更新日:2024.09.30
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インボイス制度で必須で対応すべきことに、適格返還請求書の発行があります。2023年10月から始まるインボイス制度にミスなく対応するために、適格返還請求書はどのように対応すればいいのか、お悩みの方も多いのではないでしょうか。
適格返還請求書を発行する際に、事務負担を軽減するための経過措置や少額特例制度が設けられていますが、自社が活用できるのかどうかも知っておきたいポイントです。
本記事では適格返還請求書の概要や記載時のポイント、適格返還請求書を発行する際に気をつけるべき点などについて解説します。また、振込手数料など返還額が少ない場合の対応方法も解説しています。
インボイス制度の対策に取り組む企業の経理担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
適格返還請求書とは、取引先に代金を返す際などに発行する書類のことです。具体的には、返品された商品の代金や割引・値引きを実施した金額、その他インセンティブなどが該当します。適格返還請求書は別の呼び方もあり「返還インボイス」も同様の意味です。
返品や値引きなどが発生した場合は、適格請求書発行事業者であれば発行・保存することが義務付けられていますが、課税事業者との取引の場合のみ必要になります。取引先が免税事業者の場合は、発行・保存の義務はありません。
適格返還請求書を発行する意義は、返品や値引きをした分の消費税額を明確にし、仕入税額控除の計算を正確にするためです。納付税額が正当な金額になるよう、適格請求書と同じように発行・保存が義務化されています。
適格返還請求書を発行するためには、適格請求書発行事業者にならなければいけません。書類またはe-Taxで登録申請書の必要事項を記載し、税務署に提出して申請ができます。
適格請求書発行事業者になるための登録申請には、特に期限が設けられていません。しかし、2023年10月から開始されるインボイス制度に対応する場合は、2023年9月30日までに登録申請を進める必要があります。
登録手続きには時間がかかるため、インボイス制度に対応する必要がある場合は、早めに手続きを済ませておきましょう。
インボイス制度では、仕入税額控除を適用させるために、以下の書類の交付や保存が義務付けられています。
・適格請求書の交付
・適格返還請求書の交付
・修正した適格返還請求書の交付
・写しの保存
適格請求書発行事業者が上記4つの義務を違反した場合「1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰則」が設けられています。請求書の交付だけでなく、写しの保存も忘れずに対応しましょう。
出典:国税庁「インボイス制度導入後の是正に関する一考察-適格請求書類似書類等の交付禁止・罰則規定を踏まえて-」
また、買い手側は帳簿及び適格請求書の保存が仕入税額控除を適用するための要件となります。売り手側・買い手側それぞれで仕入税額控除を受けるための要件が異なりますので、事前に確認しておくことが必要です。
適格返還請求書は、商品やサービスの返品や値引き、売上割引などが発生した場合に課税事業者に対して発行します。取引先へのインセンティブを支払う場合も同様です。
適格返還請求書は、実際に代金の返還が行われたタイミングで発行が必要です。例えば、8月20日に商品の取引が行われ、9月20日に返品、返品分の金額の振込を10月1日に行った場合は、適格返還請求書の発行は10月1日となります。「10月分」といったように月単位での記載も認められています。商品の取引や返品が行われたタイミングではないため、注意しましょう。
もし、取引時に値引き等をした場合は、適格請求書とまとめて発行することが可能です。適格請求書と適格返還請求書を1枚の書類で発行する方法については、後述していますので参考にしてください。
適格返還請求書は適格請求書発行事業者の義務とされていますが、交付が免除される場合があります。免除される要件は、売上に係る対価の返還等をする際に、税込価格が1万円未満の場合です。例えば、次のようなケースがあてはまります。
例)800,000円の請求に対し、買い手側が振込手数料300円を減額した799,700円を支払い、売り手側が300円を返金する処理の場合
上記の場合、値引き額が1万円未満のため適格返還請求書の発行は不要です。1万円以上の返還がある場合は発行が必要になるので、忘れずに対応しましょう。
適格返還請求書の交付免除要件についても、インボイス制度の開始と同時に適用されます。
適格請求書と適格返還請求書は、取引におけるタイミングと目的が異なります。
適格請求書は、商品やサービスの提供時に発行され、取引内容と消費税額を明確にします。これは、買い手が仕入税額控除を受けるために必要な情報です。
一方、適格返還請求書は、返品や値引きなど取引内容に変更があった場合に発行されます。これにより、変更後の取引内容に基づいて消費税額の返還や調整が可能となります。
つまり、適格請求書は通常の取引を、適格返還請求書は取引後の変更を証明する書類と言えるでしょう。どちらも消費税の仕入税額控除に深く関わるため、正確な発行と保管が重要です。
特徴 | 適格請求書 | 適格返還請求書 |
発行タイミング | 商品やサービスの提供時 |
商品やサービスの返品・値引きなど、取引内容に変更があった場合
|
目的 | 商品やサービスの対価と消費税額を明確にし、買い手が仕入税額控除を受ける際に必要な情報を提供する |
変更後の取引内容に基づいて、消費税額の返還や調整を行う際に必要な情報を提供する
|
記載事項 |
請求書を発行する事業者の氏名または名称 |
返還請求書を発行する事業者の氏名または名称
買い手の氏名または名称 返還または修正の対象となる取引年月日 返還または修正の内容(返品、値引きなど) 返還または修正の金額 消費税額または税率 |
適格返還請求書を発行する際の記載要件は、以下の6つの項目です。
・適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
・対価の返還等を行う年月日
・対価の返還等の基となった取引を行った年月日
・対価の返還等の取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
・税率ごとに区分して合計した対価の返還等の金額(税抜き又は税込み)
・対価の返還等の金額に係る消費税額等又は適用税率
出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要」
記載要件について、それぞれ解説していきます。
適格請求書発行事業者として登録した氏名又は名称、登録番号を記載します。法人の場合の登録番号は、「T + 13桁の法人番号」を記載します。個人事業主の場合は、税務署から交付された「T + 13桁の番号」を記載しましょう。
対価の返還等を行う年月日は「実際に返品などを行った日」を記載します。適格返還請求書を作成した年月日ではありませんので、返還した日を忘れないよう書き留めておきましょう。
いつの売上に関する値引きや割引かを明確にするため、返還する対象の取引をした年月日を記載します。取引を継続して行っているケースでは「前月末日」や「最終販売年月日」を記載することも可能です。
値引きや割引などの対象となった取引内容を記載します。取引内容とは、商品名やサービス名を指します。軽減税率の対象品目にあてはまる場合は、標準税率の品目と区別できるような記載が必要です。
軽減税率及び標準税率の品目ごとに、返還する金額の合計を記載します。税抜・税込の表記は、適格返還請求書内で統一されていれば、特に指定はされていません。
返還する金額に対して、消費税額や適用税率を記載します。消費税額・適用税率の片方を記載、または、両方記載する対応のどちらでも可能です。管理がしやすく、わかりやすい方法を選択しましょう。
適格返還請求書は、保存の義務が定められています。どれくらいの期間保存が必要かも決められており、「交付した日の課税期間の末日を起点に、翌日から換算して2ヶ月を経過した日から7年間」です。買い手側・売り手側どちらも、期間に準じて保存の必要があります。7年と2ヶ月といった長期間の保存が必要になるため、仕入税額控除を適正に受けるためにも、管理はしっかりしておきましょう。
保存形式については、紙で作成した書類や電子データなど、記載内容がわかるような形式であれば問題ありません。保存がしやすい形の管理方法を、事前に決めておくことをおすすめします。
また、「写し」の保存が必要な買い手側は、書類のコピーを取る場合など、記載項目がはっきりと印刷された状態であることを確認しましょう。
取引及び値引きや割引を行った場合は、適格請求書と適格返還請求書の2つを交付する必要があります。ただし、1つの事業者に対して、適格請求書と適格返還請求書を同時に発行する場合は、1枚にまとめることが可能です。1枚にまとめる際の記載要件は、以下の2つが満たされている必要があります。
・当月の売上にかかる適格請求書の記載事項
・前月売上の返還にかかる適格返還請求書の記載事項
このように、適格請求書・適格返還請求書それぞれで必要な事項が記載されていれば、1枚にまとめられます。
また、事業者との継続的な取引がある場合、「当月の売上代金から前月の売上値引き代金を控除した金額」及び「その控除した金額に基づき計算した消費税額等」を税率ごとに請求書に記載することも可能です。
出典:国税庁 PDF 「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き」
適格返還請求書は、振込手数料を売り手側・買い手側のどちらが負担するかによって、不必要が決まります。振込手数料を売り手側が負担する場合は適格返還請求書は不要になり、買い手側が負担する場合は、適格返還請求書ではなく適格請求書が必要です。
振込手数料を売り手側・買い手側が負担する2つのケースについて、それぞれポイントを踏まえて解説していきます。
前提として値引きや割引を実施した場合は、適格返還請求書の発行が必要になりますが、1万円未満の代金は交付が免除されます。
振込手数料は1万円未満であることがほとんどのため、売上値引きとして取り扱う場合は、適格返還請求書の交付も不要になります。加えて、適格返還請求書を交付しなくても課税売上のマイナスと同じ扱いになるため、消費税の負担がかかることもありません。
取引先ではなく金融機関を仕入の相手と考える場合は「買い手側が振込手数料を立て替えた」という扱いになります。このようなケースでは、適格請求書及び立替金精算書を金融機関に発行してもらい、受領した2つの書類を保存することで仕入税額控除を適用できます。
振込手数料を買い手側が負担する場合は、適格返還請求書ではなく、取引先などからの支払いに係る「適格請求書」の発行が必要です。したがって、適格返還請求書の発行は不要です。
適格請求書発行事業者であれば、適格請求書の発行が必要になりますが「基準期間の課税売上が1億円以下または1年前の上半期の課税売上が5,000万円以下の事業者」にあてはまる場合、少額特例を適用できます。少額特例では、課税仕入額が1万円未満の場合、帳簿の保存だけで仕入税額控除を適用できます。
このように、インボイス制度開始にあたり、特例制度や経過措置によって事務作業負担を軽減できます。自社がどのように対応すべきか、参考にしてください。
自社と取引先が互いに商品やサービスを売買している場合、お互いに債権と債務が発生します。この債権と債務を同額で帳消しにすることを「相殺処理」と呼びます。
インボイス制度が導入されても、従来の請求書と同様に、インボイスを使った取引でも相殺処理を行うことができます。しかし、相殺処理を行うには、取引先との合意が不可欠です。相手の状況によっては、相殺処理ができない場合もありますので、事前に確認を取りましょう。
お互いに取引がある場合、例えばA社がB社から商品を買ってB社にお金を払うべき状況と、B社がA社から商品を買ってA社にお金を払うべき状況があったとします。この時、それぞれの支払うべき金額を比較して、多い金額から少ない金額を差し引いた金額だけを支払うようにすることができます。
適格返還請求書は「返還インボイス」とも呼ばれ、返品や値引きを理由に対価の返還をする際、売り手側が買い手側に交付する書類です。適格返還請求書を発行するためには、適格請求書事業者になる必要があります。
適格請求書発行事業者になった場合、適格請求書だけでなく、適格返還請求書の発行や保存も義務となります。
2023年10月のインボイス制度開始に向けて、適格返還請求書が必要なタイミングや記載事項を確認し、対応できる準備をしておきましょう。