更新日:2023.07.26
ー 目次 ー
インボイス制度とは「所定の要件を満たした請求書や納品書を発行・保存しておく」という制度です。正式名称は「適格請求書等保存方式」です。ここでいう請求書のことを「適格請求書(インボイス)」と呼びます。適格請求書とは、国税庁によれば「売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税等を伝えるもの」とされます。(引用:国税庁「インボイス制度の概要」)
適格請求書には取引内容や消費税率、消費税額などを記載することが求められます。要件を満たす適格請求書を保存しておくと、仕入れ側が消費税の仕入税額控除が受けられます。
分かりやすく言うと、仕入れ時に特別な請求書を受け取らないと消費税の納税額が増えるという制度です。
たとえば、課税事業者Aが仕入れ先業者Bから商品を仕入れたとします。その際、代金と消費税の合計220円を支払いました。仕入れ商品を今度は買手に販売しました。同様に代金と消費税の合計550円を支払いました。この時、課税事業者は仕入先業者Bから受け取った請求書の形式によって仕入れ税額控除が変わってしまうということです。なお、課税事業者とは消費税の納税義務がある事業者のことです。
インボイス制度導入の目的は大きく分けて2つあります。一つは2019年10月から実施された「軽減税率制度」の対策です。もう一つは消費税の「益税」対策です。
軽減税率導入による複数税率(8%と10%)の存在は消費税の会計処理上、不正や計算ミスや記載ミスにつながるなど考えられます。複数税率では、商品ごとの税率や税額が分からないと正確な計算ができません。
一方、益税対策は、消費税の納税を免除される免税事業者の問題です。端的に言うと、免税が許可さているため、商品代金と一緒に受け取った消費税を売り上げに含められるという問題です。免税事業者は消費税増税でさらに益税が膨らむことは必至です。これでは課税事業者が不利になってしまうことが懸念されます。また、国の財政問題に直結することも考えられるため、益税問題は大きく捉えられるようになりました。
インボイス制度の導入は事業者からすれば、より厳格なルールになることは間違えありません。
|
請求書等保存方式 (従来の方式)~2019年9月 |
区分記載請求書等保存方式 (簡易な方式)2019年10月~2023年9月 |
適格請求書保存方式 (インボイス制度)2023年10月~ |
請求書 |
|||
請求書記載事項
|
発行者の氏名 |
発行者の氏名 |
発行者の氏名 |
取引年月日 |
取引年月日 |
取引年月日 |
|
取引内容 |
取引内容 |
取引内容 |
|
取引金額 |
取引金額 |
取引金額 |
|
受領者の氏名など |
受領者の氏名など |
受領者の氏名など |
|
|
軽減税率対象である旨 |
軽減税率対象である旨 |
|
|
税率ごとの合計金額 |
税率ごとの合計金額 |
|
|
|
税率ごとの消費税額と適用税率 |
|
|
|
登録番号 |
|
税率 |
8% |
標準税率10% 軽減税率 8% |
|
仕入税額控除要件 |
帳簿及び請求書等の保存 ※免税事業者からの仕入税額控除可 |
帳簿及び区分記載請求書等の保存 ※免税事業者からの仕入税額控除可 |
帳簿及び区分記載請求書等の保存 |
発行義務 |
交付義務なし ※ 免税事業者も発行可 |
交付義務なし ※ 免税事業者も発行可 |
交付義務あり ※ 免税事業者は発行不可 |
出典:国税庁「消費税軽減税率度の手引き」(平成30年8月)一部加工
従来方式の請求書等保存形式と適格請求書保存方式の大きな違いは、「消費税額と税率の表記」と「事業者登録番号の記載」です。
インボイス制度前に実施されてきた請求書等保存形式では消費税が一律であったため、税率の表記が必要ありませんでした。しかし、適格請求書等保存方式では、消費税増税に伴う軽減税率の導入により、複数税率を明確に記載しなければいけません。
さらに、インボイス制度の適用を受けるには「適格請求書発行事業者」に限られます。適格請求書発行事業者になるには税務署への登録が必要です。その際に付与される事業者番号をインボイスに記載すると取引相手の仕入控除を行える課税事業者であるという証明になります。
参考:国税庁 「適格請求書とは ~適格請求書発行事業者の申請から登録まで~」
なお、2023年10月以降のインボイス制度がすでに実施決定しているため、つなぎの制度として「区分記載請求書等保存方式」が適用されます。
2019年10月から実施している「区分記載請求書等保存方式」では、消費税増税に伴う複数税率への対応が求められるため、税率ごとの区分経理を行わなければいけません。具体的に変更する点は、「軽減税率対象品目である旨」と「税率ごとの合計額」の記載が追加事項となります。軽減税率の対象項目に※をつけ、消費税ごとに区分して合計金額を記載しなければなりません。
区分記載請求書等保存方式では、請求書に追加事項の記載がなくても、受領者が事実に基づいて追記することは可能です。しかし、同方式の導入における例外的措置であるため、原則的には請求書に受領者が追記してはいけません。
軽減税率の導入により実施された方式ですが、消費税ごとに分けて経理処理する以外は従来の方式(請求書等保存形式)と同じ内容です。
インボイス制度の導入によって、売上高(消費税を除く)が1,000万円以上の「課税事業者」と売上高が1,000万円以下の「免税事業者」それぞれ立場によって影響が異なります。
インボイス制度導入後は免税事業者との取引において仕入税額控除が対象外になります。仕入先が免税事業者だと、支払った金額の中に消費税が含まれていても控除が出来なくなります。課税事業者は販売取引した消費税金額分の納税をすることになります。
免税事業者は、インボイス(適格請求書)の発行ができないため、課税事業者との取引が困難になる可能性があります。その為、課税事業者になり、「適格請求書発行事業者」となるか、免税事業者のまま事業を継続するかの判断をする必要があります。
一方、課税事業者は、「適格請求書発行事業者」の申請を行い、インボイス(適格請求書)を発行できる体制を整えていく必要があります。また、免税事業者との取引がある場合、納税額が増えることが想定されるため、取引業者の再選定や、免税事業者から課税事業者への変更意思確認を行う必要が出てくる可能性があります。
インボイス制度実施後の仕入税額控除に関して、一定期間は段階的に控除を受けられる経過措置が適用されますが、令和11年の10月からは控除不可となるので注意が必要です。
出典:国税庁 「仕入税控除の経過措置」
インボイス制度が実施される前に経理業務への影響を考える必要があります。影響は次のようなことが考えられます。
ワークフローの見直しは、事業者が最も検討しなければいけない課題でしょう。請求書や納品書などコンピュータ上で管理をする場合、会計ソフトや請求フォーマットなどインボイス制度に対応させる必要があります。クラウド型のソフトであれば改修やバージョンアップなどのメンテナンスは提供事業者側で対応する可能性が高いですが、パッケージ型や自社オリジナルのソフトを利用している場合は自社で対応する事も考えておく必要があります。場合によっては、対応に高額な費用が発生したり、インボイス制度に対応しているソフトに切替る必要があるかもしれません。
さらには、仕入税額控除できる対象が課税事業者のみなので、免税事業者との取引においては仕入税額控除に関する計算方法が大きく変わります。そのため、取引先を管理する上で考慮すべき項目が増えるでしょう。
インボイス制度の実施により、経理業務上の影響は多大なものと考えられます。労力と共に金銭的コストも考慮しなければいけません。