更新日:2024.06.03
ー 目次 ー
インボイス制度の開始前から、免税事業者に対する課税転換要求や価格交渉における下請法違反のリスクは示されていました。
自社の要求が下請法違反になっていないか、親事業者からの要求に悩む人もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、インボイス制度下における下請法違反の事例と処罰、違反したときの影響を詳しく解説しますので、ぜひ参考にしていただき、下請法・独占禁止法に違反することなく正当な手順で免税事業者と交渉しましょう。
▼この記事で解説する内容
|
インボイス制度下における下請法違反は、主に次の3つの項目に抵触したときを指します。
下請け代金の減額の禁止(下請法 4条1項3号)買いたたきの禁止(下請法 4条1項5号)金銭以外の対価を要求した場合 |
具体的な事例で解説します。
免税事業者からの請求に対して、請求書に記載されている消費税を支払わない事例です。
引用元:公正取引委員会「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方」
上図では、下請事業者Aから企業Bに11万円(税込、消費税10%)の請求書を送付しています。しかし、親事業者は下請事業者Aが免税事業者であることを理由に、消費税相当額の支払いを拒否しました。
つまり、消費税額分の10,000円を一方的に減額したということです。
このように、消費税額分の全部または一部を一方的に減額することは下請法の「下請け代金の減額の禁止(4条1項3号)」に違反します。
▼下請代金支払遅延等防止法(下請法)4条1項3号 |
引用元:公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法」
免税事業者に課税転換を求めた親事業者が、課税転換後の価格交渉を拒否して従来の額面を据え置いたまま取引の継続を強制させるケースです。
引用元:公正取引委員会「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方」
免税事業者からすれば、消費税を納める分だけ手取り額(※)が減ります。
請求額が11万円(税込)だった場合、課税転換前なら手取り額も11万円ですが、課税転換後は消費税率が10%であれば10,000円を納める必要があるため、手取り額が10万円になってしまうのです。
手取り額が減るので、課税転換後の価格交渉をしたいと申し出るでしょう。
しかし、親事業者が交渉に応じず、従来の額面11万円のままで取引の継続を強制した場合、下請法の「買いたたきの禁止(4条1項5号)」に違反します。
(※)社会保険料等を差し引く前の金額
▼下請代金支払遅延等防止法(下請法)4条1項5号 |
引用元:公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法」
取引相手が免税事業者であることを理由に、消費税額相当分の対価として商品や労働を要求すると下請法違反になる可能性があります。
たとえば、免税事業者Aに対して親事業者Bが、親事業者Bの商品のセールスイベントのために免税事業者Aの従業員を手伝いとして派遣させるケースです。
このセールスイベントに従業員を派遣することが、免税事業者Aの直接的な利益となることが明確でない限り「不当な経済上の利用の提供要請の禁止(4条2項3号)」に違反します。
また、消費税相当額の対価として、下請け側にイベントチケットの購入や協賛金を強要する、親事業者の商品保管を無償でおこなわせるなどの行為も下請法違反です。
▼下請代金支払遅延等防止法(下請法)4条2項3号 |
引用元:公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法」
下請法では親会社の義務と禁止行為が規定されており、義務に違反した場合は50万円以下の罰金、禁止行為に違反した場合は勧告を請けます。
インボイス制度下における下請法違反として紹介した「下請け代金の減額の禁止(4条1項3号)」「買いたたきの禁止(4条1項5号)」「不当な経済上の利用の提供要請の禁止(4条2項3号)」は禁止行為にあたります。
中小企業庁や公正取引委員会の調査・検査によって違反が確定すると、違反行為をやめて原状回復させるよう勧告されます。
また、調査・検査において報告しない、虚偽の報告をした場合は50万円以下の罰金が課せられます。
違反事項 |
処分 |
義務違反 |
50万円以下の罰金 |
禁止行為違反 |
勧告・情報公開 |
調査・検査への協力拒否・虚偽報告 |
50万円以下の罰金 |
免税事業者に対して課税転換を求めること自体は独占禁止法違反ではありませんが、実質的に強要する条件をつけて一方的に通告すると違反になるケースがあります。
引用元:公正取引委員会「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方」
課税転換を拒否した免税事業者に対して、消費税額相当分と相殺させるために取引価格を10%引き下げるよう要求するケースです。
従わなければ今後の取引はしないと持ちかけると独占禁止法違反となります。
また、課税転換に応じたにもかかわらず、価格交渉を拒否して従来の金額で取引を強要するのも独占禁止法違反です。価格交渉に応じ、明示的な協議をおこなう必要があります。
最後に、インボイス制度下における下請法違反・独占禁止法違反に関する質問3つに回答します。
▼ポイント 「合意」に至る過程が重要下請法違反で生じる信用の低下・損失「損」の本質を見極めることが重要 |
仕入れ先との合意があれば違反にならないかどうかの判断は、その「合意」に至るまでの過程、強要の有無が重視されます。
合意内容 |
過程 |
違反の有無 |
課税転換 |
免税事業者に課税転換してくれないかと連絡し、価格交渉に応じた |
問題ない |
課税転換 |
課税転換しない限り取引の継続を中断する旨を通達、価格は据え置きとした |
下請法違反 |
取引価格の引き下げ |
見積段階で消費税相当額分の値引きが可能かどうかを確認、合意を得た |
問題ない |
取引価格の引き下げ |
商品を納品させた後で、消費税相当額の値引きをおこなうよう強要した |
下請法違反 |
スタッフ派遣 |
仕入れ先にも利益があるイベントにスタッフを派遣するよう頼んだ |
問題ない |
スタッフ派遣 |
スタッフを派遣しないなら取引をやめると匂わせて派遣させた |
下請法違反 |
ただし、強要したかどうかは、強要する言葉を使ったかどうかではありません。実質的に強要であると判断される場合には下請法違反になる可能性があります。
たとえば、自社のイベントチケットを外注先に販売すること自体は問題ありませんが、販売担当者が外注先を決定する立場にあった場合、実質の強制といえます。
合意に至るまでの過程において、双方が納得してものであると明確に判断できることが条件といえます。
下請法に違反し勧告となった場合、公正取引委員会が次の情報を公開するため社会的信用は下がります。
報道資料は本店所在地や代表者名などを含む、より詳細な情報を掲載したものです。
公正取引委員会の公式ホームページにある「下請法勧告一覧」に掲載され、平成23年度分まで遡って確認できるため、長期的に影響を及ぼすでしょう。
免税事業者と交渉し、取引価格の引き下げで合意がとれるなら損をせずに済みます。
しかし、強要すると下請法や独占禁止法に違反するため注意が必要です。また、課税転換を強要するのも同様といえます。
断られたときに大切な視点は、何をもって損とするかです。
親事業者側にも取引相手を選ぶ権利があるため、免税事業者であることを理由に取引を継続しないという選択肢はあります。
一方で、当該免税事業者でなければできない業務、あるいは当該免税事業者だからこそ実現できる品質がある場合、取引をやめることで生じる損もあるでしょう。
この場合は、自社製品・サービスの価格を上げることで損失分を補填するなど、対策を考える必要があります。
下請法に違反し勧告となると、社会的信用が失墜します。
取引先が避けるようになったり、消費者が商品購入をやめたりするので、大きな損失です。外注先に対して下請法違反をしてまでも取り返す消費税分の利益より、はるかに大きな損失を抱えることになるでしょう。
問題が明るみに出ない場合でも、外注先がほかの取引先を見つければ、自社とは取引してくれなくなる恐れがあります。
また、業界内で噂が広まり、次の外注先を見つけるのが難しくなることも十分考えられるリスクです。
自社の要求が下請法・独占禁止法に違反するか不安なときは、外注先に連絡する前に専門家に相談しましょう。
弁護士への相談はもちろん、公正取引委員会の一般相談窓口もあります。