更新日:2026.08.31

ー 目次 ー
インボイス制度を機に適格請求書発行事業者として登録すると、これまで免税事業者だった人にも消費税の申告・納付義務が生じます。所得税の確定申告とは様式も期限も別なので、はじめての年は戸惑いやすいところです。
本記事では、一般課税・簡易課税・2割特例という3つの計算方法をシミュレーションで比較したうえで、計算方法ごとに使う申告書と付表、提出までの手順を整理します。2026年10月からの制度変更にも対応しています。
適格請求書発行事業者として登録すると課税事業者になるため、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても消費税の申告・納付が必要です。
| 状況 | 消費税の申告 |
|---|---|
| 適格請求書発行事業者として登録している | 必要(課税売上高の大小にかかわらず) |
| 基準期間の課税売上高が1,000万円を超える | 必要 |
| 登録しておらず、基準期間・特定期間の課税売上高も基準以下 | 不要(免税事業者) |
消費税の確定申告は、所得税の確定申告とは別の手続きです。混同しやすい点を整理しておきます。
| 項目 | 所得税の確定申告 | 消費税の確定申告 |
|---|---|---|
| 対象 | 所得(もうけ) | 預かった消費税と支払った消費税の差額 |
| 個人事業者の期限 | 翌年3月15日 | 翌年3月31日 |
| 法人の期限 | 事業年度終了の翌日から2か月以内 | 課税期間終了の翌日から2か月以内 |
| 使う様式 | 所得税及び復興特別所得税の確定申告書 | 消費税及び地方消費税の申告書(一般用または簡易課税用) |
| 赤字の場合 | 所得がなければ納税なし | 赤字でも預かった消費税があれば納税が生じる |
提出先はどちらも納税地の所轄税務署ですが、書類は別々に作成して提出します。
令和8年度税制改正により、これまで多くの小規模事業者が使ってきた2割特例が終了します。申告のたびに計算方法を選び直せるわけではないため、いま把握しておく必要があります。
2割特例が使えるのは、令和8年9月30日を含む課税期間までです。個人事業者は令和8年分(令和9年3月申告分)が最後になります。法人は決算月によって最終期が変わります。
2割特例の終了後に選べる方法は、立場によって異なります。
| 立場 | 令和9年以降に選べる計算方法 |
|---|---|
| 個人事業者 | 3割特例(令和9年分・令和10年分)/簡易課税/一般課税 |
| 法人 | 簡易課税/一般課税 |
3割特例は、納付税額を売上税額の3割とする制度です。個人事業者であるインボイス発行事業者で、基準期間および特定期間の課税売上高が1,000万円以下であることが要件になります。法人には適用されません。
一般課税で申告する場合、インボイスを発行できない相手からの課税仕入れについては、経過措置により一定割合を控除できます。この割合が2026年10月から段階的に下がります。
| 期間 | 控除割合 |
|---|---|
| 令和8年9月30日まで | 80% |
| 令和8年10月1日〜令和10年9月30日 | 70% |
| 令和10年10月1日〜令和12年9月30日 | 50% |
| 令和12年10月1日〜令和13年9月30日 | 30% |
| 令和13年10月1日以後 | 控除不可 |
当初は令和8年10月に80%から50%へ引き下げられる予定でしたが、改正により70%の段階が設けられ、終了時期も令和13年9月30日まで延長されました。会計ソフトの税区分に70%の設定があるか、あらかじめ確認しておいてください。
なお、簡易課税や2割特例・3割特例で申告する場合は、この経過措置の影響を受けません。
消費税の納付額を計算する方法は3つあります。どれを選ぶかで納税額も、作成する書類も変わります。
売上と仕入れにかかった消費税額をそれぞれ集計し、その差額を納付する方法です。
納付する消費税額(国税)=課税標準額×7.8%(軽減税率は6.24%)-控除対象仕入税額など
これに加えて地方消費税を計算します。地方消費税額は、上記で求めた消費税額(国税)に22/78を乗じて算出します。最終的な納付額は、消費税額と地方消費税額の合計です。
標準税率と軽減税率がある場合は、税率ごとに区分して計算します。
売上にかかる消費税額に、業種ごとに定められたみなし仕入率を乗じた金額を仕入控除税額とみなす方法です。実際の課税仕入れを集計する必要がありません。
納付税額=売上税額-(売上税額×みなし仕入率)
基準期間(個人事業者は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下で、事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している場合に選べます。法人だけでなく個人事業者も対象です。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 主な業種 |
|---|---|---|
| 第1種事業 | 90% | 卸売業 |
| 第2種事業 | 80% | 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る) |
| 第3種事業 | 70% | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業 |
| 第4種事業 | 60% | 第1種・第2種・第3種・第5種・第6種以外の事業(飲食店業など) |
| 第5種事業 | 50% | 運輸通信業、金融業・保険業、サービス業(飲食店業を除く) |
| 第6種事業 | 40% | 不動産業 |
2割特例は、インボイス制度をきっかけに免税事業者から課税事業者になった事業者を対象に、納付税額を売上税額の2割に抑える制度です。売上税額の8割が控除される形になります。
納付税額の目安=税込の課税売上高×10/110×20%
(軽減税率の対象売上がある場合は8/108で計算する部分があります)
実際の申告では国税分(7.8%・6.24%)と地方消費税を分けて計算するため、上記はあくまで概算です。
事前の届出は不要で、確定申告のときに適用するかどうかを決められます。3割特例も同様に事前届出は不要ですが、対象は個人事業者に限られます。
税込の課税売上高880万円、課税仕入れ330万円(いずれも標準税率10%)、第5種事業(みなし仕入率50%)の場合で比べると次のようになります。
売上税額=880万円×10/110=80万円
| 計算方法 | 計算 | 納付税額の目安 |
|---|---|---|
| 一般課税 | 80万円-(330万円×10/110=30万円) | 50万円 |
| 簡易課税(第5種) | 80万円-(80万円×50%) | 40万円 |
| 2割特例 | 80万円×20% | 16万円 |
| 3割特例(個人事業者・令和9年分以降) | 80万円×30% | 24万円 |
このケースでは2割特例が最も納税額を抑えられます。ただし課税仕入れの割合が大きい事業では一般課税が有利になるため、自社の数字で必ず比較してください。
選んだ計算方法によって、使う申告書の様式と添付する付表が変わります。
| 計算方法 | 申告書 | 添付する付表 |
|---|---|---|
| 一般課税 | 消費税及び地方消費税の申告書(一般用) | 付表1-3、付表2-3 |
| 簡易課税 | 消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用) | 付表4-3、付表5-3 |
| 2割特例 | 一般用・簡易課税用のどちらの様式でも可 | 付表6 |
付表6には簡易版があり、貸倒れが生じない場合などに利用できます。手計算で作成する場合は簡易版のほうが負担が軽くなります。
様式は毎年改訂されるため、提出する年度の最新版を国税庁のサイトで確認してください。
| 入手先 | 特徴 |
|---|---|
| 確定申告書等作成コーナー | 画面の案内に沿って金額を入力すると、申告書と付表が自動で作成される。e-Taxでそのまま送信できる |
| 国税庁ウェブサイト | 様式をPDFでダウンロードして印刷する。手引きも同じページに掲載されている |
| 税務署の窓口 | 用紙を直接受け取る。書き方の相談もできる |
はじめて消費税の申告をする場合は、計算を自動で行ってくれる確定申告書等作成コーナーが確実です。
2割特例を適用する場合、申告書第一表の「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」欄に○をつけます。この記載を忘れると2割特例が適用されません。
事前の届出が不要な代わりに、申告書での意思表示が必要になる点に注意してください。
まず、課税期間中の課税売上高を標準税率と軽減税率に分けて集計します。一般課税で申告する場合は、課税仕入れも同様に集計し、インボイスの保存があるもの、経過措置の対象となるもの(免税事業者などからの仕入れ)を区分しておきます。
簡易課税や2割特例で申告する場合、課税仕入れの集計は不要です。複数の事業を営んでいて簡易課税を選ぶ場合は、事業区分ごとに課税売上高を分けておく必要があります。
前掲の対応表に従って様式を用意し、付表から先に作成します。付表で計算した金額を申告書第一表・第二表に転記する流れです。確定申告書等作成コーナーを使う場合は、この転記も自動で行われます。
提出方法と期限は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申告期限(個人事業者) | 課税期間の翌年3月31日(所得税の3月15日とは異なる) |
| 申告期限(法人) | 課税期間終了の日の翌日から2か月以内 |
| 提出方法 | e-Tax、税務署窓口、郵送、時間外収受箱への投函 |
| 納付方法 | 電子納税(e-Tax)、振替納税、クレジットカード納付、コンビニ納付、スマホアプリ納付、金融機関や税務署の窓口納付 |
| 納付期限 | 申告期限と同じ日 |
振替納税を利用する場合は、事前に振替依頼書を税務署または金融機関に提出しておく必要があります。引落日は申告期限より後で、例年4月下旬に設定されますが、年によって前後します。実際の日付は国税庁の案内で確認してください。
一般課税で申告する場合、税込1万円未満の課税仕入れについてはインボイスの保存がなくても、帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる特例があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる取引 | 税込1万円未満の課税仕入れ。相手がインボイス発行事業者かどうかは問わない |
| 対象となる事業者 | 基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者 |
| 基準期間 | 個人事業者はその年の前々年、法人はその事業年度の前々事業年度 |
| 特定期間 | 個人事業者は前年1月1日から6月30日まで、法人は前事業年度開始の日以後6か月間 |
| 適用期間 | 令和5年10月1日から令和11年9月30日まで |
基準期間と特定期間はいずれか一方の要件を満たせば適用できます。適用期間が令和11年9月30日で終わる点に注意してください。
提出先は同じ税務署なので、まとめて提出することは可能です。ただし書類は別々に作成する必要があり、期限も所得税が3月15日、消費税が3月31日と異なります。所得税に合わせて3月15日までに両方を済ませてしまうのが確実です。
必要ありません。確定申告書の第一表にある「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」欄に○をつけることで適用されます。届出が不要な分、記載漏れが起きやすいので提出前に確認してください。
必要です。消費税は所得(もうけ)にかかる税金ではなく、預かった消費税と支払った消費税の差額を納める仕組みです。事業が赤字でも、課税売上に係る消費税額が課税仕入れに係る消費税額を上回っていれば納税が生じます。
なお、一般課税では課税仕入れが課税売上を上回った場合に還付を受けられますが、簡易課税や2割特例では還付は生じません。
期限後申告となり、無申告加算税や延滞税が課される場合があります。また、2割特例は確定申告書への記載が適用の要件になっているため、申告を怠ると本来使えたはずの特例が使えなくなることもあります。期限に間に合わない場合でも、できるだけ早く申告してください。
インボイス制度を機に登録した事業者は、これまで免税事業者であっても消費税の申告・納付が必要です。所得税の確定申告とは様式も期限も別なので、はじめての年は早めに準備を始めてください。
計算方法は一般課税・簡易課税・2割特例(個人事業者は今後3割特例)の3つです。どれを選ぶかで納税額も作成する書類も変わるため、自社の数字でシミュレーションしてから決めましょう。
2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終了します。免税事業者からの仕入れに係る控除割合も2026年10月から70%に下がるため、次の申告に向けて計算方法の見直しと会計ソフトの設定確認を進めておくことをおすすめします。