更新日:2025.12.18

ー 目次 ー
2023年10月から始まったインボイス制度。「領収書とインボイスは何が違うの?」「今まで通りの領収書では経費精算できないの?」など、多くの事業者が疑問や不安を抱えているのではないでしょうか。この記事を読めば、インボイスと領収書の根本的な違いから、領収書をインボイスとして使うための具体的な記載要件、発行側・受取側それぞれのシーン別の使い分け、経費精算での注意点まで、すべてが明確になります。本記事で、事業者として知っておくべきポイントをご紹介しますので、インボイス制度に関する不安を解消し日々の業務に活かしてください。
日常的にやり取りされる「領収書」と「インボイス(適格請求書)」の違いを正しく理解することは、消費税の仕入税額控除を受けるうえで非常に重要です。
この章では、それぞれの書類が持つ基本的な役割と仕組みについて解説します。
インボイス(適格請求書)とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるための書類です。
インボイス制度の主な目的は、取引における消費税額を正確に把握し、仕入税額控除の計算を正しく行うことにあります。買手側(課税事業者)が仕入税額控除の適用を受けるためには、原則としてこのインボイスの保存が必要となります。
インボイスとして認められるためには、従来の請求書や領収書の記載事項に加え、以下の項目を記載する必要があります。
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記載事項 |
内容 |
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適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号 |
Tから始まる13桁の法人番号または個人番号。 |
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取引年月日 |
課税資産の譲渡等を行った年月日。 |
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取引内容 |
軽減税率の対象品目である旨がわかるように記載。(例:「※」印など) |
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税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率 |
8%と10%の対象金額をそれぞれ分け、適用税率を明記。 |
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税率ごとに区分した消費税額等 |
8%と10%の消費税額をそれぞれ計算し、明記。 |
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書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 |
取引相手の正式名称を記載。 |
領収書とは、商品やサービスの対価として金銭を受け取った側(売手)が、支払いを行った側(買手)に対して発行する「金銭の受領を証明する」ための証憑書類です。民法上、支払者は受領者に対して領収書の発行を請求する権利があります。経費精算や税務調査の際には、支払いの事実を証明する重要な書類として扱われます。
一般的な領収書には、主に以下の項目が記載されます。インボイス制度開始前は、これらの項目が記載されていれば、消費税の仕入税額控除の適用を受けることが可能でした。
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記載事項 |
内容 |
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書類の発行者の氏名または名称 |
代金を受け取った事業者名。 |
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取引年月日 |
支払いが行われた年月日。 |
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取引内容 |
購入した商品やサービスの内容。「お品代として」ではなく具体的な内容を記載するのが一般的。 |
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取引金額 |
消費税額を含んだ支払総額。 |
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書類の交付を受ける者の氏名または名称 |
代金を支払った事業者名(宛名)。 |
インボイス制度の導入により、従来の領収書に記載されていた項目だけでは、原則として仕入税額控除が受けられなくなりました。領収書をインボイスとして利用するためには、前述したインボイスの記載要件を満たす必要があります。
インボイス制度は、必ずしも「請求書」の形式でなければならないわけではありません。定められた要件を満たせば、これまで使っていた領収書やレシートもインボイス(適格請求書)として扱うことが可能です。これにより、買手側は仕入税額控除の適用を受けることができます。
ここでは、領収書をインボイスとして利用するための具体的な記載事項について解説します。
従来の領収書に必要な記載項目に加えて、新たに3つの項目を追記することで、その領収書はインボイスとして認められます。
以下の表で、従来の領収書とインボイス対応の領収書で必要な記載事項を比較してみましょう。
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記載項目 |
従来の領収書(区分記載請求書等) |
インボイス対応の領収書(適格請求書) |
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発行事業者の氏名または名称 |
必要 |
必要 |
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登録番号 |
不要 |
必要 |
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取引年月日 |
必要 |
必要 |
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取引内容(軽減税率の対象品目である旨) |
必要 |
必要 |
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税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込) |
必要 |
必要 |
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適用税率 |
不要 |
必要 |
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税率ごとに区分した消費税額等 |
不要 |
必要 |
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書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 |
必要 |
必要 |
インボイスとして領収書を発行する場合、特に「登録番号」「適用税率」「税率ごとに区分した消費税額等」の3点が新たに追加で必要となります。これらの記載がないと、受取側(買手)は原則として仕入税額控除が受けられなくなるため、発行側(売手)は正確な記載を心がける必要があります。
小売業や飲食店、タクシー業など、不特定多数の顧客に対して商品やサービスを提供する事業者は、詳細なインボイス(適格請求書)の代わりに「簡易インボイス(適格簡易請求書)」を交付することが認められています。スーパーやコンビニで受け取るレシートの多くは、この簡易インボイスに該当します。
簡易インボイスは、通常のインボイスに比べて記載項目が簡略化されています。最も大きな違いは、「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称(宛名)」の記載が不要である点です。
また、「適用税率」と「税率ごとに区分した消費税額等」は、どちらか一方の記載で問題ありません。
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記載項目 |
インボイス(適格請求書) |
簡易インボイス(適格簡易請求書) |
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発行事業者の氏名または名称および登録番号 |
必要 |
必要 |
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取引年月日 |
必要 |
必要 |
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取引内容(軽減税率の対象品目である旨) |
必要 |
必要 |
|
税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込) |
必要 |
必要 |
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書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 |
必要 |
不要 |
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適用税率 |
必要 |
いずれか一方または両方の記載で可 |
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税率ごとに区分した消費税額等 |
必要 |
このように、レシート形式のものでも必要な項目が記載されていれば、簡易インボイスとして仕入税額控除の証明書類に利用できます。
経費精算の際には、受け取ったレシートが簡易インボイスの要件を満たしているか確認することが重要です。
インボイス制度が開始され、事業者間の取引では「インボイス(適格請求書)」と「領収書」のどちらを受け取り、または発行すれば良いのか迷う場面が増えました。
ここでは、具体的なシーン別に「発行側(売手)」と「受取側(買手)」それぞれの立場で、適切な使い分け方と実務上のポイントを解説します。
適格請求書発行事業者は、取引の相手方(課税事業者)から求められた場合、インボイスを交付する義務があります。
請求書と領収書のどちらをインボイスとして発行するかは、取引形態や慣習によって異なります。
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取引シーン |
インボイスとして発行する書類 |
ポイント |
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掛取引(後日まとめて請求) |
請求書 |
月締めなどで請求書を発行する際は、その請求書をインボイスの要件を満たすように作成します。入金時に別途領収書を求められた場合、その領収書には「請求書No.XXXの領収として」など、どのインボイス(請求書)に対応するものかを明記し、二重発行とならないように注意が必要です。 |
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現金取引(都度決済) |
領収書またはレシート |
小売業、飲食店、タクシー業など、不特定多数の顧客と取引を行う事業者は、領収書やレシートを「簡易インボイス(適格簡易請求書)」として発行するのが一般的です。BtoBの現金取引でも、領収書をインボイスとして発行するケースが多く見られます。 |
買手が仕入税額控除を受けるためには、原則として取引相手から交付されたインボイスを保存する必要があります。
受け取った書類が「請求書」でも「領収書」でも、インボイスの必須要件を満たしていれば、どちらを保存しても仕入税額控除の適用は可能です。
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取引シーン |
保存すべき書類 |
ポイント |
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経費精算(従業員の立替払いなど) |
インボイスの要件を満たした領収書・レシート |
従業員が立て替えた経費を精算する際は、受け取った領収書やレシートがインボイス(または簡易インボイス)の要件を満たしているかを確認します。特に「登録番号」「適用税率」「消費税額等」の記載があるかが重要です。これらを証憑として保存します。 |
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掛取引(後日支払い) |
インボイスの要件を満たした請求書 |
取引先から送付される請求書がインボイスの要件を満たしているかを確認し、それを保存します。銀行振込で支払う場合、振込明細書とインボイスである請求書をセットで保存することで、取引の証拠となります。この場合、別途領収書を受け取る必要はありません。 |
インボイス制度の開始により、これまで当たり前だった領収書のやり取りにも変化が生じています。
ここでは「買手(受取側)」と「売手(発行側)」それぞれの立場で、トラブルを未然に防ぐための注意点を具体的に解説します。
仕入税額控除を適用するためには、受け取った領収書がインボイス(適格請求書)の要件を満たしているかを確認することが最も重要です。経費精算の際には、特に以下の点に注意してください。
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確認項目 |
注意点 |
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適格請求書発行事業者の登録番号 |
「T」から始まる13桁の番号が記載されているかを確認します。国税庁の公表サイトで番号の有効性を確認することも可能です。 |
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取引年月日 |
領収書が発行された日付ではなく、商品やサービスの提供が行われた日付が正しく記載されているかを確認します。 |
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税率ごとの合計金額と適用税率 |
8%と10%の対象品目が混在している場合、それぞれの税率ごとに合計された金額(税抜または税込)と適用税率が明記されている必要があります。 |
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税率ごとの消費税額等 |
税率ごとに区分した消費税額または地方消費税額が記載されているかを確認します。 |
また、従業員が立替経費を精算する場合も、同様にインボイスの要件を満たした領収書の提出が必要です。社内の経費精算ルールをインボイス制度に対応させ、全従業員に周知徹底することがトラブル防止に繋がります。
なお、基準期間における課税売上高が1億円以下の事業者などは、税込1万円未満の課税仕入れについてインボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる「少額特例」という経過措置があります。自社が対象となるか確認しておきましょう。
適格請求書発行事業者は、取引相手(課税事業者)から求められた場合、インボイスを交付する義務があります。領収書をインボイスとして発行する際には、以下の点に注意が必要です。
手書きの領収書を発行する場合も、インボイスの必須記載事項をすべて手書きで正確に記入すれば、有効なインボイスとして認められます。特に登録番号や税率ごとの内訳は、丁寧に記載することを心がけましょう。
インボイス制度の開始に伴い、領収書の取り扱いについて多くの疑問が寄せられています。ここでは、特に多くの方が抱える質問について、Q&A形式でわかりやすく解説します。
はい、手書きの領収書でもインボイス(適格請求書)として認められます。
インボイス制度で重要なのは、書類の形式(手書きか、PC作成かなど)ではなく、必要な情報がすべて記載されているかどうかです。
手書きで領収書を発行する際は、以下の項目が漏れなく、かつ正確に記載されていることを必ず確認してください。特に、登録番号や税率ごとの消費税額などは、書き間違いや計算ミスが起こりやすいポイントなので注意が必要です。
登録番号の記載がない領収書は、インボイスとして認められず、原則として仕入税額控除の適用を受けることができません。登録番号のない領収書を受け取った場合は、以下の手順で対応してください。
まず、領収書を発行した事業者が「適格請求書発行事業者」であるかを確認しましょう。これは、国税庁の「インボイス制度 適格請求書発行事業者公表サイト」で確認できます。
確認した結果、相手が発行事業者であった場合は、登録番号を記載したインボイスとして要件を満たす領収書の再発行を依頼してください。もし相手が発行事業者でない(免税事業者など)場合は、インボイスの発行を求めることはできません。その取引については、仕入税額控除の対象外となりますが、一定期間は所定の割合で控除が可能な経過措置が設けられています。
いいえ、インボイス(適格請求書)の記載要件を満たしていれば、領収書と請求書の両方を発行する必要はありません。
「領収書」という名称の書類であっても、必要な項目がすべて記載されていれば、それがインボイスとして機能します。
例えば、小売店や飲食店などで代金と引き換えに商品を渡す場合、その場でインボイスの要件を満たした領収書(またはレシート形式の簡易インボイス)を1枚発行すれば、取引は完結します。
一方で、先に請求書(インボイス)を発行し、後日入金が確認された際に、支払証明として別途「領収書」を発行するケースもあります。この場合、後から発行する領収書はインボイスの要件を満たす必要はありません。ただし、二重計上を防ぐため、どの請求に対する入金かを明確にする「(請求書No.XXXX)の代金として」といった但し書きを記載することが推奨されます。
領収書は代金の支払いがあったことを証明する書類ですが、インボイス(適格請求書)はそれに加えて、買手が消費税の仕入税額控除を受けるために必要な書類です。結論として、領収書も「登録番号」「適用税率」「消費税額等」といったインボイス制度で定められた要件を満たしていれば、インボイスとして扱うことができます。小売業や飲食店などが発行するレシートも、要件を満たせば簡易インボイス(適格簡易請求書)として認められます。本記事で解説したポイントを参考に、売手・買手それぞれの立場で正しく対応し、円滑な事業運営にお役立てください。