更新日:2024.07.04
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返還インボイスは、値引きや返品が発生した場合に売り手に交付が義務付けられている書類です。返還インボイスには記載すべき項目や保存期間などが定められており、適格請求書発行事業者は適切に発行、保存する必要があります。ただし、一部交付自体が免除されるケースや発行が不要になるケースなどもあります。返還インボイスの対象となる取引かを判断し、正しく処理を行うことが重要です。
本記事では、返還インボイスを発行、保存する上で知っておきたいポイントや交付が免除されるケース、支払通知書が返還インボイスの代わりとなるのかなどについて解説します。
返還インボイスとは適格返還請求書とも呼ばれ、値引きや返品が原因で発生する売上の返還金額を記載した書類です。売り手が買い手に対して交付するものであり、適格請求書(インボイス)と同じく、交付と保存が義務付けられています。
返還インボイスは、売り手が買い手に向けて返品や値引きなどを理由に売上の返還を行うタイミングで交付します。例えば、下記のようなケースでは返還インボイスの発行が必要です。
返還インボイスは、値引きなどの対応をするときだけではなく、販売奨励金の支払いにおいても発行する義務があります。販売奨励金とは、自社の商品を多く販売してもらうために販売業者に支払うインセンティブのことです。販売奨励金を設けている場合は必ず対応するようにしましょう。
返還インボイスは、発行する売り手側と受け取る買い手側の両者が保存しなければなりません。返還インボイスの保存期間は事業形態によって異なりますが、課税期間の末日の翌日から2カ月を経過した日から7年間です。欠損金が生じた年は10年間保存する必要があります。
保存する際は、紙媒体だけでなくメールやインターネット上の電子データでの保存も認められています。ただし、2022年に施行された改正電子帳簿保存法により、電子取引データは紙ではなくデータで保存することが義務付けられました。2023年12月31日までは猶予期間として、紙に印刷して保存することも可能でしたが、2024年からは紙での保存は認められません(※)。例えば、これまではメールで受け取った返還インボイスを紙で印刷して保存することもできましたが、今後は電子データとして保存する必要があります。
電子取引データのデータ保存については、こちらの記事で詳しく解説しています。
電子帳簿保存法で紙保存は可能?ケース別に解説
※参考:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました〜 令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要 〜」
返還インボイスは売り手側に交付の義務がありますが、買い手側が作成した支払通知書を返還インボイスとして代用することも可能です。支払通知書とは、買い手側が売り手側に支払金額や支払日など支払いする内容について通知する書類です。支払通知書には発行義務はありませんが、発行することで双方の支払内容に関する認識を合わせて、請求業務を円滑に進めることができます。支払通知書に記載されている内容が後述する返還インボイスの要件を満たしていれば、支払通知書を返還インボイスとして扱うことが可能です。その場合、売り手側は返還インボイスを発行する必要はありません。
なお、支払通知書と類似した書類に支払明細書があります。両者の違いとしては、一般的に支払通知書は企業間取引で発行される書類、支払明細書は企業間だけでなく企業から個人など幅広く発行される書類とされています。ただし、支払通知書と支払明細書を区別する明確な決まりはありません。支払明細書であっても返還インボイスの要件を満たしていれば返還インボイスとして扱うことができます。
返還インボイスを作成するときに記載が必要な項目は、下記の6つです(※)。
※参考:国税庁「適格請求書等保存方式の概要 インボイス制度の理解のために」P11
売上と値引きが発生した場合、適格請求書発行事業者はインボイスと返還インボイスの両方の交付が必要です。しかし、どちらも取引先が同じ場合には、インボイスと返還インボイスをまとめて一枚の書類として交付できます。そのためには、返還インボイスとインボイスの要件を満たすために必要な項目がそれぞれ記載されていなければなりません。なお、取引が継続しているケースにおいては下記内容を税率別に記載することもできます(※)。
通常は売上と返還の消費税額を各々記載する必要がありますが、上記の要件を満たしている場合には、相殺した金額の消費税額を記載することが可能です。
※参考:国税庁「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き」
適格請求書発行事業者には返還インボイスを交付する義務があります。しかし、一部取引では交付が免除されます。どういったケースで免除されるのかを把握しておきましょう。
インボイス自体の交付が免除される事例については、返還インボイスも交付する必要はありません。インボイスが免除される取引は、下記のとおりです(※)。
3万円に満たない公共交通機関の運賃や、自動販売機を介した販売行為が対象とならない理由は、発行が現実的ではないためです。上記の項目に該当する場合、返還インボイスの交付は求められません。
※参考:国税庁「2 交付義務の免除 適格請求書の交付義務が免除される取引」
返還金が税込1万円未満の場合は、インボイスの発行が必要な取引においても、返還インボイスを交付する義務はありません。例えば、負担した振込手数料を売上値引きとして処理している場合などが該当します。
返還インボイスの発行は売り手側の義務です。しかし、返還インボイス並びにインボイスを発行するには条件があり、全ての事業者が発行できるわけではありません。また買い手側も、仕入税額控除のために返還インボイスの保存が求められます。それぞれ詳しく解説します。
売り手側は買い手側の求めに応じて、返還インボイスを交付する義務があります。なお交付義務があるのは、売り手と買い手の双方が課税事業者であり、かつ売り手が適格請求書発行事業者である場合です。買い手側が免税事業者である場合には交付は義務付けられていません。また、返還インボイスやインボイスは適格請求書発行事業者の登録をしていないと発行できないため、双方が課税事業者であっても売り手側が適格請求書発行事業者でなければ発行することはできません。
適格請求書発行事業者である売り手には返還インボイスの交付義務がありますが、先述のとおり、買い手側が返還インボイスとしての要件を満たしている支払通知書を作成している場合、売り手側は返還インボイスを交付する必要はありません。
インボイス制度においては、仕入税額控除を適用させるためにインボイスや返還インボイスの保存が義務付けられています。返還インボイスの保存は、買い手側が仕入税額控除を適用するための要件です。返還インボイスがなければ、売り手に対して商品の返品行為をした際に、買い手側は返品した商品やサービスの金額を課税仕入額から除外できなくなってしまいます。その場合、課税仕入額を正確に集計できなくなり、適正な納付税額が算出されません。
返還インボイスを適正に発行・保存するためには、記載が必要な項目や保存の方法・形式など、正しい情報を知っておく必要があります。返還インボイスは、取引内容により交付が免除されるケースや、買い手側が支払通知書を作成している場合に売り手側での発行が不要になるケースもあります。返還インボイスの交付が必要となるケースが発生した際にスムーズに処理ができるよう、取引内容を確認し、社内フローを整備しておくようにしましょう。