更新日:2025.12.18

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インボイス制度の開始に伴い、「インボイスがないと経費として認められないのでは?」と経費精算に不安を感じていませんか?特に交通費や接待費など、日常的に発生する経費の扱いに迷う方も多いでしょう。この記事では、インボイス制度における経費の基本的な考え方を整理し、「仕入税額控除」ができないケースと、特例として認められるケースを具体例を交えて徹底解説します。最後までお読みいただくことで、インボイス制度下の経費精算に関する疑問を解消し、自信を持って日々の業務に取り組めるようになります。
結論から言うと、インボイスがなくても、事業に必要な支払いであれば「経費」として計上することは可能です。
この章では、なぜインボイスがなくても経費にできるのか、その大前提となる「経費」と「仕入税額控除」の違いについて分かりやすく解説します。
インボイス制度を理解する上で最も重要なポイントは、「法人税・所得税」と「消費税」では、費用の扱いに関するルールが根本的に異なるという点です。事業で発生した支払いは、この2つの税金の計算において、それぞれ「経費(損金)」と「仕入税額控除の対象」という異なる側面を持ちます。
インボイス制度は、後者の「消費税」の計算にのみ影響を与える制度です。両者の違いを下の表で確認してみましょう。
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項目 |
法人税・所得税の「経費(損金)」 |
消費税の「仕入税額控除」 |
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目的 |
利益(所得)を計算し、法人税や所得税の納税額を算出するため |
売上にかかる消費税から仕入れにかかった消費税を差し引き、消費税の納税額を算出するため |
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計上の要件 |
事業に関連する支出であることの証明(領収書・レシートなど) |
原則として、インボイス(適格請求書)の保存 |
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インボイスの有無による影響 |
直接的な影響はない(インボイスがなくても経費にできる) |
原則として、インボイスがないと仕入税額控除が適用できず、消費税の納税額が増える |
このように、事業のために支払った費用は、たとえ取引先からインボイスが発行されなくても、領収書やレシートがあれば法人税・所得税法上の「経費」として計上できます。
経費にできなくなるわけではないので、ご安心ください。
では、インボイス制度は何に影響するのでしょうか。それは、消費税の納税額を計算する際の「仕入税額控除」という仕組みです。
仕入税額控除とは、課税事業者が消費税を納める際に、売上にかかる消費税額から、仕入れや経費の支払いで負担した消費税額を差し引くことができる制度です。この控除を適用するための要件として、原則「インボイスの保存」が必須となりました。
つまり、「インボイスがないと損をする」というのは、正確には「課税事業者が仕入税額控除を受けられず、結果として納める消費税額が増えてしまう」ことを意味します。法人税や所得税の計算とは別の話であると、しっかりと区別して理解することが重要です。
インボイス制度の導入により、原則として適格請求書(インボイス)がなければ、支払った経費に含まれる消費税額を控除できなくなります。
ここでは、なぜインボイスが必要なのか、そしてインボイスがないと具体的にどうなるのか、その基本的な原則を解説します。
事業者が国に納める消費税の額は、売上によって預かった消費税から、仕入れや経費で支払った消費税を差し引いて計算されます。この差し引く行為を「仕入税額控除」と呼びます。
インボイス制度が開始される前は、区分記載請求書などがあれば仕入税額控除を適用できました。しかし、2023年10月1日以降は、原則として「適格請求書(インボイス)」がなければ仕入税額控除が認められません。インボイスには、発行事業者の登録番号、適用税率、税率ごとの消費税額などが正確に記載されており、これが取引における消費税額の正式な証明書となります。
つまり、インボイスは、自社が支払った消費税額を正確に証明し、正しく仕入税額控除を受けるために不可欠な書類なのです。
適格請求書(インボイス)を発行できるのは、税務署に申請し、登録を受けた「適格請求書発行事業者」に限られます。この登録ができるのは課税事業者のみであるため、消費税の納税義務が免除されている免税事業者はインボイスを発行できません。
そのため、免税事業者である個人事業主やフリーランスなどから商品やサービスの提供を受けた場合、インボイスを受け取ることができず、原則としてその取引にかかる消費税額を仕入税額控除の対象にすることはできません。これにより、買い手側の消費税負担が増えることになります。
ただし、制度開始後の急激な変化を緩和するため、免税事業者からの仕入れについても一定期間は一定割合を控除できる「経過措置」が設けられています。具体的な期間と控除割合は以下の通りです。
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期間 |
控除可能な割合 |
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2023年10月1日~2026年9月30日 |
仕入税額相当額の80% |
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2026年10月1日~2029年9月30日 |
仕入税額相当額の50% |
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2029年10月1日以降 |
控除不可 |
この経過措置の適用を受けるためには、インボイスの代わりに区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等を保存し、帳簿に経過措置の適用を受ける旨(例:「80%控除対象」など)を記載する必要があります。
インボイス制度の開始により、これまで当たり前のように経費精算していた場面でも、仕入税額控除が認められなくなるケースが出てきました。
ここでは、日常業務で頻繁に発生する経費について、仕入税額控除ができなくなる具体的なケースを解説します。
業務での移動にタクシーを利用する機会は多いですが、インボイス制度では注意が必要です。利用したタクシーが免税事業者や、インボイス発行事業者として登録していない個人タクシーの場合、インボイスが発行されません。その結果、支払ったタクシー代に含まれる消費税額は、仕入税額控除の対象外となります。
対策としては、インボイスに対応しているタクシー会社を選ぶ、または「GO」や「S.RIDE」といったインボイス発行機能のあるタクシー配車アプリを利用することが有効です。アプリを利用すれば、利用履歴から電子的な簡易インボイスを取得できるため、経費精算がスムーズになります。
なお、後述する「3万円未満の公共交通機関の特例」にタクシーは含まれないため、領収書の保存が原則となります。
自動車で移動する際に利用するコインパーキングなどの駐車場代も、インボイスの有無が重要になります。特に個人が運営している駐車場や、古いシステムを利用しているコインパーキングでは、インボイスの要件を満たした領収書(レシート)が発行されないことがあります。
領収書に事業者名、登録番号、適用税率、消費税額などの記載がなければ、それはインボイスとして認められません。タイムズや三井のリパークといった大手駐車場サービス事業者の多くはインボイスに対応していますが、利用の際には発行される領収書を必ず確認する習慣をつけましょう。
インボイスが取得できない場合は、その駐車場代は仕入税額控除の対象にできません。
取引先との会食で利用する接待交際費や、社内会議で利用する会議費なども、支払先の飲食店がインボイス発行事業者でなければ仕入税額控除はできません。小規模な個人経営の飲食店などは、免税事業者である可能性も考えられます。
インボイスとして認められるためには、店名、登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した合計額、適用税率、消費税額などが記載されたレシート(簡易インボイス)が必要です。高額な接待交際費の場合、仕入税額控除ができないと税負担が大きくなるため、重要な会食では事前に店舗がインボイス対応か確認しておくと安心です。国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で登録状況を調べることもできます。
従業員が業務に必要な経費を一時的に立て替えた場合、その経費精算においてもインボイス制度のルールが適用されます。会社が仕入税額控除を受けるためには、従業員が事業者から受け取ったインボイス(または簡易インボイス)を会社に提出する必要があります。
このとき、インボイスの宛名が従業員の個人名になっていても、会社がその経費を支払ったことを証明できれば問題ありません。その証明のために、会社は従業員に「立替金精算書」を作成してもらい、受け取ったインボイスと一緒に保存することが求められます。立替金精算書には、立て替えた従業員の氏名、支払年月日、支払内容、支払金額などを記載します。
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役割 |
立替経費精算で必要な対応 |
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従業員 |
支払先からインボイス(または簡易インボイス)を必ず受け取る。 社内ルールに従い、インボイスを添付した「立替金精算書」を作成し、経理担当者に提出する。 |
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経理担当者 |
従業員から提出されたインボイスと立替金精算書の内容を確認する。 これらの書類をセットで保存し、仕入税額控除の証憑とする。 |
従業員がインボイスをもらい忘れたり、紛失したりした場合は、原則としてその経費は仕入税額控除の対象外となるため、社内でのルール周知が非常に重要です。
取引の性質上、インボイスの交付を受けることが難しい特定のケースについては、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる特例が設けられています。
ここでは、その具体的なケースについて詳しく解説します。
郵便ポストへの投函によって提供される郵便サービスは、インボイスの交付が困難であるため、特例の対象となります。
具体的には、郵便切手を購入してポストに投函する場合などが該当します。ただし、郵便局の窓口で切手を購入した際や、ゆうパックなどのサービスを利用した際に発行される領収書はインボイスに該当するため、受け取った場合は保存が必要です。
税込3万円未満の自動販売機や自動サービス機からの商品購入も、インボイスの保存が不要です。これは、機械がインボイスを発行することが物理的に困難なためです。この特例は「自動販売機・自動サービス機特例」と呼ばれます。
具体的には、以下のようなものが該当します。
なお、スーパーのセルフレジや自動券売機のように、インボイスを発行できる機能を持つものはこの特例の対象外となるため注意が必要です。
税込3万円未満の公共交通機関(船舶、バス、鉄道)による旅客の運送も、インボイスの保存が免除されます。乗車券や切符にインボイスとしての記載がない場合や、そもそも券が発行されない場合が多いためです。従業員が移動のために利用した電車代やバス代などがこれに該当します。
注意点として、SuicaやPASMOといった交通系ICカードへのチャージ自体は課税仕入れにはなりません。実際に電車やバスを利用した際に、その利用分が仕入税額控除の対象となります。利用履歴などを出金伝票に添付して保存することが望ましいでしょう。
従業員に支給する出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などのうち、「通常必要と認められる範囲」の金額については、「出張旅費等特例」が適用され、インボイスの保存がなくても帳簿のみで仕入税額控除が可能です。
この特例は、従業員が立て替えた経費(新幹線代、飛行機代、ホテル代など)で、会社宛のインボイス(領収書)の入手が難しい場合にも適用されます。社内規程として「出張旅費規程」などを整備し、その規程に基づいて支給することで、「通常必要と認められる範囲」であることを客観的に示すことができます。
上記以外にも、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるケースがあります。主に、インボイスの交付を受けることが難しい特定の事業者との取引が対象です。
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対象となる取引 |
具体例 |
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適格請求書発行事業者でない者からの古物や質物の購入 |
古物商が一般の個人から中古品を買い取る場合など |
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適格請求書発行事業者でない者からの再生資源・再生部品の購入 |
資源回収業者が一般の個人から古紙や空き缶などを買い取る場合など |
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卸売市場で行われる生鮮食料品等の販売 |
卸売市場を通じて行われる、出荷者から卸売業者への販売 |
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農業協同組合等に委託して行われる農林水産物の販売 |
生産者である農家が農協(JA)などに無条件委託方式で販売を委託する場合 |
これらの特例に該当する場合でも、後述する帳簿への適切な記載が仕入税額控除の必須要件となります。
前章で解説した特例に該当する場合など、インボイスがなくても一定の事項を記載した帳簿を保存することで、仕入税額控除が認められます。
ここでは、その具体的な帳簿の記載方法について解説します。
まず、インボイスの有無にかかわらず、仕入税額控除の適用を受けるためには、すべての取引について帳簿に以下の項目を記載する必要があります。これは消費税法で定められている基本的なルールです。
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項目 |
記載内容の例 |
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課税仕入れの相手方の氏名又は名称 |
株式会社〇〇、△△商店 |
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取引年月日 |
2023/10/01 |
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取引内容 |
事務用品代として、書籍代(※軽減税率対象) |
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対価の額(税込み) |
11,000円 |
特に「取引内容」については、軽減税率(8%)の対象品目である場合には、その旨がわかるように「※軽」や「(軽減税率対象)」などと記載する必要があります。
インボイスの保存が免除される特例を適用する場合には、上記の必須項目に加えて、帳簿の摘要欄などに「どの特例の対象であるか」を明確に記載しなければなりません。
また、一部の特例では、追加で記載すべき情報があります。
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特例の種類 |
帳簿への追記内容 |
摘要欄の記載例 |
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3万円未満の公共交通機関(電車・バス等) |
「公共交通機関特例」などのように、特例の対象であることがわかる旨を記載します。 |
交通費(JR東日本/新宿→東京)【公共交通機関特例】 |
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3万円未満の自動販売機での購入 |
「自動販売機特例」などの記載に加え、その自動販売機の設置場所(住所)を記載する必要があります。 |
飲料代(〇〇ビル1F自販機)【自動販売機特例:東京都千代田区〇〇1-1-1】 |
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郵便切手を対価とする郵便サービス |
「郵便切手特例」などのように、特例の対象であることがわかる旨を記載します。ポストへの投函の場合は、相手方の住所は不要です。 |
通信費(郵便切手代)【郵便切手特例】 |
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出張旅費等特例 |
従業員に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当などが対象です。「出張旅費等特例」と記載します。 |
出張旅費(10/1〜10/2 大阪出張)【出張旅費等特例】 |
これらの追記を行うことで、税務調査などの際に、インボイスがない理由を客観的に証明できます。経費精算システムを利用している場合も、摘要欄などにこれらの情報を入力するルールを社内で徹底することが重要です。
インボイス制度の開始に伴い、経費精算に関する疑問は尽きません。ここでは、実務で特によくある質問とその回答をまとめました。
スーパーマーケットのレシートのように、1枚のインボイス(適格簡易請求書)に軽減税率(8%)と標準税率(10%)の商品が混在している場合、原則として税率ごとに分けて仕訳を行う必要があります。
例えば、会議用のお茶(飲食料品:8%)と文房具(10%)を同時に購入した場合の仕訳は以下のようになります。
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借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
摘要 |
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会議費(軽) |
1,080円 |
現金 |
2,750円 |
お茶(8%対象) |
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会議費 |
1,650円 |
文房具(10%対象) |
会計ソフトによっては、税率ごとの金額を入力すれば自動で仕訳を分けてくれる機能もあります。経理処理を効率化するためにも、お使いのソフトの機能を確認してみましょう。
レシートや領収書を紛失した場合、「法人税・所得税の経費」と「消費税の仕入税額控除」の2つの観点で考える必要があります。
まず、法人税・所得税法上の「経費」としては、レシートがなくても計上は可能です。出金伝票を作成し、取引の日付、金額、相手先、内容などを記録しておくことで、支払いの事実を客観的に証明できれば、損金または必要経費として認められます。
一方で、消費税の「仕入税額控除」を受けるためには、原則としてインボイスの保存が必須です。そのため、レシート(インボイス)を紛失すると、その取引にかかる消費税額を控除することはできません。まずは取引先にインボイスの再発行を依頼するのが最善策です。
やむを得ない理由でインボイスの交付を受けられなかった場合は、帳簿にその旨を記載し、取引の事実を客観的に示す書類(請求書や納品書など)を保存することで控除が認められるケースもありますが、基本は保存が必要と覚えておきましょう。
月極駐車場のような継続的な役務提供についても、仕入税額控除を受けるためにはインボイスが必要です。しかし、家賃などと同様に、毎月の支払いが口座振替や銀行振込で行われ、その都度領収書(インボイス)が発行されないケースも少なくありません。
このような場合、以下の2つの書類をセットで保存することで、インボイスの保存要件を満たすことができます。
つまり、適切な情報が記載された契約書があれば、毎月インボイスとしての領収書を受け取らなくても、通帳の記録などと合わせて保存しておくことで仕入税額控除の適用が可能です。
大前提として「経費にできるか」と「仕入税額控除ができるか」は別の話です。インボイスがなくても、事業に必要な支払いであれば法人税や所得税の計算上「経費」として計上できます。インボイス制度が影響するのは、あくまで消費税の「仕入税額控除」です。
仕入税額控除を受けるには、原則としてインボイスの保存が必要です。特に、免税事業者やインボイス登録をしていない事業者からの仕入れではインボイスが発行されないため、原則として仕入税額控除はできません。インボイス制度開始後、経費精算の現場では戸惑うことも多いかもしれません。この記事を参考に、自社の経費精算フローを再確認し、適切な処理を行いましょう。