すれば、タイムスタンプの付与がなくてもデータの信頼性を証明できます。
訂正や削除を防止するための事務処理規程を整備している場合、タイムスタンプは必要ありません。事務処理規程とは、電子帳簿保存方法に基づいて企業が電子データを適切に保存、管理するための取り決めです。
この規程は、電子データ保存における「真実性の確保」の要件のひとつです。事務処理規程を整備・運用している事業者は、タイムスタンプを付与しなくても、電子データが信頼性のあるものとして認められます。
事務処理規程を整備すると、例えば取引先から受領したファイル形式が自社の会計システムに対応できない場合でも、規程に基づき適切な対応が可能です。
事務処理規程の作成例は、国税庁のホームページで確認できます。
2022年の電子帳簿保存法改正により、タイムスタンプの要件が緩和されました。ここでは、緩和条件について解説します。
タイムスタンプは定められた期間内に付与する必要があります。改正前は、概ね3営業日以内の付与期間が設けられていましたが、2022年1月以降は「2か月と概ね7営業日以内」に緩和されています。
受領した請求書や領収書をスキャナ保存する際、改正前は受領者による署名(自署)が必要でしたが、改正後の電子帳簿保存法では自署が不要となりました。これにより、スキャナ保存の業務負担が大幅に軽減されています。
改正前は、データの訂正や削除をする場合、操作履歴を記録するためにその都度タイムスタンプを付与する必要がありました。しかし、電子帳簿保存法の改正により、訂正・削除の履歴が確認ができるシステムを利用すれば、原則としてタイムスタンプの付与義務はありません。
続いて、電子帳簿保存法でタイムスタンプが必要なケースを解説します。
スキャナ保存をする場合は、原則としてタイムスタンプの付与が必要です。スキャナ保存とは、紙で受領・作成した書類をスキャナやスマートフォンで読み取り、画像データとして保存する方法です。
スキャナ保存に該当する書類は、以下のように重要書類と一般書類の2つに区分されます。
重要書類 |
一般書類 |
契約書 領収書 請求書 納品書など |
検収書 見積書 注文書 契約の申込書など |
スキャナ保存をする場合は、解像度や色調などについて細かいルールがあります。しかし、適切にスキャナ保存をしたデータにタイムスタンプを付与すると、紙の原本を保存する必要がなくなるため、ペーパーレス化につながります。
電子取引でやり取りした書類にタイムスタンプを付与すると、保存要件である「真実性の確保」を満たせます。電子取引とは、主に以下の取引が該当します。
このような電子取引で発生した書類を保存する場合、電子帳簿保存法では次に示す「真実性の確保」が求められます。
上記4つの条件のうち、いずれかを満たせば電子データが改ざんされていないと証明できます。システムの導入が難しい場合は、タイムスタンプを付与する方法が現実的な対応策といえるでしょう。
タイムスタンプは、指定調査機関から認定を受けた時刻認証局(以下、TSA)のみ発行が認められています。ここでは、タイムスタンプの仕組みと発行の流れを解説します。
タイムスタンプを付与をする際は、まずTSAにタイムスタンプを要求します。その際、ハッシュ値を生成する必要があります。
ハッシュ値とは、原本となるデータからハッシュ関数という特定の計算手順を用いて生成される規則性のない固定長の値です。ハッシュ値は、原本のデータを変更するとその値が変化する特性を持つため、データの複製や改ざんを検出する機能があります。
なお、タイムスタンプを付与する際は、専用システムを利用してTSAに送信する方法が一般的であるため、個別にハッシュ値を計算する必要はありません。
TSAは、利用者からタイムスタンプの要求を受け取ると、タイムスタンプトークンを発行します。タイムスタンプトークンとは、ハッシュ値に時刻情報を偽造できないように統合したファイルであり、利用者とTSAの双方で保管する証明書としての役割があります。
タイムスタンプの検証とは、原本が改ざんされていないことを確認する作業です。原本から算出したハッシュ値とTSAから送付されたタイムスタンプトークンのハッシュ値を比較し、複製や改ざんの有無を検証します。
ハッシュ値が一致していれば、原本の変更がないことを証明できる仕組みです。
タイムスタンプの利用手順を見ていきましょう。
タイムスタンプを利用する際は、事前準備としてタイムスタンプの付与が可能なシステムかどうかを確認しましょう。次に、タイプスタンプを付与する書類を準備します。
特に、紙の書類をスキャナ保存する場合は、誤りがあると再度タイムスタンプの付与が求められるため、慎重に確認しましょう。
書類の保存には、スキャナを用いて書類をスキャンするか、スマートフォンなどで撮影する方法があります。スキャナ保存する際は、以下のように一定の画質を保つ必要があります。
(1)解像度は200dpi相当以上であること
(2)赤色、緑色及び青色の階調が256階調以上(24ビットカラー)であること
ただし(2)に関しては、一般書類であれば白黒階調(グレースケール)での読み取りが可能です。
参照:国税庁「電子帳簿保存方法が改正されました」〜 令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要 〜
スキャンまたは撮影した画像をタイムスタンプシステムにアップロードし、タイムスタンプの付与を依頼します。このシステムは、法的効力を持つ書類作成が可能な電子署名サービスや電子契約サービス、電子帳簿保存法対応の会計ソフトなどです。
アップロードした書類に対して、TSAがタイムスタンプを付与します。TSAから、ハッシュ値に時刻情報を結合したタイムスタンプトークンが返送されます。
電子帳簿保存法でタイムスタンプを付与する際の、4つの注意点を解説します。
タイムスタンプは、発行ごとに一定の費用がかかります。かかる費用は提供業者により異なりますが、1スタンプあたり約10円が目安です。
また、TSAの提供業者を登録する際は、数千円から10,000円程度の初期費用がかかります。さらに電子帳簿保存法対応のシステムを導入する場合は、月額料金などの維持費用が発生します。料金体系に次のような違いがあるため、事前の確認が必要です。
自社の利用状況に合わせて最適な料金プランを検討しましょう。
タイムスタンプの付与期間は、「2か月と概ね7営業日」と期限が設けられているため注意が必要です。電子帳簿保存法の改正により付与期間は延長されていますが、付与を先延ばしにして期限を過ぎてしまうことがないよう、早めに対応しましょう。
無料でタイムスタンプを作成するサービスもありますが、電子帳簿保存法の要件を満たしていない可能性があるため、注意が必要です。日本データ通信協会でも、そのような業者は見分けがつかないことから、注意喚起を促しています。
タイムスタンプ事業者を選ぶ際は、登録マークが付与された認定業者であることをしっかり確認しましょう。
参照:一般財団法人 日本データ通信協会「認定タイムスタンプを利用する事業者に関する登録制度」
スキャナ保存した後の原本の取り扱いは、細心の注意が必要です。
2022年の電子帳簿保存法の改正により、スキャナで保存した後は即座に原本の破棄が可能となりました。しかし、業務フローや社内規定によっては、スキャナ保存後に書類の破棄が認められないケースがあります。そのため、社内規定や方針を明確にし、従業員への周知徹底が求められます。
電子データに正確な時刻を記録するタイムスタンプは、書類が改ざんされていないことを証明できる重要なステップです。タイムスタンプを付与すると、電子帳簿保存法にある真実性の確保の要件を満たせます。
タイムスタンプの導入時は少し手間がかかりますが、システムが定着すれば業務負担が大幅に軽減できる可能性があります。ペーパーレス化を目指して、電子帳簿保存法に対応しましょう。